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工藤公康はなぜ「名選手、名監督にあらず」を覆せたのか?

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トップアスリートの思考技術

数々の困難を乗り越え、成功を収めた一流アスリートだからこそ秘める成功哲学や思考法がある。それらは、技術の世界に生きるエンジニアにも参考になるはず。本連載ではエンジニアが悩みがちな問題を、一流アスリートならどう思考し、成功へつなげていくのか。自身の経験談から突破口を提示してもらいます。

2026年10月、中日ドラゴンズの監督に工藤公康さんが就任することが決まった。6年連続Bクラス、2011年以来リーグ優勝から遠ざかるチームの再建を託されることになる。

工藤さんといえば、現役時代は球界屈指の左腕として通算224勝を挙げた名投手であり、福岡ソフトバンクホークスの監督としても、2015年からの7年間でチームを5度の日本一に導いた名将だ。

スポーツの世界には「名選手、名監督にあらず」という言葉がある。これは、エンジニアの世界でも同じことが言えないだろうか。

仕事の「できるエンジニア」が、メンバーを「できるエンジニア」に育てることが上手いかといえば、必ずしもそうとは限らない。それでも工藤さんはなぜ、プレーヤーとしてもマネジャーとしても一流の成果を残し続けられたのだろうか。

「成果はあくまでも一時のものに過ぎない」と語る工藤さんに話を聞くと、名プレーヤーだった人がマネジャーになったときに見落としがちな「大切なこと」が見えてきた。

※本記事は2024年8月1日に公開し、2026年10月8日にリード文を更新しました。

プロフィール画像

元プロ野球選手 元福岡ソフトバンクホークス監督
野球解説者・評論家
工藤公康さん

1963年愛知県生まれ。82年名古屋電気高校(現・愛工大名電高校)を卒業後、西武ライオンズに入団。以降、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズなどに在籍し、現役中に14度のリーグ優勝、11度の日本一に輝き優勝請負人と呼ばれる。実働29年プロ野球選手としてマウンドに立ち続け、2011年正式に引退を表明。最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、通算224勝を挙げる。正力松太郎賞を歴代最多に並ぶ5回、16年には野球殿堂入りを果たす。15年から福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。21年退任までの7年間に5度の日本シリーズを制覇。20年監督在任中ながら筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻を修了。体育学修士取得。22年4月より同大学院博士課程に進学、スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行う。仕事の傍ら農作業、DIYに勤しみ、子供たちの未来を見つめ、手作り球場や遊びの場を作る活動も行っている
■公式HP ■公式Instagram

プレーヤー時代の栄光は過去のもの

ーーテクノロジーの世界でも「プレーヤーとしては一流だったけど、マネジャーとしてはいまいち」というパターンは往々にしてあります。工藤さんからみて、名プレーヤーが上に立ったときに行き詰る一番の原因はどこにあると思いますか?

よく言われることかもしれませんが、プレーヤー時代に築いた「自分なりの正攻法」に固執してしまって空回りするケースは多いと感じています。プレーヤーとして成果を残してきた人ほど、自分なりの正解を多く持っているものですから、そうなってしまう気持ちも分かります。

それに、人間誰しも「きっとこれが正しいはずだ」と思ったことからなかなか抜け出せません。だからこそ「絶対このやり方が正しい」という気持ちから脱し、試したことのないやり方にも果敢に取り組めるリーダーは強いと思います。

ーーでは工藤さんは、監督として特定のやり方に縛られすぎることは少なかったと?

そうですね。というのも、私はプレーヤー時代に「改善を重ねる」ことの大切さを痛感しているので。

プロ野球の世界では、「去年上手くいっていたやり方が翌年には通用しない」ということは日常茶飯事です。そんな世界を生き抜くためには、成果を出すための改善点を日々検証し、再構築するサイクルを続けなくてはなりません。

……と、偉そうに言いましたが、そのような考えが染みついたのも手痛い失敗を経験したからなんです。

ーー手痛い失敗?

私がまだプロ4年目だった頃です。ピッチャーとしても、まだストレートとカーブしか球種を持っていなかった中で、運良くシーズン8勝、11勝、15勝と年々勝ち星を伸ばすことができました。

ただ、当時の先輩からは「真っ直ぐとカーブだけだと長くは通用しないぞ」と忠告されていたのに、「あと3年くらいは大丈夫だろう」と高をくくっていたんです。

そうしたら案の定、次の年から通じなくなった。自分の状態は、昨年と変わらないレベルをキープしていたのにも関わらず、です。

当然と言えば当然ですが、プロのバッターたちは「次はどうやったら打てるか」をみんな必死で考えて来る。相手は進化しているのに、自分のレベルは変わっていない。それはつまり「自分が後退している」のと同義なんです。

ーーその状況をどう切り抜けたんですか?

「なぜ勝てていないのか? 何がうまくいってなかったのか?」をひたすら自問自答して、勝てなくなった現状と向き合いました。

新しいトレーニング方法を取り入れてみたり、バッターの研究を徹底したり、新しい球種を増やしたりと、できることはとにかく実践して検証する中で、少しずつスランプ脱出の糸口が見えてきました。

ーー思い込みが成果の邪魔をしていたわけですね。

はい。人は一定の成果が出ると満足してしまい、また同じことをやれば、同じ結果が出ると思い込んでしまう。

ただ実際には、成果というのは一時的なものでしかないんです。一回の成果に満足して成長の歩みを止めてしまったら、成果を出し続けることはできません。

勝たせるだけが、監督の役割じゃない

ーー「一度成功したやり方に固執しない」ことが重要だと分かりました。とはいえ、監督業でここまで成功を重ねてこられた理由はそれだけではない気がしています。ほかにも意識していたことはありますか?

そうですね。達成したい目標に対してどれだけ「準備の時間」を作れるかどうかだと思います。

スポーツに限らず、ビジネスの世界でも同じことだと思いますが「今日も成果ギリギリだったけど、とりあえずご飯食べてお酒でも飲んで、明日になったらまたがんばろう」では、成果を出すことは難しい。

次の日に成果を出すためのシュミレーションをし尽くして、「よし、明日はこれをやればうまくいくだろう」と思えたら寝る。成果を出したいのなら、常に準備をし続ける覚悟を持たないといけないと思っています。

ーーとはいえ、いくら準備が完璧でも成果が伴うとは限りませんよね?

それはもちろんです。

ただそもそも、プロ野球の監督が一番大切に考えるべきこととは何だと思いますか?

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工藤公康

▼工藤公康氏 書籍紹介
『プロ野球の監督は中間管理職である』
(日本能率協会マネジメントセンター)

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