アイキャッチ

「ドットコムバブルの再来だ」クロサカタツヤが予見するAIバブル崩壊のシナリオ

NEW!  ITニュース

ChatGPTの登場から早3年、生成AIはまたたく間にビジネスや日常に浸透した。だが「AIで世界が変わる」という期待が膨らむ一方で、その過熱ぶりを「バブル」だと危惧する声も聞こえ始めている。

OpenAIのアルトマンCEO「AI、バブルの側面も」 巨額投資は正当化 nikkei.com
OpenAIのアルトマンCEO「AI、バブルの側面も」 巨額投資は正当化

株式会社企 代表取締役、慶應義塾大学特任准教授のクロサカ タツヤさんも、昨今のAIブームに警鐘を鳴らす一人だ。クロサカさんは、総務省・経済産業省・経済協力開発機構などの政府委員を務めAI政策立案を支援しており、現在は米ジョージタウン大学の客員研究員として米国に在住、サイバーフィジカルシステムやAIのセキュリティー関連の研究活動にも従事している。

なぜ今のAIブームは「バブル」と言えるのか。仮にバブルが崩壊するとして、エンジニアは何を・どう備えるべきなのかーー。クロサカさんにAIバブルの「不都合な真実」と、その先の生存戦略について聞いた。

プロフィール画像

株式会社 企 代表取締役
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授
クロサカ タツヤ

1997年慶應義塾大学総合政策学部卒業、99年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年株式会社企を設立。通信・放送セクターの経営戦略や事業開発などのコンサルティングを行うほか、総務省、経済産業省、OECD(経済協力開発機構)などの政府委員を務め、政策立案を支援。16年からは慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授を兼務。24年からは、米国ジョージタウン大学客員研究員を兼務。著書『5Gでビジネスはどう変わるのか』『AIバブルの不都合な真実』(日経BP)

AIブームを後押しする過剰な資金流入の実態

クロサカさんが、昨今のAIブームを取り巻く潮目の変化を肌で感じたのは、2025年初頭のこと。Facebookのタイムラインに流れてきた「社長様必見、AIデータセンター出資のご案内」という広告がきっかけだった。

「一口馬主のようにデータセンターの一画を買いませんか、という内容の広告でした。これを見た瞬間、『原野商法だな』と。かつて昭和の時代に、値上がりするはずのない山奥の土地を『将来リゾート地になって儲かる』と売りつけた手口と、同じような匂いがしたのです」

AIに対して、技術的な進歩への純粋な期待ではなく、「これを買えば儲かる」という人々の「欲望」が先行してしまっている状態。これこそ、クロサカさんがAIブームを「バブル」とみなす理由だ。

クロサカ タツヤさん インタビューに答える様子

もちろん、広告一つで市場全体を断定することはできない。実際に「AIバブル」は起きているのだろうか。クロサカさんは、その証拠としてスタートアップ市場における異常な資金集中を例に挙げる。

「2025年第3四半期のデータによると、ベンチャーキャピタル(VC)による投資実績のうち、実に64.3%がAI・機械学習分野に集中しています。ですが取引件数では全体の37.5%に過ぎず、金額だけが突出している状態です。

加えて、資金調達総額の半分以上(56.8%)をごく一部のユニコーン企業が独占しています。限られた大型案件に資本が集中する一方で、それ以外のスタートアップとの間での格差が拡大しているのです」

この二極化の中で、特定のAI企業では、実需や実績を上回るスピードで評価額が跳ね上がっており、これがバブル的な懸念を強めている。

例えばAnthropic社は、シリーズFの調達によって、わずか6カ月で企業価値が3倍の1830億ドルにまで膨れ上がった。Databricks社も、2025年9月に1000億ドルの評価額で10億ドルを調達。これは前年12月のシリーズJ調達時から61.3%もの増加だ。

