AIエージェント元年とも呼ばれた2025年。エンジニアに求められる役割やスキルにも大きな変化があり、採用市場にも大きな変化が生まれた。
迎えた2026年、今年はどのような職種のニーズが高まり、高収入・好待遇につながるのだろうか。
2025年版の予測に続き、エンジニアのキャリア・転職に特化した情報発信で支持を集める、「IT菩薩モロー」こと株式会社キッカケクリエイションの取締役副社長・毛呂 淳一朗さんに「狙い目のIT系職種」について聞いた。
株式会社キッカケクリエイション
取締役 副社長
毛呂 淳一朗さん(@it_bosatsu_moro)
慶應義塾大学法学部法律学科出身。2012年に人材ベンチャーに入社し、新卒採用領域の営業・人事を経験後、タイ・香港にて海外事業の立ち上げを担当。その後、ベトナムでの人材エージェントの創業を経験し、帰国後、都内のIT企業にてエンジニアの採用担当として勤務。現在はITエンジニア向けキャリア支援サービス「キッカケエージェント」の事業責任者を担当。またYouTube『IT菩薩モローチャンネル』にて、エンジニアのキャリア・転職に特化した情報発信で話題を呼んでいる
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【トレンド四選】生成AIの台頭で「人間力」への回帰が進む
2025年は一段と生成AIの台頭が見られた一年でした。企業が求める人材ニーズや市場価値にも、大きな変化が見られています。まずはその中でも、象徴的な業界トレンドを四つ紹介していきます。
【1】AIがコードを書く時代、「リーダーシップ」の価値が爆上がり
ここ数年で最も象徴的な変化は、生成AIの台頭によって「リーダーシップ」の重要性が極めて高まったことです。
若手や経験の浅いエンジニアでも、AIを使って一定のアウトプットを出せるようになりました。しかし、その結果何が起きているかというと、出力されたコードのレビューや品質担保に中堅・ベテラン層が忙殺され疲弊するという事態が各所で発生しています。
だからこそ今、企業が喉から手が出るほど欲しいのは、単に技術力が高い人ではなく、チーム全体の生産性向上や業務効率化を推進できるリーダーシップを持った人材です。
これは必ずしも「PL/PM」という役職に限った話ではありません。チーム開発において周囲を巻き込み、業務効率化を推進できる「人間力」や「ソフトスキル」を持つ人材への期待値が、かつてないほど高まっています。
特に今の20代は「タイパ・コスパ」を重視する傾向があり、責任の重いリーダー職やマネジメント、顧客折衝を避ける層も一定数います。だからこそ、ここがチャンスです。若くしてリーダーシップを発揮できる人材であれば、経験2〜3年でも年収600〜650万円、あるいはそれ以上のオファーが出るケースが増えています。
【2】大手企業のインシデント多発で「セキュリティ人材」が全方位で争奪戦に
二つ目のトレンドは、「セキュリティ人材」への関心の爆発的な高まりです。
かつて日本企業にとってセキュリティは「保険」のような位置付けでしたが、近年、大手企業での情報漏洩やランサムウェア被害などが相次いだことで潮目が変わりました。「お金をかけてでも採用しなければ経営の観点でリスクがある」という経営判断をする企業が急増しています。
しかし、セキュリティと一口に言っても、社内規定の策定(ガバナンス)、自社プロダクトの脆弱性対策、ISMSなどの認証取得など、業務範囲は多岐にわたります。企業側も「自社にどのようなセキュリティ人材が必要か」を定義しきれていないケースが多く、市場に経験者が圧倒的に不足しているだけでなく、企業と人材の適切なマッチングという観点でさまざまな課題があります。
そのため現在は事業会社、SIer、コンサルティングファームによる「三つ巴の争奪戦」が起きている状況です。特に注目すべきは、30代前半くらいまでであれば「ポテンシャル採用」の枠が大きく開いていること。
「インフラ運用の経験があり、何かしらのセキュリティ関連業務に携わったことがある」あるいは「情報処理安全確保支援士などのセキュリティ関連の資格を持っており、セキュリティ関連業務への興味・関心を具体的に伝えられる」というだけで、大手企業から好条件で採用されるチャンスが広がってきています。
【3】「35歳の壁」の崩壊。専門性があればシニアも引く手あまた
