株式会社キープレイヤーズ
代表取締役
高野秀敏さん(@keyplayers)
1999年に株式会社インテリジェンス入社。2005年に株式会社キープレイヤーズ設立。これまでに1万1000人以上のキャリア面談と、4000人以上の経営者の採用相談にのる。投資した企業は55社以上にのぼり、うち5社が上場
生成AIの話題一色だった2023年。国内でも生成AIを活用する企業が増えつつあり、24年には開発現場の風景も一段と変化していきそうだ。
では、エンジニア採用市場はどう変わっていくのだろうか。企業経営や人材採用の動向に詳しい株式会社キープレイヤーズ代表取締役の高野秀敏さんに、24年のエンジニア採用のトレンドを解説してもらった。
株式会社キープレイヤーズ
代表取締役
高野秀敏さん(@keyplayers)
1999年に株式会社インテリジェンス入社。2005年に株式会社キープレイヤーズ設立。これまでに1万1000人以上のキャリア面談と、4000人以上の経営者の採用相談にのる。投資した企業は55社以上にのぼり、うち5社が上場
ーー国内でも生成AIを活用する企業が増えつつあります。こうした生成AIの進化や浸透は開発現場に大きな影響を与えていますが、エンジニアの採用市場にも変化はあるのでしょうか。
「生成AIを使いこなせないエンジニアの需要は減っていく」という意見は多いですから気になるところですよね。ただ、生成AIの影響でエンジニアのニーズがなくなったという話はまだ聞いていません。
技術者派遣を行うSES企業の業績は伸びている傾向なので、淘汰の対象としてよく挙げられがちなスキルの浅いエンジニアの需要がなくなっているわけではなさそうです。
とはいえ、生成AIの進化は開発現場の生産性を劇的にあげているのは事実。各社のCTOやエンジニアからは生成AIの民主化によって「CTOやVPoE、PM、PdMのようなポジションにいるエンジニアの生産性は4〜5倍に上がっている」と聞きます。
ただ、スキルの浅いコーダーやプログラマーの生産性が上がるかというとなかなか難しい。生成AIによってできたコード自体が正しいかを判断できなければ使いこなせないからです。このあたりの層に対する採用ニーズの変化は、少し遅れて影響が出てくるのかもしれないですね。
一方で、自社プロダクトを提供するテック企業にいる優秀なエンジニアには他社からどんどんスカウトが来ています。中には現職の給与にプラス200万円の提示でスカウトされた話も聞きました。ハイレベルなエンジニアの年収は今後も上がっていくでしょう。
ーープラス200万円の提示とは驚きです。ハイレベルなエンジニアは生成AIの進化によって生産性に加えて、待遇もあがっているんですね。
特に「10Xエンジニア」*と言われるような優秀なエンジニアは非常にニーズが高いです。CTOレベルの採用の場合、給料はいくらでも出すという企業もあるほどです。
実際、23年4月の調査(下記図)ではCTOのストックオプション平均保有率は社長やCFO、COOより多い。技術領域で組織を率いる立場にいるエンジニアがいかに優遇されているかが分かると思います。
経営者が開発の重要性を理解している企業であればあるほど優秀なエンジニアの報酬は高く、ベンチャー企業なら株を渡すなど、雇用条件がどんどん良くなっています。
一般的なエンジニアの年収が600〜800万円として、高い生産性を誇る優秀なエンジニアは年収2000万円でもなかなか採用できないという状況です。
*「優れたエンジニアは、普通のエンジニアの10倍の生産性を持つ」ことになぞらえた呼称
ーー24年、特に採用が活発な業界、ニーズの高い職種はありますか?
ここ数年、SaaS企業の資金調達が盛んでした。資金調達と採用はリンクしているので、SaaS企業は引き続きエンジニア採用を活発に行うのではないでしょうか。
SaaSやスタートアップへの転職を考えている人は、成長性がありそうな企業を知るためにも、ベンチャーキャピタルや投資家の友人を増やすことをおすすめします。投資家側にも「エンジニアと接点を持ちたい」と思っている人は多いのですが、コミュニティーが離れているので知り合う機会が少ないんですよね。いきなりDMを送っても信頼を得づらいと思うので、友人の友人を辿ってみるといいでしょう。誰かしらと知り合えるはずですよ。
職種で言うと、フロントエンドでは、RailsやGO、バックエンドではAWSやGCPに対応できる人は、引き続きニーズが高いです。技術系のイベントに行くと必ず生成AIの話題が出るものの、生成AIに特化した求人はまだ少ない印象ですね。
ーー24年、IT企業やWeb企業で求められるエンジニア像について教えてください。
生産性を上げられるエンジニアです。具体的に言うと、生成AIやCopilot for Microsoft 365のようなサービスを使いこなして、業務を効率化し人的コストを削減できるような人です。
経営者は「生産性を上げる」というテーマに関心が高く、傾向としてITや技術に詳しくない人が多い。そのため、生成AIの未来を分かりやすく語れるエンジニアを高く評価するでしょう。未来といっても100年後ではなく、1~3年先くらいを語れるのが理想的です。
案外、テック企業の社員以外で米国など最先端の技術動向をつぶさに見ている人はほとんどいません。だからこそ、技術動向を日本語で分かりやすく伝えられるスキルは大きな強みになります。クライアントワークをしているエンジニアであればなおさらです。
ーー最近ではカジュアル面談やSNS活用などをしている企業が増えていますが、2024年にトレンドになりそうな転職活動のスタイルはありますか?
23年から引き続き、SNSやnoteなどのブログで発信をするエンジニアには声がかかりやすいと思います。
「技術レベルが低いから恥ずかしい」と思うかもしれませんが、難しい技術について書いてほしいわけじゃない。ITに詳しくない人に向けて分かりやすく説明してみるといいでしょう。解説動画でおなじみの中田敦彦さんのようなイメージです。
情報発信する際は、「素人含めた万人向け」ではなく「経営者向け」に発信する意識を持つのがおすすめです。
ーーそれはなぜですか?
開発は効率をよくするもの、だとすると効率がよくなればコストが下がったり、利益が上がったりしますよね。それは経営層が最も重視していることなので情報に対するニーズが高いんです。
ーーしかし、経営者向けに発信をするのはハードルが高く感じますね。
例えば「生成AIを活用すれば7名のエンジニアで行なっていた開発が4人で実現できる」や「開発コストがこのくらい上がりそう、下がりそう」といった話でもいいと思います。
エンジニアからみれば「自分の単価は下げたくない」と複雑な心境になることもあるかもしれません。ただ、テック系のバックグラウンドがない経営者は、経営者視点で話ができるエンジニアを高く評価しますし、出会いたいと思っていることは事実です。
一方で、技術のバックグラウンドを持った人が経営者向けに情報発信している人はあまりいない。だからこそ、時流をつかみ、情報発信していけるエンジニアは引く手あまたになることは間違いないでしょう。
人材エージェントを生業にしている私も「SNSをやった方がいい」「SNS経由でスカウトがくるよ」とおすすめすることは自社の利益に相反するわけですが、そんなことを言っていても仕方がない。時代の流れは変えようがないですからね。情報発信を始めたら、求人サイトのレジュメにブログやSNSのURLを記載しておくといいです。
また、2024年は「副業で技術顧問を始めてみる」という選択肢もいいと思います。技術顧問はまさに経営レベルの話ができることが求められるポジションですから。エンジニアの数が少ない、あるいは自社でエンジニアを雇っていない企業など、技術顧問を始めやすい組織や求人は多くあると思いますよ。
>>>後編はこちらから
取材・文/久保佳那 編集/玉城智子(編集部)
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