本連載では、業界の第一線で活躍する著名エンジニアたちが、それぞれの視点で選んだ書籍について語ります。ただのレビューに留まらず、エンジニアリングの深層に迫る洞察や、実際の現場で役立つ知見をシェア!初心者からベテランまで、新たな発見や学びが得られる、エンジニア必読の「読書感想文」です。
「努力が空回り」に悩む自分を救った、ボトルネックの“置き方”を変える発想【大塚あみ推薦『ザ・ゴール』】
今回「オススメの書籍」を紹介してくれたのは、合同会社Hundreds代表であり、自著『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(日経BP刊)を持つ大塚あみさん。
大塚さんは、「成長したい」と思いつつも思うようにいかずに悩んでいるエンジニアに最適の一冊を推薦してくれた。ジェフ・ベゾスがAmazon経営陣たちと読んできたとされる伝説の名著『ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か』(ダイヤモンド社)だ。
タイトル:『ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か』
発売日:2001年5月18日
著者:エリヤフ・ゴールドラット
出版社:ダイヤモンド社
書籍概要:会社や組織をマネジメントするために必要な思考をストーリー形式でわかりやすく、そしておもしろく理解することができる。「ビジョン」や「パーパス」など、現代のビジネストレンドの基礎でもあり、これからの日本経済を支えていく次世代リーダーが今こそ読むべき1冊。全体最適のマネジメント理論である「制約理論」をもとに、取り掛かるべき課題を洗い出し、正しい順序で改善していくマネジメントプロセスを余すところなく掲載している。
目次
この本を読むに至った背景
現場で一生懸命努力しているのに、思ったほど成果が伸びない。
新しい技術を学んでも、資格を取っても、キャリアの手応えが増えていかない。
そんな“もやっとした停滞感”を抱いたことはないだろうか。
知識や経験は確かに積み上がっているはずなのに、なぜか現実は変わらない。
気づけば日々の仕事に追われ、成長の実感が薄れていく。
多くのエンジニアがこの壁に当たるものの、「なぜ努力が成果に変わらないのか」は曖昧なままになりがちだ。
私自身、独立した当初はまさにその状態だった。
新しい技術を学んでも収入は変わらず、努力しても成長しているような実感がない。
いろいろな仕事を抱えていたけれど、どれも思うように成果につながらなかった。
“努力が空回りする”感覚に悩んでいた時期に出会ったのが、『ザ・ゴール』(ダイヤモンド社)だった。
この一冊は、のちに私の働き方やキャリアの前提すら書き換えることになる。
この本で得られた学び・教訓
『ザ・ゴール』は、一見ただの工場経営の物語だが、その本質は「どこをボトルネックにするかで、全体の成果が決まる」という一点にある。
ここでいう“ボトルネック”とは、努力が成果に変わるのを妨げる“詰まりどころ”のことだ。
技術に習熟しても、環境が変わらなくても、この一点が詰まっている限り、どれだけ努力しても成果が出ない。
これは私自身の経験と驚くほどピッタリ重なった。
私自身、もともと努力できるタイプではなかった。学生時代の成績は5段階で0.9。授業では先生に「勉強しなさい」と言われ続け、勉強習慣もほとんど身に付かないまま社会に出た。
だからこそ、“努力の量”ではなく、“努力の置き場所”を変えるしかなかった。
明確な利益やリターンが見えないと動けない自分の性質を理解した上で、
・どの努力なら成果に直結するのか
・どこまでなら自分でコントロールできるのか
を丁寧に見極める必要があった。
『ザ・ゴール』は、この「努力の置き場所」を決めるための思考モデルを提供してくれる。
ボトルネックを「自分だけで解決できる領域」に置くことができれば、努力は自然と成果につながる。そこに気付いてから、働き方やキャリアの選び方が大きく変わった。
独立してから仕事が途切れず、周囲から「その働き方は長く続かないのでは」と言われても、なんとか回し続けてこられたのは、この本から得た設計思想をベースにしているからだ。
詳しい実例や試行錯誤はいくつもnoteに書いているけれど、その根っこにある「ドクトリン」のようなものは、まさに本書からの学びだ。
そして重要なのは、この考え方が決して一部の「特別な人」だけのものではないという点である。
