株式会社キープレイヤーズ
代表取締役
高野秀敏さん(@keyplayers)
1999年に株式会社インテリジェンス入社。2005年に株式会社キープレイヤーズ設立。これまでに1万1000人以上のキャリア面談と、4000人以上の経営者の採用相談にのる。投資した企業は55社以上にのぼり、うち5社が上場。 経営エンターテイメント番組『REAL VALUE』出演
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生成AIの進化、採用基準の変化、スタートアップを取り巻く資金環境の冷え込みーー
2025年は、IT業界に身を置くエンジニアにとって、これまでの常識の延長線にある「正解」を見失いかけた年だったのではないだろうか。
その混迷は、おそらく2026年も続く。変化のスピードはさらに上がり、「伸びる企業」「自分に適した企業」を見極める難易度は一段と高まっていくはずだ。では、この先をどう読めばいいのか。
投資家として数多くのスタートアップを見てきた視点と、キャリア相談のプロとして個人の意思決定に向き合ってきた視点。その両方を併せ持つキープレイヤーズ代表の高野秀敏さんに、2026年のIT業界予測、エンジニアが押さえておくべきキーワードを聞いた。
株式会社キープレイヤーズ
代表取締役
高野秀敏さん(@keyplayers)
1999年に株式会社インテリジェンス入社。2005年に株式会社キープレイヤーズ設立。これまでに1万1000人以上のキャリア面談と、4000人以上の経営者の採用相談にのる。投資した企業は55社以上にのぼり、うち5社が上場。 経営エンターテイメント番組『REAL VALUE』出演
目次
ーー高野さんの目から見て、2025年のIT業界全体はどのような年でしたか?
2025年は、まさに「AI採用元年」だったと思います。企業がエンジニアを採用するときは、AIをどれだけ使いこなせるかが大きな評価軸となりました。
特に、AI活用が売上や利益に直結しやすい事業会社や自社プロダクトを持つ企業では、ロースキル人材の採用を控える傾向が顕著だった印象です。
ーージュニア層にとっては厳しい年だった、と。
それが、一概にそうとは言い難いのも実情です。どんなにAIの進化や有用性が注目されても、全ての開発現場が一気にAI前提に切り替わったわけではありませんから。AIを十分に活用しきれていなかったり、社内オペレーションを思い切って変えられなかったりする企業も、まだ多く残っています。
また、日本の場合は「システム開発は外部に発注する」という文化が根強いため、SI・SES企業では広く人材を募集していました。
つまり2025年は、AI活用を推し進める企業とそうでない企業のコントラストがはっきりし始めた年だったと言えそうです。
ーーでは、2026年のIT業界の動向についてはどう予想していますか?
スタートアップにとっては、依然として「冬の時代」が続く見通しです。特に資金調達の面では、その傾向が顕著に出るでしょう。
調達ステージで見ると、事業立ち上げ初期にあたるシードや、成長を本格化させる前のシリーズAの段階であれば、シード専門のベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家が多いため、比較的スムーズに進みやすいかもしれません。しかし、事業拡大フェーズに入るシリーズB以降になると、一気にハードルが上がります。投資家の目線が非常に厳しくなるからです。
その背景には、上場後の株価が以前ほど大きく伸びにくくなっている現状があります。投資を継続した結果、将来的に企業の時価総額がどこまで成長するのかが見通しづらくなっているのです。最近上場した企業でも、徐々に企業評価額を下げているケースが見られます。
初期段階で投資していた投資家であれば一定のリターンが得られますが、最終ラウンドで高い評価額で投資した側から見るとどうでしょうか。投資額が4分の1程度のリターンに留まってしまう可能性もあるでしょう。
こうした事例が増えていることもあり、投資家が慎重になるのは自然な流れでしょう。その結果として、スタートアップが継続的に大きな資金を集め続けることは、これまで以上に難しい時代に入っていくと感じています。
ーー逆に「ここは明るい」と感じられる予測や、前向きな変化はありますか?
