「Perfume at Cannes Lions International Festival of Creativity」staff
Perfume(あ~ちゃん、かしゆか、のっち)|dir/cho: MIKIKO(elevenplay)| composer (Spending all my time extend mix): 中田ヤスタカ(capsule)|composer (Intro and global site #003 project): evala (port, ATAK)|motion graphic dir: TAKCOM(P.I.C.S.management)
・Website Creation and Development
prod co: Rhizomatiks|dir: 真鍋大度|prog/designer: 堀井哲史|ad/designer: 木村浩康|programmer/language designer: 吉川佳一|graphic stamp dir: 佐藤寛(white)|server-side prog: 武政竜也|server-side prog: 2bit(buffer Renaiss)
・Interactive System
prod co: Rhizomatiks|dir/prog: 真鍋大度|prog: 比嘉了|hardware engineer/designer: 石橋素|wearable device design/development: 柳澤知明|sty: 三田真一|dress maker: 櫻井利彦|motion graphic designer: 鈴木元紀|visual produce: P.I.C.S.|mechanical design support: TASKO|installation support: 坂本洋一
・Stage Direction
dir: 内山昌彦|l designer: 木村伸子|pa: 小林雅彦|makeup: 大須賀昌子|hair sty: 島尻優樹|wardrobe: Yae-pon
・Produce
creative technologist/c: 菅野薫(電通)|pr: 池内光、加藤木淳、鈴木裕子、戸田千奈(電通)多田豊一郎(電通ミュージック・アンド・エンタテインメント)|a: 電通
【ライゾマティクス真鍋大度&石橋素】が明かす、世界に衝撃を与えたPerfumeのカンヌパフォーマンス、その舞台裏
6月21日に開催されたカンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルにて、テクノ・ポップグループPerfumeが日本人アーティストとして初のパフォーマンスを披露し、全世界に衝撃を与えた。
3人がまとう真っ白な衣装がスクリーンとなり、次々と色鮮やかなグラフィックが映し出される。プロジェクションマッピング技法を用いたそのグラフィックは、Perfumeのダンスに、衣装に合わせ、キメの細かい変化を見せた。
「パフォーマンスを袖で見ている時は、『頑張れ、頑張れ!』と祈るばかりでしたね」
そんな風に笑いながらカンヌを振り返るのは、Perfumeの演出やプロモーションを技術面でサポートするライゾマティクスの真鍋大度氏。真鍋氏は、2010年にPerfumeの東京ドームコンサートでの演出・映像制作をサポートして以来、『Perfume Official Global Website(以下、Global Website)』プロジェクトをはじめ、数々のPerfumeプロジェクトに携わっている。
今回のカンヌ国際クリエイティブ・フェスティバルでのPerfumeのパフォーマンスが決定したのは、今年の4月に入ってからだったという。本番当日まで約2カ月というスケジュールの中で、どのようにしてあのパフォーマンスが作られたのか。その舞台裏に迫った。
「ビットとアトムの間」を行き来するPerfumeのパフォーマンス
「『Global Website』もその一環なんですが、Perfumeの演出にかかわらせていただく際に(振り付け師の)MIKIKO先生からお願いされるのが、Webサイトのデータに始まりリアルのパフォーマンスに落とし込む、ということです。よく、『ビットとアトムの中間を行き来する』と話しているんですが」(真鍋氏)
今回のパフォーマンスも、真鍋氏の言う「ビットとアトムの中間を行き来」するような演出がふんだんに盛り込まれていた。
例えば、パフォーマンス中盤に彼女たちの衣装にたくさんの文字が映し出されたが、それは『Global Website』上でファンが投稿したツイートを反映させたものだ。さらに、3Dスキャンのデータをフリーで公開し、Web上でグラフィックをデザインできたり、自由にフィギュアをプリントできるようにもしているのだが、そこにも仕掛けがあった。
