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カップル専用SNS『Pairy(ペアリー)』開発陣に聞く、アクティブ率改善のカギ~肝は「絆の可視化」とO2O戦略
今回紹介するのは、カップル専用クローズドSNS『Pairy』を開発するTIMERS。リリースから1年3カ月を経て600万PVを突破し、UI変更や新機能が追加された大幅なリニューアルを行った彼らの狙いとは?
OS/Android対応のカップル専用クローズドSNSアプリ『Pairy』 。カップルのコミュニケーションをより円滑にし、関係性を深めることができるサービスだ。
主な機能として、写真を整理、共有するペアアルバム、オススメのデートスポットのチェックリストを共有するデート機能。さらに、スタンプが利用できるチャットなどを搭載している。
2012年6月のリリース後、着実にユーザー数を増やし、現在では月あたりのアプリへのアクセス数が600万を突破。そんな勢いに乗る『Pairy』が、2013年8月19日にデザインを一新し、機能を追加する大幅なリニューアルを行った。
ver.3.0となる今回のアップデートでは、UI変更により、トップページのメニューボタンに、写真の枚数、デートの予定数などの表示機能を追加。加えて、HOME画面左下にアクションボタンを搭載し、初めてこのアプリに触れる人が何をすればいいのか一目で分かるように。
また、ver.2.0まではデート機能の一部であった予定共有を『カレンダー機能』として独立。デート予定の一覧表示などが可能になった。
アイデアの出発点:カップルは振り返ることで絆が深まることに気付いた
『Pairy』の開発を手掛けるのは、株式会社TIMERS。もともと博報堂でプロモーションプランニングをしていたCEO兼Designer高橋才将氏とCOO田和晃一郎氏、DeNAでエンジニアをしていた椎名アマド氏の3人で、2012年に設立されたスタートアップだ。
「エモーショナルなサービスを作りたい」という思いを発端に、カップル専用のクローズドSNSという特殊なジャンルのサービスに目をつけ、開発をスタートさせた。
これまでのバージョンアップは機能の追加・改善のみだったが、リリース後1年3カ月を経て、大幅なUI変更を行ったきっかけはユーザーの声だった。
「『Pairy』をリリースしてから1年が経ったタイミングで、このアプリがどのような使われ方をしているのかユーザー800人ほどに定量アンケートを実施しました。その結果、1カ月以上前のチャットのやり取りを振り返る人が全ユーザーの40%もいたことが分かったんです。
裏を返せば、思い出を振り返ることに多くのニーズがあるということ。そのニーズに応えるために、思い出の可視化ができるよう、UIの一新に踏み切りました」(田和氏)
ユーザー心理をひもとくことで、機能の追加ではなく、「思い出の可視化/数値化」が必要だと気付いたTIMERS。その意識が最も如実に表れているのが、HOME画面におけるメニューの数値表示だ。
ほかにも、画面左上のアクションボタンをタップすると、付き合い始めてからの日数や、相手の誕生日までの日数が表示されるなど、過去の出来事を数値化することで、思い出の可視化を図っていることが分かる。
「新たに搭載したアクションボタンをタップすると、われわれがユーザーに最も望むアクション、例えば『アルバムに写真を追加』などの3項目が表示されます。『Pairy』は思い出を蓄積するためのツールでもあると、方向性を示すために新設しました。実際、リニューアル後には写真のアップロード数が前バージョンと比べて130%に増えています」(高橋氏)
いわゆるアクセス解析ソフトでは、頻繁にタッチされる場所やユーザーのアプリ内での動きしか分からない。思い出の可視化という発想に至ったのは、ユーザーの思い出に対する志向を抽出できたからこそだ。
数字の裏に隠された、ユーザーの真相心理を読み解いたことが、リニューアルを成功に導いたといえる。
開発のポイント:カップルのニーズ≠ユーザビリティの高さ
成長を続ける『Pairy』の開発を担うのは、CTOの椎名氏とインターン生だ。インターン生はそれぞれiOS、Androidでの開発を担当。椎名氏はインフラ整備やバックグラウンドシステムの構築、インターン生のフォローまでを一手に引き受けている。
「ひと月に600万アクセスもあり、毎秒膨大なテキスト、写真の送受信があるサービスのインフラ整備を1人で行っている会社はあまり聞いたことがない」(田和氏)というが、どのような技術と工夫で可能にしているのか?