ソロプレナーとして起業したり、M&Aしたりする事例は増えていくのではないでしょうか。
投資家目線でお話しすると、2025年はソロプレナーのM&A事例が目立った年でした。私自身、この流れは予想していませんでした。一人社長の会社の場合、その人が辞めてしまえば当然ながら事業は停滞してしまいますから。
ところが、生成AIを活用し、業務委託とうまく組み合わせることで「自分が抜けても事業は回るし、引き継ぎも可能」と説明できるようになりました。結果として、一人社長であっても、十分にM&Aが成立する時代になったのです。
特に生成AIの進歩によって、会社を一人で運営するだけでなく、その価値を第三者に引き継げる形にまで高められるようになりました。この流れは今後も加速していくのではないでしょうか。
ーー起業という選択肢には踏み切れないものの、将来の可能性を広げたいと考えるエンジニアに向けて、転職先・就業先選びの観点から注目しておくべきビジネスモデルを教えてください。
大きな資金調達を前提に急成長を目指すモデルよりも、あまり調達に頼らず、手堅く収益を積み上げていく事業のほうが伸びやすくなっていくと思います。AIを活用した受託開発とSaaSを組み合わせるなど、「コンパウンド」と呼ばれるようなビジネスモデルがその代表です。BtoBで安定した価値を提供できている企業は、2026年も堅調に成長していくのではないでしょうか。
また、AIエージェントをはじめとしたAI分野に取り組んでいる企業にも、引き続き注目です。特に、「どれだけコストが下がるか」「どれだけ工数が削減できるか」を説明しやすいプロダクトを持つ企業には追い風ですね。
ーーエンジニアが2026年に注目すべきなのはどんな企業でしょうか? 押さえておくべきキーワードを教えてください。
大きく分けると三つあります。順番にご説明しますね。
端的に説明すると、ITやAIの活用があまり進んでいない産業分野のことです。現場作業が多い建設業界や、エッセンシャルワーカーと呼ばれる領域が最たる例です。こうした現場での業務はAIでの代替が難しく、IT活用自体も進んでいないことがままあり、エンジニアから見ると伸びしろだらけの未開拓マーケットといえます。
多くのエンジニアは、自分の技術力が理解されやすい環境を選びがちです。そのため、すでにITで伸びている企業に目が向いてしまいますが、優秀なエンジニアが集まっている分、自分の成果が埋もれやすくなる側面もあります。
ですが、IT後進領域の企業であれば、ITやAIの導入を主導できるポジションを取りにいきやすい。最初は成果も出やすいですし、エンジニアとして評価されます。寄り道や遠回りの選択に見えるかもしれませんが、むしろ今後のキャリアにおいて強い武器になるでしょう。
言うまでもなく、AIは依然としてホットな領域です。その上で、今後の焦点は「どこまでエージェント化できるか」でしょう。単なる業務効率化を超えて、本当に人の代わりになれるかどうかに移っていきます。
同時に、AIセキュリティーの重要性も高まり続けていくはずです。具体例としては、AIエージェントが誤った行動を取らないように制御する仕組み作りや、「このコンテンツは誰が、どのような手順で作ったのか」を証明するデータ・プロベナンスなどが挙げられます。
サイバー攻撃の増加も予想される中、セキュリティー領域はまだ成長の余地が大きく、エンジニアにとってもチャンスの多い分野です。
ロボティクスの文脈で言うと、近年ではフィジカルAIが話題に上がりやすいですが、2026年に限定するのであれば、まだ技術的なハードルを越えるには至らないと考えています。対して、自動車工場のロボットアームや、電子部品工場・物流倉庫で動くロボットといった「産業用ロボット」は、すでに広く活用されていることから、今年もさらなる進歩が期待できそうです。
日本は、フィジカルAIではやや出遅れていると言われていますが、産業用ロボットでは十分に競争力があります。産業用ロボットに異常検知AIを組み合わせて不良やトラブルを自動検出したり、それと連動してラインを自動停止させるような仕組みは、今後もニーズが衰えることはないでしょう。
ーー「せっかく転職するなら伸びる会社を選びたい」と考えるエンジニアも多いと思います。そうした企業を見極める上で、どんな点に注目すればよいか教えてください。
元も子もなく聞こえるかもしれませんが、伸びる企業は「分からない」というのが本音です。
それが本当に分かるのであれば、VCはもっと高い確率で成功しているはずです。VCでさえ投資判断を外すことは珍しくありません。ですから、「分かるはずだ」と考えるのではなく、「分からないものだ」と理解し、受け入れることが大切だと思います。
将来その会社がどうなるかは誰にも分からないからこそ、最初に見るポイントはもっとシンプルでいい。売上がどのくらいのペースで伸びているのか、事業として結果が出ているのかを見るだけでも、一つの目安にはなるはずですよ。
ーーでは、エンジニアはどんな視点で企業を選んだらよいですか?
先が読めないことを前提にした上で、「それでも自分がこの会社で働く意味は何か」を考えることが重要です。
エンジニア個人の立場で言えば、会社が大成功するかどうかは、必ずしも最優先事項ではないはずです。会社がユニコーンになる必要はありませんし、上場するかどうかも、個人にとっては本質ではないと思います。にもかかわらず、「この会社は伸びそうだから」という理由だけで転職先を選ぶ人も少なくありません。
実はこれはかなりリスクが高い選択です。仮に注目されている領域に身を投じたとしても、成果を出せなければ評価されず、ポジションを外れたり、報酬が下がったりする可能性もありますからね。
だからこそ、この会社で自分は何を成し遂げられるのかを考えて転職先を選ぶことが、エンジニアにとって一番現実的で、後悔の少ない判断につながるのではないでしょうか。
ーー「自分が成し遂げられること」を軸に転職先を選ぶとなると、より一層スキルが重要になっていきますよね。今後価値が高まっていくのはどんなスキルでしょうか?
「提案力」が非常に重要になってくると思います。
日本企業の場合、経営者がエンジニア出身ではないケースが多く、「技術的に何をどう変えればいいかが分からない」という状況が少なくありません。だからこそ、「こうすべきだ」という仮説を持ち、技術とビジネスの両面から具体的に提案できるエンジニアが求められます。
もし「AIを活用すれば今の人数の3分の2で事業を回せる」などの説明ができたら、それは経営にとって非常にインパクトのある提案になります。AIを前提に業務フローを洗い出し、不要な工数や役割を大胆に削る「AIリストラクチャリング」ができれば、その会社の価値を大きく押し上げるキープレイヤーになっていくはずです。
コードを書く力に、組織をどう変えるかを提案する力が加わったとき、エンジニアのキャリアは一段と大きく伸びていくでしょう。
取材・文/福永太郎 編集/秋元 祐香里(編集部)
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