「サイトにはかなりのアクセスがあったのですが、3Dプリンタがぼちぼち流行ったこのタイミングで3Dスキャンデータをオープンソースで公開したという点は大きかったと思います。Radioheadが“House of cards”で3Dスキャンデータを公開しましたが、当時は映像を作るくらいしか遊び様がなかった。でも、今はさまざまな遊び方があってスキャンデータをプリントしてキーホルダーを作成する人が出て来たり、二次創作の可能性がデジタルだけでなく、フィジカルにも大きく広がったんですね。
さらにパフォーマンスではWebsite上でファンやクリエーターの方々が作ったドローイングの作品をステージ上の本人達に映像でプロジェクションしています。最終的にWebsite上のデータで完結していないところもMIKIKO先生ならではの演出だと思いますね。
『Webで始まりリアルで終わる』というのは、いつもMIKIKO先生から求められる部分なのですが、今回は本人たちのパフォーマンスになる前にPerfumeがユーザーの手元で物質化されたというのが面白かったなと感じました」(真鍋氏)
Twitterの投稿にしても、3DスキャンしたPerfumeのグラフィックデザインにしても、ファンは自分たちが遊び感覚でやっていたことである。ファンは、それが彼女たちのパフォーマンスに活かされるということを当日まで知らない。ライブを見て初めて、そのことに気付くのだ。
「こうした仕掛けを行うのは、『世界中のどこにいても、ファンとライブ空間でつながることができる』を実践し続けているPerfumeからの要望でもあるんです。ファンを想定して演出を考えるという点が、アートや広告とは異なる独特なプロジェクトですが、その分いつも新鮮な気持ちで臨めますね」(真鍋氏)
古い技術も、スパイスを加えればで誰も見たことがない演出になる
真鍋氏はパフォーマンスを演出する際、まずは「やりたい演出にかかわる歴史のサーベイ」から始めるという。
「今回のパフォーマンスにおけるサーベイは、以前Perfumeの日本ツアーで使用したものがベースになっているのですが、『映像とダンス』をテーマに行いました。こんな感じでgoogle docsにメモをまとめてシェアもしています。
ダンスを記号化、図形化する試みは歴史を紐解くと、起源としては1600年代までさかのぼることができるのですが、今回のパフォーマンスのベースとなるような技術は、2004年ごろから実際に作品でも使われていました。
有名なのはArs ElectronicaのFuture Labがやっていたプロジェクトですね。作品の制作ディレクターのJingから話を聞きましたが、pointgrey社のカメラを使って200fpsで画像解析していたそうです。当時から高い精度で画像解析技術が用いられていました。
わたし自身も、2006年ごろにダンサーにプロジェクションを行ったパフォーマンス(『tablemind』)に挑戦してみたり、2012年にはNosaj Thingという海外のアーティストのMV(ミュージックビデオ)でも今回のPerfumeの演出に近いものはやっていて、そのころにMIKIKO先生から『Perfumeでもやりたい』と相談されていたのです」(真鍋氏)
プロジェクションマッピングを使ったパフォーマンスは近年では飽和状態にあると言っていい。それでも、あのパフォーマンスにはそれ以上の驚きがあった。真鍋氏がサーベイを徹底する理由も、そこに紐付いてくる。
「誰かがすでにやっていることと同じ事をやっても面白くないじゃないですか。だから、サーベイを徹底するのです」(真鍋氏)
その「自分たちができること」として、衣装のパーツごとに映像解析を行うことに挑戦した。
「サーベイの資料にもありますが、プロジェクションマッピングで投影する映像をインタラクティブにしたり、動いている物にプロジェクションをするというのは、メディアアートの世界では普通に行われていますね。ただ、スカートとシャツの領域を解析して、別々の映像を投影するということまではやられていませんでした。画像解析で全身白の衣装という状況下でパーツごとに区別してリアルタイム解析を行うのは難しいですからね。
YCAMのレジデンス時には衣装の形状がダイナミックに変化するところにフォーカスして実験していましたが、そこでパーツごとに違う映像を出し分ける手法を思い付いたので、試しに衣装を作成しました。それがうまくいったので、今年のSonar Tokyo Festivalでelevenplayの作品として使ってみました。そこで細かい検証作業をして、初めてPerfumeのライブで使えると確信が持てたという感じですね。
ソフトウエアはライゾマティクスの比嘉了君と共に開発しました。映像を見ていただくと、Perfumeメンバーの衣装パーツによって異なるグラフィックが映し出されているのが分かると思います」(真鍋氏)
