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どん底経営からの快進撃。サンリオエンターテイメント経営陣が明かす、AI予測を超える「現場の熱量」との向き合い方

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精緻に組み上げたはずの予測モデルが、現場の一瞬の熱量によって容易に覆されてしまう。あるいは、ダッシュボード上の数値からは読み取れないユーザーの真のインサイトに、後から気付かされる。そんな苦い経験は、技術と現実の狭間で戦う者にとって、決して他人事ではないはずだ。

サンリオエンターテイメントが歩んできたデジタル活用の軌跡は、まさにこの「アルゴリズムと直感」のせめぎ合いの歴史でもあった。

どん底の経営状況から「デジタル元年」を切り拓き、現在は経営判断にまでAIを組み込む同社。その進化の最前線で、代表取締役社長の小巻亜矢さんと経営戦略を担う木原 健太郎さんが語ったのは、AIの万能感ではなく、予測を裏切るファンの熱狂と、現場にしか落ちていない「真実」の重みだった。

両者の言葉から、効率化の先にある「驚き」を実装するための戦略の輪郭を探ってみよう。

プロフィール画像

サンリオエンターテイメント
代表取締役社長
小巻亜矢さん(@aya_komaki

1983年(株)サンリオ入社。結婚退社、出産などを経てサンリオ関連会社にて仕事復帰。2014年サンリオエンターテイメント顧問就任、2015年サンリオエンターテイメント取締役就任、16年サンリオピューロランド館長就任、19年6月より現職。子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル(Hellosmile)」委員長、NPO法人ハロードリーム実行委員会代表理事、(一社)SDGsプラットフォーム代表理事、松竹(株)取締役、富国生命保険(相)取締役

プロフィール画像

サンリオエンターテイメント
取締役 経営戦略本部担当
木原 健太郎さん

2015年(株)サンリオ入社。人事課、IR課を経て、20年社長室に異動。出資/資本政策、自社ビジョンの制定と社内浸透施策、各部横断プロジェクトなどに参画。22年6月よりサンリオエンターテイメント取締役を兼任。24年7月よりサンリオエンターテイメント専属となり、経営戦略本部及び人事部を担当

※本記事は2026年2月18日~19日に開催された『Eight EXPO 2026』の特別講演「サンリオエンターテイメントのデジタル・AI戦略と、'現場'が生む人の力」の内容を抜粋・編集して公開しております

旧態依然とした組織を変えた、一つの成功体験

今でこそサンリオエンターテイメントは積極的なデジタル活用を行っているが、その出発点はアナログな組織体質からの脱却だった。

「私が顧問に着任した頃の当社は、まだまだ経営的にどん底の時代。経営層の年齢構成やジェンダーの偏りもあり、デジタルやAIというものとはほぼ縁がない状況でした」(小巻さん)

その空気を一変させたのが、2015年にリリースされたアバター作成ツール『ちゃんりおメーカー』だ。

2015年にサンリオがリリースしたアバター作成ツール「ちゃんりおメーカー(CHANRIO MAKER)」の紹介スライド。中央に「CHANRIO MAKER」のロゴと、ツールで作成された男女のアバターキャラクターが配置されている。その周囲をハローキティ、マイメロディ、ポムポムプリンなどのサンリオキャラクターのアイコンや、リボン、眼鏡、花束などのカスタマイズアイテムのイラストが円状に囲んでいる。 上部には「これまでの道のり」「ちゃんりおメーカー(2015年)」という見出しがあり、当時のアナログな組織体質をデジタル活用へと転換させた成功体験の象徴として示されている。

登壇資料より

これは同社にとっての「デジタル元年」を告げるエポックメイキングな出来事となった。小巻さんは当時をこう振り返る。

「リリース後、1週間で数百万、数週間後には数千万ユーザーという広がりを見せました。その勢いはすさまじく、何度もサーバーダウンを繰り返し、その度に予算を追加して……。デジタルが持つ拡散力のすごさを実感した貴重な経験となりました」(小巻さん)

この成功を足掛かりに、キャラクターの素材を使ったARコンテスト「Digital KAWAII Awards in Sanrio Puroland」の開催や、VRChat上で展開するVRテーマパーク「Virtual Sanrio Puroland」、そしてそこで開催される音楽フェス「SANRIO Virtual Festival」など、デジタルの取り組みを加速させていく。

