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及川卓也×えふしん×庄司嘉織が語りつくす! エンジニアを悩ます「35歳定年説」の正体とは?【キャリアごはんvol.7レポ前編】
エンジニアの間では今なお「35歳定年説」ということがまことしやかにささやかれているようだ。しかしその定義や根拠は曖昧で、漠然とした不安としてつきまとっているというのが多くの人の実感ではないだろうか。「35歳定年説」の実態とは何か。もしそうしたものがあるとすれば、35歳を迎えるまでにどんなことをやっておけば自分らしいキャリアを築くことができるのか。
エンジニアのキャリアパスを考えるワークショップ型イベント「キャリアごはん」。5月25日に開催した第7回では、35歳を超えてなお活躍を続ける及川卓也氏、藤川真一氏、庄司嘉織氏という先輩エンジニア3人に、「アラサーエンジニアが35歳までにやっておきたいこと」をテーマに語り尽くしてもらった。本イベントレポートの前編では、3者の発言から「35歳定年説」の実態を紐解く。
35歳定年説の正体とは何か。どんな根拠を持って35歳が定年と言われているのか。セッションはまず、これを多角的に検証する形で進んでいった。結論から言えば、3人は35歳定年説の確からしさに否定的である。なぜそう言えるのか。35歳定年説が囁かれる背景にあるいくつかの根拠に沿って、順に見ていこう。
①年齢による体力や集中力の低下説
人間がまだ経験していないことをリアルに想像するのは難しい。だから20代の頃に想像する「30代になった時のこと」には漠然とした不安がつきまとう。
藤川氏が20代後半に感じていた最大の不安は「体力の問題」だったという。「かつてのプログラミングというのは力技でものすごい量のコードを書かなければいけないという、体力とのトレードオフという側面があった」からだ。
しかし、この話はそのまま35歳定年説の否定にもつながっている。いまや技術が進み、人が書かなければならないコードの量はかつてと比べて格段に減っているためである。
年齢を重ねてなお体力や集中力で勝負しようとすれば、ある時点で若い人に勝てなくなるというのは確かにあるかもしれない。だが、それも現在ではツールやスキルで補うことができるというのが藤川氏の意見だ。
さらに庄司氏は「TDDとポモドーロテクニックという2つのスキルを身に付けたことで、限られた集中力をどこに振り分けるべきかが明確になったし、集中状態に入りやすくもなった。才能ではなくこうしたスキルで勝負すれば、定年どころか、35歳を過ぎてもまだまだ十分に戦える実感がある」と話す。
それはまるで、若い頃に速球派として鳴らした投手が次第に技巧派へと転向するようなものである。150キロの豪速球は投げられなくても、アウトを取る方法は他にいくらでもあるということだ。
②ライフステージの変化説
35歳という年齢は、結婚して家庭を持ったり子供が生まれたりしてライフステージが変わる年齢だとも考えられる。保育園の送り迎えなど家族との時間を優先せざるを得なくなり、若い頃のようにがむしゃらにプログラムを書いたり、技術の勉強をしたりはできなくなる人も多い。
その結果、技術トレンドから脱落していくということはあるかもしれない。それまで通りとはいかなくても、仕事の時間を確保するためには家族の理解は不可欠だろう。
関連して、会場の参加者からは「キャリア選択という意味でも、家族を持つとリスクの高いスタートアップを選択しづらくなるのでは?」という悩みが寄せられた。
しかし、企業の平均寿命が30年にまで縮んでいるとされる現代においては、「大企業だからといって絶対に安定しているとは言えないのではないか」というのが3人の立場だ。
及川氏は「大企業には大企業でしか、スタートアップにはスタートアップでしか学べないことがあるはずだし、それぞれで働くことの醍醐味も違うはず。結局は自分がどちらに面白みを感じるかではないか」と、ここでも年齢による限界を否定する。
③近い将来プログラマーは不要になる説
歴史を振り返ってみると、勘定系における第三次オンラインや4GL(第四世代言語)など、35歳定年説がささやかれる裏側には必ずと言っていいほど、「近い将来、プログラムを自動生成するような便利なシステムに置き換えられて、プログラマーは不要になるのではないかという言説があった」と及川氏は指摘する。
しかし、現実にはプログラマーという仕事はなくなるどころか、むしろ需要は拡大するばかりである。
藤川氏は「不要論は、今取り組んでいることが何も進化しないのであればという前提に立っている。新しいことが生まれれば新たな需要も生まれる。そこを担うのは人間であるはずだ」と主張する。
これには及川氏も同調し、「そもそものプログラミングというものの意義を考えると、機械にできる仕事というのは人間が本来やるべきことではないはずで、それを機械がちゃんと代行してくれるというのであれば、それは歓迎すべきことではないか」と続けた。
第三次AIブームとも呼ばれる今、プログラマー不要説(それどころかAIが人類の仕事を奪うという議論)は再燃しているが、いち早くAIが人間のチャンピオンに勝ったことで知られるチェスの世界では、その後しばらくは人間とAIの組み合わせこそが最強という時期が続いた。
仮にいつの日かコンピュータだけでプログラミングができる世界が来るとしたら、それはもはや35歳どころか、あまねくプログラマーが不要になることを意味する。「しかしそうなるまでにはAIを使いこなすプログラマーが尊ばれる世界があるはずで、今まさにそれが始まりつつある。プログラマーにやれることはまだまだあるだろう」と及川氏は言う。
④より深刻かもしれない「キャリアパスがない説」
こうした議論に対し、SIerに勤めているという参加者から「SI業界には厳然として35歳定年説はある」という問題提起があった。
技術職としての35歳を超えた先のキャリアパスがなく、望むと望まないに関わらず技術営業やマネジメントといった別の職種に転換を迫られるというのは、大企業を中心に確かによく聞く話ではある。35歳定年説の正体は本人の能力や意欲の低下ではなく、キャリアパスがないゆえに無理やり「定年」にさせられてしまうという問題だとしたらどうだろう。
「技術職としてある程度キャリアを積むと、単価基準が折り合わなくなり、無理やり管理職として出世させられてしまうことがある」と藤川氏は指摘する。
ここでは、その人の技術力はコストに見合わないものと判断されているし、その人が管理職に適性があるかどうかも問題とされない。技術、あるいは技術を生業にしてきた人間に対する軽視であると同時に、マネジメントというスキルに対しての軽視でもあるように映る。
その点、庄司氏の勤めるクックパッドでは、「マネジメントは一つの役割であって、出世とイコールではない」という。
だからマネジメントに回るからといって必ずしも給料が上がるわけではないし、一般的な日本企業ではあり得ない、マネジメントからプレーヤーへと回る「逆コース」も日常的に存在しているのだという。庄司氏自身も一度部長職を経験した後、自ら望んでサービス開発の一エンジニアに戻るということを経験している。
以上が3者のトークセッションの中から見えてきた35歳定年説の正体だ。本イベントレポートの後編では、35歳定年説を覆すためにやっておくべきことを読み解き、そしてエンジニアとしてより長期的な活躍をするための秘訣を紹介する。
文/鈴木陸夫 撮影/羽田智行(編集部)
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