キャリアVol.212

対戦型脳トレゲーム『BrainWars』が見据える、言葉の壁を超えた「新しいコミュニケーション」とは?【連載:NEOジェネ!】

NEOジェネ!

世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、オフィス向けランチ宅配サービス『bento.jp』を提供する株式会社ベントー・ドット・ジェーピー。注文してから届くまでわずか20分という圧倒的な配送スピードは、いかにして実現したのか。徹底して「速さ」にこだわる理由とは。

トランスリミット
トランスリミット
(左から)代表取締役 高場大樹氏
開発エンジニア 早川豪氏
デザイナー 花城泰夢氏
取締役 工藤琢磨氏

『BrainWars』とは

対戦型脳トレゲーム『BrainWars』
対戦型脳トレゲーム『BrainWars』

トランスリミットは、サイバーエージェント(以下、CA)グループに務めていたエンジニアの高場大樹氏と工藤琢磨氏が、2014年1月に独立して創業したスタートアップ。その最初のサービスとしてこの5月にリリースしたのが、スマートフォン用対戦型頭脳ゲーム『BrainWars』だ。

プレイヤーは、自動でマッチングされた相手と3ラウンドのミニゲームで対戦し、スピードや正確性などのスコアを競う。ランダムに選ばれるミニゲームは四則演算や神経衰弱など、どれもシンプルかつ直感的なものばかり。特定の知識や言語を必要としないので、子供から大人まで、世界中の誰もが純粋に脳機能の勝負を楽しめる。

ゲームの成績をもとに測定される「脳力」が、リアルタイムで世界ランキングに反映されるのも、大きな特徴の一つ。基本無料だが、課金すれば、次のゲームまでの待ち時間を短縮できたり、得意なミニゲームを選んで対戦できたりする。

リリースからの約2週間で、ユーザー数は1万人を超えたという。有料のプロモーションは行っていないが、IT業界を中心に利用の輪は口コミで広まっている。継続利用の割合も18%超と、ソーシャルゲームの滑り出しとしては上々の数字。今のところ、外国人は全ユーザーの5%とそれほど多くはないが、自力で探してプレーしている人もいるという。

アイデアの出発点:クイズアプリで感じた「ノンバーバル」の可能性

クイズアプリで遊んでいた際に、ノンバーバルのコミュニケーションが持つ可能性に気付いたという高場氏
クイズアプリで遊んでいた際に、ノンバーバルのコミュニケーションが持つ可能性に気付いたという高場氏

もともと独立志向の強かった高場氏だが、工藤氏を誘って起業した当初は、具体的なアイデアがあったわけではなかったという。

2人とも前職でモバイルゲームを手掛けていたこと、教育分野に興味があったことから、2つの掛け合わせで何かできないかと漠然と考えていた。

いろいろと模索する中で、昨年末ごろにアメリカで流行したクイズ対戦ゲーム『QuizUp』を知ったことが転機となった。

「教育×ゲーム」の方向性はピタリと合致したが、実際に遊んでみると、クイズの問いが英語ゆえ、制限時間のほとんどを英語を読むことに費やしてしまっていた。

「それに、いくつかあるジャンルの中から自分が興味のある『ゴルフ』を選ぶと、ゴルフに興味のない工藤はさっぱり面白くないといった感じでした」(高場氏)

ただ、「数学」のジャンルを選んだ時だけは違った。

「早押しクイズのようで、2人してすごく熱くなりました。あそこまで楽しめたのは、特定の知識や言語に依存しない、ノンバーバルだからこそ。思い返してみれば、CA時代に手掛けたアメーバピグの海外版『Ameba Pico World』でも、言葉によるコミュニケーションがあまり進まない代わりに、手を振るアクションだったり、ピグの着せ替えだったりという非言語の交流は盛んに行われていたんです」(高場氏)

一方の工藤氏も、前職で「文化の隔たり」がもたらす難しさに直面していた。

「アメリカ向けのスマホゲームを作っていたんですが、あっちでウケるものを作るのは本当に難しかった。青年向けに作ったつもりが小学生向けと思われたりして、どうしても感覚のズレを超えられなかった。いつか世界で通用するものを作ってリベンジしたいという思いがありました」(工藤氏)

「世界で通用するカギは、ノンバーバルにある」――。確信めいたものが2人の間で共有され、プロジェクトは一気に動き出した。

開発のポイント:色、ボタン、すべてにこだわったユニバーサルデザイン

アプリを担当する工藤氏(右)とUIデザイン担当の花城氏。文化的背景に依存しないよう、UIは色合い、ボタンの一つ一つにこだわった
アプリを担当する工藤氏(右)とUIデザイン担当の花城氏。文化的背景に依存しないよう、UIは色合い、ボタンの一つ一つにこだわった

