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この仕事、続けていける? 女性エンジニアがぶつかる3つの“キャリアの壁”を打ち破る方法
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かつては男性社会と言われたIT業界でも、最近はごく当たり前のように女性エンジニアが活躍する姿を見るようになった。とはいえ、「中長期的なキャリアを描く」という点においては、まだまだ迷いや不安を抱えている女性も多い。「結婚・出産後も働き続けられるのか」、「いずれは管理職を目指すべきなのか」など悩みは尽きない。
こうした“キャリアの壁”を突破し、女性エンジニアが長く働き続けるにはどうすれば良いのか。そこで、女性が働きやすい環境作りに力を入れている、日本コンピュータシステム(以下、NCS)のR.A.さんにそのヒントを聞いた。R.A.さんは同社における女性エンジニア出身の管理職の草分け的存在。IT業界で女性のキャリアを切り開いてきた先駆者でもある。その立場から、現在の女性エンジニアが直面する課題をひもといてもらった。
女性エンジニアのキャリアを阻む“3つの壁”とは?
「女性エンジニアが長期的なキャリアを形成する上で課題視することは、主に3つあります。1つ目は、結婚や出産などのライフイベントにより、それまで通りの働き方ができなくなったり、業務の制限が発生すること。2つ目は、育休取得後に復帰した際に、ブランクによるスキルの遅れが出ること。そして3つ目は、女性管理職が極めて少ないこと。身近に同性のロールモデルがいない方が多いため、将来的なキャリアイメージが描きにくいという声をよく聞きます」
IT業界で働く女性エンジニアたちの悩みを、こう指摘するR.A.さん。自身はまだ開発現場に女性がほとんどいなかった時代からエンジニアとして活躍し、40代前半で管理職に登用されたキャリアを持つ。女性の働き方の変化を当事者として長く見続けてきたからこそ、男性管理職以上にこれらの課題を肌身で実感している。
「10年ほど前までは、私の周囲でも結婚や出産を理由に辞めていく女性がたくさんいました。でも現在は、ライフイベントを経ても働き続ける意志を持つ女性エンジニアが増え、弊社でも育休後に復職して活躍している女性が何人もいます。また、弊社もそうですが、時短勤務やフレックス勤務などの制度も整ってきて、一昔前とは働く環境も随分変わりました。それでも、エンジニアという仕事の特性上、制度はあってもどう活用できるのか、本当にできるのか、という不安を持つ女性は多いです。例えば、エンジニアはお客さま先に常駐することが多いので、『働く時間に制限があることをクライアントに理解してもらえるだろうか』であったり、『休んでいる間のスキルの遅れを取り戻せるだろうか』など、より具体的な悩みを若い女性社員たちから相談されるケースが増えてきていますね」(R.A.さん)
「結婚しても、出産しても、エンジニアとして成長していきたい」
ライフイベント前後に“キャリアの壁”に直面する女性は多い。NCSで働く現在20代後半の女性エンジニア、E.O.さんもまさにそうだった。
E.O.さんは1年前、結婚を間近に控えたタイミングでNCSへ転職をした。新卒で入ったシステム開発会社では、ERPパッケージ導入・開発を担当するSEとして活躍していたE.O.さん。ゆくゆくはITコンサルタントへとステップアップしていきたいと考えていた。
「もともと結婚しても、出産しても、エンジニアの仕事を続けていきたいと思っていました。エンジニアは、ずっと同じ作業を続けるということがなく、常に新しい経験やスキルを積み重ねていくことができるので、成長実感が得やすい仕事ですから」(E.O.さん)
E.O.さんにとって、エンジニアは一生の仕事。だからこそ、成長を目指す気持ちも強かった。しかし、前職は若手教育にあまり力を入れていない環境だったことから、E.O.さんはより成長機会を得られる職場を探して転職活動へ踏み切った。しかし、ここで驚くべき経験をする。
「転職活動時、ちょうど結婚を数カ月後に控えたタイミングだったので、選考が進んだ複数の企業の面接でそのことを率直に話しました。ですが、どの企業も『え、どのくらい休むの?』とか、あまり肯定的な受け止め方をしてくれなくて。結婚しても仕事のペースを落とす気なんて少しもなかった私は、ちょっとびっくりしました。そんな中、NCSの面接官だけが、まず一番に『おめでとう!』と言ってくれたんです。そして結婚後・出産後も働き続けることを前提に、この先どんな仕事に関われるか選択肢を提示してくれ、私の将来の成長ステップを一緒に考えてくれました」(E.O.さん)
E.O.さんは、自分が望む開発の仕事に携われることと、何より周囲の人たちが一緒に女性のライフイベントを祝い、サポートする風土があることを確信し入社した。そして実際に入社後もそれは間違っていなかったと実感しているという。
「私はエンジニアとしてもっと成長したいし、将来子どもができても働き続けたい。この会社ならそれが可能だと確信しています」(E.O.さん)
そう断言するE.O.さん。では実際に出産後、どのようなサポートをNCSではしているのか?
