堀江貴文氏×中島聡氏対談レポート! 「パラレルワールド構想」で先読む仮想通貨2.0
「現代では、仮想通貨の真の価値は発揮されない」
2018年2月に開催された『ホリエモン万博』で、元Microsoftのプログラマー、現UIEvolution CEO中島聡氏はそう語った。
仮想通貨やブロックチェーンといったキーワードを、メディアでも目にする機会が格段に増えた。日本においても、仮想通貨を知る20代の1割以上が、すでに何らかの仮想通貨を保有しているという(注1)。しかし、円建てして利益を得る投資・投機目的での購入が大多数である現状に対して、中島氏は警鐘を鳴らす。イベント主催者の堀江貴文氏との「仮想通貨」をテーマにした対談の模様をレポートしてみたい。
「仮想通貨=投資」の認識が、世界に歪みを生む
2017年、仮想通貨は急速に市場を拡大し、取引価格は異常なまでに上昇。まさにバブル状態とも言える盛り上がりを見せたのは記憶に新しい。ところが、2018年に入ってからというものの、仮想通貨を取りまく状況は激しく変動している。価格の暴落、各国による取引規制、そして国内大手取引所の大規模流出事件など、目立つのはネガティブな話題ばかり。そんな現状を受けて中島氏が語ったのが、仮想通貨の真の価値が発揮される「パラレルワールド構想」だ。
「収入も、税金も、各種支払も。全てが仮想通貨で成立する国家があれば良いですよね。現実世界から切り離されたパラレルワールドが実現されて、初めて仮想通貨の真価が発揮されるのだと思います。仮想通貨によって生じた税金は、トランザクションフィーで支払う。そんな閉じた美しい世界が存在すればいいのに、現実では日本円に換算して納税しなければならない。仮想通貨とフィアット(法定通貨)には、いまだに密接な接点があるのです。その歪みが価格操作や脱税の温床となって、仮想通貨を本当の意味での『通貨』として利用できない状況を生んでいるのではないでしょうか」(中島氏)
支持者からの投げ銭として受け取ったもの以外に仮想通貨を保有していないという堀江氏は、「価格変動を気にしたことはない」と漏らした。中島氏に言わせれば、それこそが「仮想通貨保有者としての幸せな状態」なのだという。
「取引価格が上がろうと下がろうと、保有している仮想通貨の数は変わらないので、本来は気にする必要はないはずなのです。ですが、仮想通貨保有者の大半は、価格の上昇を見込んで取引をしているためそうもいかない。FXと同様、毎日の価格変動が気になってしまうんですよね。実のところ、僕も仮想通貨を保有していた時期がありましたが、とにかく価格を意識してしまうので、このままでは生産性が落ちてしまうと思い全て売却しました。私たちは円やドルといったフィアットで現実を生きているので、投資目的で保有しているものの価格が気になるのは仕方がないことかもしれません。仮想通貨だけで成立する世界があればそんな心配は無用だったはずなのに、現実世界と仮想通貨が切り離せていないからこそ、その狭間に落ちて価格変動や高額な納税に苦しむ人がいるのではないかと思います」(中島氏)
混沌とする仮想通貨市場。仮想通貨を健全で価値のあるものにするために、実現し得る解決策はないのだろうか。中島氏と堀江氏は、各国の取り組みを紹介しつつ、パラレルワールドに極めて近い「バーチャル国家」成立の可能性を示唆した。
「突然新たな国家を作ろうとしても、国連からの承認を得られる可能性はほぼありません。なので、既存の国の中にバーチャルな国家を作ればよいと思うのです」(中島氏)
そう前置きした上で、中島氏が出したのがエストニアの事例だ。エストニアには、世界のどこにいても電子政府のバーチャル国民になれる登録制度『e-Residency』が存在する。すでに2万人の登録者を有し、日本でも安倍晋三首相の登録が話題になった。いずれはエストニア独自の仮想通貨が発行されるのではないかとも予測されている。「エストニアのような国が声を上げることで、仮想通貨で成り立つ世界が実現するのではないか」と中島氏は期待を寄せる。
続けて、堀江氏はモンゴル政府の官僚から聞いた話をもとに今後の動向を予想した。
「モンゴルでは、国民全員にICチップ内蔵のカードを配布していて、各々のIDに紐付いたウォレットを持てる仕組みがあるそうです。それを活用して、あらゆるものをETC化したり、トークンを発行したりといった動きが出てくるのではないかと思います」(堀江氏)
