株式会社ティアフォー
代表取締役社長CEO兼CTO
加藤真平さん(@ShinpeiKato)
東京大学 大学院情報理工学系研究科 特任准教授。1982年神奈川県生まれ。2008年慶應義塾大学理工学研究科開放環境科学専攻博士後期課程修了。15年株式会社ティアフォー創業。18年国際業界団体The Autoware Foundationを設立、理事長に就任。専門はオペレーティングシステム、組込みリアルタイムシステム、並列分散システム
政府は2023年度を「電動化・自動運転実装元年」と位置付け、自動運転の開発・実用化に向けた取り組みを加速していくことを発表。
23年7月には電動キックボードに関する改正道路交通法が施行されるなど、モビリティー業界は加速度的な進化が予想される。
モビリティーというとハードウエアのイメージを持たれがちだが、実は今、成長のカギを握るポジションとしてソフトウエアエンジニアの採用を強化する企業が増えている。
そこで、23年6月21日(水)~25日(日)の5日間にわたり、エンジニアtypeが主催したテックカンファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク2023』(ECDW2023)では、「ソフトウエアエンジニアの力で変わる、移動の未来」と題したトークセッションを実施。
本セッションに登壇したのは、「自動運転の民主化」を掲げるスタートアップ、ティアフォー代表取締役社長CEO兼CTOの加藤真平さん、日本発「空飛ぶクルマ」の開発に挑むSkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩さん。モデレーターは電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを運営するLuup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝さんが務めた。
業界をリードする国内モビリティースタートアップ3社が描くモビリティーの未来図とは一体どのようなものなのか。
また、モビリティー分野の変革において必要とされるソフトウエアエンジニアの力とは──。熱い議論の内容をリポートする。
株式会社ティアフォー
代表取締役社長CEO兼CTO
加藤真平さん(@ShinpeiKato)
東京大学 大学院情報理工学系研究科 特任准教授。1982年神奈川県生まれ。2008年慶應義塾大学理工学研究科開放環境科学専攻博士後期課程修了。15年株式会社ティアフォー創業。18年国際業界団体The Autoware Foundationを設立、理事長に就任。専門はオペレーティングシステム、組込みリアルタイムシステム、並列分散システム
株式会社SkyDrive
代表取締役 CEO
福澤知浩さん
東京大学工学部卒業後、2010年にトヨタ自動車に入社し、グローバル調達に従事。同時に多くの現場でのトヨタ生産方式を用いた改善活動により原価改善賞を受賞。18 年に株式会社SkyDrive を設立し、「空飛ぶクルマ」と「物流ドローン」の開発を推進。経済産業省と国土交通省が実施する「空の移動革命に向けた官民協議会」の構成員として、「空飛ぶクルマ」の実用化に向けて政府と新ルール作りにも取り組む。MIT Technology Reviewの「Innovators Under 35 Japan 2020」を受賞、世界最大級のスタートアップピッチコンテスト「Startup World Cup 2022」で準優勝、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2023」のTOP20に選出
株式会社Luup
代表取締役社長兼CEO
岡井大輝さん(@DAIKIOKAI)
1993年7月15日、東京都出身。東京大学農学部卒業後、戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDDを主に担当。その後、株式会社Luupを創業し、代表取締役社長兼CEOを務める。2019年5月に国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し会長に就任。21年にはForbes 30 Under 30 Asia、Forbes 30 Under 30 Japanに選出
岡井:まずはティアフォー、SkyDriveそれぞれの現在地とこれから目指していく未来についてお話しいただけますか。
加藤:当社の成り立ちから少しお話をさせていただくと、ティアフォーが設立されたのは2015年、日本政府が自動運転の実用化に力を入れ始めた頃と同じくらいです。
当時は自動運転の技術は世界的に見てもあまり注目度が高くなかったのですが、2010年以降Googleが起点となって各社が実用化に向けて取り組み始めました。日本でも数年遅れて本腰を入れ始めたかたちですね。
私の専門はコンピューターサイエンスなんですが、自動運転はいわばコンピューターサイエンスの塊なので、自分の知識やスキルで闘えるかなと会社を立ち上げました。