そうすることで、今まで見てきたプロジェクションマッピングとは、またひと味違った演出が加わる。さらに、先に話したような『Global Website』と連携した演出などを盛り込むことで、観客たちを虜にするのだ。
また、今回のプロジェクトで「もっとも時間を費やしてプロトタイプした」という衣装のデザインにも、真鍋氏は「今までやったことのないこと」を要求している。「変形する衣装を作る」という要望だ。Perfumeプロジェクトのハードウェアを担当する石橋素氏は、このように語る。
「衣装が変形するだけのものであれば、ファッションデザイナーがやっていたりするのですが、今回の要望は誰もやったことがなかったので苦労しましたね。スタイリストの三田さんを中心に、MIKIKO先生、大度君、ドレスメイカーの櫻井さん、ライゾマ柳澤君で、プロトタイプを折り紙で作ったり、飛び出す絵本を参考にしたり、いろいろ試行錯誤しました。
僕は制御回路のデザインを担当していて、いくらでも大掛かりなものにもできました。ただ、カンヌで使った衣装をヨーロッパで開催するツアーに持って行くことも視野に入っていたので、複雑過ぎる衣装にしてはいけない。
彼女たちにこの衣装を背負いながらダンスをしてもらうことを考えると、よりコンパクトにしつつ耐久性もあり、シンプルでかつ機構的に重すぎないような設計は不可欠です」(石橋氏)
折り曲げても元の形状に戻る形状記憶合金を素材に使用したり、重い再帰性反射材に小さな穴を大量に空けて軽量化する工夫を行いながら、少しずつ形になっていく。
パフォーマンス中に5度変形する衣装の切り離しをどうするかなど、直前まで試行錯誤を繰り返し、カンヌ当日に最高の状態に仕上がったという。
「変形する衣装の機構としては大きく2つあって、スカートが拡がる部分と、両肩の羽のようなパーツが拡がる部分です。スカートの部分は両方の腰のあたり、スカートの根元にサーボモータが入っていて、スカートを持ち上げています。
羽の部分は、十字型に形状記憶合金の骨が入っていて、羽の先端につけたワイヤーを背中のモータで巻き取っています。ワイヤーを延ばしていくと形状記憶合金の力で羽が拡がりますが、ワイヤーを引いていくと自然に羽が閉じていく仕組みです。これらの仕組みを、舞台袖から無線で制御していました」(石橋氏)
ポイントは、どちらの機構も1回切りではなく何度も動かせるようにすることだったという。例えば、止めてあるフックを外すとバネの力で拡がる、という仕組みでは、機構的にはコンパクトになるものの、1回だけしか操作できない。
好きなタイミングで動かせるようにすることで演出上の自由度を上げるという点と、間違ってトリガーされてしまった時に取り返しがつかない状態になるのを回避する、という点を考えても、何度でも動かせると言う部分は必須の条件だったと石橋氏は話す。
「今回はサーボがうまく衣装の中に隠せたし、形状記憶合金とワイヤーの組み合わせを使うことで、そのあたりはうまくいったかと思います。あともう一つ、実は背中に赤外線のLEDが付いていて、肉眼では見えないのですが常に点滅をしています。それを舞台袖から赤外線カメラで監視していて、通信やハードウェアに異常があった時はすぐに分かるようにもなっています」(石橋氏)
Perfumeプロジェクトの成功に欠かせない、最高のチーム
日々生まれる最新テクノロジーに触れ、常にプロトタイプを外に発信する真鍋氏と石橋氏。技術的なストックを多数持っているからこそ、演出に合わせて適切な技術を採用できるのだろう。
世界中のファンを魅了するPerfumeのパフォーマンスに同じ演出がないのも、その考えが大きくかかわっている。そして、このプロジェクトには、真鍋氏ですら「笑えるくらいチャレンジ精神旺盛な人たち」と言ってしまうようなプロジェクトチームメンバーの存在が欠かせない。
「失敗が許されない中で最大限のチャレンジをするというのがこのチームの鉄則ですね。リスクヘッジも重要で、今回もバックアッププランを2つ用意していました」
総勢30名超のプロジェクトチームが一つのパフォーマンスを演出し、それをPerfumeの3人が完璧に演じる。チーム編成としては映画に近く、誰が欠けても成立しないと真鍋氏は話す。
「皆の役割が明確になっているので各自目標をめがけて突っ走れる感じですね。その分それぞれの責任が大きいので本番時には全員がドキドキしていると思います」(真鍋氏)
「プロジェクト中は大変なことも多いのですが、わたしたちが作った装置や仕掛けであの3人が完璧にパフォーマンスしてくれる。時にはステージに立ったこともないままぶっつけ本番で完璧にやってくれることもあります。それを見ると、『やってよかったなぁ』と皆思うんですよね。それが彼女たちの魅力なんだと思います。舞台、演出、楽曲、ダンス、ファン……さまざまな要素が合わさり一つに完成されるパフォーマンス自体が、もしかすると、奇跡なのかもしれませんね」(石橋氏)
