年間約200人のエンジニアを面接してきた社長が明かす、「生涯現役」で開発し続けられる人の条件
「日本のSI産業は、多くの場合、エンジニア職が『キャリアのゴール』にはなっていませんよね? でも、マネジメントサイドには回らず、ずっと現場で開発に携わっていたいという人は少なくない。だから、わたしたちの会社は“生涯現役”でやっていきたいというエンジニアが思いを果たせる場所になりたいのです」
そう語るのは、Webシステム開発会社ケイズ・ソフトウェア(以下、ケイズ)の代表取締役である亀井大輔氏。同社は2000年に創業して以来、確かな技術力で国内最大手のECサイト構築を中心に案件を獲得し続け、事業も人員も堅実に拡充してきた。
冒頭の発言は、自身がエンジニアであること、そして、腕の良いエンジニアがもっと活躍できる場を作りたいという考えが背景にある。
亀井氏は、大学在学中にCやPerlを学んだことでプログラミングに魅せられ、エンジニアとしてのキャリアをスタート。その後、SIer勤務や大手ベンダーへの出向を通じてJava1.02のころから腕を磨き、1990年代末に当時「画期的なECサービス」だった楽天の開発プロジェクトに携わる。
この時の体験が、ケイズを創業するきっかけになった。
「あの当時、国内で大規模ECシステムを構築するという前例は皆無で、安定稼働させるだけでも技術的なチャレンジの繰り返しでした。日々新しい開発手法を考えては、トライすることで、自分たちなりに方法論を築いてきた感じです」
そのプロセスの中で、優れたエンジニア同士が担当範囲を超えてコラボレートして課題解決をしていく醍醐味を体感。この原体験が、ケイズを「エンジニアがエンジニアで居続けられる会社」にしたいという思いにつながっている。
それゆえ、業容を拡大してきたここ数年間は、年平均で200人超のエンジニアに会いながら、地道な採用活動を展開してきた。現場で仕事を続けたいという生粋のエンジニアを、1人でも多く見いだしたかったからだ。
では、そんな亀井氏は何を見て「生涯現場で活躍できそうなエンジニア」を採用してきたのか。聞くと、2つのポイントがあるという。
「キレイな職務経歴書」にだまされず、力量を見抜く方法
「起業した当時は、職務経歴書のキレイさ、つまり使える言語や業務経験の豊富さを重視して採用をしていました。受託案件では、クライアントの開発ニーズに応えるのが最重要だからです。ただ、保有スキルがマッチするからといって、すべての人がお客さま先で活躍できるわけではありませんでした。そこで、いろいろと試行錯誤しながらたどり着いたのが、以下の採用基準です」
【1】 開発の仕事を「キャリアのゴール」にしている人
【2】 面接時、紙に手書きでコードを書くことができる人
この2つの条件は、「これからのWebサービス開発」ではさらに重要度が増すと亀井氏は話す。
「特にBtoCのサービス開発では、スマートフォンの普及を背景に、負荷分散などの面で技術的に”先が読めない”開発が増えています。常に前例のない開発を強いられるケースが増えているので、仕様、開発要件、アーキテクチャなどすべての面を都度ゼロベースで考える必要が出てきます。そこで、技術的な探求心と”コピペ”ではない応用力が必要不可欠になるのです」
従来のシステム開発では、似通ったシステムや機能のソースコードを流用したり、コピー&ペーストしてところどころ変更するだけといった案件も少なくなかった。それに、近年は便利なフレームワークが出回っているため、開発実績=開発者自身の実力とは言えない状況も増えている。
さらに、冒頭で亀井氏が話したように、多くのSIerは縦割りの組織構造になっており、マネジメント側と開発側、さらには技術領域別に役割分担が進んでいる。プロジェクト全体を俯瞰して完遂させるスキルが身に付いていない人も多いという。
だからこそ、職歴書だけではエンジニアの志向や力量を判断できないという。
その意味でも、【1】の志向はもちろんのこと、【2】の手書きで簡単なコードを書いてもらうプロセスは、エンジニアとしての力量を知る上で最も的確なチェック方法になる。
「現在の開発トレンドを考えると、仕様だけ決める人間や『ゼネラリスト』と呼ばれる管理職的役割の人は、どんどん不要になっていくと考えています。特にBtoCの大規模Web開発では、要件を事前に定義できないような案件も多いからです」
そんな中で生涯エンジニアであり続けたいと思うなら、ニッチでもいいから「好き」な技術分野を極め、スペシャリストとして別の専門家とコラボレートしながら課題解決に当たるという姿勢が大事になる――。亀井氏の採用基準には、そんな考えが隠されている。
“理念駆動”で動くチームなら、異業種からの転職者もすぐ適応できる
こう書くと、豊富な開発経験がないエンジニアには先がないように感じる読者もいるだろう。
しかし亀井氏によれば、「この2つの基準を満たすエンジニアなら、募集要項に当てはまらない人でも十分活躍できる」とのこと。
事実、ケイズには、「Webシステムの開発未経験」の状態で入社したものの、さまざまな受託現場で重宝される存在になっている社員が何人もいるという。
いくつか事例を挙げよう。製造業出身で、制御系一筋でやってきたという30代後半のエンジニアは、業務ではC言語しか使ったことがなかったそうだが、すぐJavaでのシステム開発に適応。現在は、とあるBtoCサービスの開発現場でリーダーを務めている。
「彼は小学生のころから趣味でBASICをいじっていたようなタイプで、Javaについても独学でマスターしていました。まさに、『好き』を原動力にスキルを磨き続けてきたからこそ、異業種の仕事にもすぐ適応できたのだと思います」
さらに、最近入社したという30歳のエンジニアは、これまで開発に携わった経験はわずか1年。ずっと運用だけを手掛けてきたという。しかし、彼もまた独学でプログラミングのスキルを習得しており、エンジニアとして長く働きたいという意欲と熱意を持っていた。
「わたしは他人のコードをなぞるだけの作業を『写経』と呼んでいるのですが、仮に開発経験が10年以上あっても、やっているのが写経メインだったという人は今の開発現場では活躍できません。それよりも、彼のように『エンジニアとして働きたいんだ』という意欲を持って独学している人の方が、高いパフォーマンスを発揮してくれます」
とはいえ、経験値がバラバラなメンバーで開発を進めていくと、どうしてもベテランが後進育成やチームマネジメントをやらざるを得なくなることも考えられる。
それでも、ケイズでは皆が「生涯現場」でいられる理由を亀井氏に尋ねると、「理念さえ一緒なら、役職としての上下関係がなくてもチームは回る」と言う。
「当然、案件の内容によっては特定分野に詳しいエンジニアが主導して開発を進めるケースは出てきます。それでも、わたしから『あなたはマネジャー』、『あなたはメンバー』と役割を決めたことは今まで一度もありません。全員が現場でやり続ける意思を持っているので、分からなければ自ら学ぶし、自然と教え合うようになるからです」
”理念駆動”と書くと胡散臭く思われるかもしれないが、理念があるから同志が集まり、互いに助け合うチームが生まれる。
ケイズの開発現場では、そんな好循環が自然と生まれている。
取材・文/浦野孝嗣 撮影/赤松洋太
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