エンジニアtypeが運営する音声コンテンツ『聴くエンジニアtype』の内容を書き起こし! エンジニア読者が抱える仕事やキャリアのお悩みに、注目企業のCTOやさまざまな領域の第一線で活躍する技術者が回答します
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「開発とそれ以外を天秤にかけた」澤 円・池澤あやか・小城 久美子・増井 雄一郎が明かすキャリアの軌跡【聴くエンジニアtype Vol.31/公開収録レポート】
日本のエンジニアリングを“ひとつ上”へとアップデートするエンジニアやイノベーターたちが次々と登場したテックカンファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク2023(ECDW2023)』。
最終日である6月25日(日)には『聴くエンジニアtype』初の公開収録を実施。MCの「ばんくし」こと河合俊典さんをはじめ、澤円さん、池澤あやかさん、小城 久美子さん、増井 雄一郎さんの4名が登場し、それぞれの立場からエンジニアの悩みやキャリアについての相談に回答した。
本記事ではセッション内容を一部抜粋してお届けする。
エムスリー株式会社 VPoE 河合俊典(ばんくし)さん(@vaaaaanquish)
Sansan株式会社、Yahoo! JAPAN、エムスリー株式会社の機械学習エンジニア、チームリーダーの経験を経てCADDiにジョイン。AI LabにてTech Leadとしてチーム立ち上げ、マネジメント、MLOpsやチームの環境整備、プロダクト開発を行う。2023年5月よりエムスリー株式会社3代目VPoEに就任。業務の傍ら、趣味開発チームBolder’sの企画、運営、開発者としての参加や、XGBoostやLightGBMなど機械学習関連OSSのRust wrapperメンテナ等の活動を行っている
株式会社圓窓 代表取締役 澤 円さん(@madoka510)
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社) Voicyチャンネル:澤円の深夜の福音ラジオ オンラインサロン:自分コンテンツ化 プロジェクトルーム
タレント・ソフトウェアエンジニア 池澤あやかさん(@ikeay)
1991年7月28日 大分県に生まれ、東京都で育つ。慶應義塾大学SFC環境情報学部卒業。 2006年、第6回東宝シンデレラで審査員特別賞を受賞し、芸能活動を開始。現在は、情報番組やバラエティ番組への出演やさまざまなメディア媒体への寄稿を行うほか、IT企業に勤め、ソフトウェアエンジニアとしてアプリケーションの開発に携わっている。 著書に『小学生から楽しむ Rubyプログラミング』(日経BP社)、『アイデアを実現させる最高のツール プログラミングをはじめよう』(大和書房)がある
プロダクトマネジメントコーチ 「プロダクト筋トレ」主催者 小城 久美子さん(@ozyozyo)
ソフトウエアエンジニア出身のプロダクトマネジャー。ミクシィ、LINEでソフトウエアエンジニア、スクラムマスターとして従事したのち、『LINE CLOVA』や『LUUP』などにプロダクトマネージャーとして携わる。そこでの学びを生かし、Tably社にてプロダクトマネジメント研修の講師、登壇などを実施。書籍『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)共著者
Product Founder & Engineer 増井 雄一郎さん(@masuidrive)
「風呂グラマー」の相性で呼ばれ、『トレタ』や『ミイル』をはじめとしたB2C、B2Bプロダクトの開発、業界著名人へのインタビューや年30回を超える講演、オープンソースへの関わりなど、外部へ向けた発信を積極的に行なっている。「ムダに動いて、面白い事を見つけて、自分で手を動かして、咀嚼して、他人を巻き込んで、新しい物を楽しんでつくる」を信条に日夜模索中。 日米で計4回の起業をした後、2018年10月に独立し'Product Founder'として広くプロダクトの開発に関わる。 19年7月より株式会社Bloom&Co.に所属。現在は、CTOを務める
「ユーザーに価値を届ける楽しさ」と「コードを書く楽しさ」を天秤にかけた
ばんくし:まず最初に、今のキャリアにどうやってたどり着いたのか聞いていきたいと思います。では、小城さんから聞いてみましょうか。
小城:私はもともと「ばりばりエンジニアとしてやっていこう」という気持ちでエンジニアになったんです。なので、まさか自分がプロダクトマネジメントを専門にするだなんて新卒の頃はまったく想像していませんでした。
最初に入社した会社はエンジニアが仕様決めから関わるような、企画サイドと開発サイドの距離が近い会社だったんですが、2社目はエンジニアは技術に特化して働くような会社でして。その時、エンジニアの仕事には「ユーザーに価値を届ける楽しさ」と「コードを書く楽しさ」の両方があるんだなと気付きました。
その二つを天秤にかけた結果、ユーザーに価値を届ける方を極めたいと思い、プロダクトマネジャーに転身したという流れです。
池澤:プロダクトマネジャーって、技術畑出身の方もいればそうではない方もいますよね。バックグラウンドによって性質は変わりますか?