「ボトルネックをどこに置くか」は、才能や学歴とは無関係だ。
高学歴である必要もなければ、華やかな経歴が求められるわけでもない。「自分にとってコントロールしやすい場所」にボトルネックを置き、その一点に集中させるだけで、努力の効率は劇的に変わる。
例えばエンジニアであれば、「全部できるようになろう」として消耗する必要はない。
フルスタックを目指さなくても、「モバイルだけ」「インフラだけ」で価値を発揮できるポジションはたくさんある。
成果が出ない原因が「自分の能力」ではなく、単に「求められる役割とのミスマッチ」にあるケースも少なくない。
『ザ・ゴール』が提示しているのは、「自分のキャリアの中心をどう設計するか」を考えるための、普遍的なフレームワークだと感じている。
実務での活用方法
本書の内容を実務に活かす際のキーワードはただ一つ。
「汎用性の高い領域から固め、ボトルネックは自分で潰せる場所に置く」
この哲学は、具体的には次のように応用できる。
“汎用的な知識”から習得する
エンジニアであれば、少なくとも次の三つは「どこに行っても使うスキル」だ。
・設計力
・メインで使う一つの言語の習熟度
・思考を言語化する力
この三つをボトルネックにしてしまうと、どんな現場に行っても苦労する。
・設計力が弱いと、どれだけ最新フレームワークを覚えても、構造化された問題解決ができず、開発が場当たり的になる
・メイン言語が定まらないまま周辺技術ばかり追うと、理解が浅く、応用力が育たない
・言語化スキルが弱いと、レビューや仕様調整、チームコミュニケーションで必ず詰まる
逆にいえば、この三つさえ固めてしまえば、その先に学ぶ技術の吸収率は一気に上がる。
ReactでもKotlinでもPythonでも、新しい技術スタックに触れるたびに「前にやったことがベースになっている」という感覚を持てるようになる。
“汎用的な知識”とは、どの技術スタックにも乗せられる「レバレッジの土台」だ。
ここに投資することが、最もメリットが大きいと感じている。
自分が解決できる領域をボトルネックとして設定する
次に重要なのが、「ボトルネックを自分で潰せる位置に置く」という発想だ。
例えば私の場合、 「毎日noteやXで発信し続けている限り、最低限の生活は維持できる」という設計にしている。
もちろん、そのためには継続的にコンテンツを生み出す必要がある。
しかしそれは、むしろ“好都合”でもある。
私は日々、アプリ開発や企画立案、講演・研修など、複数の仕事を並行して進めている。そのプロセスで生まれた気付きや失敗談を文章に落とせば、それ自体がコンテンツになる。
今、私が挑戦している「AI上司に従い月100万稼ぐチャレンジ」も同じだ。
結果がどう転んでも、
・成功すれば「うまくいった要因」を分解して共有できる
・失敗しても「なぜ失敗したのか」を分析してコンテンツにできる
という構造になっている。
『ザ・ゴール』が「工場の生産ライン」にボトルネックを据えたように、 私にとっては「コンテンツ」という一点をボトルネックに置くことで、挑戦そのものが価値に変わる仕組みになった。
こうした「自分がコントロールできる1点」をどこに置くかは、人によって異なる。
その設計プロセスや具体的な試行錯誤は、いくつもnoteでも書いているので、興味があればそちらも覗いてみて欲しい。
努力が必ず成果になる構造を先に作る
多くの人は「頑張ればいつか伸びるはずだ」と信じて行動しているけれど、現実には“頑張っても結果に結びつきにくい領域”が存在する。
そこで大事なのが、
「努力する前に、努力が成果に変換される構造を先に整える」
という視点だ。
これは、単に「もっと勉強する」という話ではなく、「成果が出る環境設計」を先にやる、という意味に近い。
例えば:
・フィードバックが一切返ってこない環境で学び続けても、改善点が見えず成長は頭打ちになる
・目標があいまいなまま手当たり次第に勉強すると、学習の方向性が毎回ズレていき、努力の多くが無駄になる
・自分のスキルと市場の需要が噛み合っていないと、たとえ技術が伸びても評価されず、成果として可視化されない
だからこそ、最初に整えるべきは「努力が報われる環境」だ。
・まず求人票や市場のニーズを眺めて、“どのスキルにレバレッジがかかるか”を確認する
・目指したいポジションにいる人の行動やアウトプットを真似てみる
といったところから始めるだけでも、「努力と成果の変換率」は変わってくる。
このあたりの「環境設計」や「ボトルネックの置き方」は、個別の状況によってかなり変わる。