これまで転職市場では「35歳限界説」などが囁かれてきましたが、現在は40代・50代のエンジニア転職も当たり前になりつつあります。
若手人材の人口減少に加え、SNSなどで情報感度の高まった若手が「給与が低い」「開発環境が古い」「尊敬できる中堅・シニア層のエンジニアが社内に少ない」などと判断すればすぐに転職してしまう流動性の高さについて、企業側も強い危機感を抱いています。その結果、経験豊富な中堅・シニア層に目が向けられています。
ただし、誰でも良いわけではありません。「なんとなくいろいろやってきたゼネラリスト」ではなく、「特定の領域に強みを持つスペシャリスト」であることが条件です。
「金融業界のドメイン知識があり、かつAWSなどのクラウドに詳しい」といった、スキルの「掛け合わせ」で武器を持っているベテランエンジニアであれば、年齢に関係なく引く手あまたな状況と言えるでしょう。
【4】「コンサルへの失望」が生んだ新たな潮流
そして最後に見過ごせない大きな変化として、「ITコンサルタント」への評価が変わりつつある点が挙げられます。これまでは「エンジニアからコンサルへ」が年収アップの王道でしたが、大手ファームが大量採用を進めた結果、在籍している人材の質のバラつきが顕著になりました。
現場からは「企画書作成は得意だが、実際のプロジェクトでは“技術について知見が薄いマネージャー層”や“技術力が十分とは言えない人材”が混じっていることによって炎上してしまう」「支払うコスト・料金は高いが、単なる進捗管理をするだけの人になっている」といった失望の声も聞かれます。
その反動として注目されているのが、「泥臭く現場に入り込み、事業課題を解決できるエンジニア」です。
OpenAIなどが採用を強化している「FDE(Forward Deployed Engineer)」という職種がその象徴ですが、コンサルのように外から提案・アドバイスを行うだけでなく、顧客の現場に常駐してプロダクトの改善までやり切れる人材が、今もっとも熱い視線を浴びています。
【2026年予測】高収入が見込める、狙い目のIT系職種TOP3
これらのトレンドを踏まえた上で、2026年に特に需要が高まり、年収800万円以上の高収入が見込める職種TOP3を発表します。
【第一位】セキュリティエンジニア
2026年、圧倒的な一位は「セキュリティ人材」です。 前述の通り、全業界でニーズが爆発しているにもかかわらず、供給が全く追いついていません。
この職種の最大の特徴は「ポテンシャル採用の枠が非常に広い」点にあります。
例えば20代であれば「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)」などの資格を持っているだけで採用されるケースもありますし、30代前半でも「社内でセキュリティについての勉強会を主催していた」「インフラ運用の中でセキュリティー対策に関わった」といった経験があれば、大手企業へ転職できる可能性があります。
セキュリティ対策は、AIに任せきりにできない領域です。「普通はこんな使い方はしないだろう」という人間の行動の隙を突かれることが多く、最終的なリスク判断や責任は人間が負わなければなりません。
またアプリケーション開発やインフラ構築の経験に「セキュリティ」の知見を掛け合わせることができれば、市場価値は跳ね上がります。即戦力でなくとも、ポテンシャル枠で大手企業に入り込み、そこから専門性を高めることでいずれは年収1000万円プレーヤーを目指すことも夢ではありません。
【第二位】アプリとインフラ(クラウド)の両方が分かるエンジニア
続いては、アプリケーションとインフラ(クラウド)の境界線を超えて活躍できるエンジニアです。 これまでは「SRE(Site Reliability Engineering)」という言葉が使われることが多かったですが、会社によって定義が曖昧なため、より本質的に「両方分かる人材」としました。
現在、DXによる内製化が進む中で、システムを作って終わりではなく、その後の運用・改善まで見据えた設計ができるエンジニアが求められています。具体的には「クラウドの設計構築経験があり、直近2〜3年はアプリ開発もしている」あるいは「アプリ開発経験が長いが、クラウド運用の勘所も分かっている」といった人材です。
こうした「掛け合わせ」のスキルを持つ人材は非常に希少です。例えば、実務経験が3〜4年程度であっても、この両軸の視点を持っているだけで年収600〜700万円くらいでオファーが出ることは珍しくありません。