2025年第三四半期 VCによる投資実績の推移

NVIDIAを中心とした「循環取引」のカラクリ

なぜ、これほどまでに資金が膨張するのか。クロサカさんは、その背景に「ベンダーファイナンス」という危ういカラクリがあると分析する。

「製品を売る側が買う側に投融資をして、売上を回収する。循環構造にも見える資金調達の裏には、NVIDIAを中心とした巨大な資金の循環構造があります。象徴的なのが、OpenAIが進める約200兆円規模とも言われるインフラ投資計画です。

ここでOpenAIは、NVIDIAなどから約260億ドルもの資金支援を受け、その資金を原資として、再びNVIDIAからAI用半導体を調達している。つまり、売り手(ベンダー)が買い手に資金を渡し、自社製品を買わせることで、表面上の売上高や成長率を実態以上に大きく見せているのです」

この「自作自演」とも言える成長モデルが持続した例は、歴史上存在しない。「現在の状況は、2000年前後のドットコムバブルの光景と酷似している」と、クロサカさんは言う。

「当時、シスコシステムズ、ルーセント・テクノロジーズ、ノーテル・ネットワークスといった通信機器大手が、資金力のない顧客を支援して自社製品を買わせていました。自分たちでお金を回すことで、実需に基づかない『人工的な成長』を演出していたわけですが、実需を無視して膨れ上がった投資は、バブル崩壊とともに巨額の焦げ付きへと変わったのです。

この手法を使った大手3社のうち、独立して生き残ったのはシスコだけ。ルーセントは買収を経てノキアの一部となり、ノーテルは破綻・分解に追い込まれました。今のAI市場も、同じ運命を辿るリスクは大いにあります」

クロサカ タツヤさん インタビューに答える様子

現場で広がる「PoC疲れ」。46%が「効果なし」の衝撃

投資家たちが作り出した熱狂の一方で、実際の開発現場からは、すでに冷ややかな反応が返ってきている。多額の予算を投じてAI導入を進めたものの、期待した成果が出ずにプロジェクトを途中で放棄する「PoC(概念実証)疲れ」が蔓延し始めているのだ。

「S&P Global(451 Research)の調査データによると、生成AIプロジェクトをPoC段階で中止・放棄する企業の割合は、年々顕著に増加しています。多くの企業が、まずは試してみる段階までは進むものの、そこから先の本番運用へ移行できずに頓挫しているのが実態です。

また調査に回答した企業の46%が、生成AIによる『強い肯定的な影響』が一つもなかったと述べています。あれだけ投資をし、時間をかけたにもかかわらず、目に見える成果が得られていない。これは、AIバブルを想起させる極めて深刻なファクトです」

S&P Global(451 Research)の調査データ

さらにクロサカさんは、技術的な課題以上に、組織や人間心理の摩擦が大きな壁になっていると指摘する。

「プロジェクトが失敗する企業には共通点があります。成功している企業に比べて、『風評被害リスク』への懸念が77%高く、『顧客からの抵抗』が41%、『従業員からの抵抗』が36%も高いというデータが出ているのです。

AI導入によるハレーションやリスクを恐れ、現場が疲弊してしまっている。こうした人間心理的・社会的な摩擦が、PoCを継続する意欲を削いでいるわけです」

AIバブル崩壊を招きかねない電力とデータの物理的枯渇

人工的に膨らみ続ける期待と、すでに見え始めた現場の限界。この二つのギャップが決定的な亀裂となりバブルが崩壊する。一体何がそのトリガーとなり得るのだろうか。

「バブルそのものはエンジニアリングやテクノロジーに起因するだけでなく、むしろ人の期待の方が問題なので、言ってしまえばきっかけ自体は何でもいいんです。

『トランプ大統領が病気になった』仮にそんなことだとしても、AIバブル崩壊の可能性はあるわけです。彼は今、アメリカを出発点とした世界中のAI政策に非常に強い影響力を持っていますからね。

