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米国92%に対し、日本は10%未満。日本企業のAI導入はなぜ遅い?

ITニュース

SNSを中心に生成AIを「使いこなす」ためのTipsも多く出回るようになり、個人のみならず、企業も少しずつ「使う側」へ向かい始めている。

しかし、「アメリカのトップ500企業の92%がAIを導入している一方で、日本の上場企業でAIを導入している企業は10%未満しかない」と、日本の遅れに警鐘を鳴らすのが株式会社SHIFT AI 代表取締役の木内翔大さんと、株式会社デジライズ 代表取締役の茶圓将裕さんだ。

なぜ、日本とアメリカでAI導入格差が生まれているのか。この差を埋めるために、日本でAI活用を推めるリーダーたちは何を意識するといいのか。

2023年12月5日~6日で開催されたエンジニア・クリエイター向けカンファレンス「GMO Developers Day 2023」のセッション「ぶっちゃけAI活用推進する際に、現場で一番困ることってなによ」で交わされた議論を一部抜粋して、お届けしよう。

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株式会社SHIFT AI 代表取締役
木内翔大さん(@shota7180

元・株式会社SAMURAI 代表取締役。一般社団法人生成AI活用普及協会 GUGAの理事を務めながら、GMO AI & Web3株式会社の顧問としても活動。大学時代からフリーランスのWEB・AIエンジニアとして3年ほど活動。2013年に日本初のマンツーマン専門のプログラミングスクールである「SAMURAI ENGINEER」を創業。累計4万人にIT教育を行い21年に上場企業へ売却。「日本をAI先進国に」をテーマにSNSを中心に生成AIについて発信している

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株式会社デジライズ 代表取締役
茶圓将裕さん(@masahirochaen

法人向けAI研修、及び企業向けChatGPTを開発する株式会社デジライズをはじめ、他数社の代表取締役。GMO AI & Web3株式会社、他複数社顧問。学生時代に英語圏での1年間の留学後、上海に渡り動画求人サイトの事業で起業。帰国後はAIチャットボット「AideX」、AI語学学習ツール「AI会話」などAI関連サービスを複数開発。現在はX等でAI情報発信を行い(フォロワー10万人以上)、AI専門家としてTBSテレビやABEMAにも複数回出演。一般社団法人生成AI活用普及協会 GUGAの協議員やNewsPicksプロピッカーも兼任

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GMOインターネットグループ株式会社
システム統括本部 DX推進開発部 部長
李 奨培さん

20年以上にわたるウェブベースの業務効率化ツールの開発経験をベースに、最近ではノーコード・ローコードを活用したDX推進に注力。2023年4月からは、GMOインターネットグループ横断のChatGPTを用いた業務活用プロジェクトのリーダーを務める

AIを使えている企業は「トップ自らガンガン使う」

李:AI技術、特にChatGPTの業務への活用について聞いていきたいのですが、まずは日本の企業でのChatGPTの導入状況について教えてください。

茶圓:客観的なデータをお伝えすると分かりやすいかなと思うのですが、実はアメリカのFortune 500(フォーチュン500)にランクインしている企業の92%がAIを業務やサービスに使っているのに比べて、東証プライム企業1,834社の導入率はたった10%未満。数字上、日本の企業の多くはまだChatGPTをうまく使いこなせていないというのが現状です。

木内:茶圓さんが示した通り、AIを使えている企業はまだ少ないものの、効果的に活用している企業はあります。それらの企業はAIを使い業務効率化を図り、早いところだとすでにイノベーションを生み出し始めています。

2023年は生成AIの民主化が加速した年ですが、ふたを開けてみると企業間でバラつきがあり、それはたった一年のうちに大きな差となっている状況です。

李:導入の初期段階に留まっている企業や、使いこなせていない企業にはどのような課題があるのでしょうか?

茶圓:セキュリティーへの懸念や知識不足が主な課題です。ただ、将来的には生成AIがExcelやWordレベルで使われていくはずなので、その課題払拭には向き合わざるを得ないですよね。

木内:私は経営層の意識、現場のリテラシー、そして業務改善のPDCAサイクルが回せるかどうかにあると考えています。

木内翔大さん

李:具体的にはどういうことでしょうか?

木内:例えば、GMOやソフトバンク、サイバーエージェントなどは、トップ自ら初期段階から積極的にAIを活用しています。

先日拝見した孫さんのプレゼンで、孫さん自身が「AIを使用し、600件もの特許アイデアを考案。壁打ちやブレストにもAIを使い、特許申請まで行なった」という話が出ていました。

そうした行動が伝播し、現場メンバーからのアイデア創出や環境整備、スタッフの育成につながっています。

李:変化の激しい時代だからこそ、決裁権を持つトップ自らAIを活用しているかどうかが、スピーディーかつイノベーティブな判断につながるわけですね。

茶圓:GMOさんのケースだと、AI活用を進めることで「9万6000時間の業務時間削減を達成した」と聞いて驚きました。

李:GMOの場合、まずグループの幹部向けにAI活用の重要性や意義を伝える場を設けました。その場を通じてAI活用に対する共通認識を持つように意識付けがされたことが、社内での活用を加速させたと思います。

李 奨培さん

茶圓:先例が少ない分野だけに、日々新しい「これはどうする?」が出てきますからね。例えば、ハルシネーションやセキュリティーといったAIにまつわる課題をどう解釈し、業務に支障を与えることなく連携させていくのか。そういった課題に対して適切な判断をするには、普段からAIに触れて実務に活用していないと難しい。だからこそ、トップやリーダー層に知見があるか否かがビジネスの勝敗を分けそうです。

李:現時点で使いこなせていない企業や組織が使いこなせるようになるには、どのようなアプローチが必要でしょうか?