小城:めちゃくちゃ変わると思います。プロダクトマネジャーの育成にも関わっているんですが、エンジニア経験がない人だと「なぜ途中で仕様を変更してはいけないのか」が分かるまでに半年かかる場合もあるんです。もちろん、そこに悪気はまったくないんですけどね。
澤:よくある「なるはやでちゃちゃっと良い感じに作って」問題ですね。その言葉がどれだけエンジニアの気持ちを逆なでするか知らず、無邪気に言ってしまう人はいますよね(笑)
小城:プロダクトマネジャーがビジネス寄りの人だと、そういうディスコミュニケーションが起きやすいかもしれません。プロダクトマネージャーはいろいろな知識が必要だから大変だなと日々思っています。
ばんくし:逆にエンジニア出身だからこそ苦労した面はありますか?
小城:めちゃくちゃあります。初めは「エンジニアリングが分かってしまうが故に口を挟んでしまう」みたいなことをよくやってしまっていました。
ですが、実際はコードを書かなくなったことで知識は減っていっていたんですよね。エンジニアからしたら、中途半端な知識でああだこうだ言われたらムカつくだろうな、ということに気付いて。
そこから半年くらいは、自分がエンジニアだったことを一切忘れてプロダクトマネジメントをしていました。
ばんくし:一度は天秤にかけて悩んだほどのエンジニアのキャリアを一切忘れてやる、っていうのはすごいですね。
小城:本当はプロダクトマネジメントとして学ばなければいけないことがたくさんあったのに休日にコード書いたり、中途半端なことをしていた時期がありました。ただ、途中から「やっぱりいいものを作りたい」という気持ちに変わって。感情ドリブンにやってきました。
池澤:私、プロダクトマネジャーがいる会社に勤めたことがないんです。小城さんはプロダクトマネジャーとして主にどういうことをやられているんでしょうか?
小城:エンジニアになった当初は、「プロダクトマネジャーの仕事=仕様書を書くこと」だと思っていたんですけど、実際にやってみると大きな間違いだったと気が付きました。
実は「なぜこのタイミングでこの仕様書を書かなければいけないのか」ということを考えることの方が大事で。そのためにユーザーやセールスの人とコミュニケーションを取るなど、「やれることを全部やって意思決定をする」というのがプロダクトマネジャーの仕事ですね。
池澤:プロダクトオーナーに近いイメージですか?
増井:その二つの違いって分かりづらいですよね。僕もプロダクトマネジャーとプロダクトオーナーの違いを説明しろって言われても、うまく説明できないかも。
小城:私も今、「この説明は2時間かかるな」って思いました(笑)
澤:プロダクトマネジャーについてで言うと、どういうタイプの人がなると楽しめるとか、どういう性癖の人が向いているとか、そういった説明をしたら分かりやすいかな?
小城:それで言うと、「成功するまでやりきる力」がある人ですかね。
勤め人として学ぶ覚悟
ばんくし:小城さんと同じくプロダクトマネジメント人材の増井さんは、これまでどういうキャリアを?
増井:今はマーケティングのコンサルティング会社でCTOをやっています。エンジニアが僕の他に1人しかいないので、社員からの「パソコンの電源が入りません」という相談やら社内ツールの開発まで幅広く担当している感じですね。
以前、自分が創業した会社のCTOを辞める時、次は「エンジニアとしてテクノロジーを極める道」にいくか「プロダクト側に寄ったキャリア」を選ぶかすごく悩んだんです。結果、プロダクト側に寄る選択をしました。
というのも、スタートアップって「俺はこういうものが作りたい」という思いが先にあるケースが多いですよね。悪い言い方をすると、ユーザーがあまり見えていないこともあるんです。なので、マーケットインをちゃんとやりたいと思いまして。今の会社はマーケティングリサーチが得意な会社なので、マーケティングの勉強ができると思って入社しました。
池澤:キャリアの選択に迷ったとのことでしたが、その選択をして良かったと思いますか?
増井:良かったと思いますよ。テクノロジーの勉強は1人でもできますが、マーケティングの勉強はある程度教えてもらったり、お手本にしたりする人がいる環境の方がいいですね。
一方で、マーケティングを専門とする人は、マクロを組めば2~3時間でできるようなエクセル作業を手作業で二徹かけてやったりすることがあるんです。そこの部分では僕が価値を発揮できる場面もあります。
ばんくし:小城さんも増井さんも、ある意味1回エンジニアリングを捨てる選択をしたのですね。エンジニアリングを捨てる瞬間って辛くなかったですか?