現在、同社におけるデジタル・AI活用は、単なる自動化ツールを超え、クリエイティブの着想や経営判断の高度化へと踏み込んでいる。

イベント『Eight EXPO 2026』にて笑顔で講演を行う、サンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢氏。マイクを手に、同社のデジタル戦略やAI予測を超える「現場の熱量」の重要性について語っている

特に興味深いのは、60年以上の歴史を持つサンリオの理念や過去の意思決定プロセスをインプットしたクローズドなAIの活用だ。

「これまでの理念や指針を学習させたAIを、経営ディスカッションの場に持ち込んでいます。議論の内容をリアルタイムで図示させ、それを見ながらさらに議論を深める。過去の資産を現代の意思決定に接続するための優秀なパートナーとなっています」(木原さん)

裏切られるAI予測。データの外側にある現場の真実

しかし、AIの精緻さを追求してもなお、エンターテインメントの現場には「不確実性」という魔物が潜んでいる。それを象徴するのが、AIによる動員予測の失敗だ。

「過去の実績、天気、他社動員など、考え得る変数を全て投入し、チケット価格と動員数を最適化するためのAIを導入したんです。ですが、それが大外れすることもあって。代表例が、マイメロディの友達である『ピアノちゃん』というキャラクターの誕生日でした」(木原さん)

イベント『Eight EXPO 2026』で講演する、サンリオエンターテイメント取締役の木原健太郎氏。 マイクを手に、AIによる動員予測と現場の熱狂の乖離について解説しているシーン

当時の現場では、ピアノちゃんはサブキャラクターという位置づけ。しかし、彼女の誕生日には予測を遥かに上回るファンがテーマパークに詰めかけた。この経験は、「AIに振り回される事例」として学びをもたらした。

「『AIは完全ではない』という重い教訓となりました。同時に、数値化できない熱狂、瞬間的なエンターテインメントのパワーを再確認する機会にもなったのです」(小巻さん)

データサイエンスの視点から見れば、現場は「非構造データの宝庫」だ。小巻さんは、テーマパークを「キャラクターラボ」と定義する。

「現地でのグッズの売り上げを見ると、データ上では『リトルツインスターズ(キキ&ララ)』の金平糖が常に上位にランクインしているんです。これは、カテゴリとしてはお菓子に分類されます。

なぜ今、お菓子の中でも金平糖が人気なのだろうと頭を悩ませたのですが、現場を見てすぐに謎が解けました。

その金平糖は、先端に星がついたスティック状のケースに入っています。お客さまはそれをお菓子としてではなく、『身につけるグッズ』として購入していたのです。

こうした、データだけでは見えないお客さまの声や表情とAIをかけ合わせることで、さらに面白い体験価値を生み出すことができると考えています」(小巻さん)

イベント『Eight EXPO 2026』にて、代表取締役社長の小巻亜矢氏(左)と取締役の木原健太郎氏(右)が対談する様子。数値化できないファンの熱量や現場の「生きたデータ」をAI活用にどう掛け合わせるかという、エンターテインメントにおけるAI戦略の本質について議論している

現在、サンリオピューロランドには平日で4000〜5000人、休日はキャパシティの限界に近いゲストが訪れるという。この圧倒的な生きたデータの蓄積こそが、次世代のAI活用における最強のデータになると同社は確信している。

「AIから得られる示唆を、私たちが現場で掴んだ『直感』で精査し、新たな驚きへと昇華させていく。そのプロセスにこそ、これからのエンターテインメントの可能性があると考えています」(小巻さん)

システムやアルゴリズムの先に、どのような「体験」があるのか。小巻さんの視線は、AIを手段として使いこなした先の未来を鮮やかに見据えている。

AIは再現性に優れていますが、エンターテインメントの本質は『驚き』や『未体験』にあります。定型的な業務をAIに任せることで、人間はよりクリエイティブな仕事に時間を割けるようになる。

AIとデジタルは、世界中を『カワイイ』で塗り替えるという私たちのミッションを実現するための、不可欠な手段です。これからも、AIと仲良く、デジタルと仲良くやっていきたいと思っています」(小巻さん)

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