専門的な知識やスキルを活かした職業の一つ、エンジニア。
「手に職」を求めてキャリアチェンジを目指す人は多く、業界的にも、エンジニア不足が続く現状を受けて「未経験者を採用して育てよう」という企業が多々見られる。
しかし、未経験から新しい仕事、特に専門職にチャレンジするのは容易ではない。「思うようにスキルが身に付かない」「学習途中で挫折してしまう」といった事態に陥ってしまわないためには、どうすればいいのだろうか。
今回話を聞いたオープンアップITエンジニアは、年間で1000名を超える未経験のITエンジニアを採用。研修専任の組織である教育研修開発部を持つ同社では「絶対に挫折させない」研修体制を作り、多くの未経験者をエンジニアとして世に輩出してきた。
育成のプロによる研修とはどのようなものなのか。オープンアップITエンジニアで研修の企画や講師を担当する木村大輔さんに聞いた。
未経験エンジニアが挫折しやすい「成長」の障壁
ーー未経験からエンジニアになることを目指す人は多いですが、中には挫折してしまう人もいますよね。その理由はどこにあるのでしょうか。
パソコン上で学習環境を構築することが難しい点が、最大の理由でしょう。ITの勉強は本を読むだけではイメージがつきづらく、パソコンを用意して手を動かすことが重要になります。でも、実際に勉強のためのパソコンを用意すること、そしてパソコン上に学習環境を用意するのはハードルが高く感じられ、スキルが身に付く前に挫折してしまうケースが多いのだと思います。
それに、未経験者の場合は「エンジニアとしてのキャリアプラン」がイメージしづらい。「自分はエンジニアとしてどういう仕事をしたいのか」「そのためには何を勉強し、どのようなステップでキャリアを築いていくべきなのか」が分からないので、手詰まりになってしまうんです。
ーー学習難易度の高さだけでなく、先を見通せないことが挫折の要因になってしまうんですね。どうすれば挫折せずにスキルアップできるのでしょう。
シンプルですが、「教えてくれる人」がいる状態で学ぶことですね。つまずきそうになったときにすぐに質問できることが、スムーズな成長を目指す上では欠かせません。
ーーそれは、スクールに通ったり企業の研修を受けたり……ということですよね。
そうですね。ただし企業の研修の場合は、全ての企業で適切な研修が受けられるとは限らない、という点で注意が必要です。
ーーというと?
本来、未経験者向けの研修は時間をかけて丁寧に進めなければなりません。ITの知識がほぼない人も多いので、基礎から実務スキルまで順を追って教えていく必要があるからです。
しかし、当然ながら研修中のエンジニアは現場に配属することができません。つまり「待機」状態になるということ。そのため企業の研修部門は、コスト削減の観点から、できるだけ短期間で研修を終わらせることを上層部から求められがちなのです。
なので、エンジニアへのキャリアチェンジを目指す未経験の方は、形だけの「なんちゃって」研修を行っている企業ではなく、人材育成に十分なリソースを割いている企業を選ぶことを意識してください。良いスタートが切れれば、スピーディーな成長が可能ですからね。
「現場で活躍できるエンジニア」を育てる、レベル別の研修
ーーオープンアップITエンジニアでは、月に100人前後のエンジニアが入社するとか。未経験者も積極的に採用しているようですが、どのような育成方針で研修を提供しているのでしょうか。
企業理念である「一人一人のキャリアの扉を開き、より豊かな人生への架け橋に」という考えに基づいて育成しています。
当社に集まってくるのは、居酒屋の店長や、美容師、自衛隊、教員など、さまざまなバックグランドを持ったIT未経験者たち。そうした方々がエンジニアとして活躍できるように支援することが、私たちの使命だと思っています。
ただ、知識だけ身に付いても実践できなければ意味がありません。研修が終わった直後からスムーズに現場で活躍できるエンジニアに育てることを大切にしています。
ーー具体的にはどのような研修で育成してるんですか?
プログラムは大きく分けて三段階。導入研修、基礎研修、そして高度研修です。
入社後、まずは2日間の導入研修で、ビジネスマナーの基本やコミュニケーションの重要性の説明、IT業界におけるエンジニアの職種紹介を行います。
職種紹介では、例えばヘルプデスクは1日の中でどのような仕事をするのか具体的に説明した上で、キャリアパスについても触れていきます。ロールモデルとなる先輩の事例をもとに「この職種だと、どういう勉強をしてどんな業務を経験すれば、何年でこれくらいの年収になる」といった情報を伝えることで、将来のキャリアを具体的にイメージしてもらうことが目的です。
ーー最初の段階でキャリアプランのイメージを持たせることで、先ほどお話されていた未経験者がつまずきやすいポイントを解消していくんですね。基礎研修についても詳しく教えてください。
基礎研修は最長1.5カ月間、業務・技術領域で分かれた4種類を用意しており、適性や希望に応じたコースを受講します。
【基礎研修】コース詳細
■CCNA研修
CCNA資格取得を目標に、ネットワークの基礎を理解し、ネットワーク機器の導入・設定およびトラブルシューティングができるようになることを目指す
■クラウド・サーバー研修
基礎を理解し、パッケージインストール、設定ファイルの修正・確認などの導入作業、運用作業、保守作業ができるようになることを目指す
■Salesforce研修
Salesforce認定アドミニストレーターの取得を目標に、Salesforceのカスタマイズができるようになることを目指す
■社内SE研修
情報システムの幅広い知識を身に付けることを目指す
この研修の目的は、エンジニアとして働く上で必要な知識やスキルを身に付けていくこと。基礎研修は集合で行い、講師が前に立ってポイントを解説したあとに演習に取り組みます。
ーー講師がいるとはいえ、中には研修についていくのが難しい人もいるのでは?