増井:僕は今でも相当量のコードを書いていますし「エンジニアリングを捨てた」という感覚はないですね。メンバーがいないので僕が書かざるを得ないということもあるけど、気持ち的には半分くらい残っている感覚です。
僕は学生のころから会社を経営していたのですが、25~26歳の時に会社を一回たたんだんですよ。会社が大きくなって営業や社長業にかかる時間が増えてコードを書く時間が減っていった時に、マネジメントかエンジニアかどちらをやりたいか考えて。
その時、「今後10年間マネジメントにいそしんだ後、また第一線で働けるエンジニアに戻るのは難しいだろうな」と思ったんですよね。逆に「エンジニアを10年やった後にマネジメントをするのは可能だろうな」とも思いました。なので一度会社をたたんで、20代後半から30代前半はエンジニアとしてのキャリアを選択したんです。
澤:ということは、今は勤め人ってこと?
増井:今は取締役ですけど、4年半くらいは勤め人でしたよ。
澤:すげー!
増井:いやいや、澤さんも28年も勤め人をやっていたじゃないですか(笑)
澤:向いてなかったけどね(笑)
エンジニアも企業も「とにかく人を見よ」
ばんくし:小城さんも増井さんも「どちらかに振り切る」というのがポイントになっていますね。
増井:30代前半まではずっとエンジニア側に振り切っていましたが、その後余裕が出てきたり視野が広がったり、体力がもたなくなってきたり……。いろいろな要因があって30代後半からマネジメント側に範囲を広げたので、経験や年齢が影響しているとは思います。
澤:今の時代なら、エンジニアでありながら別の領域に知見を広げていくのもありですよね。
僕が現役でエンジニアをやっていた時には、まずコーディングシートにペンでコードを書いて、パンチャーさんにそのコードを打ってもらってデバッグして……と今となってはあり得ないくらいの作業量をこなしていたけど、その時の知識があるおかげで今はキャッチアップがすごく楽。
昨今は自動化が進んでコーディングの量自体は減っているけど、構造を知っていることはすごく大事だと思います。加えて、今後はマーケットや人を知っていることも重要になってくる気がするな。
池澤:私は便利なライブラリや自動化が進んできたあたりでエンジニアを始めたので、構造的なところを学んでいないのにできてしまう側面があって。澤さんの経験がうらやましいです。
澤:でも、最近は「ちょっと助けて」と言える相手がたくさんいるじゃないですか。例えばGitHubなんかはその権化ですよね。ネットが普及していなかった時代からエンジニアをやっている僕からすると、パラダイスですよ。エンジニアとしていつでもリカバリーができるってことだから。
増井:ChatGPTの登場でさらにやりやすくなりましたよね。僕が今書いているコードのうち8割くらいはGPTで生成しています。
今後3年くらいでさらに普及するでしょうね。むしろ今後エンジニアという仕事がどうなっていくのか不安なくらいです。
池澤:上流工程が重要になってくる感じはしますよね。
澤:間違いない。
ばんくし:澤さんは企業の組織構成やエンジニアの生き方について相談されたらどういうアドバイスをしますか?
澤:「とにかく人を見なさい」というのはよく言いますね。ニーズがないものを作っても無駄なので、世の中のニーズや課題に気付くアンテナを立てることはすごく重要です。
さっき池澤さんも「上流工程が重要になる」とおっしゃいましたが、この「上流工程」は何から生まれるかというと「人の困りごと」なんです。それが何なのかに気付くことができれば、if文で条件を分岐していくことで解決することはできますからね。
ばんくし:なるほど。
澤:昔堀江貴文さんがライザップの話をしていた時に「なるほど」と思ったのですが、ライザップってパーソナルトレーナーを採用する時、とにかくコミュニケーション能力が高い人を雇うらしいんですよ。トレーナーとしての技術の高さではなく。
増井:筋肉の鍛え方は入社してからでも教えられるけど、コミュニケーションの仕方を教えるのは難しいからですね。
澤:そう。単純に労力がかかるのと、もともと筋トレが好きな人だとお客さんに「なんでできないの?」とか言いかねない。だけど、もともと筋トレが得意なわけじゃない人だと「これは苦労するだろうな」というのが分かったうえでお客さんとコミュニケーションを取りながらトレーニングができるから。
ばんくし:私はギーク寄りの人間なので、エンジニア組織がコミュニケーション能力の高い人を採用する、みたいな流れになってしまうと複雑な気持ちになります。
池澤:エンジニアってコミュ力がなくてもやっていける仕事じゃなかったの? って感じですよね。
増井:でも今後はChatGPTがフロントに立ってお客さん対応をしてくれるようになるかもしれないし、僕らエンジニアはChatGPTとだけ会話をしながら仕事をするようになるかもしれませんよ。
池澤:ChatGPTを使うにもコミュ力が必要じゃありませんか?
澤:でもChatGPTは何度同じことを聞いても、失礼な言葉遣いをしても怒らないからね。
増井:心理的安全性が高いですよね。
池澤:2人ともどれだけ怒られてきたんですか(笑)
澤:サラリーマン時代が長いからね(笑)
次回は公開収録の続きをお届けします。お楽しみに!
文/赤池沙希
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