茶圓:教育がキーポイントです。多くの人がAIの便利さを感じているものの、実際の業務での使い方を知らないことが現状の課題だとすれば、ある程度の強制力を働かせてでも教える必要があります。

もし社内に知見が足りないのであれば、外部の専門企業に依頼することも一つの手です。とにかく無理矢理にでも「使っていく」ことをしないと、オワコンの一途です。

木内:現場レベルでAI活用リーダーのような存在を置き、AI活用を現場ドリブンで進められるかが肝心です。精神論だけでなく、具体的なスキルを持った現場リーダーあるいはアンバサダーのような人間を育てることが求められています。

例えばディップさんでは、200名単位でAIアンバサダーを育成して全社員3000名に教育を行っています。またGMOさんであればコンテストを開催するなどして、現場からのアイデアを引き出しています。そうした取り組みを企画し、まずは実行に移すことが必要なんだと感じます。

李:われわれも現在は、ベーシックなAIリテラシーの向上に注力しています。来年は各部門単位でアンバサダーを設置し、動かしてみる計画もあるんですよ。

茶圓:現場レベルでのAI活用を推し進めるためには、教育とモチベーション管理も重要です。キャリアパスや人事評価にAIの活用を組み込むことで、従業員が積極的にAI活用に取り組むようになると思います。また、そもそもツールをきちんと提供できるかどうかも大きなポイントです。GPT-4のような高度なAIツールは一定のコストがかかる。このコスト問題をどう突破するかが鍵になります。

木内さん 茶圓さん

開発期間が1カ月から2日に。AIをチャンスと捉える者が勝つ世界に

李:次のテーマは、エンジニアやクリエイターがAIとどう付き合っていくべきかについてです。茶圓さん、最新のAI技術の進化についてお話いただけますか?

茶圓:直近ではGPT-4VのAPIのような、進化したAI技術が注目されていますよね。これにより、フロントエンド開発が大きく変わりました。例えば、スケッチやドラッグアンドドロップ操作から高品質なUIを作ることも可能になっています。

李:そうした変化は、エンジニアやクリエイターにどのような影響を与えますか?

茶圓:1カ月かかっていた開発作業が2日で終わるくらい、開発期間が大幅に短縮されています。あとは、チーム開発といってもごく少数の人間で密度の高いコミュニケーションを取りながら開発していくスタイルが増えてきている印象です。アジャイル開発もいよいよデフォルトになっていくでしょうね。

木内:確かに、少人数でも高い生産性を実現できるようになりましたね。生産性向上という観点で、現在有名なAIツールにはどういったものがありますか?

茶圓:tldrawが良い例です。これは高速でフロントエンド開発ができるツールで、GPTのUI開発などでも活用できます。仕様書を読み込ませるだけで開発が完了する機能が便利ですね。

茶圓将裕さん

木内:AIツールの導入は、クリエイターやエンジニアにとって非常に重要ですよね。画像生成やデザインでは業務効率が3倍、動画系では2倍以上になっているデータもある。今後は、専門職の人ほどツールの活用が必須ですね。

李:最後に、これからエンジニアはAIとどのように関わっていくべきか、お二人の考えをお聞かせください。

茶圓:大前提、変化を楽しむ気持ちが大切です。AI技術は指数関数的に進化していくので避けることはできない。だからこそ、エンジニアやクリエイターはこの変化を恐れず、柔軟に対応していってほしい。それがチャンスや可能性となっていくはずです。

木内:ChatGPTは汎用的なAIツールなので、GitHub Copilotなど自分の業務領域によりマッチした専門的なAIツールも組み合わせて使えると活躍の幅が広がります。そのほか、プロンプトエンジニアリングのスキルやAIをマネジメントするような経験値も重要になってくるでしょう。

茶圓:AIがMicrosoft OfficeやGoogle Workspaceのようなビジネスにおいて欠かせないサービスとなるにはまだ時間がかかりますが、そうした方向に進んでいることは確かです。国策としてリスキリングや学び直しに多額の補助金が投入されている現状を踏まえると、ビジネスにおけるAI活用は、企業が抱える最優先事項といっても過言ではありません。

例えば経済産業省が実施している「IT導入補助金」を利用すれば、各種ツールの導入コストもある程度抑えられるでしょう。こうした制度を上手に活用するなどして、多くの企業がAIを効果的に活用していってほしいですね。

写真/GMO提供、文・編集/今中康達(編集部)

※本セッションのアーカイブ動画はこちら

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