復職サポートの本質は、個人を理解する姿勢にあり。
復職後、ワーキングマザーがパフォーマンスを上げていくためには、もちろん、会社が柔軟な働き方を可能いする支援制度や仕組みを整えることが必要だ。だが、それを形だけのもので終わらせないためには、同じ職場で働く人たちの理解や協力が不可欠だとR.A.さんは話す。
「『子育て中の女性』とひと口に言っても、何時まで働けるのか、本人がどんな働き方を望んでいるのかなど、事情はそれぞれ異なります。ですから弊社ではケースバイケースで個別に対応し、本人の意志を尊重しながら私たち管理職も一緒になって、『どうすれば課題を解決できるか』を考えています。例えば、ある女性エンジニアの一人は、復職後はお客さま先に出ず、時短で働きながら社内で他のメンバーたちのバックアップをする業務に回ることを選択しました。時短の制約が解除されれば、また技術者として現場に復帰するつもりでスキル研鑽を続けています。一方、引き続き技術者として現場に出たいと希望する女性には、クライアントの特性を見極めて、柔軟な働き方が可能な案件をアサインしたり、条件を交渉したりしています。上司である私も営業と密に連携し、『このお客さまなら理解もあるし、時間的な拘束も比較的寛容なので時短勤務も可能だろう』といった情報を常に共有しています」(R.A.さん)
なお、R.A.さんが勤務する日本コンピュータシステムのような「えるぼし企業」(「女性活躍を推進している会社」として厚生労働省に認定された企業)では、男性の上司や同僚たちも当たり前のように女性たちのキャリアをバックアップしている。同社の男性管理職の一人、J.N.氏はこう話す。
「私がマネジメントする部は、50名のうち11名が女性で、うち3名が子育て中です。エンジニアは積み重ねた技術力や経験が大きな財産になるので、長く働き続けてくれる人材は会社にとって大きな戦力になる。復職したワーキングマザーには、『確かに君が働ける時間は短いし、生産性を上げる必要はある。でも、それを負い目に感じる必要は一切ない。一時的に仕事をペースダウンすることがあっても、また必ず思い切り力を発揮してもらえるタイミングが来るから』と伝えています」(J.N.氏)
元々自身の妻が働いていたこともあり、女性が仕事を続けることを応援したい気持ちが根底にあるという同氏。現在でもフルタイムで共働きを続けているからこそ、ライフワークバランスやキャリアなど、働く女性が抱える課題をより身近に感じているという。
「女性はライフイベントによって働き方に影響受けやすいものだと思います。でも、だからといってライフイベントを理由にキャリアを断絶してしまうことは、もったいないので絶対にしてほしくないんです」(J.N.氏)
自身の下で働く女性エンジニアたちが現在の働き方をどう考えているのか、あえて飲み会や雑談時などで聞きだしているというJ.N.氏。面談のような堅苦しい場よりも、フランクな場のほうが本音で語ってくれるのだという。社員それぞれのフェーズに合わせて、本人の志向に合った仕事を作っていくのが、管理職の仕事だと語った。
「無償の愛」が可能にした、女性管理職ならではのマネジメントスタイル
先にJ.N.氏が述べたように、新しい仕事の仕方を提案し創っていくことも管理職の大事な仕事だとR.A.さんは語る。その上で冒頭に上げた管理職へのネガティブイメージについては、その要因を以下のように分析した。
「管理職になったら、『男性と肩を並べて時間に制限なくバリバリ働かなくてはいけない』。というイメージが根強いため、尻込みしてしまう女性が多いようです。たしかに管理職になると、何かあれば自分が前に出ていかなくてはいけないし、達成すべき数字目標も課せられる。それが若い女性たちには、ハードルが高く感じられるようです」(R.A.さん)
