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ソフトウエアエンジニアがUX/UIを考える上で読むべき4冊の良書と名言たち【五十嵐悠紀】

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    五十嵐 悠紀

    計算機科学者、サイエンスライター。2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。日本学術振興会特別研究員(筑波大学)を経て、明治大学総合数理学部の講師として、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは三児の母でもある

    何か製品を考える時、そのものがカタチのあるものであっても、はたまたコンピュータの中で動くソフトウエアだったとしても、「ユーザーインターフェース(以下、UI)」について考える必要があります。さらには、わたしたちが日常生活においてストレスなく過ごせている裏側には、さまざまな人によって考えられてきたUIデザインが隠されていたりもします。

    わたしは滞在先のホテルで、洗面所に入ったものの出ようとした時に扉があかなくて困ったことがありました。鍵は掛かっていないし、建てつけが悪くて開きにくいのかと何度も押したり引いたりしてみましたが全然開きません。中からドンドンドン!と扉を叩いて部屋にいる家族を呼び開けてもらうと、実はその扉は引き戸だったのです。

    それは、取っ手がこのような形状だったため、「押すか引くかだと思い込んでしまった」わけで、わたしは引き戸だとは思わなかったのです。

    このように人間が「押したり引いたりしたくなるような取っ手」と、「スライドしたくなるような取っ手」があることが分かります。

    日常生活をしていると気付かない至るところに、多くの人が考えてきたUI設計が隠されています。

    初めて手にする人でもスムーズに使いこなすことのできるような設計をするために知っておくと良いこと、ノウハウなどもあります。

    先ほど、ドアノブの例を挙げましたが、ソフトウエア開発でも同様で、UIデザインは欠かせません。例えば、ソフトウエアを閉じようとするとどのような表示が出るでしょうか?編集中のファイルであれば、「保存しますか?」という画面が出て、そこには「はい、いいえ、キャンセル」が並んでいます。それではこの順番が異なると使い勝手はどうでしょう?この並び順も一種のデザインです。

    今回は、そんなUIデザインを考える上で、ソフトウエアエンジニアにとってもためになるであろう4冊の著作を、書籍内の印象的な言葉とともにご紹介しようと思います。

    良書

    UI/IXのバイブル的一冊

    「誰のためのデザイン?」(著者:D.A.ノーマン氏)

    “人が技術を使うときに困ったことがあると自分を責めがちである”

    D.A.ノーマン氏は本書で、「ヒトが技術を使う時、システムの操作を誤ってしまったり、使い方が覚えられなかったりすると自分自身を責めてしまいがち。しかし、『悪いのはデザインである』」と指摘しています。

    わたし自身、開発途中のシステムを用いたユーザー評価実験で「UIがわかりにくい」、「コンピュータでいろいろデザインしたものの保存がしにくい」、「ペン入力での操作方法が覚えられない」といった事態が起きた時に、わたしは「このシステムで操作しづらいところがあれば、それはこのシステムを作ったわたし自身の責任です。使えない!使いにくい!という部分があったら、遠慮なく指摘してください」と必ず伝えるようにしています。

    この本はUI/UX分野のバイブルでもあり、すでに読んだことがある人も多いかもしれません。本書では、身近なものに隠されたUIデザインにおけるさまざまな問題点について、認知心理学者的視点から考察・分析をしています。ユーザーにとって良いデザインとは何か、を考える上で普遍的な要素がたくさん詰まった良書です。

    「設計・開発に重要なのは”骨”」を伝える一冊

    「デザインの骨格」(著者:山中俊治氏)

    “形を描こうとしてはいけない。構造を描くことによって自然に形が生まれる”

    本書はプロダクトデザイナーである山中氏によるblogをエッセイ集としてまとめたものです。山中氏はプロダクトを新しくデザインする時には製品を分解して、骨格の理想形を探ったりもするそうで、まさに「骨格を知る」を体現されています。