各国が仮想通貨を活用した政策実施に乗り出しつつある中、日本では節税のためにシンガポールに移住する経営者も増えている。利益によっては45%もの所得税(注2)が掛かる日本とは異なり、シンガポールでは最高でも22%(注3)。節税対策としての効果が見込まれる。バーチャル国家が現実のものになれば、同様の動きがより活発になるに違いない。
インド政府が注視するブロックチェーンの価値
「メッセージアプリのTelegramの開発元が、約5000億円規模のICOを実施するそうです。調達額が5000億円ともなると、名立たる大企業に並ぶ勢いですよね。かつて、インターネットが進化してGoogle やFacebookが台頭してきた頃、政府vs多国籍ネット企業といった対立構造が生まれるのではとささやかれていましたが、今後はそこにクリプトカレンシー(暗号通貨)勢も加わるのではないかと予想しています。先に挙げたTelegramを開発しているのが、まさにその新勢力。彼らは非営利団体なのですが、もしも本当にICOで多額の調達を実現したら、たとえFacebookであったとしても、もう買収できないのではないかと思うのです」(堀江氏)
続けて、堀江氏は「フィアットも、大手企業の株も、仮想通貨も、本質的な価値は変わらないはず」とした上で、仮想通貨が持つ美点について見解を示した。
「どんな通貨にもメリット・デメリットはありますが、仮想通貨の方が、フィアットに比べてシステムが透明だと思いませんか?ソースコードが公開されているので、少なくともバックドアがないことくらいは分かる。技術について勉強さえすれば、仕組みを知ることができるわけです。一方、フィアットは金融政策によって発行されるので理解がなかなか難しいですよね。比べてみると、仮想通貨の方が透明で手を伸ばしやすいように思います」(堀江氏)
さらに、仮想通貨の利便性の一つとして挙げられたのがスマートコントラクトだ。社会の基盤にある様々なコントラクト(契約)がブロックチェーン上で完結されれば、あらゆる社会活動に変革が起こるだろう。
「例えば、日本には保有者が分からない不動産がたくさんあるんですよ。これは、古い技術を使い続けてきた代償ですよね。これがブロックチェーン上で管理できるようになれば、問題は解決されるはずなんです。実は、近しいことをインド政府が先日発表していて、それがとても価値のある内容でした。仮想通貨による『億り人』の増加やバブルを受け、インド政府は仮想通貨の使用規制に踏み切ったのですが、一方でブロックチェーンに対しては異なる方針を語ったのです。『ブロックチェーンという技術の価値は高いため、政府として積極的に活用を検討する』と。きっと彼らは、不動産所有権の課題なども、ブロックチェーンを用いて解決していくことでしょう」(中島氏)
中島聡が考えるウォレットの理想像
仮想通貨の価値について終始熱く語った中島氏だが、自らも市場に一石を投じるような仕組み作りを構想中だという。
「僕自身がそうだったんですが、仮想通貨を取引所に預けるのって怖いと思うんです。なので、より安全なウォレットを作れないかな、と」(中島氏)
「でも、自分のウォレットで管理する怖さもありますよね。パスワードを忘れてしまったり、アップデートの時に復元ミスをして二度とアクセスできなくなったり。そういったセルフGOXが怖いなと思うのですが」(堀江氏)
「そういった課題も解決していきたいんですよ。アプリが完成したとしても会社が破綻してしまったら意味がないので、オープンソースにしてしまう、とか。そのためには、まだ解決しなければならないことも多いですけどね。あとは、自分が持っている分には安全なウォレットだったとして、他界した後に子孫に遺産を譲渡するにはどうすればよいか、なども考えたい。遺言状などを使わなくても済むようにしたいですね。そして最終的には、そのアプリが世の中から消えたとしても、仮想通貨が失われずにアンロックできるところまで実現できたら価値があるかな、と思っています」
今はまだ混沌期だけに、ネガティブな反応を示す人も多い仮想通貨。しかし、進歩を続ける技術によって、その利便性と価値は向上していくことだろう。中島氏が語るように、新たな市場確立にはエンジニアの柔軟な発想力が必要不可欠と言えそうだ。
(注1)若年層調査のTesTee(テスティー)調べ
(注2)国税庁HPより
(注3)TOMAシンガポール支店 日本公認会計士駐在の税務会計事務所より
取材・撮影/大室倫子(編集部) 文/秋元 祐香里(編集部)
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