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エンジニア×漫画家。二足のわらじで活躍する夏目葉太に聞く「趣味で始めた漫画がキャリアにも好影響だった」理由

働き方

どんなに好きな仕事でも、モチベーションを保ち続けるのは簡単なことではない。毎日同じことの繰り返しで、いつしか仕事を楽しむことを忘れてしまうこともある。

特に、職場の女性比率が低いケースが多いエンジニアの場合、孤独感に悩むこともあるかもしれない。そんな方に、一人の女性エンジニアを紹介したい。夏目葉太さんだ。

夏目さんは特に女性比率が低いと言われているインフラ領域でキャリアを積みながら、漫画家として二足のわらじで活動してきた経歴を持つ。

インフラエンジニアとして働いた経験を元に描いた“インフラエンジニアあるある”漫画をSNSを中心に発信し、代表作の『インフラ女子の日常』は書籍化もされている。

そんな彼女に、ポジティブに働き続けられている理由を聞くと「エンジニアの仕事と漫画の執筆、二つの活動を掛け合わせたおかげ」と明かす。その意味を詳しく聞いてみた。

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夏目葉太さん

富山県出身の1991年生まれ。地元の高専の情報工学科に入学し、2012年に富山のIT企業に就職。学生時代はPHPで卒業研究をしており開発部門を希望していたが、インターネットサービスプロバイダーの部署に配属されたことを機にインフラエンジニアとしてキャリアをスタート。20年6月に東京のIT企業(現職)に転職し富山からフルリモートで従事 ■X(Twitter)

趣味で始めた漫画が、キャリアに変化をもたらした

――夏目さんの作品『インフラ女子の日常』は2020年に書籍化されるほど話題となりましたよね。なぜこの漫画を描こうと思ったのですか?

インフラエンジニアの仕事の魅力を、もっといろんな人に知ってほしいなと思って。

高専卒業後に就職した会社でインフラエンジニアになったのですが、働いていくうちに「この仕事って、全然世の中に知られていないんだな」と気付いたんです。

そこで、もともと好きだった絵を生かして漫画をSNSに投稿し始めました。

最初は「Excelを使っているのに、LinuxのVimのコマンドを使っちゃった」とか、インフラエンジニアなら共感してくれる“あるある”漫画を描いていましたね。

夏目葉太さん

引用元

あとは、「女性のエンジニア仲間を増やしたい」とも思っていたので、何かのきっかけになったらいいな、という考えもありました。

正直「絵で売れたい!」というモチベーションはなく、ただ自分が描いたものが広がっていくのが面白かったんです。

――最初から書籍化を意識していたわけではなかったんですね。

はい。本を出版できるのはエンジニア界の重鎮だけというイメージがあったので、私には難しいかなと思い込んでいました。

書籍化を意識するようになったきっかけは、『わかばちゃんと学ぶ』(C&R研究所)シリーズなどの著者・湊川あいさんとSNSで知り合ったこと。

当時私は20代後半だったのですが、自分と同年代の方が本を出されていて、衝撃的だったんです。

湊川さんに刺激をもらって、「自分もいつか本を出せたらいいな」と思うようになったところに、たまたま出版関係の方からSNSで声を掛けていただいたのが書籍化のきっかけでした。

――読者からはどんな反響がありましたか?

インフラエンジニアの方からは“あるあるネタ”に共感していただくことが多いです。

それ以外の方からは「インフラエンジニアって、こんなに幅広い業務を行っていたんだ」と驚かれますね。

特に私はオンプレミスからクラウド、リモートワークの環境整備などいろいろと経験してきたので、その幅広さが際立つのかもしれません(笑)漫画を通してインフラエンジニアの仕事を知ってもらえてうれしいです。

夏目葉太さん

引用元

また、本当にありがたいことに、エンジニア業界で有名な方にもSNSで漫画を拡散いただいて、いろんな方とつながることができました。

今の会社に入ったのも、CTOが私のSNSを見てくれたのがきっかけで。

「転職を考えている」とつぶいたら「うちの会社に来ませんか?」と声を掛けてくださったんです。

――漫画を発信していたことで、エンジニアとしての仕事にも良い影響があったのですね。

はい。エンジニア向けのイベントに行くと「ああ、あの漫画の人ね」って言っていただけることも多くて。

それから、執筆や登壇の依頼を頂くようになりました。極端なことを言うと、SNSで漫画を発信したことを機に人生が大きく変わったなと思っています。

インフラ領域の配属は想定外。でもやってみたら「楽しかった」

――そもそも、インフラエンジニアになろうと思ったきっかけは?

実は、「インフラエンジニアになりたい」と思ってなったわけではないんです。

元々は開発を希望していたのですが、新卒で高専就職した会社でたまたまインターネットサービスプロバイダー事業の部署に配属されたことがきっかけでした。

なので、インフラエンジニアとしてキャリアがスタートしたのは、想定外の出来事でしたね。

当時は、データセンターに行ってサーバーをマウントしたり、OSをインストールしてサーバーをセットアップして、そのミドルウエアを設定したりと、サーバー構築を担当していました。

夏目葉太さん

引用元

――実際インフラエンジニアとして働いてみてどうでしたか?