    「骨格を知る」ことが大切なのは製品だけではありません。同書では、”大切なものを言葉で表現するために、あいまいさや誇張を排除していくと、ドンぴしゃの言葉に行きあたる。この時この言葉がプロジェクトの骨である”とも述べられています。

    わたしは小さい頃から文章を書くのが好きでしたが、父に見せると必ず「骨子は何だ?」と聞かれていました。このような「骨」の考え方は、ソフトウエアデザイン、UIデザインなどにも当てはまる考え方だと思います。

    設計・開発をしていると、あれもこれもと機能をつぎ込みがちになることもありますが、それではダメ。何が一番大事か、つまり「骨は何か」を常に意識する必要があります。そして、その「骨」を目立たせるためにはあえて切り捨てる必要もあります。

    「ユーザビリティとは何か」を読み解く一冊

    「ユーザビリティエンジニアリング」(著者:樽本徹也氏)

    “ユーザビリティはシステムや製品が完成してから付け足すものではありません”

    本書では、技術優先の考えや作り手の勝手な思い込みを排除して、ユーザーの視点に立って設計を行う、ユーザー中心設計(UCD: user centered design)という手法について言及しています。

    ユーザー中心設計とは、ユーザーから出される「こんな機能がほしい」「この部分を変更してほしい」といった不満・要求に応えることではありません。設計者自身がユーザーを観察したりインタビューしたりして、ユーザーの具体的な利用状況を把握した上で、潜在的なユーザーニーズまで探索したりすることを言います。設計段階からユーザビリティを考慮することが大事です。

    この本には「ユーザー調査とユーザビリティ評価実践テクニック」という副題が付いており、ユーザー調査・評価のためのテクニックが具体的な例と共に記載されているのでその点からも参考になる一冊です。ユーザー調査・評価は、一般的に多くの時間やコストが掛かるものであり、やり直しもなかなか効きません。各章ごとに参考文献リストが付いていますので、自分に必須のところだけ深く掘り下げて調べるのにも便利でしょう。

    分野を超えた知識力・対応力の必要性を教えてくれる一冊

    「Designing for Interaction (インタラクションデザインの教科書)」(著者:Dan Saffer、訳:吉岡いずみ)

    “各研究分野のスペシャリストが一人ずつ、組織内に必要なわけではない。大切なのは専門知識であって、肩書ではないのだ”

    インタラクションデザインは、UXデザインやUIデザインのほかにも、ユーザビリティ工学、工業デザイン、コミュニケーションデザイン、ヒューマンコンピュータインタラクションなど……、さまざまな分野で考えられてきました。

    これらの専門分野はどれも比較的新しい分野でお互いの境界線がはっきりしているわけではありません。つまり、必要に応じていくつかの分野にまたがって仕事をする知識・応用力が求められているということです。

    本書では、インタラクションデザインにまつわる法則や、基礎的技術・要素など、まさに”教科書”として一通り勉強するのに適した内容が盛り込まれています。上に挙げた以外にも認知学,心理学といった分野も関係してきますし、それらの分野にある程度精通していないと他者と仕事をする際には効率的に作業できないといったことも起こってきます。

    良書に出会い、「開発をデザインできるエンジニア」に

    今回ご紹介した本は、多くの本の中から特にソフトウエア設計に携わる人、評価をして設計にフィードバックする人に有意義な名言をピックアップしてみました。

    「それぞれの分野の境界線がはっきりしていない」と上記で述べましたが、このような境界領域・複合領域で仕事をする上で大事なことは、たくさん勉強することと、いろんな人と一緒に仕事をすること。これがより良い仕事につながるとわたしは考えています。

    「もっとUI/UXに関する勉強をしたい」という方がいらっしゃれば、Amazonなどで検索をすると、今回ご紹介した本に近い本も出てきますので、きっと自分の感性や世界観を変える一冊に巡り合えると思いますよ。

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