フリーランスのデザイナー花城泰夢氏、CA時代の高場氏の後輩である早川豪氏が新たに加わり、現在は4人体制となったトランスリミット。高場氏と早川氏がサーバサイド、工藤氏がアプリ、花城氏がUIデザインを担当する。

老若男女、国の東西を問わずにプレーしてもらうには、ミニゲームの種類はもちろんのこと、色合いやボタンの形なども、特定の文化的背景に依存しないものであることが必要だ。そのため、UIには徹底してこだわった。

「陰影などを使わないフラットなデザインは『QuizUp』を参考にしました。色合いに関しては『QuizUp』はアメリカ受けしそうなビビッドなものだったので、男女隔てなく使えるカワイイ色に変えています。他の3人と何度もやり取りしながら、例えば灰色一つでも、黒と白の間で5%刻みの試行錯誤を繰り返しました」(花城氏)

リアルタイムで反映される世界ランキングも、プレイヤーの心を刺激する大きな特徴の一つ。ランキングを表示するゲーム自体は少なくないが、集計は一日ごと、あるいは数時間ごとが一般的。1ゲームごとに即時反映される『BrainWars』のランキングは、どのような仕組みで実現したのか。

「ランキングは、Redisというミドルウエアを活用するなどして、リアルタイムに変動する仕組みを実現しています。また、レスポンスの高速化を実現するために、アプリで計算を行い、結果だけをサーバに返す仕組みにしています。アプリにできる限りの処理を任せることにより、トータルで必要な処理を分散化することができます」(早川氏)

データベースにはMySQLとRedisを併用し、計算スピードを確保。100万人規模の同時利用にも耐えられる処理能力を実現したという。

コンセプト設計もデザインも「アジャイル型」

コンセプト設計からデザインまですべてアジャイル型という開発スタイル。4人がフラットな関係でアイデアをぶつけ合う
コンセプト設計からデザインまですべてアジャイル型という開発スタイル。4人がフラットな関係でアイデアをぶつけ合う

開発手法は「コンセプト設計からUIデザインまで、すべてがアジャイル」と高場氏は言う。

「このサービスを作り始めて4カ月ですが、それだけの時間が経てば、市場はガラッと変わります。一番新しく、一番面白いものを出さなければ、あっという間に市場から消えてしまう。極端に言えば、2日後のことしか考えずに、作りながら枝葉を生やしていく感じです」

しかし、こうしたやり方は一歩間違えれば、ムダな枝葉ばかりが広がって、まとまりを失いかねない。どうやって舵を取るのだろうか。

「どちらかというと、僕は新しい機能を思いついてどんどん風呂敷を広げるタイプ。一方、工藤は僕が広げた風呂敷をたたんで、いいものだけを抽出してくれるタイプ。常に情報共有、意見交換しているので、そういった心配はありません」(高場氏)

「2人とも、前職ではスペシャリストというよりマネジャー寄りの立場で仕事をしてきたので、プロダクトを第一に考えながら作っていけるんです」(工藤氏)

一体感を保った開発ができる裏には、得意な技術分野が違うだけでなく、キャラクター面でも補い合ういい関係があるようだ。こうした開発の進め方には、デザイナーの花城氏も呼応する。

「デザイナーとしては途中経過を見せなきゃいけないのは恥ずかしいし、普通はもっとデザイナーに裁量権が与えられているものなんですが(笑)、全部さらけ出しながらやった方が速いし、客観的な意見を取り入れることで結果的にいいものが作れるので、歓迎しています」(花城氏)

上下の関係なく、和気藹々と意見をぶつけ合いながらサービスを作る。仲の良さを感じさせるチームだが、「リリースするまでは、一度もそろって飲んだことがなかった」とか。良い作品を作るためだけに確かな技術を持ち寄るそのイメージは、さながらプロフェッショナルな大人のバンドマンだ。

日本人とインド人が当たり前のようにプレーしているゲームに

「将来的には、子供と大人、日本人と外国人が当たり前のようにプレーしているゲームに育てていきたい」と語る高場氏。

「友人の過去のプレイデータと戦う機能を利用して、有名人が遊んだデータをシェアしてファンが対戦できるようにしたり、海外のユーザーが増えれば、国別の対抗戦なんかも面白いですね。日本人は計算系に強そうだけど、インド人には敵わないかも」(高場氏)

ほかにも、ミニゲームの種類を知育系にしてターゲットを子供にシフトしたり、対戦要素を低くすることで逆に年配向けにしたりと、アレンジのアイデアは尽きない。

ただ、一方で「教育分野だけしかやらない、といったことは考えていない」という。

「新しいものを作りたい、誰もやっていないこと、技術的に面白いことをやりたいという考えのもとに集まったのが僕たち。それが今は、世界を相手にしたノンバーバルのコミュニケーションだった、ということです」(高場氏)

技術で結ばれたエンジニア集団が見据える「新しい世界」は、際限なく広がっていく。

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴

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