Baiduと提携したソーシャル読書サービス『Booklap』が、アクティブユーザーを100倍に増やした「UXマップ」とは?
本を読んでいて、いいなと思ったフレーズに出会ったらシェアをし、レビューも添える。それによって“読書の感動を共有する”ためのサービスが、Prosbeeの提供する『Booklap』だ。
今年8月20日にはBaiduと業務提携を発表し、同社の運営するナビゲーションポータル『Hao123』へレビューコンテンツ提供を始めたばかり。サービス開始から約9カ月で、共有された感動=投稿の数は通算3万件近くに上り、書き込みは日によって1000件近くあるという。
ところが、2012年12月にサービスインした直後は、1日2~3件、多くて10件程度しか書き込みがなかった。
「スタート前は、すぐにユーザー数が月間20万人くらいになると思っていました。だから、現実とのギャップに驚きました」と話すのは、『Booklap』の開発者でProsbee CEOの笠井レオ氏。
「でも、今振り返ると、当時はバグが多かったりとモノづくりのレベルが低く、ユーザー獲得の導線を含めてプロダクトとしてのクオリティが低かったんです」
笠井氏は弱冠20歳。スペインの名門フットボールクラブであるレアル・マドリードの下部組織でプレイしていたこともある“サッカー男子”であり、“本好き男子”だ。15歳の時に親戚を頼って訪れたシリコンバレーでIT起業家たちに会い、いつかはこの世界で起業をと決意した。
大学入学後は、講義ノートをネット上で共有し、300円でダウンロード販売するという確実にニーズのあるビジネスを立ち上げたものの、瞬く間に炎上・閉鎖を経験した。
その笠井氏と二人三脚で『Booklap』を立ち上げたデザイナー兼COOの池田知晶さんは、現役大学生の“ヒッチハイク女子”。日本列島をヒッチハイクで縦断した強心臓の持ち主だ(詳細は著書『ヒッチハイク女子、人情列島を行く!』を参照)。
10代のころから数々のアルバイトを経験し、少ない元手で起業して世界に挑むならITだと確信して出席したFacebookアプリの勉強会で、笠井氏と出会った。「本好き」という共通点が2人を結び付け、共にProsbeeの創設者となったのだ。
低迷脱出のきっかけとなった、2カ月間の“開発絶ち”
さて、サービスインのころと比べて約100倍ものデイリー投稿数を記録するまでに成長した背景には何があったのか。2人に聞くと、転機は2013年3月に訪れたという。
低迷するユーザー数を目の当たりにし、根本的な改善が必要だと思った2人は、すでに投資を受けていたインキュベイトファンドに新たに加わった藤原由翼氏に相談し、開発のプロセスを根本から見直すことにしたのだ。藤原氏は、楽天でUXデザインの仕事にかかわっていた人物である。
それまで、笠井氏と池田さんは互いに同時進行で、自分たちが作りたい、カッコイイと感じるものを作っていた。
「つまり、主観的だったんです」(池田さん)
そこで、藤原氏は前職で活用していた「UXマップ」を独自に作り直し、2人にアドバイス。サービスのバリューを「機能的価値」と「情緒的価値」の2軸に分割した上で、『Booklap』使用前=名前を認知する段階から実際に使用~リピートするプロセスでどんな価値を提供するか、フェーズごとにストーリー設定するという内容だった。
このUXマップに、各フェーズで必要になるであろう「機能」や、それを通じてユーザーが体験できる「情緒的価値」を書き込んでみてはどうかと提案された2人は、“読書の感動を可視化することで、本の価値を最大化する”というビジョンをどうやってサイトに反映していくか、細部にわたって言語化することにした。
その過程で、Booklapというサービスを具体的にどう実現するか、そこにユーザーを取り込むにはどうしたらいいかを徹底的に話し合った。それまで、開発、デザインともに「アイデアを思い付いたらすぐ手を動かしていた」(池田さん)2人だったが、この話し合いの期間は一切開発業務はしなかったという。
「2カ月間くらい、ひたすら話し合いばかりしていました。その時期はモノを作れないことに焦りを感じ、早く作りたい思っていたのですが、結果的にビジョンがしっかりと共有されたことで、その後の開発に迷いがなくなりました」と笠井氏は振り返る。
池田さんも、「やるべきことに優先順位が付けられた結果、ムダがなくなり、何かを作るにしても『これは何のためなのか』という目的がはっきりしました。また、笠井がサーバ側、わたしがインターフェース設計としっかり仕事を分担できるようになったのもよかったと思います。あの2カ月間で、サービス開発の基礎を身に付けさせてもらいました」と話す。
わずか2人の開発陣の間でも、開発方針の“言語化”が重要であることを実感した2カ月だった。
そういったプロセスを経て、Booklapは2013年7月にリニューアル。書籍から抜き出したフレーズやその書籍に対するレビューに、画像を組み合わせるデザインになった。
想定している2種類のユーザー~シェアをしたい人と、シェアされた本を読みたい人~のための導線も、UXマップに沿って整理し直した。
「その結果、『楽しい』と思っていただけたのでしょう。ユーザーの方もこのメジャーアップデートの後で急激に増え、シェアも増えています」(笠井氏)
実名制の特徴を活かして狙うは「Amazon越え」
『Booklap』にレビューが投稿されている書籍は、現時点ではビジネス書が過半数。それに、小説、漫画と続く。メインユーザーは10代から20代と若い。「そのくらいの年齢で出会った本には、人生を大きく変えられることもありますよね」と笠井氏が話すように、情熱的なレビューも多い。
その層へさらに浸透を図るため、現在、モバイルアプリを開発中だ。PC版で使える機能をそのままスマートフォンでも使えるようにした『Booklapアプリ』(年内提供開始予定)のほか、書籍のページの一部を撮影すると、それを文字情報として認識し、簡単にシェアできるカメラアプリ『Booklap Cam』も、早ければ今年9月中に公開する。
Baiduとの提携により、今後は少し年齢層の高いユーザーの増加を期待している。さらにSEO施策も徹底し、「いずれ、書籍名で検索したらAmazonではなくBooklapがトップに来るようにしたい」と笠井氏は意気込む。
そのAmazon超えのキーとなるのが、レビュアーのパーソナリティだ。
「Booklapでの投稿は実名で、何歳でどこに住む、過去にどんな本を読んできた人によるものなのかがすぐに分かります。レビュアーのバックグラウンドが可視化されていて、レビューの質も良い。このデータを集めるほど、Booklapの価値が高まると思っています」(池田さん)
マネタイズ戦略としては、特定の書籍に対してこういったレビューを集めたページを作り、出版社にターゲティング広告を出してもらうことをすでに始めている。また、集まったレビューを、書籍販売サイト、電子書籍の販売サイトなどへも提供していきたいと考えている。
「人が本を読むデバイスはこれからどんどん変わっていくはずですが、Booklapが目指すのは、変化するデバイスに共通する『集客』のポータルメディア。今、多くのSAPが制作を手掛けているソーシャルゲームの世界に例えるなら、グリーやDeNAのような存在です」(笠井氏)
Amazon、グリー、そしてDeNA。仮想敵や重ねる将来像は相当に大きい。目下の目標は、年内の投稿数が100万件を超えることだという。自信のほどは、と問うと、笠井氏は言い切った。
「こうやって公言するからには、絶対に達成したいです」
取材・文/片瀬京子 撮影/竹井俊晴
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