キャリアVol.292

野村総研の新事業『NRI未来ガレージ』に学ぶ、今後のSEに求められる「バランス感覚」【連載:大元隆志が聞くSEの未来像】

ITビジネスアナリスト 大元隆志氏大手SIerに在籍し、システム構築やプロジェクトマネジメントで活躍しながらモバイルを軸としたビジネスの企画・立案を手掛ける。各種メディア向けの執筆活動でも知られており、近著に『ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦』がある。ITビジネスアナリストとしての発信は自身で立ち上げたブログメディア『ASSIOMA』でも行っている

前回の対談では、在籍するプログラマー自身が1社以上の顧客を担当し、独自の“納品をなくす”ビジネスモデルを確立しているソニックガーデンの倉貫氏に話を聞いた。同社の現場では、エンジニアが目指すべきキャリアパスの一例を見ることができた。

今回、話を伺うのはNRIで『NRI未来ガレージ』という新しい取り組みをリードする幸田敏宏氏。実は別のWeb媒体で、同社がJALと共同でウエアラブル端末を用いた空港のオペレーション業務を合理化・効率化する実証実験について取材・リポートした。

幸田氏の下、『NRI未来ガレージ』は従来の顧客とSI事業者とでは見られない極めてイノベーティブな関係を築いていることを知り、ここでの試みにもエンジニアが目指すべきキャリアパスの1つが見いだせるのではないかと思ったのだ。

今、大手のSIerが直面している大きな課題は、果敢に新しい技術やエンジニアリング力を活用して、できるだけ大規模な案件を獲得することが難しくなっていることだろう。小規模にPoC(新技術や新しい概念を試す実験的プロジェクト)の導入を試みた結果、そのまま正式導入になってしまうことが少なくない。

つまり、RFI/RFPなしにプロジェクトが立ち上がり、大規模案件につながることもないというジレンマだ。

SI業界のリーディングカンパニーともいえるNRIが、あえて「お客さまとの共創による新たな価値づくり」のビジネスモデルを推進している背景や現状、そしてそこで活躍するエンジニアについてもぜひ語ってもらいたいと思い、お話を伺うことにした

株式会社野村総合研究所 IT基盤イノベーション事業本部 基盤ソリューション企画部
イノベーション事業グループ 上級テクニカルエンジニア
幸田敏宏氏大学および大学院にて生物工学を専門に学ぶ。野村総合研究所(以下、NRI)入社後は大手流通企業の大規模基幹システムのプロジェクト等を担当。現在、『未来ガレージ』をはじめとする新規ビジネスの創出などを手掛けている

『NRI未来ガレージ』は大企業にいながら新しい技術に挑戦できるチーム

『NRI未来ガレージ』は大企業にいながら新しい技術に挑戦できるチーム

大元 JALとの実証実験でも伺いましたが、PJTの進め方が従来とは大きく違いますよね。ブレストでアイデアをどんどん出して、短期間でモックアップを見せるようなスピーディさだとか?

幸田 『NRI未来ガレージ』のチームとお客さまとが一緒にニーズやアイデア、ノウハウを出し合い、検討を進めていくというスタイルですね。

大元 そもそもNRIのような大手であればモックアップを設計・開発する時点で費用が発生しそうなものですが……。

幸田 そこはプロジェクトの規模や内容によって都度検討しています。そもそも『NRI未来ガレージ』は、お客さまと一緒に新しいサービス・価値を共創することをゴールとした活動です。お客さまと共同実験の形式を取ることもあります。

大元 1つ疑問に思うのは、こうした取り組みを進めようとすると、どうしても人材の確保が課題になると思うんです。その辺りはどのように解決しているんですか?