さらに、大規模トラフィックの環境でパフォーマンス改善などを行った経験がある方や、ゼロからの技術選定やビジネスサイドの要件を要件定義からインフラ設計に落とし込んだ上で運用までリードできるレベル方なら、年収800万円〜1000万円クラスの待遇も十分に狙えます。
AIによるコーディング支援が進む今だからこそ、「全体像を把握し、原理原則を理解している」エンジニアの価値が高騰しています。
【第三位】プロジェクトマネジャー(PM)
プロジェクトマネジャーも、未だ根強い需要がある職種です。ただし、単なる「タスクの切り出し」や「進捗管理屋さん」の需要ではありません。
AI時代におけるPMに求められるのは、事業やプロダクトのドメイン(業務知識)を深く理解し、ビジネスの成功に向けてチームを牽引するリーダーシップです。
「ウォーターフォールだけでなくアジャイル開発にも適応できる」「現場の細かい事情を汲み取りつつ、要件定義に落とし込める」といった、高度な人間力とビジネス視点を持ったPMが求められています。
こうした真のリーダーシップを発揮できる人材であれば、経験年数が若くても高く評価されます。実際に20代〜30代前半でも、この資質があれば年収800万円以上での採用事例が増えています。
2026年に転職を考えるエンジニアが押さえておきたい三つのこと
最後に、2026年以降のエンジニア市場を生き抜くために、個人のキャリア戦略として意識すべき三つのポイントをお伝えします。
【1】「フルリモート」は“完成された人材”の特権と心得る
昨今、リモートワークは当たり前の選択肢となりましたが、キャリア形成の観点では「諸刃の剣」でもあります。
少し厳しい話をすると、フルリモートで成果を出し続けられるのは、すでにスキルが完成された一部のプロフェッショナルだけです。若手やこれから新しい領域(例えばアプリからインフラへ)に踏み出そうとしているフェーズにおいては、画面越しのコミュニケーションだけでは吸収できない「暗黙知」や「空気感」が2~3年後のエンジニアとしての市場価値にかなり大きな差につながることがあります。
「将来的に自由な働き方を手に入れるために、あえて今は出社して密なコミュニケーションを取る」という選択は、2~3年後に大きなリターンを生む「キャリアへの投資」になりえます。目先の快適さだけではなく直近の1~2年はエンジニアとしての成長スピードを優先するなど、戦略的なアクションが重要になっていくでしょう。
【2】AIに勝てるのは「気難しくないエンジニア」
生成AIは文句も言わず、24時間365日コードを書き続けることができます。そんな時代において、人間がAIに勝てる最大の武器は意外かもしれませんが「愛嬌」や「頼みやすさ」といったソフトスキルです。
「仕様書通りに作るのでビジネス側の事情には興味がありません」「それは私の担当ではありません」といった線引きをするエンジニアよりも「その背景があるならこうした方がいいですよね」「隣のチームと調整しておきます」といった柔軟に動けるエンジニアの方が、圧倒的に重宝されます。
文字には表れない現場の微妙なニュアンスを汲み取り、ビジネスの成功のために泥臭く動けること。この「人間臭い柔軟性」こそが、AI時代における強力な差別化要素の一つとなりえます。
【3】隣のチームと「ランチ」に行くことから始めてみる
年収や市場価値を上げるための第一歩として今すぐにやれることを一つ挙げるとすれば、実は「隣のチームとランチに行くこと」かもしれません。
前述の通り、これからは「アプリ側もインフラ側のどちらも分かる」「技術力もあるしビジネス側にも知見がある」といった掛け合わせのスキルが必須となります。しかし、いきなりすべてを独学だけで学ぶことは現実的ではありません。
自分がアプリ担当であればインフラ側の担当と、エンジニアの立場であれば営業担当やマーケティング担当などのビジネスサイドの人たちと会話をしながら「彼らが何に困っているのか」「事業全体がどう回っているのか」を知ることから始めてみることは、今後のキャリアを考えるにあたって大きなヒントになるかもしれません。
自分の担当領域という殻を破り、システム全体、事業全体へ興味の範囲を広げていく姿勢。そんな姿勢を持つことができれば2026年はあなたにとって大きな飛躍の年になっていくでしょう。
写真提供/キッカケクリエイション 取材・文/今中康達(編集部)