忙しい合間を縫って読む本だからこそ、「スキルやキャリア、収入アップのヒントが得られる書籍を読みたい」というエンジニアは多いはず。
そこで今回は、採用する側・される側の事情に精通する久松剛さんの視点で、20代若手エンジニアとリーダー層それぞれにおすすめしたい本を聞きました!
非IT職とのコミュニケーション力や採用面接力、チームのレジリエンス力……エンジニアが日頃課題に感じている部分を払拭してくれそうな本が続々! ぜひ新たな知識や視点をインプットし、スキルやキャリアアップにつなげてください。
博士(慶應SFC、IT)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長
久松 剛さん(@makaibito)
2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、受託開発企業に参画。22年2月より独立。レンタルEMとして日系大手企業、自社サービス、SIer、スタートアップ、人材系事業会社といった複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる
20代の若手エンジニア向けのおススメ書籍
【1冊目】「非IT職とのコミュニケーション力」向上に効く本
最初にご紹介するのは、『エンジニアがビジネスリーダーをめざすための10の法則』(翔泳社)です。
久松さん
ベイカレント・コンサルティングの著者陣が執筆した「エンジニアはこういうところを気をつけて話すべきだ」という本です。
久松さん
正直なところエンジニア目線では上から言われているようで腹が立つような内容かも知れませんが、現在のITエンジニアのキャリアを考えた際、非IT職の社内関係者、顧客、ユーザーなどと業務上対話できるコミュニケーションがあると非常に優位です。
久松さん
ぐっと怒りを堪えつつ、自身の態度変容に繋げられれば非常に大きな財産になると思います!
【本の概要】
エンジニアがビジネスリーダーに求められる問題解決力スキルや考え方を身につけるにはどうすればよいのか。1.表面的な「やり方」ではなく、本当の現場に生かせる基本原則や原理に焦点を当てて紹介する。2.エンジニアとマネジメントのギャップに注目し、解決策を技術畑出身者が理解しやすいように示す。この2点をコンセプトに書かれた本です。
【2冊目】弁証法を使えば、不確実性の高い現代でも未来予測ができる!?本
続いてご紹介するのは、「使える 弁証法」(東洋経済新報社)です。
久松さん
変化の激しいIT業界において、未来予測をすることは非常に重要です。とは言っても1年先を見通すのもなかなか難しい時代ですよね。
久松さん
そこで役立つのがこの本です。ヘーゲルの弁証法は、「正」と「反」の対立から新たな「合」を生み出し、そのプロセスが螺旋状に進化するとしています。詳しい概念はぜひ本を読んで学んでほしいのですが、本では「これから起きる事象」についても過去の事象からの類似性が見いだせると述べられています。
久松さん
つまり、弁証法を理解し取り組むことで「未知の挑戦」とは言い切れないと感じることができる場面が増えるわけです。様々な課題・難題にぶつかることが避けられない開発現場において、弁証法で物事を解釈できるようになると、とても有利になると思います。
【本の概要】
課題・問題の解決の一助になり、「洞察力」「予見力」「対話力」が身につく本です。多くの人が、難解で高尚な哲学と認識している弁証法。しかし、著者の田坂広志氏は、弁証法を学ぶことで、「日々の仕事の役に立ち、多くの課題・問題の解決の一助になる」、「ただ一つの法則を知るだけでも、洞察力や予見力、対話力が身につく」と主張しています。
【3冊目】「2029年問題」を乗り越えられる本
20代に進めたい本の三冊目は『高等学校 情報I』です。
久松さん
非情報系卒業のエンジニア向けに推薦したい本です。ときどき「二進数の理解はエンジニアに必要か否か」という議論がITエンジニア界隈で起きますが、2029年には情報Iを履修した新卒が社会に出てきます*
久松さん
これを私は「2029年問題」と呼んでいます。これまでは未経験・微経験であっても表層的なことをインプットするだけでITエンジニアになることができました。しかし、これからは理解している若手と、理解しようともしていない中途という区分になっていくため、企業から選ばれる際にも差となるでしょう。最低限の教養として抑えておきたいところです。
*2025年度の大学入学共通テストから新科目「情報I」が追加される。2022年度以降に高校に入学した生徒は全員が履修している科目
リーダー、マネジメント層向けのおススメ書籍
【1冊目】よくある失敗や壁をキャッチアップできる本
リーダー層に勧めたい本の一冊目は、『ソフトウェア開発現場の「失敗」集めてみた。』(翔泳社)です。
久松さん
日々、IT怪談を集めている私ですが、その怪談には開発に関する失敗談も数多く含まれています。その中でよく感じることとして、任意の団体のみで発生している問題というのは案外少なく、「QCD(Quality、Cost、Delivery)」を軸に整理していくと似たような条件で似たような失敗が起きていることが分かります。
久松さん
この本はソフトウェア開発現場に特化したエピソードを取りまとめたものです。読み進めていくと心当たりがありすぎて頭が痛いですが、まだ失敗していないことを回避するためにも読んでおくと良いでしょう。
【本の概要】
やらかしたくないエンジニアに贈る「失敗の教科書」! 失敗事例で学ぶ、よくある落とし穴の回避策が満載の本です。
【2冊目】「なんとなく」「勘で」合否を出す面接から脱却する本
続いてご紹介するのは、『採用面接論: 無意味論を超えて』(東京大学出版会)です。
久松さん
ある程度の経験者になると、採用業務も任され、面接に同席される方も多いのではないでしょうか。私も様々な組織の採用シーンを見てきましたが、「なんとなく」「勘で」合否を出している企業は少なくありません。
久松さん
理想の一つとしては構造化面接のように型化をしていき、誰が面接官になっても再現性のあるジャッジができることです。こうした作業は業務効率化などに関わるエンジニアであれば得意な領域と言えます。流れ作業になりがちな面接を有意義にし、将来的な改善に繋げるためにもお勧めの一冊です。
【本の概要】
そもそも人材採用の面接で分かることとは何か。
面接が正統性を持つ評価につながる方法とは何か。
1980年代までを支配した「面接無意味論」を脱し、20世紀後半から今世紀に至るまでに、面接が意味ある方法へと進化した背景には何があったのか。構造化面接法、面接者配置法、知的能力やパーソナリティを含む非認知的特性の構成概念研究などの面接理論の現代思想史をレビューしつつ、日本における採用・就職慣行とそれが変化しつつある現在において「会って話す」意味とその手法を考える本です。
【3冊目】チームのレジリエンスを高める本
最後にご紹介するのは、『チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)です。
久松さん
中間管理職を担当しているとメンバー層のメンタルに関する諸問題と直面することが多いですよね。専門的なところは労務や産業医と連携するべきですが、普段の接し方でもいくらか工夫することができます。
久松さん
昨今流行っているレジリエンス(困難をしなやかに乗り越え回復する力)はまさにその一つでしょう。本著はチームレジリエンスに注目した一冊です。特にスタートアップや新規事業、新規開発のような不確実性の高い事業であればこのチームレジリエンスの概念は重要になると思いますので、ぜひ一度読んでみてほしいです。
【本の概要】
困難を乗り越えるたびに
どこまでもチームは強くなる!
環境が激変する時代だからこそ、チームの真価が求められる。その真価を引き出す方法がチームレジリエンスだ。本書は国内外の50本を超える研究論文を下敷きに、ベストセラー『問いのデザイン』の著者と新進気鋭の研究者がタッグを組んで、チームレジリエンスの概要と実践可能な高め方を3ステップで解説する本です。