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「転職した方が年収上げやすい」は過去の話!それでも“年収アップ転職”をしたいエンジニアがやるべき三つの対策

事情通・久松剛がいち早く考察!最近HOTな「あの話」の実態

事情通・久松剛がいち早く考察

最近HOTな「あの話」の実態

〝流しのEM〟として、複数企業の採用・組織・制度づくりに関わる久松 剛さんが、エンジニアの採用やキャリア、働き方に関するHOTなトピックスについて、独自の考察をもとに解説。仕事観やキャリア観のアップデートにつながるヒントをお届けしていきます!

数年前、SNS上で「ITエンジニアの年収バグ」というフレーズが話題になったのを覚えている方はいるでしょうか? ご存じない方のために簡単に説明すると、「年収バグ」とは、同じ会社に勤め続けるより、定期的に転職を重ねる方が、劇的な年収アップを見込める現象を「バグ」になぞらえ、揶揄したバズワードです。

計算方法によっては、生涯年収で1000万円近い差がつく可能性があるといわれ、2022年頃にはITエンジニア界隈で話題になりました。

しかし、それもいまや過去の話。いまでは現状維持か微増に留まるのが当たり前になってしまいましたし、減少する方も居られます。

そうした状況にもかかわらず、いまだ「転職で年収アップして当然」と思っているITエンジニアは後を絶たず、納得の行く転職活動ができずに苦しんでいる方が居られます。

今回は、ITエンジニア採用バブル崩壊後、狭き門となった転職で年収アップを図る方法について考察したいと思います。

プロフィール画像

博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(@makaibito

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる

たった数年で様相一変。年収アップ幅はよくて1割程度

年収アップできない人

2015年のアベノミクスからエンジニア待遇が上がり始め、慢性的なエンジニア不足とDX需要、スタートアップ投資が最高潮に達した2022年にかけて、ITエンジニアの市場価値が急騰したのは事実です。

資本力に勝る国内メガベンチャーや外資系ITコンサル、またベンチャーキャピタルから多額の投資を引き出した直後のスタートアップには、2000万円を超えるような高額年収を提示することすら珍しくありませんでした。

中には、意中の企業以外に内定辞退の意志を伝えると、内定時に提示されていた年収額を上回る額を改めて示され、心変わりを誘発されたという話もよく聞いたものです。競りのような現象も散見されました。

この時期のITエンジニアの転職は現年収の10-25%アップは当たり前で、実績やスキルによっては2倍程度の年収を手にするのは珍しくありませんでした。その頃のITエンジニアは、まるで希少価値が高いコレクターズアイテムのような扱いを受けていたわけです。

これは一定レベルの能力と実績を持った人に限った話ではあるものの、こうした状況を目にすれば、「年1回の昇給を待つより転職でベース年収を上げるほうが効率的」だと考えるITエンジニアが増えてもおかしくありません。

実際、多くのITエンジニアが転職によって年収アップを実現しましたし、エンジニア未経験者がプログラミングスクールに殺到したのもこの頃です。

しかしイケイケだったIT業界にもやがて陰りが見えはじめます。コロナ禍が終盤に差し掛かる2022年に入ると、急速な物価高による景気後退で、企業のIT投資やスタートアップ投資を鈍らせてしまったからです。

一時は天井知らずとすら思われたITエンジニアの年収ですが、今では当時の熱狂がまるでウソのように冷静さを取り戻しています。その結果、ITエンジニアの転職を通じた年収アップはかなりの難関になってしまいました。

現在、転職による年収アップ幅はよくて1割程度(参照、過半数はそれ以下の上げ幅か、現状維持に留まるような状況です。中には年収増どころか、現在の年収よりも低い額を提示され転職を諦める人もちらほら出はじめているという話をよく耳にするようになりました。

年収550~800万円台の「転職上手」なエンジニアほど危うい時代に?【久松剛解説】 https://type.jp/et/feature/25248/
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しかし、ITエンジニアの採用バブルが去った今も、転職によって年収を上げたITエンジニアはいます。彼らはほかのITエンジニアと何が違うのでしょうか?

一つ言えることは、かつてのようにただ待っていれば、各方面から好待遇でオファーが届くわけではないということ。しかし、逆にいえば、それ相応の準備さえ整えておけば、転職で現年収の1割を超えるのは十分可能というのが私の考えです。

ではどうすれば、転職で年収アップが実現できるのか。具体的な取り組みを説明する前に、まずは転職で年収アップが難しい人としやすい人の違いからみていきましょう。

今、“年収アップ転職”がしにくい人

久松剛さん_インタビューに答える様子

転職で年収アップが難しい人たちの中で、最もありがちなのは、先ほども触れたようにITエンジニア採用バブルの波に乗って、転職するたびに順調に年収を上げてきた皆さんです。

こうした方々は、もともと給与のベース水準が高いだけに、転職による年収アップはなかなかの難関です。

日系企業には彼らに見合う待遇を用意できるポストが少ないこともあり、転職先候補が限られるのが現状です。メガベンチャーも現在居る人材の生産性を高める動きに集中しているため、すでに業界水準を超える高年収を得ている人が、さらなる高みを目指すなら、同業種・同規模以上の外資系企業、コンサルティングファームを意識することになるでしょう。

以前と比べて数はそれほど多くありませんが、外資系企業は前触れもなく中途採用情報が公開されることがあります。お目当ての企業にあたりをつけたら、採用ページをマメにチェックするのを怠らないようにしましょう。

現在成長中である新興国開発に絡んだコンサルティングファームなども積極採用を継続しています。

上記以外の条件で転職で年収アップしやすいのは、エンジニアバブル中に年収をいたずらに上げず、実際の市場価値より低い年収に甘んじてしまっている方々です。こうした方々は、良い企業と出会うチャンスさえつかめれば、転職による年収アップは比較的容易と言えます。