しかし、より本質的な問題として、今AI業界で懸念されている『2026年問題』は大きなトリガーになる可能性があります」

クロサカ タツヤさん インタビューに答える様子

「2026年問題」とは、AIの性能向上が物理的なリソースの限界に衝突し、進化が頭打ちになるという予測されているタイミングのことだ。

AIモデルの規模を拡大すればするほど性能が上がる「スケーリング則」を維持するために必要な「高品質な学習データ」と「膨大な電力」が2026年に枯渇するといった予測がなされている。

Will we run out of ML data? Evidence from projecting dataset size trends epoch.ai
Will we run out of ML data? Evidence from projecting dataset size trends

「AI研究者の間では、学習データ(教師データ)が枯渇する可能性が指摘されています。AIが必要とするのは、人間が価値を感じる『正解のデータ』だけではありません。間違ったデータやノイズも含めて学習させないと、精度が上がらないのです。

しかし、Web上のテキストデータはあらかた学習し尽くしてしまいました。本当に必要なのは、現実世界の物理法則や人間特有の『ノイズ』を含んだデータで、それがないと『意味の無いきれいなデータ』ばかりになってしまいますが、私たちの生活空間にはセンサーなどほとんどなくデータ化されていません。合成データで補おうとしても、AIが本当に必要としているノイズが何なのか特定できていない以上、限界があります。

また、すでに一部のデータセンターでは、電力契約ができずにサービスインできない状態が起き始めています。『明日から原発を10基作ります』なんてことは不可能ですから、これは物理的に詰んでいる状況です。サービスを提供したくても電力がない。この物理的な制約から、経済活動としてのAIビジネスが強制終了するリスクが高まっています」

AIはリストラの「方便」にされているだけ

もしバブルが弾けた場合、その影響はテック業界の株価下落だけには留まらない。クロサカさんは、今回のバブルが「借金」によって支えられている点にも強い懸念を示している。

「株価が下がるだけなら投資家が泣けば済みますが、今回は社債市場、つまり企業の借金も巻き込んでいます。もし信用不安が広がれば、銀行機能全体に影響が及び、回り回って一般市民の住宅ローン金利が跳ね上がるといった事態も起こり得ます。『そんなバカな……』と軽視していたらリーマンショックが起きたわけですよね」

クロサカ タツヤさん インタビューに答える様子

そして、エンジニアの現場には「淘汰」の波が押し寄せる。クロサカさんは、アメリカですでに起きている現象が、日本にも波及すると予測する。

「アメリカでは今、新卒採用が絞られ、レイオフが進んでいます。企業はこれを『AIによって業務を効率化し、人を置き換えるため』と説明しますが、実態は違います。

単に景気が悪くなり、また経済の先行きが不透明であるがゆえに、コストカットのために人を減らしているだけです。そして前述のようにPoCが止まるのであれば、AIプロジェクトに従事していた人を削減すればいい。しかし『失敗したからリストラします』と言うと株価が下がるので、『AI活用による戦略的な再編です』と言い換えている。つまり、AIはリストラのための『方便』に使われているのです。

日本企業においても、AI導入の失敗や撤退に伴い、プロジェクトに関わっていたエンジニアが不要になったり、キャリアの一貫性を断たれる配置転換を強いられたりするリスクがあります」

アメリカで続くエンジニア受難。税制がもたらす影響と“AI以降”のエンジニア像を考える【西田宗千佳】 type.jp
アメリカで続くエンジニア受難。税制がもたらす影響と“AI以降”のエンジニア像を考える【西田宗千佳】

AIにキャリアのハンドルを委ねてはいけない

バブルが弾け、多くのプレイヤーが退場する。しかしクロサカさんは、その未来を悲観するどころか、「むしろそこからの生存と再生こそが本番だ」と目を光らせる。

「ドットコムバブルが弾けた時、何が起きたか。多くの企業が消えましたが、インフラを握っていたシスコシステムズは生き残り、その後GoogleやAmazonといった巨人が台頭して市場を総取りしました。

