日々流れてゆく膨大な情報量の中からおいしいネタを敏感に察知し、ネット界隈を賑わせてくれるWeb業界の異端児・村上福之氏。同氏独自の経験と価値観から、「キャラ立ちエンジニア」の思考回路を紐解いていく。
「エンジニア不足を嘆く」という慢性的な病に対して一言モノ申す【村上福之】
株式会社クレイジーワークス 代表取締役 総裁
村上福之(@fukuyuki)
ケータイを中心としたソリューションとシステム開発会社を運営。歯に衣着せぬ物言いで、インターネットというバーチャル空間で注目を集める。時々、マジなのかネタなのかが紙一重な発言でネットの住民たちを驚かせてくれるプログラマーだ
いろんなベンチャー企業から、異口同音に「エンジニアが足りない」という話を見聞きします。中には、「使えるやつがいない」とか言い出す髭を生やしたベンチャー社長とかもいたりします。
そんな人たちに一言モノ申したい。ええとな、人類がこの世に生まれてから今まで、エンジニアが余ってた時の方が少ないんだよ。
90年代なんか、そもそもパソコン触ったことがある人間が圧倒的に少ないのにエンジニアが足りないもへったくれもなかったんだよ。分かるか? 何も分からない、いたいけな若い青年が、今の1/100以下のメモリと1/1000以下のCPUで1000倍の行数のコード書いてたんだああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! ギガバイト当たり前の世界でエンジニア足りないなんて何事だよ! お前なんか、暗い部屋でマイコンBASICマガジンのソースコードを写経してればいいんだよ!コンチクショウ!
……という老害発言はさておき、昨今のエンジニア足りない問題にはいろいろと思うところがあります。
基本、ショボいところにはショボい人しか来ないのであきらめよう
基本的に、ショボい企業や組織には、ショボいエンジニアしか来ないと思うんです。
優秀な人の仕事を選ぶ時の基準って、すごい仕事や人に自慢できる仕事、または高給がほしいかのどれかなので、「何でも自由にできるけど、ベンチャープライスで働いてくれ」というような、採用側にとって美味しい話はありません。
本当にありません。あきらめてください。
もしベンチャーで採用やってる方で、そう考えていた人がいれば、ショボい技術でいいから儲かる方法を頭をひねって考えてください。
基本、エンジニアは育てるもの&成長するもの
ほとんどすべての領域において、エンジニアは育てるもの&成長するものという「伸びシロ」で考えてほしいです。そして、イケてるエンジニアもそれを望んでいます。学ぶ伸びシロがない分野だと、やってる方も楽しくないので。
あんまり学ぶところがない案件には、エンジニアは来たがりません。優秀なエンジニアほど新しいことを学びたいからです。
例えば、AndroidやiPhoneが登場したばっかりの時からコードを書いているエンジニアなどは、最近はある程度のところまでやり切ってしまって、スマホに飽きてる人も多いです。
やはり、イケてるエンジニアほど新しいことを好むし、難しいことを解決するのは楽しいからやりがいもあります。今まで何度もやったことがあるような案件ばっかりだと、「昔付き合った彼女と、もっぺんデートしてくれ」みたいな感じで、何かモンヤリした気分になるもんです。
「ものによっては」未経験の人でもどうにかなることも多い
その一方で、最近は技術に関する情報がものすごくたくさんあるので、分野を限定すれば、ポテンシャルのありそうな未経験者の人が努力をすれば伸びシロでどうにかなってしまうこともあります。特にクライアント部分は、伸びシロでどうにかなる部分も多いです。
たぶん、エンジニアが「採れない、来てくれない」と騒いでる人たちは、そういう伸びシロを計算した上で、やる気のある未経験の人に勉強してもらった方がいいと思います。
ただ問題は、テクノロジーによって「伸びシロ」の範囲で何とかなる部分と、どんなに伸び切っても間に合わない部分があったりすること。ので、その辺りだけ相談に乗ってもらえる大人がいれば、何とかなってしまう部分もあると思います。
そして、当たり前ですが、伸びシロは、若い人の方が大きくて、僕らオッサン老害な人には伸びシロが少ないです。
現実的には育ててる余裕ないので、純粋培養エンジニアが犠牲になる
まぁ、ぶっちゃけ余裕ないんですよ。スピードの早い業界なんで。まぁ、それでよくあるケースが、社長が「ないことないこと」をその辺のエンジニアに熱く語るわけですよ。仲間になろうとか、僕らが業界の標準を作るとか、世界を変えるとか言うわけですよ。
この業界に、どんだけ無能で無責任経営者がいるかまったく知らない、ピュアな純粋培養エンジニアがそれについていくわけでですよ。社長の夢を信じてついていくわけですよ。
夢を投資家に売って金を出してもらうのが起業家の仕事なので、それが悪いとは思いませんよ。ただ、エンジニアは、そういうのも知った上で、自分の身の振り方を考えて動くのが大事だと思うのです。
お互い納得して「酔狂なこと」を一緒にやるのと、勉強不足で妄信して「無謀な戦い」に巻き込まれるのは違うから。
若いエンジニアとか、信じさせるのは難しくないんですよ。人並みのマーケティング論も統計学もプロダクトライフサイクルもiOSとAndroidの違いもイマイチよく分からないような、実現能力は低いのに熱く夢を語らせたら右に出る者がいないような起業家についていくわけですよ。
それで、純粋培養エンジニアが一生懸命自分の技術と経験を叩きつけるんですけど、1年か2年経つと、だんだん社長がビジネスのできない単なるドリーマーだったりすることに気付き始めるんですよ。
それで、できたサービスはユーザー不在で、界隈で有名だけどニッチなWebメディアにしか取り上げられないものになって、社長が思い付きで新機能を提案し始めて、作り込みが甘くなり、エンジニアが疲弊したりしなかったりするわけですよ。
それでやる気がなくなって、オープンソースとか、勉強会とか、開発者コミュニティとかに力を入れ始めて、社長の夢なんか本当にどうでもよくなって、本業がどんどん適当になってバグが放置されたりするんですよ。全部妄想ですけど。結局、それもこれも自己責任。
人もエンジニアも会社も、すべてに「初めて」があり、成長して、鈍化して、最後は死んでいくものです。そのカーブを計算に入れて働かないと、難しいと思います。人生って難しい。
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