しかし、転職慣れしていないだけに、職業倫理に欠ける人材エージェントに引っかかりやすいのもこの層の人たちです。

ここで彼らの口車に乗せられて、希望に添わない会社にうっかり転職してしまうと「前職にいた方がまだましだった」と後悔するかもしれません。

自分の市場価値について知るのはもちろん、自らの意志をハッキリ示せるよう、企業や業界についての理解を深めておくべきです。

このように、同じITエンジニアでも現在の状況によって、転職で年収アップが難しい人、容易な人がいます。

しかし、次の三つのポイントを押さえれば年収アップ転職は可能ですが、むろん、年収アップ転職を実現するための100発100中の必殺技はありません。

これから紹介する手段は、システムの隙を突くようなトリッキーな対策ではなく、むしろ地味で地道な取り組みです。

しかし、現職にいるうちから意識して取り組めば、年収アップが狙えそうな求人情報に出会ったとき、あなたの採用力を高めてくれる強力な武器になるはずです。

年収アップ転職を実現する三つの手段

“年収アップ転職”の方法を考える人

結論からいうと、あなたの転職力を高め、年収アップ転職を実現するポイントは三つあります。それは「利他性を育む」「共感力を磨く」「発信力を高める」です。

具体的に見ていきましょう。

「利他性を育む」とは、人間関係において「得る」よりも「与える」ことを意識した振る舞いや言動を身につけるという意味です。

ITエンジニアの転職にとってスキルや経験は重要な要素であるのは間違いありません。しかし開発対象が何にせよ、プロダクト開発には大勢の人が関わります。「他人には構っていられない」「我が道をいく」タイプの人は、よほど尖った能力があれば別かも知れませんが、チームの和を乱す「異端者」と捉えられ、転職市場では敬遠されがちです。

一定のスキル、経験があると自負するなら、むしろ技術一辺倒ではなく、チームや事業への貢献に意識を向けるべきでしょう。

リーダーやマネジャーの肩書きがなかったとしても、後輩を助けたり、メンター役を買って出たりすることはできます。スペシャリストであったとしても、社内の技術力を高めるための社内勉強会の開催や、開発生産性の向上などでの貢献も可能です。また、誰の担当でもないものの、誰かがやらなければならない業務を率先して引き取って片付けたともなれば、周囲から向けられるあなたの視線は確実に変わるでしょう。

もしかすると、こうした取り組みを通じて、これまで知らなかった自分自身の強みや弱みに気付けるかもしれません。もちろん、自分の新しい一面を知れば、仕事選びの幅が広がりますし、技術力に加え、チームに貢献できる逸材としての評価が高まれば、転職市場でも高評価が得られるはずです。

次に挙げる「共感力を磨く」は、「当事者意識を培う」と捉え直していただいても差し支えありません。

共感力は、受託開発においては「顧客理解」であり、自社サービスにおいては「事業に対する興味関心」に通じるため、転職市場に置いては非常に有利です。

現職にいる段階から、技術領域に偏りがちな興味や関心をビジネスの仕組みや業界特性、業務の特質を理解するよう意識しておけば、面接などで事業に対する印象を尋ねられた際にも、自分の経験を踏まえリアリティを持って語れるようになるはずです。もちろん話の内容に説得力があれば、面接での好感度は格段に高まるのは言うまでもありません。

さらに開発現場でも、顧客との絆を深めるのにも役立ちますし、個人的な体験と結びつけば、他人事ではなく自分事として仕事と向き合う姿勢も育まれるはずです。転職うんぬんを抜きにしても、日頃から意識しておいて損はありません。

利他性を育む
・メンバー育成やチームへの貢献を意識してみる
・担当者が明らかでない業務を率先して拾いにいく

共感力を磨く(=当事者意識を培う)
・業界知識や業務知識など、技術以外の知見の吸収に務める
・相手と自分の間にある共通点を意識してみる

発信力を高める
・日々の活動を公開し多くの人に人柄や仕事ぶりを知ってもらう
・転職活動をはじめる際に力になってくれそうな人脈を築いておく

最後の「発信力を高める」というのは「あなたが何者なのか」を多くの人に知ってもらうことによって、有益な情報を逃さず手元に集めるためのポイントといえます。

以前の連載でも言及していますが、社内人脈だけでなく、外部の勉強会やテックイベントを通じて知り合った人や、年代が近く、気楽に付き合える人材エージェントなどと定期的に連絡を取って情報交換するのは有効な手立てです。もちろん、テックブログを書いたり、YouTrustのようなビジネスSNSで、日頃の仕事ぶりや自身のキャリア観、転職への意向について定期的に言及したりするよう習慣づけておけば、あなたに合った仕事を紹介してもらえる可能性が飛躍的に高まるでしょう。

これまでに挙げた三つのポイントは、いずれも非常に地味で即効性がない取り組みばかりかもしれません。

しかし、ITエンジニアの採用バブルは2022年末に終わりました。じっとしているだけで、企業側から「好待遇で迎えたい」と、あなたのもとにオファーが殺到する時代は当面戻ってきません。

転職で年収アップを狙うのが難しい時代だからこそ「安易に転職に走るのはやめて、現職にいる段階で、できる限り社内評価を上げ、昇格・昇給をしておくべき」というのが私からの提案です。

大事なのは、採用する側の立場や気持ちに思いを馳せ、立ち居振る舞うことができるようになること。相手に自分の魅力や実績を伝える準備を怠らないことが、最終的に年収アップ転職を成功させる鍵なのです。

構成/武田敏則(グレタケ)、編集/玉城智子(編集部)

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