叡王
藤井聡太氏
愛知県瀬戸市出身。 2016年に史上最年少(14歳2カ月)で四段昇段を果たし、無敗で公式戦最多連勝の新記録(29連勝)を樹立。 その後、五段を除く昇段、一般棋戦優勝、タイトル挑戦、獲得、二冠から七冠までのそれぞれの達成、名人獲得など多くの最年少記録を塗り替えてきた
藤井聡太叡王×Turing山本一成が語るAI時代の突破力「挑戦を楽しむ姿勢を大事にしたい」
将棋界で前人未到の挑戦を続け、最年少で七冠を達成した藤井聡太叡王。世界で初めて名人に勝利した将棋 AI『Ponanza』の開発者で、完全自動運転EV(電気自動車)の量産を目指すスタートアップ Turing のCEO 山本一成氏。
2023年6月17日(土)千葉県・柏の葉『KOIL TERRACE』にて、AIを活用しながら人類にとっての新たな地平を切り開く二人がAI時代を突破する力をテーマに対談を実施した。この記事では、その内容の一部を紹介する。
将棋AI『Ponanza』は、今まで人が知らなかった手法・戦法を見つけていった
ーー将棋AI『Ponanza』が2017年に名人を倒したことが話題になりましたが、この『Ponanza』を山本さんが開発したきっかけは?
山本:私はもともと東大の将棋部にいたんですけど、学生時代に将棋をいっぱいさしていたら、留年してしまいまして(笑)
当時はプログラミングというものが今ほどはやっていなかった時代なんですが、将棋以外のこともやってみようということで、プログラミングやAIについて学び始めたんです。
すると、すごく面白くなってきて。自分で何か作ってみようと思った時に、もともと好きだった将棋が頭に浮かんで、将棋AI『Ponanza』を開発することにしました。
ーー『Ponanza』はなぜ名人を倒すレベルまで強くなったのでしょうか?
山本:要因はさまざまありますが、棋士の人の棋譜を参考に機械学習をしていたんですが、それだけじゃなく、『Ponanza』同士の棋譜の対戦を何億、何十億回と行って、その結果のフィードバックを得て『Ponanza』が自分自身で賢くなっていったことが大きかったですね。
『Ponanza』同士を対戦させることで、今まで人が知らなかったかたちの手筋、戦法を見つけていって、すごく強くなったんですよ。私自身も「こんなに将棋ってバリエーションがあるのか」と驚かされたくらいです。
ーー藤井さんは、将棋の研究にAIを活用なさっているとのこと。
藤井:はい、将棋AIを活用するようになったのは7年前くらいからですね。AIは局面の評価値を数値で判断してくれるので、それを参考にすることで自分自身の形勢判断の力を大きく伸ばせているなと感じます。
ーー『Ponanza』が名人を倒したニュースをどのように見ていらっしゃいましたか?
藤井:『Ponanza』の実力はもともと知っていたので驚きはしませんでしたが、「ついにこの時がきたか」という印象でした。
「誰もやらないなら、自分でやろう」Tesra超え目指しTuringを起業
ーー山本さんは将棋AIの開発から転じて、完全自動運転EVの量産を目指すスタートアップTuringを創業していますが、なぜこの分野で起業されたのでしょうか?
山本:将棋盤という限定された世界から、より複雑なわれわれの現実世界にフィールドを移しても「正しくプレーできるAI」をつくることを目指すという意味では、取り組んでいる問題は実は変わっていないと思っています。
また、日本の自動車業界は長らく状況が変わっていませんが、規模が大きな産業であることは確かで、うまく変化の波に乗れば社会にイノベーションを起こせる可能性を存分に秘めていると感じました。
今、自動車業界で最も高い時価総額を誇るのはTeslaですから、せっかくこの分野で挑戦するのであれば、Teslaを超える企業を生み出したい。
それくらい大きなチャレンジをしようと決めて、Turingという会社をつくりました。
ーーTeslaを超える企業をつくるというのは、かなり大きな目標ですよね。なぜその高い目標に挑戦するのでしょうか?
山本:世界を見渡せば自動運転、電気自動車開発の分野の事業を行う企業はいま続々と増えているのですが、日本国内に限っていうと、まだまだ少ない状況です。
ですから、誰か日本発の企業でこの分野に挑戦する人が出てこないかな……と思っていたのですが、誰もやらないなら自分でやろう、と。
将棋界のおかげもあって私自身がAIのプログラマーとして有名になりましたし、自分みたいな人間がチャレンジをしないのは世の中に対してアンフェアかなと思いました。
だからこそ、この領域で、自動運転のシステムをつくるだけじゃなくて、完全自動運転EVを量産するというところまでやってみようと。
ひと昔前までは不可能だと思われていたような話も、現代の技術を使えばたどりつけるはずですから。
勝敗に一喜一憂するより、目の前の対局、自分の成長を楽しむ
ーー藤井さんも、将棋の世界で数々の偉業を達成されています。どのように高い目標に向かっているのでしょうか?
藤井:私は普段、目標をしっかり立ててそこに向かっていくというタイプではなくて。
将棋というのは不確実な要素が多いゲームなので、勝ち負けだったり、目標を達成できた・できないということだったり、そういうことに一喜一憂はしないようにしていますね。
少しずつ自分の上達を楽しんでいけるのがベストかなと思っています。
山本:藤井さんは、8個あるタイトル(竜王・名人・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖)のうち、7個を手にしたわけじゃないですか。あと1個、タイトルを取りたいと思うことはないんでしょうか?
藤井:取れるチャンスは限られていると思うので、できることなら取りたいですね。
一方で、そこに固執してしまうとその道が閉ざされたときに良くないのかなとも思っていて。目の前の対局、日々の自分の成長を大事にしたい気持ちが強いです。
山本:一つ一つの勝負を大切にやっていらっしゃるんですね。それが藤井さんの強さの秘訣でもあるんだなと思いました。
藤井:ありがとうございます。山本さんがTuringの事業で挑んでいるのは、すごく大きなチャレンジだなと思うんですけど、難題に向かっていくことをすごく楽しんでいますよね。
それにすごく刺激を受けましたし、自分自身も「挑戦を楽しむ」という姿勢は今後も大事にしていきたいなと思いました。
Turing
CEO
山本一成氏
1985年生まれ。愛知県出身。東京大学での留年をきっかけにプログラミングを勉強し始める。その 後10年間コンピュータ将棋プログラム『Ponanza』を開発、佐藤名人(当時)を倒す。東京大学大学院卒業後、HEROZ株式会社に入社、その後リードエンジニアとして上場まで助力。海外を含む多数の講演を実施。情熱大陸出演。現在、愛知学院大学特任教授も兼任
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/赤松洋太
RELATED関連記事
RANKING人気記事ランキング
NEW!
ITエンジニア転職2025予測!事業貢献しないならSESに行くべき?二者択一が迫られる一年に
NEW!
ドワンゴ川上量生は“人と競う”を避けてきた?「20代エンジニアは、自分が無双できる会社を選んだもん勝ち」
NEW!
ひろゆきが今20代なら「部下を悪者にする上司がいる会社は選ばない」
縦割り排除、役職者を半分に…激動の2年で「全く違う会社に生まれ変わった」日本初のエンジニア採用の裏にあった悲願
日本のエンジニアは甘すぎ? 「初学者への育成論」が米国からみると超不毛な理由
JOB BOARD編集部オススメ求人特集
タグ