でも、当時Googleはすでに追い付けないくらい先を走っていたんですよね。
そこでGoogleに勝つために着目したのがオープンソースです。車ってブラックボックスになっていて、ちゃんとした車を作れる会社は一握り。
そんな中で、世界中の会社が車を作れるようになったら、それはすごい価値になると思ったんです。
だからこそティアフォーでは、ソフトウエアはすべてオープンソースで開発し、車やロボットの作り方もすべて公開してきました。
今は会社を興してから8期目になりますが、手掛けているソフトウエアの規模やシェアにおいては、世界でもトップ3に入るくらいまで存在感を増すことができています。
加藤:また僕らの事業の現在地としては、技術的にはもう自動運転は実装可能なレベルまできており、あとは自動運転車に欠かせない半導体の進化や、消費電力・ソフトウエアの安全性、社会が自動運転を受け入れられるかといった問題を解決していくフェーズにきています。
2023年4月に法改正も実施され、運転席に人がいなくても条件を満たせば公道で自動運転車を走らせることができるようになりました。テクノロジーがもう少し進化すれば、社会実装が進んでいくと思います。
岡井:社会全体でモビリティー分野の進化のスピードがさらに上がりそうですよね。
加藤:はい。そして、今後の展望としては、「電気自動車を世界中の会社がつくれるようになる社会」の実現を進めていきたいです。
弊社がソフトウエアはすべてオープンソースで開発して、作り方も公開しているという話はしましたが、最終的には工場を作る方法もライセンス化したいと考えています。
そこで生産される電気自動車が、クラウドに接続されていて、自動のナビゲーションもついていて……と、メンテナンスを含めてソフトウエアサービスとしても成立する。
そんな電気自動車をみんなが開発できる世界をつくれたら、GoogleをはじめAppleやマイクロソフト、テスラとも互角に戦えるようになるのではないかと思っています。
法改正もありましたし、ここからが第二章の始まりですね。
岡井:楽しみですね! 福澤さんのSkyDriveはいかがでしょうか。
福澤:われわれも会社の成り立ちからお話しさせていただきたいと思いますが、弊社が手掛けているようなエアモビリティーは、配車サービス会社のウーバー・エレベートが火付け役となり、2016年ごろから活発化しています。
日本では、17年から有志団体が東京オリンピック・パラリンピックでの実演を目指して開発を進めており、私もボランティアとしてそのプロジェクトに参加していました。
その後、開発スピードを加速すべく18年に法人化し、SkyDriveが誕生したという流れです。
福澤:日本に限らず、世界中の移動は道路の上か線路の上に限られているからこそ、渋滞や乗り換え、満員電車、遠回りといったことが起こっていますよね。
そんな時に、「空を使えるといいよね」「空港ではなくもっと身近なポートを使えるといいよね」といった着想で空飛ぶクルマの開発を本格的にスタートしました。
弊社が開発する空飛ぶクルマは、航空法的にはヘリコプターカテゴリーに分類されるのですが、電動ですのでヘリコプターと比較して体感騒音は1/3。重さは半分程度になる想定です。
福澤:ヘリコプターや飛行機よりも、軽くて静かに飛べるため、都心を飛行してビルの上にもポートでき、渋滞を避けて効率のいい移動ができるというのが一番のメリットですね。
今、テクノロジー的にはもう実現可能なものなので、今後の課題は航空機レベルまで安全性を上げて、民間利用のための認証を取れるかどうか。
そして、皆さんに使っていただけるようなリーズナブルな価格を実現できるかどうか。ここに向けてエンジニアを中心に取り組んでいるところです。
岡井:SkyDriveに限らず、エアモビリティー分野で共通する課題はありますか?
福澤:いま全世界共通で頭を悩ませているのが、いかに資金を確保するのかという点と、認可を取得できるのか。そして、どのスイートスポットからスタートできるのかの3点です。
いずれは空のあちこちをクルマが飛ぶようになるとは思いますが、事業としてどうスタートしていくのかは、業界全体で考えているところです。
また、当社では日本で初めて「空飛ぶクルマ」としての型式証明申請が国土交通省に受理され、実用化に向けて一歩前進しました。
今後は、25年に大阪万博での公開、26年の納入開始を目指して開発を進めています。
僕たちのサービスのユニークな点としては、コンパクトな機体で比較的狭いビルの屋上にも停まることができること。かつ一般的には2人乗りの機体になるところを3人乗れる点ですね。
これらを強みに開発の進捗やプレオーダーの数などの指標において、われわれはようやく世界先頭グループに入るようになってきたので、今は実用化に向けた開発のラストスパートをかけているところです。
岡井:現在、「自動運転」「空飛ぶクルマ」の開発における技術的な課題にはどのようなものがありますか?
