EMの役割、成果、キャリアの正解って?
現職EMたちのリアルやるべきことの多さに比例して、悩みも増えがちなEM。にも関わらず、参考になる打ち手やお手本になるロールモデルがまだまだ少ないのが現状だ。そこで本特集では、複数名の現職EMにインタビュー。所属する開発組織の規模や成長フェーズ、扱うプロダクトによって、その役割も千差万別な現職EMのリアルを紹介。EMはどんな役割を担い、どのように成果を出しているのか。また、'EMその後”のキャリアをどう見据えているのか。そんな実態に迫ってみた。
EMの役割、成果、キャリアの正解って?
現職EMたちのリアルやるべきことの多さに比例して、悩みも増えがちなEM。にも関わらず、参考になる打ち手やお手本になるロールモデルがまだまだ少ないのが現状だ。そこで本特集では、複数名の現職EMにインタビュー。所属する開発組織の規模や成長フェーズ、扱うプロダクトによって、その役割も千差万別な現職EMのリアルを紹介。EMはどんな役割を担い、どのように成果を出しているのか。また、'EMその後”のキャリアをどう見据えているのか。そんな実態に迫ってみた。
EMの解くべき課題を、一人ではなくチームで解く体制を導入している株式会社プレイド。
Webサイトやアプリを運営する企業に対し、CXを改善するSaaS「KARTE」などを提供する同社は、2023年6月に「EMチーム」という経営会議直下の組織を立ち上げた。
プレイドはどのような経緯でEMチームを立ち上げ、今どんな課題に向き合おうとしているのだろうか。EMチーム発起人である野田陽平さんにお話を聞いた。
株式会社プレイド
Head of Engineering Management Team
KARTE Blocks dev lead
野田 陽平さん(@positiveflat)
東京大学大学院修了後、2010年に日本アイ・ビー・エム株式会社に新卒として入社。東京ソフトウェア開発研究所にて電子証拠開示(eDiscovery)関連のソフトウェア開発に、QA及びフロントエンドエンジニアとして携わる。 2015年にプレイドに入社。KARTEの開発や、機能改善、プロダクトの国際化などを行ってきた。現在はEngineering Management Teamを立ち上げ、プロダクト開発チームの生産性向上のための組織課題に向き合いつつ、KARTE Blocksの開発を行っている。共著に、「Vue.js入門」「みんなのVue.js」(共に技術評論社より出版)がある。旅行やフットサル、アウトドアや読書が趣味
ーープレイドでは今年の6月、経営会議直下に「EMチーム」を設けたそうですね。
はい。当社では各開発チームにEMが所属する体制は取っていません。開発チームとは完全に独立した組織であるEMチームを、各開発チームと横並びに設置しており、そこに私を含むエンジニア3名と人事担当1名、デザイナー1名が所属しています。
なぜ人事やデザイナーもEMチームに混ぜているのかというと、複数の視点を入れたり、エンジニアに閉じずに良いプロダクトチームを作りたいからです。
EMチームが打ち出す施策には評価や報酬、採用が絡むケースが多いため人事領域のプロにも入っていただき、人事的な視点で非常に助けていただいています。
また、デザイナーは同じプロダクト開発チームの中でエンジニアと協業することが多いため、デザイン組織の今後の運営も含めて、共にディスカッションを重ねています。
ーーどのような経緯でEMチームが発足したのでしょうか。
当社は2015年に『KARTE』をリリースして以来、しばらくはそのプロダクト一本でやってきましたが、『KARTE』の機能群を増やし、マルチプロダクト化を進めるとともに開発組織も拡大を遂げてきました。
プロダクトが成長し、組織の拡大とともに多様な能力を持つメンバーの採用には成功したものの、会社の方向性に対するアラインメントを保つ難易度が上がり、エンジニア間のモチベーションに差が出てきてしまったのです。
当時開発組織でチームリーダーを務めていた私は、この問題をどうするべきかと悩み、エンジニアとの1on1を個人的に重ねてきました。その結果、状況を改善するためには組織的なアプローチが必要だと思い、CPOの柴山に相談しEMチームを立ち上げたんです。
ーーエンジニアのモチベーションを高めるために、組織的なアプローチが必要だと考えたのはなぜですか?
