「休める仕組み」が強い開発チームを作る。主力エンジニアの3カ月育休を支える“失敗を許容する”空気感
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もし今、あなたのチームの主力が「明日から3カ月間休む」と言い出したら、開発スピードを落とさずに乗り切る自信はあるだろうか。
マネージャーなら思わず青ざめてしまうような状況を、ごく当たり前の日常として乗り越え続けている開発組織がある。ITインフラ構築やシステム開発を手掛けるN.ジェンだ。
同社では、男性エンジニアの数カ月単位に及ぶ「長期育休取得」は珍しくない。つまり、「エースが長期間抜けても開発が止まらない」強固なチーム体制が、実践のなかで磨き上げられているのだ。
主力エンジニアが現場を離れても、なぜプロジェクトは円滑に回り続けるのか。今回は、同社のアプリケーション部門を束ねる篠田裕介さんと、インフラ部門を牽引する池田直也さんの2名に、長期不在を前提とした「誰が抜けても回るチーム」の作り方を聞いた。
株式会社N.ジェン
総合情報技術本部 執行役本部長
篠田裕介さん(写真左)
大学卒業後、システム開発会社を経て、2008年にN.ジェンへ開発SEとして中途入社。その後、統合情報技術本部副本部長、技術推進室長、統合情報技術本部長を務め、25年7月より統合情報技術本部執行役本部長へ就任(現職)
株式会社N.ジェン
情報基盤運用本部 執行役本部長
池田直也さん(写真右)
専門学校卒業後、ITフィールドサポートを経て、2006年にN.ジェンへ基盤系SEとして中途入社。その後、基盤運用部長、基盤運用技術本部長を務め、25年7月より基盤運用技術本部執行役本部長へ就任(現職)
広く薄い関心が“9割の代替”を生む
ーーお二人の部署では、男性エンジニアが数ヶ月単位の長期育休を取得するケースが珍しくないそうですね。長期間現場を離れるとなると、プロジェクトへの影響を懸念する声も出そうですが、現場ではどのようにカバーをしているのでしょうか?
篠田:私の部下で、現場の中心人物だったメンバーが数カ月の育休を2回取得したケースがありました。その時は、クライアントと強い信頼関係が築けており、日頃から何でも言い合える雰囲気があったことが大きかったですね。
彼が抜ける間の調整として、クライアント側のマネージャーと交渉し、「代わりに誰をアサインするか」「誰を新たな中心に据えるか」をチーム全体で検討しました。代わりに入るメンバーをどうフォローするかも含めて、オープンに話し合いながら進めた結果、大きなトラブルもなく乗り切ることができました。
ーーそれは理想的な展開ですね。一方のインフラ部門ではいかがでしょうか?アプリケーション開発と比べると、長期的な運用業務など含めて、個人のスキルに依存しがちな印象があります。
池田:おっしゃる通り、インフラ部門は規模が小さく、1人や2人で回さなければならない案件が非常に多いです。だからこそ、私は「9割の業務はカバーできる」と、ある種割り切って考えるようにしています。
一時的にメンバーが抜けたからといって、会社全体が止まるわけではありません。日本人は真面目なので「自分が仕事に穴を開けちゃいけない」と思い込みがちですが、スティーブ・ジョブズレベルの人であっても、彼がいなくなった後のAppleはどんどん成長してますからね。
ーーその「9割はカバーできる」という状態を作るために、日頃の現場ではどのような工夫や声がけをされているのですか?
池田:私がよく現場で言っているのは、「明日、僕がいなくなったらどうする?」ということです。どうしてもみんな自分のタスクに集中してしまい、AさんとBさんのタスクが本来つながっているのに、お互いの業務に興味を持っていないということが起こりがちです。
だから、「細かな作業手順まで理解しておく必要は全くないけれど、彼がどういった目的で何をしているかぐらいは把握しておこう」と伝えています。
チーム全員がお互いの仕事について、薄くてもいいから何となく知っている「平準化」された状態を作っておけば、いざという時のフォローはずっとスムーズになります。
「属人化=悪」の呪縛を解き、あえて中心人物を作る
ーー「誰かが抜けても回る組織」を目指す際、一般的にはマニュアル化を推し進め「属人化の排除」に向かうことが多いと思います。N.ジェンでもそういったアプローチを取られているのでしょうか?
篠田:いえ、積極的に属人化を排除していくような動きはうちにはありません。また、私のいる部署では、あえて「その人が中心になるようにする」という方針を取っています。
先ほど話した育休を取った部下も、当時は役職がなかったのですが、今は総合情報技術本部の部長職として部の運営を一部任せています。仕事への責任感や当事者意識を植えつけるという意味でも、特定の人間を中心人物に据えるアプローチは効果的だと考えています。
ーーあえて中心人物を作るというのは意外なアプローチです。しかし、その人がいざ長期間休むとなった時のダメージは大きくなりませんか?