「思い出の数値の表示は、データをいかに正確に処理して保存、管理するかにかかっています。それを可能にするために、『REDIS』というオープンソースのサーバシステムを使用。このシステムはデータの一時保存に優れていて、動作スピードも速いので、今回のUIのような数値の表示にはうってつけなんです」(椎名氏)
『Pairy』は数値の表示方法にも、ほかのアプリとは違う一風変わった工夫が凝らされている。
「数値が表示されるメニューボタンは、HOME画面の真ん中に配置しています。一般的なアプリのUI理論から言えば、“メニューは最下部かサイドへ”ですが、カップルが求めているのは機能性以上に“思い出が貯まっている2人だけの空間”という特別な世界観です。
あえて一般的なUIの考え方を安易に取り入れず、ユーザーが求めている体験を重視した結果、ユーザーが個々で設定するホーム画面の写真の上にメニューボタンを配置しています」(高橋氏)
カップル専用という特化型のサービスを発展させるために取った手段は、その特殊性をさらに加速させるための思い切ったUI設計だった。ただ、特殊ゆえの苦労もあるらしい。
「安定したサービスの供給には人一倍気を使っています。負荷が重くならないようなキャッシュ処理は、基本ですが疎かにはできない。少しでも障害が起きて、カップル同士のコミュニケーションにすれ違いが生じ、『Pairy』が破局のきっかけになってしまっては大変ですから」(椎名氏)
マネタイズを意識したO2O戦略は「1粒で3度おいしい」
着実な進化を遂げている『Pairy』だが、今後はO2O(オンライン・トゥ・オフライン)を意識することで、よりサービスの強化を図っているという。
「オフラインの行動であるデートの充実化が直近の課題です。今回のリニューアルで、デートの予定登録数などは前バージョンと比べで250%にアップしましたが、今はどのカップルにも当てはまるようなデート情報しか提供できていない。地方によって特色を出したり、登録されたプロフィールを解析し、よりパーソナライズ化された情報提供をしたいと考えています。カップルの関係性を深めるために、良いデートは不可欠ですからね」(高橋氏)
デート機能を強化させることはユーザーの満足度を上げるだけでなく、会社を運営する上で重要なマネタイズにもつながってくる。O2Oの領域での広告モデルはもちろん、Pairyが考えているビジネスモデルの一つだ。
「カップルは1人の時よりお金を使うという考えは、サービス開発当初から持っています。より、カップルにマッチしたデートスポットをアテンドすることで、実店舗やスポットへのユーザーの導入を促し、Win-Winの関係を築けるようにしたいです」(高橋氏)
さらに、オフラインを意識することは、新規ユーザーへの獲得も可能にするという。それは、オンラインでのシェアがされにくい、クローズドSNSというサービスの特性があるからだ。
「カップル2人だけの閉じた世界、ということもあって、オンラインで『Pairy』はあまり話題に出てこないんです。一方、女子会などで口コミで着実に広めてもらっていることが最近のユーザーアンケートのデータでも表れてきています。
デートでどこに行った、ここが良かった、という話をしてもらっているのはもちろん、2人で1つの質問に答える“質問カード”という機能で、変な質問や解答があった時に話のネタにしたというアンケートが多いのは狙い通り。オフラインの場に『Pairy』が入り込む方法は常に考えています」(高橋氏)
O2Oを意識することは、マネタイズに近い利点のみが挙げられがち。しかし、ことカップル専用のクローズドSNSというサービスにおいては、収入に加え、ユーザーの満足度、新規ユーザー獲得という3つの利点を得ることができるのだ。
サービスに愛着を持ちたいエンジニアはTIMERSが引き受ける
積極的にスタッフを採用して組織を拡大中だというTIMERS。1人でインフラを支える椎名氏に、今後必要なエンジニア像を聞いてみた。
「数分間落ちるだけでクレームが入るということは、『Pairy』に愛着を持ち、日常的に使っているユーザーがいる証拠。そんなサービスを開発していることに、誇りを持っています。TIMERSが探しているのは、わたしと同じように自分が開発するサービスに愛着を持てるエンジニアです。新卒でソーシャルゲームなどの業界に入っていくエンジニアも多いですが、ゲーム自体にそこまで興味を持っていない人も多いみたいですから」(椎名氏)
ユーザーに愛されるサービスを育てるため、自分たちがそのサービスを愛する。一歩間違うと、古風な精神論になってしまいかねないが、カップルの感情にダイレクトに影響を与える『エモーショナルなサービス』開発に携わる人間だからこそ、そんな言葉にも説得力がある。
「自分で開発しているサービスに疑問を持ち、会社を辞めてしまうエンジニアもいると思う。そんなエンジニアたちの受け皿のような組織になりたい。そのために『Pairy』は愛される存在であり続ける必要があるんです」(田和氏)
組織拡大の先には、『Pairy』がカップルにとって必要不可欠とまで言われるようなサービスに育てたいという思いがある。
「ゆくゆくは、『Pairy』を使うとデートが成功する、長続きするカップルになるといった認知をされるのを目指しています。その結果、カップルになったら誰もが『ペアリングを買おう』となるのと似た感覚で、カップルになった証拠としてみんなが『Pairy』に登録する社会にしたいですね」(田和氏)
ユーザー心理を敏感に察知し、着実に前進を続けるTIMERS。ユーザーにも社員にも愛され続ける存在に『Pairy』を育てるべく、日々邁進する彼らの今後に期待だ。
取材・文/長瀬光弘(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴
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