アイキャッチ

「ギークとは“あり方”である」エムスリーVPoE・ばんくしが考える、誰しもに宿るギーク性の育て方

NEW!  働き方

「ギーク」と聞いて、どのような人物を思い浮かべるだろうか。圧倒的な技術力を持ち、寝食を忘れて開発に没頭する天才。あるいは、特定分野において誰もが認める輝かしい実績を持つトップエンジニアだろうか。

こうしたステレオタイプなギーク像を前にすると、「自分はギークではない」「彼らとは住む世界が違う」と無意識に線を引いてしまいがちだ。

しかし、数々のOSSへの貢献で知られる「ばんくし」こと河合俊典さんは、「ギークとはスキルや実績ではなく『あり方』」だと述べる。

そこで今回は「そもそもギークとは何か?」という疑問を起点に、はんくしさんへのインタビューを通じてギークの正体に迫っていく。

プロフィール画像

エムスリー株式会社
業務執行役員 VPoE
ばんくし|河合俊典さん(@vaaaaanquish

Sansan株式会社、Yahoo! JAPAN、エムスリー株式会社の機械学習エンジニア、チームリーダーの経験を経てCADDiにジョイン。AI LabにてTech Leadとしてチーム立ち上げ、マネジメント、MLOpsやチームの環境整備、プロダクト開発を行う。2023年5月よりエムスリー株式会社3代目VPoEに就任。26年3月1日より業務執行役員に就任。業務の傍ら、趣味開発チームBolder’sの企画、運営、開発者としての参加や、XGBoostやLightGBMなど機械学習関連OSSのRust wrapperメンテナー等の活動を行っている

ギークとは「実績」ではなく「あり方」

ーー技術に精通し、プロダクトに尋常ではないこだわりを持つ人たちを目にします。そうした圧倒的な「深さ」や「実績」がないと、ギークとは呼べないのでしょうか。

その「深さ」や「実績」に目を奪われてしまう気持ちはよく分かります。

世間が憧れるトップクラスのギークというと、GitHubでOSSへ多大な貢献をしている、Kaggleで上位に入っている、あるいは著名なイベントに登壇しているといったイメージが先行しがちですよね。

正直にお話しすると、そうした目に見える実績にひるんでしまうことは、私自身にも未だにあります。

例えば、Podcastの収録で澤円さんとお会いした時はそのオーラに圧倒されましたし、優れたプロダクトを生み出している他社のCTOやVPoPの方々に対して「すごいな、敵わないな」と思ってしまうケースは多々あります。

中二病的発想でスキルアップ? エンジニアとしての成長につながる習慣とは【澤 円・池澤あやか・小城 久美子・増井 雄一郎・ばんくし/聴くエンジニアtype Vol.32】 type.jp
中二病的発想でスキルアップ? エンジニアとしての成長につながる習慣とは【澤 円・池澤あやか・小城 久美子・増井 雄一郎・ばんくし/聴くエンジニアtype Vol.32】

ーーばんくしさんクラスの方でも、そうなんですね。なおさら「自分はギークではない」と自信をなくしてしまいそうです。

ここが重要なのですが、私は「ギークとはあり方」だと考えています。だからこそ、実績のある誰かと自分を比較して「自分はギークではない」と卑下する必要は全くありません。

彼らへのリスペクトは当然ありますが、いわゆる「トップ・オブ・ギーク」みたいな概念があるとすれば、それはただ単に、武道や芸道でいう「守破離(しゅはり)」をやりきった人というイメージに過ぎません。

だから実績の差を目の当たりにしても、「まだ守破離をやりきっていない分野がある」くらいに思っていますね。

逆に言えば、ギークであるということは、ある特定の分野に対してその守破離を実行できる能力や、そこに対する考え方、つまり「あり方」を持っているということではないでしょうか。

ギークなエンジニアがオフィスで働いている様子

ギークは「ポジティブな感情」だけに宿るわけではない

ーーギークなエンジニアというと、内から湧き出るポジティブなエネルギーで動いているイメージもあります。組織の都合などで「やらされる」仕事にも、ギーク性は宿るのでしょうか?

ギークであるには、ポジティブとネガティブ、どちらのエネルギーも必要だと思っています。トップ・オブ・ギークと呼ばれるような人は、間違いなく両方を使いこなしていますよ。

エンジニアであれば、技術に対する「好き」というポジティブな気持ちは当然あります。

しかし一方で、「本当はここにこういう最新技術を導入したいのに」という葛藤や、もっと言えば「会社の都合で、自分が使いたい訳ではない技術を無理やりやらされている」といった状況も同時に発生しますよね。

仕事ですから、楽しい瞬間もあれば、「本当は別のことがしたいけど、今はこれをやるしかないな」という時もある。その二つの感情のギャップをどちらも乗りこなしていくことが大切です。

ーー泥臭い苦労や、やらされ仕事への不満も、ギーク性を深める燃料になると?

