「ソフトウエアの熟練工になるな!」大前研一・創希親子の会話に見る、2035年に通用する人材像【AWS Summit Tokyo 2015】
2014年、1つのニュースが議論を呼んだ。「今後20年ですべての仕事の47%が自動化される可能性がある」とエコノミスト誌が予測。この記事には、スポーツの審判や保険鑑定士オーダーを受けるスタッフなど、多くの仕事がシステムの進化により潰えてしまうと記されていた。
事実、AWS(Amazon Web Services)の高いパフォーマンスにより、サーバ管理や運用に割いていたコストから解き離れたという声もある。このように、人の手を介す必要がない仕事は近い将来、増えていくのかもしれない。
2015年6月2日、東京・港区のグランドプリンス高輪で開催された『AWS Summit Tokyo 2015』。DevCon Day1 クロージングキーノートのテーマは、「2035 年、その時デベロッパーはどう生きるか」。登壇者は経営コンサルタントであり、ビジネス・ブレークスルー大学 学長の大前研一氏。ファシリテーターは、実子でありクリエイティブホープ代表取締役会長の大前創希氏が務めた。
大前研一氏の著書『インターネット革命』の発刊が1995年。あれから20年が経った今、さらに20年後の2035年に作り手の生き方とはどうなっているのだろうか。そして、そこで求められる人材像とは何か。
大前親子のセッション中に語られたのは、人がマシンに置き換わらない力を手に入れる重要さだった。
『インターネット革命』を超えた世界を迎えている
大前創希氏(以下、敬称略) 父はすごいなと思うことに、『インターネット革命』を書いたことがあります。今日、この日があるのではないかと予見して1995年に出版されているんですよね。
大前研一氏(以下、敬称略) この本を書いた当時、1995年はパソコン通信しかなかった。ロータスのクローズドユーザーグループで社内の会議やデータ共有をはじめた時代です。
インターネット革命でこんな世の中になるのではないか。仕事はこう変わっていくのではないかということを書きました。
『インターネット革命』は30万部売れたんですね。その時、ほとんどの経営者は「大前さん、僕たちが生きている間はこういう風にならないですよ」と言ったんです。
ですが、Windows 95が登場してからは、生きている間どころか5年後にはこの本が遅れているという時代になりました。1995年から2000年の間が大きな転換期と言えるでしょう。革命的な時代でしたね。
創希 私、この本を読み直したんですよ。すごいなと思うと同時に、20年前に予見できていなかったこともたくさんあるのだなと感じました。
例えば、VOD(Video On Demand)の話。消費者におけるVODはまだまだ時代が早いという話です。ですが、現状はAWSを使ったNetflixのようなサービスが出てきています。20年前に予見できなかった今の時代についてどうお考えですか?
研一 スティーブ・ジョブズがiPodを出して、ダウンロードの時代が始まりましたね。ですが、従来のCDを作っている人はパッケージ ごと買ってくれると思っているわけです。ソニーが遅れてしまった時代と言えるでしょう。
そして、ダウンロードの時代が今や、ストリーミングに置き換わっています。Appleでさえもストリーミングには遅れてしまっている。そんな時代なんですよ。
ケーススタディは時代遅れ。リアルから学ぶべし
創希 20 世紀型の人材と21世紀型の人材の違いを先週末に2人でディスカッションしました。20世紀型の人間はケーススタディ、21世紀型の人間はRTOCS(Real time online case study)を重要視するという違いがあります。
研一 ビジネススクールでケーススタディをやりますよね? ほとんどのケースは作るのに半年掛かる。そのケースを4、5年は使うわけです。何が起きているかと言うと、その会社が存在していないのです。
私もスタンフォード大学のビジネススクールで教えていましたが、ケーススタディをやってみると「先生、この会社潰れていますよ。この会社とこの会社、合併してないんです」という声が出るわけです。
そこで「ここに書いてあるケースだと思って、ディスカッションしてみてください」と言っても、生徒はしらけているわけですよ。この先生遅いぞと。ポラロイドとコダックのケーススタディなんて、今やっても意味ないですよね?
今、この会社のトップだったらどうなるか。この視点でなければいけない。リアルタイムこそがリアルなんですね。
ちなみに、Teachという言葉はデンマークでは禁止されている言葉です。21世紀は答えのない世界。Teachは答えを前提にして教えるということです。答えのない世界で先生はどうして教えられるのかということですね。
TeachとLearnにはものすごく大きな違いがあります。
21世紀は教わる、習う、覚える、こういうことではやっていけない時代です。20世紀と一番大きな違いはここでしょうね。
私が行っているビジネス・ブレークスルー(BBT)では2つ教育を用いています。1つは、世の中に出てビジネスをやろうと思ったら、いろんな人の意見を聞いて判断する力を磨くこと。この能力を養おうと思ったら、ありとあらゆる人と相談して「私はこう思います」と言えることが大切なんです。相談しながら集合知を養うということですね。
次に、ある時間にPCの前にいてくださいと伝えて、2時間で800字の論文を書いてもらう試験もしています。そこでは、個人の知を磨きます。つまり、集合知と個人の知。両方が大切なんです。
新しい価値を生み出す力を手に入れよ
創希 先週末のディスカッションから「ソフトウエアの熟練工になるな」というキーワードが出てきました。ここには、2つポイントがあります。まず、熟練工はマシンの仕事になってしまう。次に発想、構想、コンセプトを作る仕事が重要になるということです。
研一 マシンの仕事になる手前に、エキスパートになるだけだと単価が安い国に仕事は移るでしょう。最初に観測されたのは、アメリカのソフトウエア開発会社がインドに行ってしまったということですね。
それからさらに世界中に広がった。プログラミングには標準があるためですね。その標準の中でやる分には、単価は安い方がいい。例えば、IBMにシステム開発を依頼すると月300万円、安い会社だと60~80万円。ですが、6万円で作る人が世界にはいるのです。
機械や今の仕組みにアービトラージされるような、仕事の熟練工になってはダメだということですね。
創希 今ですらクラウドを使えば安いところに仕事を出せる。それが20年後には、ソフトウエアによって人がやらなくてもできるところがたくさん出てくる。
研一 キーは発想、構想、コンセプト。新しいことを考えついてそのシステムを作る。もしくは、Appleのように自社でOSを作って、その先のマシンに変えていくところは、メディアテックのような企業に作ってもらう。重要なことは、最初の発想は自分で考えることです。
創希 最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化出来る者だと言えますね。
取材・文・撮影/川野優希(編集部)
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