Vol.353

Appleが認めた82歳の新米エンジニア・若宮正子さんのモノづくり人生「“定年後はロスタイム”の時代じゃない」

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若宮正子さん

若宮正子さん

1935年東京生まれ。高校卒業後、三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に勤務。定年をきっかけに、パソコンを独自に習得する。99年にシニア世代のサイト『メロウ倶楽部』の創設に参画。2016年秋からiPhoneアプリの開発を始め、17年6月には米国Appleによる世界開発者会議『WWDC 2017』に特別招待される。『人生100年時代構想会議』の最年長有識者メンバー。著書に『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』(ぴあ)

エンジニアのキャリアを語る際に言われる、35歳定年説。そんな言説も、82歳の現役エンジニア・若宮正子さんの前では虚しく響く。

60歳からインターネットを始め、81歳でプログラミングを学び、82歳になる2017年にiOSアプリ『hinadan』を開発。同年6月にはアメリカで行われた『WWDC2017』にAppleのCEO ・ティム・クック氏から招待を受けて参加した。

若宮さんがアプリを開発したのは、名声やお金のためでも、ましてや向上心でもない。彼女を突き動かしている原動力を聞くと、「モノづくりの楽しさ」の本質が見えてきた。

17年12月に書籍『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』(ぴあ)を上梓した若宮さんの、“モノづくり人生”について語ってもらおう。

82歳、初心者エンジニア。おばあちゃんの世界を一気に広げた、iOSアプリのリリース

若宮正子さん

私が4歳の頃に第二次世界大戦が始まり、日本が本当に貧しい時代に学生時代を過ごしました。そして私は高校を卒業してすぐに銀行に入行して、40年以上ずっと働き詰めだったものだから、自分の時間というものがなかったんですよ。だから本格的にモノづくりを始めたのは、仕事を定年退職してからです。

60歳でインターネット、75歳でピアノ、そして81歳でプログラミングを始めました。チャレンジしているという感覚は全くないんですよ。面白そうだからやりたいことをやる、というだけ。好奇心が旺盛なんですね、きっと。

何もできない期間が何十年もあったんです。その時にできなかったことを、今やっているという感じ。ちょっと長い空白ですけどね。

そして今年、82歳で『hinadan』というゲームアプリをリリースしました。アプリを作ってからの1年で、生活はすごく変わって、もう一回りも二回りも忙しい人になっちゃった。

若宮さんが開発したiOSアプリ『hinadan』
若宮さんが開発したiOSアプリ『hinadan』。
「80過ぎのオババが作った、ハイシニアが楽しめる雛壇飾りアプリです」(アプリ説明より)

「82歳のコンピュータおばあちゃん」なんて言われて、メディアの方が家に来てくださったり、日本政府の『人生100年時代構想会議』に呼んでいただいたり。2018年2月にはニューヨークで国連の基調講演をするんですって。最初に連絡が来た時は、ガセメールじゃないかと思ったんですよ(笑)。

TEDで講演もしたけど、終わりの方にスタンディングオベーションがあったんです。講演なんてほとんどやったこともなかったけれど、とってもエキサイティングな体験でしたね。

私自身は特別なことをしている感覚は全くないけれど、この歳にして日々新しい世界が広がっています。

これからの時代、エンジニアに必要なのは技術力ではない

Appleに呼ばれて向かった『WWDC2017』では、CEOのティム・クックさんにお会いしました。「ナイストゥミーチュー」って握手して終わりだとばかり思っていたら、「あなたのアプリを見ながらお話をしましょう」と言ってもらえて。『hinadan』のアドバイスをもらって、7分間ぐらいお話しました。でもまぁ、地球の反対側から呼ばれたのだから、それくらい贅沢させてもらっても良いわよね(笑)。

クックさんは「これからはリベラルアーツが大事だ」とおっしゃっていました。リベラルアーツというのは、専門には直接結び付かない教養のこと。AIがもっと進歩したら、プログラミングもAIが手伝ってくれると思います。今みたいにコードをバーっと書かなくても、iPhoneに「そこのアイコンを右上に持っていってください」って言ったらやってくれるような、そういう時代が来るかもしれません。

それでもね、大事な判断をするのは人間でしょう?