加藤:これはどの視点に立って回答するかによって内容が変わるのですが、要素技術開発を手掛けるエンジニア目線で言うと、機械学習や半導体の技術への対応は大きな課題だと思います。
一昔前は人間が特徴量(機械学習において予測の手がかりとなる数値)を試算していたけれど、最近では、膨大な特徴のデータを機械に学習させるだけでなく、特徴量と検出する物体をマッチングし類似性を認識するフェーズも学習させるようになりました。
このような強化学習をはじめ、生成AIやTransformerなどの技術が生まれ、物事の認識の仕方が変わってきていることは、今後開発を進めていく上での課題の一つだと思います。
また、半導体についても同じでトレンドの移り変わりが速いんですよね。マルチコアから32コア、64コアとCPUが増えてきている最中にGPUが生まれ、ここには数千個のコアが搭載されていて。
こんなふうに技術が進化すると、それを実装するコンピューターもどんどん変わります。今年できなかったものが、翌年に急にできるようになったりする。すると、そもそもの前提が覆ってしまう。
こういった変化に対応できるかどうかがエンジニアにとっての課題になってくると思います。
福澤:僕らが抱えている技術的な課題でいうと、システム設計をいかに俯瞰的に見るかという点ですね。
例えば、開発を始めた最初の4年間は大型の機体を飛ばすことができなかったのですが、それはモーターのケーブル位置やプロペラの風力、制御の周波数など各分野の技術がかみ合っていなかったことが原因でした。
こういうのって、トータルで見なきゃ判断できなくて。これをどうやって解決したかというと、トータルで見られる人が現れたんですよね。
それに加えて、各分野のスペシャリストがコラボレーションしてうまく開発を進めていけることがカギだなと感じます。
岡井:他にも直面している問題はありますか?
福澤:もう一つ挙げるなら、自動運転ですかね。実は僕らのサービスでも、自動運転は大事でして。
乗客が何百人、何千人といる大きな飛行機や電車の場合、自動運転はあんまり意味がないんですよね。一人のパイロットや運転士が自動になったところで、コストや利益への影響は少ないですから。
でも、僕らのサービスのように1台あたりの乗客が少ないと、パイロットや運転士がいるかいないかは、事業の継続にダイレクトに影響します。
乗車できる人数が一人増えることのインパクトが電車や飛行機とは大きく異なるのはご想像の通りです。だからこそ、エアモビリティーの分野では自動運転化について真剣に議論されているんです。
岡井:弊社の電動キックボードをはじめ、ドローン、自動車など、モビリティー業界ってハードウエアエンジニアの領域だと思われることが多いですよね。
でもこの業界に身を置いている僕からすると、ソフトウエアの進歩によって急成長しているのは自明なんですが、普段ソフトウエアエンジニアの面接をしていると、あまりそこにピンときていない人が多いように思います。
加藤:たしかにソフトウエアエンジニアの方が自分たちの需要に気付いていないケースはあるかもしれませんね。
われわれの会社の採用ページを見てもらえると分かるように、ティアフォーではソフトウエアエンジニアを絶賛採用中です。
これまで試行錯誤しながらベストプラクティスを切り開いてきた自動運転の世界ですが、ここにきてようやくソフトウエアエンジニアの方が活躍できる土台が整ってきたように思います。
Webサービスを作ることができる方であればフロントエンドからバックエンドまで大歓迎ですね。
岡井:お二人は、モビリティー業界で今後活躍できるソフトウエアエンジニアってどんな人だと思いますか?
加藤:活躍できる人は、大きく分けて3タイプいるかなと思います。
一つ目は、物ごとをよく知っている人。アルゴリズムや機械学習への知見が深いスペシャリストタイプ。
二つ目は、プログラミングスキルが高い人。プログラミングのスキルが高いといろいろなことを吸収していけるので。
三つ目は、システム設計が得意な人。ゴールまでの道のりを俯瞰して、現状を定量的・定性的に測れるタイプの人は活躍できると思います。
福澤:僕も加藤さんに近い答えになるのですが、「経験したプロジェクト数が多い人」は活躍しやすいと思います。
プロジェクト経験が多い人って、製品を作るときのサイクルをよく理解しているので全体を見通せる人が多いんです。
高付加価値EVとモビリティー向けサービスの提供を行うソニー・ホンダモビリティが電気自動車を二社でつくっている一番の理由も、ソニーがソフトウエアドリブンであることが大きいんですよね。
ホンダはハードウエアドリブンなので、EVはソフトウエアドリブンじゃないとデータの話が始まらないため、開発の最初からソフトウエアの視点を入れられるかというのがすごく大事で。
ソフトウエアの知見を生かして将来を見通し、プロジェクトをリードしていけるエンジニアの存在はすごく貴重です。そういう人ってなかなかいないんですけどね。
岡井:試行錯誤の回数が多ければ多いほど多くのデータが取れますからね。
例えばロケットを打ち上げるときも二発、三発打ち上げて初めて分かることも、データが進化すれば一発の打ち上げで多くの情報を得られるようになる。
そうするとPDCAを早く回せるようになるなというのは僕らも実感しています。これはすべてソフトウエアの進歩のおかげなのかなと思っています。
>>『キャリアデザインウィークECDW』のイベントレポート一覧はこちら
文/赤池沙希
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