「セブ島に半年滞在して無料でプログラミングが学べる」一風変わった教育プログラム『geechs camp』が、とても理にかなっている
東京・渋谷にあるエンジニア向け無料イベントスペース『21cafe(ニイイチ・カフェ)』の運営や、フリーランスネットワーク事業、ソーシャルゲーム事業などを手掛けてきたギークス(旧ベインキャリージャパン)が、2014年1月から若手人材を対象に一風変わったエンジニア教育・育成プログラム『geechs camp』を始動させる。
「一風変わった」と形容したのは、フィリピン・セブ島に短期在住するスタイルで、英語力と開発力の両方を高めることを目的としたプログラムだからだ。
同プログラムの2期生は今年11月末で募集を終えているが(3期は2014年4月から開始予定)、1期5人程度の意欲ある「エンジニア未経験者」を選抜し、セブ島で語学学校を運営する同社のグループ会社ネクシードの施設で3~6カ月の研修を実施。
参加者は、面接などを経て同社の社員として採用した上でプログラムに入るため、セブ島への渡航費から現地での滞在費、受講料など全額を同社が負担する。
今回、『geechs camp』の立ち上げと研修カリキュラムの設計を担った同社執行役員のCTO澤田哲也氏に、なぜこのようなスタイルのエンジニア育成プログラムを展開することにしたのかを聞いた。
今の時代のエンジニアに必要な3つの素養を前提に展開
1974年生まれの澤田氏は、大学在学時にインターネットに出合ったことがきっかけで卒業後にNTTへ入社。以後、Yahoo! JAPANやグリーなどへの転職を経て、主にポータルサイトのフロントからバックエンド全般にわたる分野でスキルを磨いてきた。
この自身の経験から、今の時代、エンジニアが置かれている状況をこう話す。
「最近はプログラミングさえできれば、Webサービスやスマホアプリを個人でもリリースできる時代です。ただ、それだけで満足してしまっては、増加していくトラフィックに対応できないなど、ビジネスとしてスケールさせる際にスキル不足という壁にぶつかってしまいます」
それに、現在は澤田氏がIT業界に入った2000年代と異なり、Web上にさまざまな開発環境が用意されているため、サービス開発の優劣はスピードで決まるという面もある。
「知識不足、スキル不足で手掛けるサービスの成長が鈍化している合間にも、競合となる他社や個人が次の打ち手をどんどん実現してしまう」(澤田氏)のだ。
さらに、規模の大きなサービスともなれば、当然ながら1人では開発も運営も手掛けることはできない。複数のエンジニアと協力しながらサービスを育てていく経験が必要になる。
こうした時代背景から、澤田氏が考えた「若手エンジニアが身に付けておくべき素養」は以下の3つだという。
【1】フロント・サーバサイド両方の開発知識
【2】技術情報のソースにいち早くたどり着くための英語力
【3】独力では限界がある学習の速度をチームで高め合う姿勢
つまり、この3つを最低限のベースとして持ちながら、実際のプロジェクトを通じてキャリアを広げていくことが大切というわけだ。
『geechs camp』では、これらの土台をゼロから作り上げるためのカリキュラムが組まれている。
【IT×英語】を半年で学ぶためのカリキュラム
具体的なカリキュラムを紹介しよう。
セブ島に着いた参加メンバーは、週末を除く平日5日間のうち、毎日2時間の英語学習と6時間のIT研修を受講する。その過程、英語学習は講師とのマンツーマンで、IT研修では澤田氏ほかベテランエンジニアからなる講師陣が技術学習のサポートや開発の助言を行うという。
スケジュールとして、最初の3カ月はiOSアプリを1つ作製することをゴールに、HTML+CSS+JavaScriptといった基礎知識の習得からObjective-Cでのコーディングを体験。続く2カ月でLAMP環境を中心としたサーバサイドの技術知識を学び、残り1カ月で参加者自らが作りたいアプリサービスを企画・設計・開発するところまで行う。
研修の最後に、開発したアプリをプレゼンしながら、参加者同士でレビューを重ねるという内容だ。
あえてセブ島でこうしたプログラムを実施するのは、生きた英語が学べる環境であることと、日常生活から離れ、集中して開発スキルとプログラマー的思考を身に付ける経験をしてほしいからと澤田氏は話す。
また、1度の参加メンバーを5人程度としたのは、少人数制にすることで「独学では足りない部分を仲間内で補い合ってゴールまでたどり着く経験を積んでほしいから」(澤田氏)。互いに切磋琢磨できる適切な人数を検討した結果だ。
「サービスエンジニア」として国際的に活躍する人材を輩出したい
この教育プログラムを通じてギークスが目指すのは、「ギークス社員として存分に活躍してもらった後、将来的にフリーランスとして自立するにせよ、スタートアップを立ち上げるにせよ、国際的に通用するサービスエンジニアを育成・応援する」という理念の達成だ。
カリキュラムを見ても、コーディング力だけが売りのプログラマーを育てるのではなく、しっかりサービスを開発・運営できるエンジニアを育成していこうという思いが読み取れる。
「今回、『geechs camp』の2期生に応募があった方々のうち、約8割が開発未経験者でした。スマホでアプリを使ってみて、『面白い』、『楽しい』と思った経験があって、自分でも新しいサービスや新しいアイデアを実現したいという思いが強い人を選抜したつもりです」
開発経験の有無を問わず、こうした“思い”が強い人ほど、このプログラムに参加する意義があると澤田氏は期待する。
「これは個人的な印象ですが、以前シリコンバレーなどへ行った経験から、日本のサービス開発は中国や韓国、ベトナムなどと比べても遅れを取っていると感じています。こうした国はもう10年以上も前から、多くの人たちがアメリカへ留学して最先端の技術を身に付けた後、ITサービスの立ち上げや運営のノウハウを自国に持ち帰っています。日本でもグローバルな視野を持ったサービスエンジニアを育てたいというのが、今回のプログラムを立ち上げた最大の理由ですね」
エンジニアが必要とされる場が増え続けている中で、未経験の人材を発掘・育成していくという息の長い取り組みが、静かに動き始めている。
>> 『geechs camp』の詳細や、問い合わせ先はコチラ
取材・文/浦野孝嗣 撮影/伊藤健吾(編集部)
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