人によってパフォーマンスを発揮しづらい状況が生まれた背景には、会社の急成長や、分業化の進展に伴い発生した「組織の課題」があると考えたからです。
具体的には、チームや個人のパフォーマンス低下を組織的に防ぐ仕組みがないこと、そして組織間に落ちてしまうボールを拾う人が少ないことが問題点として挙げられました。
このような状況下、「向かうべき方向に向かうことができるチームを作る仕組みを作る」というミッションのもと、経営会議直下にEMチームが発足しました。
ーープレイドのEMチームは現在どのような業務を行っていますか。
大きく三つあります。一つ目は、チームリーディング・マネジメントの手法を各組織に浸透させるために、リーダーがマネジメントについて学べる仕組みを開発組織内に取り入れること。
二つ目は、フィードバックのサイクルや指針を作り、組織的な学習が促進される仕組みを作ること。
そして三つ目は、組織の見通し・風通しを良くすること。エンジニアは自分に降りてくる情報が少ないと、「なぜ自分がこの仕事をしているのか」が分からず、会社の方向性と自分の業務がどのようなつながりを持つのかを理解できません。それがエンジニアのモチベーションを下げてしまうこともありますよね。
そんな状態になることを防ぐために例えば、部門長と開発チームのリーダーとが腹を割って話せるように定期的に1on1を実施しています。
一見、普通のことのように思われるかもしれませんが、プレイドのミドルマネジメント層は、組織が急拡大したこともあって「急にマネジメントの役割を担うようになった」メンバーも多くて。
地道な活動ですが、各リーダーのマネジメント力アップを図ることが結果的に、各チームの縦のラインの風通し・見通しを改善させていくと考えています。
ーー上記の施策の結果として、EMにはどのような成果が求められていると思いますか?
エンジニアが悩みなく、個人の力を発揮できる状態を作ることです。
組織のパフォーマンスを高めるためには、まず個人のパフォーマンスを高める必要があります。その達成度合いをどのように可視化するかは今後の課題ですが、EMチームとしてはあくまで個人の状態をより良くすることにフォーカスしたいと考えています。
ーー野田さんはEMと開発業務を兼任していると伺いました。それはなぜですか?
最近、EM専任担当も誕生したのですが、少し前まで「開発と兼務」をデフォルトにしていて。その過渡期というのが実際のところです。
兼務としていたのは、「エンジニア個人にどのような技術的な強みがあるのか」や「個人のスキルをどういった方向に伸ばしていきたいのか」をEMが把握し、事業に必要な開発や偶発的な開発と接続することが、個人のパフォーマンス改善のために必要だと考えていたからです。
この意識は今も変わっていなくて、現場感を持った人がEMチームには必要なので現在も兼務でEMをしています。
ーー野田さんはEMとしてどのようなやりがいを感じますか?
プロダクト開発において、エンジニアは開発という直接的な行為にフォーカスしがちですが、大切なことはそれだけではありません。
私はより良いエンジニアリングチームを作ることも、エンジニアリングの一部だと思っています。
EMチームは立ち上がったばかりで、まだ成果と言えるものはない状態ですが、組織の問題を解決するためにさまざまな手が打てるようになったことに、EMならではのやりがいを感じています。
ーー逆に、EMという役割に対する課題感はありますか。
今までに何度かEMが集まるイベントに行ったことがあるのですが、そこで多くのEMが「1on1ばかりやって時が過ぎていく……」と言っていて、大いに共感するところがありましたね。
語弊を恐れずに言えば、1on1でとにかく「話す」ことで個別課題を解決していくことはいくらでもできると思うんです。
そして、それを継続することは個別のメンバーにとっても意味がある。ただ、それだとどうしても再現性がなくて、属人化していってしまいますよね。
なので1on1ばかりに頼るのではなく、課題を構造化して解く方法がないだろうかと考えている人が多いと感じました。この悩みは、EMのタスクを「仕組み化」の方向に寄せることによって、ある程度解決に向かう気がしています。
ーーEMが直面する課題を構造化して解く必要があるのなら、御社のようなチーム体制は理想的ですね。
そうかもしれませんね。確かに各チームにEMを一人ずつ置くと、そのチームのあらゆるピープルの課題をEMが自力で解きに行くイメージがありますが、当社のようにチーム体制を取ることによって、個人ではできなかった問題の解き方ができるようになると思います。
同時に、チーム体制で進めることによって、1on1を通じて個別具体的な課題を解くこともできるようになりますし、仕組み化するために組織を客観的に見る力も向上させられるという点ではキャリア上でもメリットがあるかもしれません。
将来どのレイヤーに入っても役に立つ汎用性の高いスキルを得られるので、自分の望むキャリアを歩みやすくなるのではないでしょうか。
私自身のキャリアについてはこだわりがある方ではありませんが、プレイドに入社して8年半がたち、組織の成長と共に新たな課題が生じるのを目の当たりにしてきたので、今後も会社の将来を見据えつつ、組織の課題を大きく解く役割を担いたいと思います。
取材・文/一本麻衣 編集/玉城智子(エンジニアtype編集部)
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