幸田 基本的にはコアメンバーを中心に活動し、PJTに応じて必要なリソースを社内からアサインするという考え方です。また、『NRI未来ガレージ』のコアメンバーはもともと、先端ITの調査や、評価・検証を行う技術部隊ですので、実際に新たな技術をくみ上げ、開発もできるのです。

大元 NRIのようなリーディングカンパニーがこういった取り組みをしていることがすごいですし、他の大手ではなかなかここまで本格的にシフトできないですよね。

幸田 大規模な案件は、これまでのノウハウやリソースで今後も進めるべきと思います。一方、スマートデバイスやウエアラブル端末が普及する中で、特に人とシステムが接するフロント分野においてはお客さまと一緒に検討・実現していく新たな取り組み方も求められるのではないかと考えています。こうした市場の変化、ニーズの変化にも柔軟に取り組んでいこうという試みの1つが『NRI未来ガレージ』ですね。

大元 なるほど。超大型案件のような、従来のPM中心のPJTチームでうまく進められるものは従来のままで、今どんなニーズがあって、それにどう対応していくかを実証していく取り組みでもあるんですね。

『NRI未来ガレージ』の存在価値は「再現性の高いノウハウ」の蓄積

大元 大手のSIerであればあるほど、大規模案件での売り上げや収益というのが個々のスタッフ、エンジニアを評価する基準になっていると思いますが、『NRI未来ガレージ』のような「お客さまとの共創による新たな価値づくり」の場合、どんな評価基準を導入しているんですか?

幸田 『NRI未来ガレージ』のような活動は、大規模案件で用いられるような、売上高や収益性を評価基準にするのは適切ではないと考えています。NRI未来ガレージも2012年に開設し今年で3年目ですが、これまでの活動を通して模索していきたいですね

大元 新しい取り組みでも、3年目ともなれば何らかの成果が求められますよね。

『NRI未来ガレージ』の存在価値は「再現性の高いノウハウ」の蓄積
『NRI未来ガレージ』の成果の評価の難しさについて語る2人

幸田 例えばどこからどのようなオファーが来たかという実績や、そのオファーのポテンシャル、成長性が望めるかどうかといった点を、取り組みの成果として、整理する必要があると考えています。

大元 特に大手だと「PoC(Proof of Concept)もいいけど、それをどれくらい拡大できるのか?」という議論になったりしませんか?

幸田 いろいろな評価基準があるとは思いますが、単純に拡大という基準だけではなくて、幅を広げていくための「ノウハウの蓄積」もポイントになると思っています。

従来のように事業拡大性を中心とした判断基準ではなく、他の分野にも展開できる再現性の高い活動プロセスを弊社が独自に蓄積していくことにも価値があると考えています。

大元 そこも従来の拡大一辺倒の考え方ではなくて、横展開できるノウハウを着実に積み重ねているという点を評価してもらいたいということですね。

求められるのは内外両面の調整力

大元 『NRI未来ガレージ』のような取り組みを進めていくには、そこで働くエンジニアにも新しい姿勢やノウハウが必要になるのではないですか?

幸田 そうですね。基本的に活動は【発想フェーズ-共創フェーズ-試作・検証フェーズ】と進めていくのですが、それぞれのフェーズでお客さまの反応を確かめながらどんなニーズがあるのかを見抜いていくスキルが必要です。

その上で、試作・検証フェーズで参画者の想いを形にすることができる点が『NRI未来ガレージ』の強みだと考えています。

大元 スピーディにプロトタイプまで作り出す、というのは、確かに一般のSIerではなかなか難しいですよね。

幸田 もちろん基本となるスキルはITになりますが、そこは柔軟に考えてもいい部分だと考えています。

例えば画面設計だからといって実際にコーディングしてしまうのではなくて、ペーパープロトタイピングを活用し、紙芝居のようにスピード感を持った見せ方も時には必要だと考えています。ポイントはお客さまを含め、参画しているメンバーの共通認識を早く固めることができるかという点なのです。