篠田:そこがポイントで、彼らだけに全てを抱え込ませるわけではありません。実は、彼が現場で中心人物になる前、その役割を担っていたのは私なんです。私が中心となってお客さまと関係を築いた後に、彼へと引き継ぎました。
もちろん、いきなり「明日から君がリーダーね」と丸投げするわけではありません。具体的には、まず私とお客さまとの打ち合わせに同席させ、議事録作成やサブ担当から任せます。
そこから徐々に「この機能の要件定義は彼をメインで進行させます」とクライアントにも宣言し、半年から1年かけてフロントに立つ人間を交代させていくんです。
自分が中心だったものを、次の世代へ計画的に継承していくこと。仮に今の中心人物が急に抜けたとしても、周りがきちんと補える体制が整うんです。
池田:考え方としては私も同じですね。自分が積み重ねてきたクライアントからの信頼を、次の世代へ継続していくこと自体は決して悪くないと思っています。
インフラの場合、障害対応の「勘所」みたいなものがどうしても属人化しやすい側面があります。なので、誰かが長期で抜ける前の数ヶ月は、あえて「意図的な不在日」を作ったりします。
担当者がいる日であっても、他のメンバーに一次対応を任せて、後ろで見守る。そうやって「彼がいなくても回る」という成功体験をチームに積ませるんです。
属人化を完全に無くすことはできなくても、それを「個人の抱え込み」で終わらせず、チームの資産として次に渡していく意識があれば問題ないはずです。
失敗を許容する空気感こそが、最強のリスクヘッジ
ーーチーム内で上手くバトンを渡していくためには、メンバー同士が普段から自分の業務状況や悩みをオープンにできる「透明性の高さ」が必要不可欠になりそうですね。
池田:多少なりともそれはあると思います。ただ、お互いの業務状況を正確に把握するのって、現実にはすごく難しいんですよ。特に部下の仕事内容となるとなおさらです。単純なミスだけでなく、プロジェクトがじわじわと停滞しているような、不都合な実態はあまり晒したくないですからね。
「やりたくないな」「乗り気じゃないな」という心理状態の時や、思うように成果が出せていない時ほど、情報をオープンにせず自分の手元で抱え込んでしまいたくなるものです。
ーーその見えないリスクに対して、マネージャーとしてどう向き合っているのでしょうか?
池田:「失敗を許容できる空気感や仕組み」を会社やマネージャー側がいかに用意できるかが肝心です。「失敗してもいいから、とりあえずやってみな」というスタンスですね。
実際にミスが起きた時が一番大事で、絶対に「誰がやったんだ」と個人を責めません。「どうしてこのミスが起きる仕組みになっていたのか」をチーム全体で話し合うようにしています。
管理職である私が率先して「昨日こういうミスしちゃってさ」と雑談レベルで自己開示することも、心理的安全性を高めるコツですね。いつ誰が抜けてもいいように、あるいは失敗してしまってもリカバリーできる体制を敷いておくしかないんです。
篠田:そういう意味で、普段から誰が何をしているかを把握するために、週に1回の「1on1」はマストでやっています。
ただ、ここで重要なのは「進捗を管理する」という意識ではなく、あくまで「今どんなことをやっているのか」を確認することです。コツとしては、何をやっているかを聞くよりも、「今、何がハードルになっているか?」を聞き出すことですね。
それをいち早く聞き出すために、1on1の場では評価と切り離すことを明言しています。「ここで話したネガティブな情報で評価を下げることは絶対にないから、とにかく早くSOSを出してほしい」と。事実、早めにアラートを上げてくれたメンバーは「リスクマネジメントができた」として高く評価するくらいです。
そうやって日頃からネガティブな要素も吸い上げておくことで、誰かが急に抜けた時でもスムーズに補い合うことができるようになります。
AI時代、泥臭いパートナーシップの価値が上がる
ーーお話を伺っていると、長期間休める仕組みの根底にあるのは、システムやルールの精緻さではなく、泥臭い「人間関係の構築」にあると感じます。
池田:結局のところ、チームは「人」で成り立っています。信頼関係がなければ、どれだけルールやプロセスを整えてもチームは上手く機能しませんし、逆に言えば、関係性が強ければ多少の不確実性があってもチームは前に進めます。
我々は受注する側ですが、「下請け」感は出さずに「あくまでパートナーですよ」というスタンスを尊重してくれるクライアントが多いです。そういう相手には、我々もしっかりと価値でお返しし、「あなたたちのビジネスのために全力を尽くします」という姿勢を見せることもすごく大事だと思っています。
ーー「下請けではなくパートナー」というスタンスを作るために、現場で意識している行動はありますか?
池田:お客さまの要望をただ「はい」と聞くだけの御用聞きにならないことですね。「そのスケジュールだと品質が担保できないので、今回はこの機能を削って次のフェーズに回しませんか?」といった代替案を必ず出すようにしています。
「言われた通りに作る人」ではなく、「一緒にビジネスを成功させるチーム」として認識してもらう。その信頼があるからこそ、我々から「彼は3カ月育休に入りますが、チームでカバーするので大丈夫です」と伝えた時に、「あなたたちが言うなら任せるよ」と納得していただけるんです。
ーー今、エンジニアの働き方が大きく変わりつつあります。今後も長く安定して結果を出し続けられるエンジニア組織になるためには、会社・個人はどんなことを意識すればいいのでしょうか。
篠田:コードを書く作業自体がAIに代替される世界は、すぐそこまで来ていると思います。この先10年、20年経てば、開発業務の大部分をAIに任せられる時代になるかもしれません。
だからこそ、若手には「コードが書けるだけの職人になるな」と伝えています。お客さまの業務課題を理解し、AIをツールとして使いこなしながら、人間同士の折衝でプロジェクトを前に進める力。最終的にはやっぱり「人と人との付き合い」や「つながり」という部分がベースになるのは変わりません。
「この人に仕事を任せたら大丈夫だ」「問題があっても最後にはちゃんと収めてくれる」という基本的な安心感を提供し続けること。この泥臭いスキルこそが、これからエンジニアが生き残るための最大の武器になり、本当に強いチームを作る上で一番大事な要素なのだと思います。
撮影/桑原美樹 取材・文/今中康達(編集部)
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