最後に、振付師のMIKIKOさんから、今回のパフォーマンスとプロジェクトチームについてコメントをいただいた。
「ヨーロッパツアーへ行くにあたって、Perfumeとファンが離れていても『つながっていること』を、作品を通じて実現することが3人の願いであり、コンセプトの中心となりました。それを実現するためのプランを、YCAMでライゾマティクスのメンバーと滞在制作しているころから少しずつ練り上げた形です。テクニカルチームに関しては、『できて当たり前』という感じで演出をどうしたいか、何をやってみたいかということを一番に考えてくれている印象です。
大度さんについては、プログラマーというよりもアイデアマンというイメージが強いですね。Perfumeの3人も、大度さんだったら何か面白いことを考えてくれると思っています。もちろん、大度さん本人がPerfumeのファンだというのもポイントですが(笑)。
ほかにも、ライゾマの石橋さん、柳澤さん、比嘉さん、テッシーさんなど……皆さん個性がとても強い方々なので、一緒に制作していると現場は楽しいです。皆さんに共通しているのは、どんなギリギリになっても諦めないこと。そして、いつでも穏やかに淡々と作業しているのが印象的です」(MIKIKOさん)
カンヌのパフォーマンスを終えたPerfumeは、そのままヨーロッパ・ツアーへと突入。そこには、“奇跡の”演出を陰で支えるチームがいる。彼らが仕掛ける奇跡のパフォーマンスに、今後も目が離せない。
取材・文/小禄卓也(編集部) 撮影/竹井俊晴
【お話を伺った方】
真鍋大度さん
東京を拠点としたアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。2006年Rhizomatiks 設立、2015年よりRhizomatiksの中でもR&D的要素の強いプロジェクトを行うRhizomatiks Researchを石橋素氏と共同主宰。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、デザイン、アート、エンターテイメントの領域で活動している。坂本龍一、Bjork、OK GO, Nosaj Thing、Squarepusher、アンドレア・バッティストーニ、野村萬斎、Perfume、サカナクションを始めとした様々なアーティストからイギリス、マンチェスターにある天体物理学の国立研究所ジョドレルバンク天文物理学センターやCERN(欧州原子核研究機構)との共同作品制作など幅広いフィールドでコラボレーションを行っている。
Ars Electronica Distinction Award, Cannes Lions International Festival of Creativity Titanium Grand Prix, D&AD Black Pencil, メディア芸術祭大賞など国内外で受賞多数。
HP:http://www.daito.ws/biography
Twitter:@daitomanabe
インスタ:daitomanabe
石橋素さん
1975年生まれ。東京工業大学制御システム工学科、国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。在学中、当時発売されたばかりの加速度センサーADXL202を使い、画面を傾けて遊ぶ『G-Display』を纐纈大輝と発表。卒業後は、フリーランスとしてファッションブランドの店内インスタレーションやレセプションパーティーでのインタラクティブ装置を数多く制作。また、ショールームや科学館などの常設展示のインタラクティブシステムのデザイン・制作を行う。2008年、眞鍋大度と4nchor5 la6を設立。デバイス制作を主軸に、数多くの広告プロジェクトやアート作品制作、ワークショップ、ミュージックビデオ制作など、精力的に活動行う。過去、工業用刺繍ミシンを使った『Pa++ern』や産業用ロボットアームを使った『proportion』など、ロボットを取り入れた作品を制作している。『Lenovo』『ラフォーレグランバザール』TVCMに作品提供。やくしまるえつこMV『ルル』『ノルニル』『少年よ我に帰れ』に参加。『perfume 3rd tour -JPN-』武道館追加公演にてLED衣装制作
HP:http://www.motoi.ws/
Twitter:@motoi_ishibashi
インスタ:motoi1484
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