私は日々の試行錯誤を日々noteにメモしながら、自分なりの答えをアップデートし、トライアンドエラーを繰り返している。
この書籍がオススメな人
この本を特に勧めたいのは、主にこのようなタイプの人だ。
・これから急成長したい人
・キャリアを根本から引き上げたい人
その中でも、特に次のようなタイプには強く刺さるはずだ。
・これから大きく成長したいと考えている人
「努力の量はあるのに、結果がついてこない」
「自分の伸びしろをどこに置けばいいか分からない」
そう悩んでいる人にとって、『ザ・ゴール』は“飛躍のための考え方”を与えてくれる。
闇雲に学ぶのではなく、
・レバレッジが最も効く場所から固める
・ボトルネックは自分が解決できる領域に置く
という視点は、成長の方向性をシンプルにしてくれる。
・「スキルさえ増やせば給料が上がるはず」と信じて疲弊している人
・資格だけが積み上がっていくのに、環境がまったく変わらない人
そのような、キャリアアップしたいのに方法が見えない人には特に相性がいい一冊だ。
キャリアを伸ばす上で重要なのは、「スキルの数」ではなく、「どのスキルが、最も自分の価値を押し上げるか」を選び抜くことだと、この本は教えてくれる。
努力をどこに、どう置くべきかが見えてくると、不安はだんだん「設計の問題」に変わり、修正可能なものとして扱えるようになる。
最後に
『ザ・ゴール』は、単なる工場の小説ではない。
「成長したい人」と「キャリアを伸ばしたい人」に、努力が成果につながるための“正しい設計図”を渡してくれる一冊だ。
私自身、この本をきっかけに働き方の前提を大きく組み替えた。
そして今も、noteやxで色々なことを発信しているけれど、その多くがこの本から学んだことを生かしている。
もし今、
「もっと成長したい」
「でも、どこから手をつければいいのか分からない」
と感じているなら、一度『ザ・ゴール』を手に取ってみてほしい。
きっと、あなたのキャリアの“フェーズを一段上げるきっかけ”になるはずだ。
合同会社Hundreds代表
『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』著者
大塚あみさん(@AmiOtsuka_SE)
2023年4月、ChatGPTに触れたことをきっかけにプログラミングを始める。授業中にChatGPTを使ってゲームアプリを内職で作った経験を、23年6月の電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会にて発表。その発表が評価され、24年1月の電子情報通信学会・情報ネットワーク研究会における招待講演を依頼される。23年10月28日から24年2月4日まで、毎日プログラミング作品をXに投稿する「#100日チャレンジ」を実施。その成果を24年1月に開催された電子情報通信学会・情報ネットワーク研究会(招待講演)、および電子情報通信学会・ネットワークソフトウェア研究会、 2月にスペインで開催された国際学会Eurocast2024にて発表した。24年3月に大学を卒業後、IT企業にソフトウェアエンジニアとして就職。24年9月、国際学会CogInfoComにて審査員特別賞受賞。24年12月、合同会社Hundredsを設立。25年1月、著書『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(日経BOOKプラス)を出版しベストセラーとなった
文/大塚あみ 企画/エンジニアtype編集部
著書紹介
『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(日経BP刊)
怠け者の大学4年生がChatGPTに出会い、ノリでプログラミングに取り組んだら、
教授に褒められ、海外論文が認められ、ソフトウェアエンジニアとして就職できた。
大学4年の春。授業でChatGPTを知った私は、宿題をサボるためにその活用法を編み出した。
プログラミングにも使えることを知り、出来心で「#100日チャレンジ」に取り組み始めた。
毎日1本、新しいアプリ(作品)を作り、X(旧ツイッター)に投稿するというものだ。
暇つぶしで始めたそれは、過酷な挑戦であると同時に、日常的な興味と学び、そして飛躍をもたらした……。
ーー Z世代の著者によるAI駆動型プログラミング学習探究記 ーー
>>詳細はこちら
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