実は基礎研修から一つレベルを落とした「IT入門」という研修を用意しているので、不安な方はそちらからスタートすることが可能です。中にはパソコンをほとんど触ったことがないような方もいるので、タイピングやExcelの使い方などの基本操作などから学んでいきます。
また、基礎研修に進んだ後も、未経験者でも分かりやすいように例え話を多用しながら講義を進めています。例えばネット回線の仕組みを説明をするときは、ネットワークを道路、データを自動車に置き換えて、「ネットワークが遅くなるのは、自動車(データ)が渋滞して進みにくくなるから」といったように解説するんです。
ーー「未経験者」という枠で一まとめにはせずに、各々のレベルに合った研修を用意しているのですね。基礎研修の次のステップである高度研修は、どういった内容なんですか?
高度研修は、基礎研修の成績優秀者に向けたより専門的なスキルを身に付けるためのプログラムです。こちらは最長2カ月間で、「AWS」「Azure」「Server Engineer」「Network Engineer」「Salesforce Developer」「セキュリティエンジニア」の六つのコースがあります。
例えば、「Server Engineer」コースでは、研修用に購入したネットワーク・サーバー・ストレージを使って、プライベートクラウドの構築演習を行います。一方、「Network Engineer」コースでは、一人あたり8台ほどの実機を貸し出し、ネットワーク機器の設定や運用管理などの演習を実施。これらの実践的な演習を通じて、受講者は理論と実践を両立して学習することができます。単なる座学ではなく、徹底的なアウトプットに取り組むことで高度な技術力の習得を目指しているのです。
ーー基礎研修の成績優秀者向けとのことですが、高度研修を受講できる人は限定されているのですか?
高度研修を受けるタイミングは人それぞれですが、エンジニア全員に受講するチャンスがあります。基礎研修の成績優秀者は高度研修に移行し、基礎研修から連続して受講していただくことが可能です。
それ以外の方は基礎研修が終了したら現場配属となり、実務を通して経験を積んだ後に高度研修を受講することができます。
高度研修の目的は、上流工程で活躍できる人材の育成です。エンジニアたちがより早く希望のキャリアや年収を実現できるようになるために支援していきたいと考えています。
「誰一人挫折させない」研修体制で、幸せなキャリアの実現を後押し
ーー研修を受講している人が挫折しないようにとても気を配っていますよね。たくさんの方が受講している中で、挫折しそうな方をどのように発見しているのでしょうか?
朝礼や1on1などでコミュニケーションを取れば、すぐに分かります。研修内容が理解できていない方は、具体的な話が出てきづらい傾向にあるからです。
例えば「クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF)とクロスサイトスクリプティング(XSS)の違いは理解できましたか?」と聞くと、本当に理解している方は「はい、CSRFはこのような内容で、XSSはこのような内容です。違いは××です」と具体的に答えられるのですが、研修に追いつけていない方は「はい、理解できています」の一言で会話が終わってしまいがちです。こうした兆しが見えた場合は、特に丁寧なフォローを行うようにしています。
ーー誰一人取り残さない仕組みやマインドが、研修全体で貫かれていますね。
せっかく入社してもらったからにはエンジニアとして活躍してほしいので、どのようなレベルの方でもキャリアが実現できるような体制を作っているんです。
もちろんそれは配属後も同じ。配属後は、会社のポータルサイト上からサポートチーム宛にいつでも質問・相談することができます。現場では今までに経験したことのない課題にぶつかる場面もありますから、研修中以上に丁寧なサポートが必要です。
ーー研修終了後についても教えてください。現場に配属されたエンジニアたちには、どのようなキャリアパスがあるのでしょうか。
当社ではテクノスタッフ、スペシャリスト、マネージャーという三つのキャリアパスを設けています。テクノスタッフはヘルプデスクやユーザーサポートなどの定型業務を、スペシャリストは自ら考えてシステムを設計・構築していく非定型業務を担います。マネージャーはエンジニアたちの人事管理を行う責任者です。
キャリアパスが進むにつれて報酬も上がるため、まずはスペシャリストを目標に経験を積んでいきます。しかし、キャリアの「幸せ」は人それぞれ。無理をして上を目指す必要はないということも伝え、あくまでも自分に合った幸せな働き方を見つけてもらいたいと考えています。
ーーエンジニアとして「幸せ」なキャリアを歩むために、未経験者が心掛けると良いことはありますか?
最後まで諦めずに、コツコツと学び続けることですね。エンジニアは学ぶことが多い仕事ですが、それはすなわち伸び代が豊富であるということ。続けていればキャリアの扉が開き、人生が変わります。
実際、未経験エンジニアが新たなキャリアの扉を開いた瞬間を何度も目の当たりにしてきました。つい先日も、過去の研修受講者が「バンドマンからエンジニアに転身して希望年収に到達したので、婚約相手の親御さんに挨拶しに行きます」とうれしそうに報告してくれました。そういうシーンに立ち会えるのは、これ以上にない喜びですね。
これからエンジニアに挑戦したい方には、ぜひ先輩たちの後に続いてセカンドキャリアを実現し、新たな人生を力強く切り開いていってもらいたいと思います。
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取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹 編集/秋元 祐香里(編集部)