だから、ただコーディングができればいいっていう世界から、プログラマーはもう少し高みに登らないといけないと思うんですよ。私がエンジニアの方に説教じみたことを言うのはおかしいですけど、リベラルアーツを大事にするような、人間力のあるエンジニアが次の時代は必要になってくるんじゃないかしら。

人間力を鍛えるには、やっぱり人間と接して、人間の心や体をリアルで知ること。そうは言ったって古今東西の全員に出会えるわけじゃないから、あとは本を読むことだと思うんです。パソコンから離れたところで磨かれるものが、今後のエンジニアには必要になってくるんじゃないかなぁと思います。

「今日はイオンをやめて、ヨーカドーにいこう」が人生を変えるきっかけになるかもしれない

どうやってプログラミングを覚えたんですか?ってよく聞かれるけれど、私は「やってみないと分からないことはあるから、まずはやってみる」ことを大事にしています。

デザインもプログラミングも、とにかく作ってみるの。もし思っていたのと違う感じになったら、方向転換しちゃってもいい。そういう遊び心が必要なのかしら。

思うようにプログラムが動かないことが多いのですが、そういう時は他のことをするんです。何しろ趣味が多いから(笑)、幸いにも他にやることはたくさんあるの。そうして嫌な気持ちを忘れた頃にまた始めれば、楽しく作業ができるでしょう。

いろいろなものに好奇心を持ってやってみることは、物事を続けていく上で不可欠だと思うんです。私は会社を辞めて自由の身ですから、仕事となると違うのかもしれないけれど。

若宮さん

よく考えてみて。赤ん坊の時は好奇心の塊で、その辺のものを拾って舐めてみたりするでしょう。でもそれはすぐに親に取り上げられちゃうのよね。学校に行ったら先生が「余計なことを考えるな」なんて子供の好奇心を殺して、会社に入ったらもっと好奇心は削がれていく。

ここらでもう一度、好奇心の息を吹き返してみてもいいんじゃないかしら。

いつもの表通りをやめて裏通りを歩いて帰るとか、いつもはイオンに行くけどたまにはヨーカドーに行ってみるとか。ささやかでもいいから、日常とちょっと違うことをしてみたら、そこに新しい発見がある。その発見が、あなたの好奇心を蘇らせると思うんです。

私は普段の生活でもいろいろなことを考えちゃうから、時間がいくらあっても足りないくらいに毎日ワクワクしているんですよ。

年齢に応じたものが脳みそには詰まっている。歳を取ることはキャリアのマイナスではない

日本は歳を取ることがマイナスになるという風潮があるけど、それっておかしいですよ。歳を取れば、脳みその中にはそれなりのものが入っているはず。

30歳でも40歳でもそれを活かせばいいし、プログラマーの限界があるかどうかは別として、人生に限界はないんですよ。これまで蓄えてきたいろいろな知識や経験をフルに活用して、それまでのエンジニアとしての経験を活かして別の世界に行ってもいい。歳を取ることって、キャリアにおいて全然マイナスじゃないと思うんです。

体力がなくなったり、物忘れがひどくなったりしても、大概のことは機械を駆使すれば解決できます。お年寄りの人は忘れっぽいとよく言いますけど、私は毎日のスケジュール表をスマホにも同期して、出先でもチェックできるようにしています。

ど忘れすることも多いんですけど、そういう時はキーワードを入れて検索する。だって、忘れっぽいというのはメモリーの問題でしょう? それって、コンピューターが一番得意な分野ですよね。こうしてどんどん機械に任しちゃえばいいんですよ。そうすると、そのうち知識だっていらなくなるかもしれない。

人生100年時代と言われていますから、今の若い世代の定年後は決してロスタイムではありません。自分が100歳まで生きるということを考えて、人生設計をしなければいけないと思います。今までの時代は仕事一筋でもよかったかもしれませんが、AIが発達したら今まで10時間かけていた仕事が3時間ですむかもしれません。では、残りの21時間はどういうふうに使いましょうね。

そういうことを見据えた時に、何かをクリエイトする仕事は素晴らしいと思うんです。

クリエイトした自分の仕事をインターネットに残せば、半永久的に残っていきます。孫、ひ孫や玄孫にも伝えられる。こういうインターネットやパソコンを通じて何かを作り上げることができるエンジニアの方たちは、すごい可能性を秘めています。こうしてネット上に発信していく喜びも感じられるでしょう。

私自身も、これからたくさんの情報をインターネットで発信していきたいと思います。自分の脳みそは、お墓に持っていけないでしょう? だからいっぱいクリエイトを楽しんで、好奇心で満たしていく人生を送りたいの。だって私はまだ「エイティーズ(80代)の冒険」の途中。足りないものは「時間」、持て余しているものは「好奇心」ですもの!

若宮正子さん

【Information】

若宮正子さんの新著『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』(ぴあ)
若宮さんから「人生を楽しくするためのメッセージ」が到着!自由な発想で生み出された言葉の数々は、人生に悩み、将来に不安を抱える方たちの心にきっと届くはず。

取材・文/天野夏海 撮影/赤松洋太

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