そして上記のようなイメージを払拭するためには「管理職の役割を複数名で分担し、一人に掛かる責任や負担を減らすなどの方法も今後は検討していくべき」とR.A.さんは提案する。そのためには自分のようなロールモデルとなる女性たち自身が、新しい上司像や管理職のやりがいを若い女性たちに伝えていく必要があると続ける。
「私個人としては『管理職にとって一番大事なミッションは、現場のメンバーが100%のパフォーマンスを発揮できる環境を作ること』だと考えています。私の場合は現場エンジニアとして働いた経験があるので、現場と会社の橋渡し役になり、メンバーたちがやりがいを持って気持ち良く働けるようにすることが役目だと思っています」(R.A.さん)
また、女性が管理職になることで、男性の管理職とは一味違ったサポートができるのだとR.A.さんは続ける。
「現場に出ているメンバーたちにはこまめにメールを入れてコミュニケーションをとりますし、時にはお菓子を差し入れに行ったりして、『いつもあなたたちのことを見ていますよ』とメッセージを届けているんです。こうした気配りや配慮は、女性ならではの対応ではないでしょうか」(R.A.さん)
こうしたマネジメント手法は、従来の男性管理職に多かった「部下を厳しく統率し、強力なリーダーシップで組織を引っ張っていく」というイメージとは確かに大きく違っている。だが秋山さんのように、部下たちを常に気にかけ、さり気なく支えてくれる女性が上司だからこそ、安心して仕事に集中できるという若い世代も多いはずだ。
「管理職は“愛”が大事だというのが私の持論です。しかも、見返りを求めない無償の愛。もうこれは母性ですね(笑)。たとえメンバーを叱るにしても、愛があれば相手にきちんと伝わるはずです。男性の管理職には甘いと言われるかもしれませんが、女性は女性の良さや適性を活かして、自分なりのスタイルでマネジメントすればいいというのが私の意見です」
“どちらか”ではなく“どちらも”と言えるビジネススライフを実現するための秘訣
「将来ライフイベントが発生した時に、今の仕事を続けられるだろうか」という相談を受けた時、R.A.さんはいつもこう伝えている。
「自分がどうしたいのかを明確化するために、まず『1番大事なのは家族、2番目は自分、3番目が仕事』という優先順位を設定して考えを整理してみることをアドバイスしています。まずは家族を最優先に考え、それをかなえながら仕事にどう取り組んでいくのがベストかを一緒に考えていきたいのです 」 (R.A.さん)
そこには、、R.A.さんをはじめ、同社のこんな思いが表れている。
「働く女性には、何かを諦めてほしくない。“どちらか”ではなく“どちらも”両立して、家庭も子育ても仕事もバランスよく取り組めるような、彩り豊かなビジネスライフをプロデュースしたい。それも管理職である私の大事な仕事だと思っています。これは女性だけでなく、男性も同じ。だから弊社では、男性が育休を取得する事例も増えています」(R.A.さん)
会社と個人がお互いを理解し、率直にコミュニケーションを図りながら、女性エンジニアにとってベストな働き方を共に作り上げていく。こんな企業が増えれば、キャリアの壁を乗り越えて実力を発揮し、自分らしく働き続ける女性エンジニアが増えていくに違いない。
取材・文/塚田有香 福井千尋(編集部) 羽田智行(編集部)、撮影/竹井俊晴
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