例えば、アーキテクチャに詳しい人というのは、過去にアーキテクチャでひどく苦しい思いをした人が多いと思うんです。「この状況ではこれしかないけど、なんとかしたい。もう少し考えよう」というネガティブな状況からの試行錯誤を繰り返した結果、詳しくなっている。

最初から「アーキテクチャが好きだから」というポジティブな理由だけで詳しくなったわけではないはずです。

ただ、ここで大切なのが「リスペクト」や「責任感」です。

ネガティブな状況にあっても、自分の仕事や関わっている人たち、ひいては社会の構造に対してリスペクトを持っている人は、私はギークな素養を持っているなと思います。

嫌な仕事なら究極的には投げ出すこともできるのに、それをしないのは社会への責任感があるからですよね。「好きなことだけを思い切りやっています!」というポジティブ一辺倒な姿勢は、趣味の延長としては正しくても、プロの現場においては少し楽観的すぎるかもしれません。

楽しい瞬間と、「やらされているけれど、どうにか自分が良くしてやろう」という反骨精神。この二面性を乗りこなせる人こそが、いわゆるトップ・オブ・ギークになっていくのだと思います。

「やらされているけれど、どうにか自分が良くしてやろう」という反骨精神を持って働いている男性のイメージ

モノづくりの根底にある「反骨精神」と「日陰性」

ーー今「反骨精神」という言葉が出ましたが、ギークなエンジニアの根底には、現状の社会や体制に対する反抗心や、ある種の日陰者のようなメンタリティがあるのでしょうか。

大いにあると思いますし、むしろ「ものづくり自体が本質的に反骨的である」と私は考えています。

究極的な話をすれば、我々は新しいシステムや便利なツールを作らなくても、原始的に生きていくことはできますよね。それでも人類が道具を作り、技術を発展させてきたのは、「もっと楽をしたい」「今の不便な状況を変えたい」という、現状に対する強烈な不満があったからです。

ソフトウェアエンジニアを含むものづくりも同じです。既存の仕組みに対する不満や、組織という大きな枠組みの中で隠れてしまうような「日陰性」が反骨精神を育て、「自分の手で作って世の中を変えてやろう」というエネルギーに昇華される。これはギークの非常に重要な要素です。

ーーでは、エンジニアが自分の中のギーク性を育てていくために、明日からできることは何でしょうか。

大きく分けると三つのアクションがあると思っています。

一つ目は、「自分の気持ちを形にして外に出すこと」です。仕事へのモヤモヤでも、技術へのワクワクでも構いません。頭の中で考えるだけでなく、コードを書く、ブログにまとめるなど、とにかく手を動かして継続的にアウトプットし続ける。ものづくりの筋力は、実際に手を動かす事でしか身につきません。

そして二つ目は、「コミュニティに参加すること」。自分一人で完結するのではなく、他者と比較することで初めて自分の現在地や独自のギーク性が浮き彫りになります。

私自身、主要なOSSにコミットしたり、2000以上のスターがつくリポジトリを持っていたりと、国内のVPoEの中では比較的多くOSS活動はしてきたつもりです。

でも、それだけやっても、Kaggleや競技プログラミングなどで圧倒的な成果を出しているトップ層を見た時に、「この人たちには勝てないな」と打ちのめされた経験があります。

その挫折があったからこそ、「他人の土俵で戦うのではなく、自分のギーク性を磨くしかない」と言語化できるようになりました。

また、想像以上に「自分がこだわっているポイントは他者から見るとこだわるポイントがないと思われている」という状況は多く存在します。会社やテックカンファレンスなどのコミュニティは、そういった自分のギーク性、自分が勝負するところを見つけるのにうってつけです。

男性エンジニアがテックカンファレンスに登壇しスピーチを行っている様子

ーー壁にぶつかることも含めて、外のイデオロギーに触れることが重要だと。では最後に、三つ目を教えてください。

少し壮大に聞こえるかもしれませんが「人生経験を豊かにすること」です。

豊かさを知ることで「もっと良くしたい」という新たな欲求が生まれますし、逆に苦労した経験が反骨精神の糧になります。

プログラミングを始めたのがいつか、といったキャリアの長さは関係ありません。人生そのものを味わい尽くすことが、結果として技術との向き合い方に深みをもたらします。

若手エンジニアの皆さんには、自分の中にあるポジティブとネガティブな感情をすべて生かして、世の中にある「あなたが感じるしょうもないクリエイティブ」をどんどん破壊していってほしいですね。

私が作ったOSSも含めて、過去の遺物を壊して新しいものを生み出してくれるようなエンジニアが、これからたくさん出てくることを心から楽しみにしています。

文・編集/今中康達(編集部)

転職力診断

Xをフォローしよう

この記事をシェア

RELATED関連記事

JOB BOARD編集部オススメ求人特集

RANKING人気記事ランキング





サイトマップ