最初は何も知識がなかったので、とにかく言われたことをやるのに精いっぱいでした。

それでも経験を積んでいくにつれて、「こんな面白い仕事あったんだ」と思えるようになって。

この時の気付きが、先ほどお話しした漫画を描くようになったきっかけともつながっています。

今思うと、開発がしたかったのは、自分の中で「IT企業に就職する=プログラマーになる」というイメージしか無かったからかもしれません。

想定外の配属ではありましたが、インフラエンジニアの仕事の魅力を知ることができて、結果的に良かったと思っています。

ーーどんなときにインフラエンジニアの仕事の面白さを感じますか?

世の中が、どんどんクラウド中心になっていく中で、万が一の障害が発生してもシステムが落ちない仕組みを知るのが面白いですね。

複雑に考えられたアーキテクチャを見ると「すごいな」って感動するんです。そんな複雑なシステムに障害が起きて、原因を突き止められた時には達成感があります。

複雑な問題が解けた時とか、パズルのピースがパチッとはまった時の感覚に似ていますね。

それと個人的には、絵を描くことに共通する点も多いと思っているんです。

絵を描く時には、キャラクターの表情を頭の中で思い描いてから、実際に手を動かして形作りする。

それと同様に、システムを構築するときも、設計を頭に思い浮かべてからだんだんと形にしていくんです。

その過程を楽しむという点ではどちらも同じ。幼い頃から絵を描くのが好きだったからこそエンジニアの仕事を楽しめているのだと思います。

夏目葉太さん

引用元

ーー夏目さんはエンジニアという仕事に対してポジティブな印象がありますが、働く中で不安を感じたことはありますか?

新しい技術がどんどん生まれる中で、「勉強し続けないと置いていかれるのでは」という不安はありますね。

2年前に子どもが生まれたのですが、子育てに時間を奪われて勉強に十分な時間を割けないことに、不安を覚えていた時期もありました。

でもそんな時、SNSで知り合った子育て中のエンジニアの方に相談したら「子どもが小さいのってほんとに数年の間だけだから、その時間を大事にしたほうがいいよ」「あとから時間はできるから」とアドバイスいただいて。

それからは「今は子どもとの時間を優先して、余裕が出てきた頃に頑張れば良いんだ」と思えるようになって、気が楽になりました。

インフラエンジニアはエンジニアの中でも特に女性が少ないと言われていますが、SNSをきっかけに同じ悩みを共有できる方と知り合うことができたので、本当に心強いです。

「好き」を掛け合わせることが、長く働く秘訣

ーーエンジニアとしての仕事と漫画の執筆活動、二足のわらじで続けていくのは大変だったのでは?

実は、そうでもないんですよ。むしろ、漫画があるからエンジニアの仕事を楽しめているし、逆もまたしかりなんです。

仕事でトラブルが続くと、落ち込んだり悩んだりすることもあるのですが、「これも漫画のネタにすればいいじゃん」ってポジティブに変換できるようになりました(笑)

その漫画が注目を集めることができたのは、私がインフラエンジニアだったからこそ。

エンジニアの仕事と絵や漫画を描くこと、二つの「好き」が相互に作用することで、双方のモチベーションにつながっているのだと思います。

夏目葉太さん

引用元

ーー「好き」を掛け合わせることが長く働く支えになっている、ということですね。

そうですね。私は趣味の絵や漫画を使って発信する道を選びましたが、自分の好きなものやサービスを開発している会社に入るのもエンジニアであれば選択しやすいと思うんです。

例えばアニメや漫画が好きだったら、その配信プラットホームを提供する会社にエンジニアとして転職してみたり。

「好き」を身近に置いて楽しく仕事ができる状況をつくっていくことが、長く働き続けるコツなのではないでしょうか。

――今後挑戦したいことは何ですか?

インフラエンジニアという仕事を、もっと世の中に広めていきたいという思いは変わりません。

SNSで漫画を読んで「インフラエンジニアに興味を持ちました」と言ってくださる方もいて。

インフラエンジニアとして働く女性はまだまだ少ないので、その方に選択肢を一つ提供できたと思うと感慨深いものがあるんです。

なので、自分自身の経験の発信は引き続き行っていきたいですね。

20年から21年まで育休を取っていましたが、復帰後は自社が持っているオープンソースのテクニカルサポートを主に行っています。

全く新しい仕事への挑戦だと思っていましたが、インフラエンジニアとして働いていた時にもお客さまの対応をすることはありましたし、エンジニアとして身に付けた知識があるからこそ「お客さまの本当の目的は何か?」とより解像度高くニーズを理解することができるので、今までの経験が生きていると実感しますね。

今後はインフラエンジニアの情報に加えて、テクニカルサポートに関する漫画も皆さんにお届けできたらと思います。

取材・文/於ありさ 編集/柴田捺美(編集部)

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