大元 新しい技術や新しい取り組みだけれども、顧客とのやりとりはあくまで基本に忠実に、ということですか。

求められるのは内外両面の調整力
お客さまとの共通認識を固めるためには時として、ペーパープロトタイピングの方がいい場合もあると、幸田氏は話す

幸田 はい。そしてバックグラウンドとしてアナリストやマーケティングのプロがいて、技術面では設計・開発のプロがいることが当社の強みです。

従来のSIerだと「10を100にしていく」のがミッションでしたが、『NRI未来ガレージ』は「ゼロから1をつくる」ことがミッションだと考えています。

大元 特に大規模案件が中心のSIerだと、そこで活躍できるエンジニアは「PM力」こそが評価されるし、そこを集中的にスキルアップしていけばよかった。でも『NRI未来ガレージ』のような取り組みでは、PM力だけではイノベーションにつながっていきませんよね。

幸田 そうですね。もちろん大規模案件をスムーズに進めていくために必要な計画立てや調整といったPM力も大事ですが、『NRI未来ガレージ』ではお客さまと一緒になってPJTを創っていくという姿勢、スキルが求められます。

技術的な知識やスキルは持っていた上で、想像力や企画力、コミュニケーションスキルやバランス感覚も必要です。

大元 特に大手のSIerだと大規模案件が基準になっていて、新規開拓といっても人材の育成やリソースの確保、それに個々のエンジニアへの評価などがまだまだ未整備の段階です。でも業界トップクラスのNRIが未来ガレージのような試みを進めていることを知って、とても心強く感じました。今日はありがとうございました。

対談を受けて:『NRI未来ガレージ』に感じた「攻め」の組織の必要性

ここ、3~4年ほどSIer業界でも耳にする機会が増えてきた「PoC(Proof of Concept)」。新たな技術を実際にビジネスに応用するコンセプトを提示し、それが具体的に実現可能なのかを確認するプロセスだ。まさに、「ゼロを1にするための仕事」と言えるだろう。

ビッグデータやSDNといった概念先行型の技術が登場した辺りから、RFIやRFPを発行する前にPoCというプロセスを実施し、そこで検討課題、導入時のコスト試算、ビジネスメリットの予測を行う企業が増えてきた。

こういうプロセスを挟む企業が増えてきた背景はさまざまあると思われるが、一つには「コスト削減のためのIT活用」ではなく「ビジネス価値創造のためのIT活用」を考える企業が増えてきたことも一因ではないだろうか。

物理サーバから、仮想環境へ移行することでコストが3割カットできます、というコスト削減効果は机上の理論でもある程度試算値は出せるし、顧客側も理解しやすい。また、導入後の効果試算も行いやすい。しかし、ビッグデータやウエアラブルデバイスのように「これを使えば、こんなことが新たに出来るようになって売上・利益が1割改善できます」という「付加価値増加型提案」は、その仮説通りに事が進むかを判断するのは難しい。

仮説の裏付けを机上で示されても、それだけを判断材料とするのはリスクも高い。

このような「PoC」フェーズは案件規模が小さく、その後案件化するかは不明確なので、人月ビジネス主体の大手SIerは仕事にするのが苦手とされてきた。

しかし、一方でPoCが成功した場合には、PoCを担当したベンダーが有利であるのも事実。ビッグデータやウエアラブル、これから登場するIoTなどのイノベーションを必要とする分野では、この難しいプロセスを実施することは、RFI/RFPを書くのと同じような価値があると私は考えていたところだった。

RFI/RFPを受領するのがプリセールスSEの役割、RFI/RFPを書く側に回るのがコンサルタントの役割、PoCを実現するためのイノベーションを推進するエンジニアリング力と、企画力が求められるようになってきたということだろう。

NRIの「ゼロを1」にする『NRI未来ガレージ』は、まさにこれからのSIerに必要とされる組織だと感じた。この組織と、そこで必要とされるエンジニア像は「今後付加価値の高いエンジニア」のモデルになることだろう。

文/浦野孝嗣(対談部分のみ) 撮影/佐藤健太(編集部)

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