今回も同じです。『AI活用』を謳うだけの実態のないスタートアップや、AIをリストラの方便にするような企業は淘汰されるでしょう。しかし、焼け野原に残った本質的なプレイヤーたちが、次の時代を作っていくのです」

では、次の時代の「勝者」となる条件とは何か。クロサカさんは、戦場がこれまでの「Web上のデジタル空間」から「物理空間(フィジカル)」へとシフトしていくと予測する。

「Web上のデータは、もはや学習し尽くされつつあります。次に価値を持つのは、物理法則や空間的な関係性を理解する『フィジカルAI』の領域です。

これまでのDXは、アナログな情報をデジタル化する『デジタライゼーション』が中心でした。しかしこれからは、デジタル空間に現実世界を完全コピーしてシミュレーションを行う『デジタルツイン』の構築が求められます。

SNSのログのようなデータではなく、自社で直接取得した一次データ(1st Party Data)やリアルタイム性の高い新鮮なデータ(Fresh Data)を持ち、それを常に検証できるデータ(Verified Data)を持つ者が、圧倒的に強くなる。しかしそれはとても大変な仕事なので、誰でも気軽にできるわけではない。そういう新たな競争環境の出現に備える必要があります」

クロサカ タツヤさん インタビューに答える様子

この変化は、エンジニアにとってもキャリアの転換点となる。「AIがコードを書いてくれるから楽になる」という受動的な姿勢では、AIと共に沈んでいくことになるからだ。

「エンジニアの皆さんには、『AIに自分のキャリアのハンドルを渡さないでほしい』と伝えたいです。

AIはあくまで確率的に答えを出すツールに過ぎません。これからの時代、AIエージェントが普及する世界では、AIが書いたコードや挙動が正しいかを『判定』し、物理世界とどう繋ぐかを『設計』する能力が問われます。

その土台となるのが、AIに依存しない読み書き、コーディング、論理的思考といった基礎的なスキルセットです。これらを高め続けることこそが、今現在のベストの生存戦略ではないでしょうか」

熱狂はいずれ冷める。しかし、社会がデジタル化し、物理世界と融合していくといった潮流が逆戻りするわけではない。

「2026年」という分水嶺を越えた先にあるのは、見せかけの期待値が剥がれ落ち、真の実力だけが試される、厳しくも公正なエンジニアリングの世界なのかもしれない。

撮影/赤松洋太 取材・文/今中康達(編集部)


書籍紹介|『AIバブルの不都合な真実』(日経BP)

『AIバブルの不都合な真実』(日経BP)

2025年現在、世界は明らかにAIバブルのただ中にある。投資の過熱、不透明な評価、過剰な期待、未成熟な制度、そして現場の混乱―どれをとっても、2000年前後のドットコム・バブルやスマートフォンバブルと酷似している。

そして、バブルは必ず崩壊する。歴史上、崩壊しなかったバブルは、ない。

だがその崩壊は、最終的には悲劇ではない。泡がはじけ、地面が見えるからこそ、本当に根付く技術が選ばれる。そしてそのとき、「AIを正しく使える者」が生き残るのだ。

そのためには、いまから備えるしかない。本書を読むことで、AIを正しく使うための力を身に付けてほしい。

・何が幻想で、何が現実かを見極める力
・投資家の視点ではなく、利用者の視点で技術を見通す力
・AIに任せるべきことと、人間が絶対に責任を持つべきことを見分ける力
・崩壊後にも残る「強い技術」と「確実な勝ち筋」を見つける力

(「序章」より)

価格:2,530円(税込)
ISBN:9784296209378
発行日:2025年09月29日
著者名:クロサカ タツヤ
発行元:日経BP
ページ数:352ページ
判型:四六判

転職力診断

Xをフォローしよう

この記事をシェア

RELATED関連記事

JOB BOARD編集部オススメ求人特集

RANKING人気記事ランキング





サイトマップ