キャリアVol.71

たった4年で新世代に移行した『ゴルフⅦ』が行った、国産メーカーも見習う「生産改革」【連載:世良耕太⑭】

F1・自動車ジャーナリスト 世良耕太(せら・こうた)氏モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー4』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

フォルクスワーゲン(以下、VW)の基幹モデルであるゴルフがモデルチェンジし、7代目に移行した。

Volkswagen
From Volkswagen
フォルクスワーゲンが今秋発表した、ゴルフのニューバージョン『ゴルフⅦ』

『ゴルフVII(セブン)』と通称されるこのクルマのデリバリーが始まるのは、VWの本拠地があるドイツを中心としたヨーロッパからで、日本上陸の時期は未定だ(筆者の予想では2013年中だろう)。

先代の『ゴルフVI(シックス)』がデビューしたのは2008年(以下、ドイツ本国基準)だから、4年のインターバルで新世代に移行したことになる。

これは、ヨーロッパ車の基準に照らし合わせても、近年の日本車の傾向と照らし合わせても短い。どうしてこのような事態になったのだろうか。

解き明かしに移る前に、歴代ゴルフのモデルライフを確認しておこう。

ゴルフI:1974~1983=9年

ゴルフII:1983~1991=8年

ゴルフIII:1991~1997=6年

ゴルフIV:1997~2003=6年

ゴルフV:2003~2008=5年

ゴルフVI:2008~2012=4年

ゴルフVII:2012~

新世代への移行サイクルが、代を追うごとに早くなっているのがお分かりになるだろう。

現行モデルに新しい機能を加えていくと、クルマは重くなるし、高くなる。ある機能を載せる引き換えに、別の機能が劣ってしまう場合もある。だからリセットしたい。パッケージングからやり直し、燃費であったり安全性であったり、動的なパフォーマンスであったりを引き上げつつ、価格を従来と同等に抑えるように工夫をする。

結果、新型モデルは従来型より高機能になったにもかかわらず、多くの場合、価格は従来と同等で、相対的には価値が高まる。極論すれば、スタイリングは価値が高まったことをアピールするお化粧に過ぎない(特に実用車の場合)。

新型モデルを開発する際、その新型モデルと現行モデル、あるいは新型モデルと別のモデルの部品を共用して投資コストを抑えるのは製造業の基本。だが、外見のお化粧直しをするにしても型を新規に起こす必要があり、その投資が無視できない額になる。

そこでゴルフである。商品性が著しく低下したとは思えないのに、世界のトレンドに反して短いサイクルでモデルチェンジするとはどういうことか。キーワードは「共用」だ。

生産手法の標準化で、設計の自由度を高める

新型モデルと現行モデル、あるモデルと別のモデルの部品を共用するのはコスト面で有利だが、それと引き換えに設計の自由度を奪ってしまう。

『ゴルフVII』が取り入れた「共用」の概念は、部品を共用することに変わりはないものの、狙いが違う。設計の自由度を縛る方向ではなく、解放する方向なのだ。

VWのエンジンは、ゴルフだけでなく、一回り小さいポロや、7人乗りミニバンのトゥーランといった大きなモデルとも共用している。そのエンジンだが、ガソリンエンジンは前方排気/後方吸気のレイアウトで、前方に10 度傾いている。一方、ディーゼルエンジンはガソリンとは逆に前方吸気/後方排気のレイアウトで、後方に12度傾いている(以下の写真参照)。

Unification of powertrain installation positions
From Volkswagen

新型を開発する場合、両エンジンをキャリーオーバーすれば開発コストは抑えられる。ほかのモデルとも共用できて、コスト面で好都合だ。だが、レイアウトの異なるエンジンを搭載するには、それぞれ専用のマウント部品を用意しなければならず、エンジンを搭載するスペースも広く取る必要があり、車軸の位置を決めるにも制約が生まれてしまう。

共用やキャリーオーバーは一面的には善でもあるのだが、悪に化ける場合もあるということだ。

共用化率ばかりに目を向けてしまうと、設計上の縛りがキツくなり、自由な発想を奪いかねない。ゆくゆくはそれが製品の魅力低下につながって、売上は落ち、経営を圧迫することになる。

それを避けるために、VWは設計と生産の面で大規模な「リセット」を決断し、小さなクルマから大きなクルマまで、さらには、VWグループに属する他ブランド(ドイツのアウディ、スペインのセアト、チェコのシュコダ)まで含めて設計・生産手法を標準化した。そのタイミングに合わせたので、ゴルフのモデルチェンジ時期が早まったのである。

日本メーカーも参考にしたい、「前向きな合理化」とは?

ガソリンエンジンの搭載位置反転は標準化のほんの一例で、ディーゼルと同じレイアウトにした。これにより、『ゴルフVII』は前車軸の位置が『ゴルフVI』に比べて43mm前方に移動。前車軸を起点にすると、ドライバーは『ゴルフVI』に比べて43mm後方に座る格好になった。

ひと目でゴルフと認識できることに変わりはないが、プロポーションの違いは明らかだ。

Volkswagen拠点間統合
From Volkswagen
大きな変革を行うには、まず土台から――その大原則に則るべく、地道な「拠点間統合」を続けてきたVW

生産手法の標準化とはこういうことだ。VWはグループ全体で220のモデルを抱え、生産拠点は世界90カ所に達する。設備は新旧さまざまで、比較的新しい設備を備えたある工場では新しい工法に対応できるけれども、古い設備が残った別の工場では対応できないといった事態が生じがちだ。「対応できない」側の設備に合わせて設計すると、やはり、設計の自由度を奪ってしまう。

そこもまたリセットし、世界各拠点で標準化した。モデルごと、グループごと、地域ごとの実態に合わせた設計・生産手法を踏襲していたのではあまりにも無駄が多いので、思い切って合理化(=設計・生産の標準化)に取り組んだのだ。

設計の古い部品を単純に使い回す後ろ向きな合理化ではなく、新しい技術を広く使えるようにする前向きな合理化である。

MQBと名付けた横置きエンジン搭載車の設計・生産手法がカバーする生産台数は年間400万台に達し、VWグループの最ボリュームゾーンを占める。実は先にモデルチェンジしたアウディA3がMQB第1号なのだが、数字のインパクトの面ではゴルフの方が圧倒的に大きい。

その『ゴルフVII』、MQBの導入によって先代『ゴルフVI』との比較で最大100kgの軽量化を達成した。旧来の部品共用化と決別し、新しい設計・生産手法を取り入れたために、ボディ骨格を形成する鋼板のみならず、エンジンや駆動系、電装系やエアコン、シートにダッシュボードなど、さまざまな部品で設計の合理化を推し進めた成果である。

クルマの材料費は重量と比例するので、クルマが軽くなれば、1台あたりの生産コストは低くなる。浮いた分を高機能化に回せば、商品性の向上につながる(実際、ゴルフはそうしている)。燃費面でも運動性能の面でも軽量化は大きなメリットをもたらす。良いことずくめだ。

有意義だと理解できる戦略であっても、スケールが大きくなればなるほど、社内各部門でいろんな思惑があったり利害が絡んだりで、実現に向けてハードルが立ちはだかるものだ。旧来の手法を打ち破るのは難しい。

だが、世界生産台数トップ、1000万台規模を目指すVWは、縛りの連鎖が破滅につながるとの危機感から、設計・生産手法の大改革を決行した。

その象徴が『ゴルフVII』。同様の事情(悩み?)を抱える国産メーカーも大いに刺激を受けている。

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