ユーザー参加型のモノづくり「オープンディベロップメント」とは~“閉じた開発”からの脱却が製造業を変える
インターネット上で資金調達を行う「クラウドファンディング」や、他社との協業で新たな価値を生み出す「オープンイノベーション」、OSSと同じ要領でモノづくりを進める「オープンソースハードウエア」など、近年、ハードウエア製品の開発スタイルが進化を遂げている。
そんな中、2015年10月に行われたアジア最大級の最先端IT・エレクトロニクス総合展『CEATEC JAPAN 2015』に出展された『オレクル』という製品が、製造業に新たな可能性をもたらすモノとして脚光を浴びている。
スマホと連動し、オフィスに出社してきた人に合わせて「入場曲」が流れるスピーカーである『オレクル』は、「毎日の出社を楽しく」というユニークなコンセプトと、シンプルでありながらも親しみの持てるフォルムから、会場で高い評価を得た。
この『オレクル』を生み出した開発コミュニティ『tsumikii』が取り入れている開発手法こそが、今後のスタンダードとなり得る新手法「オープンディベロップメント」だ。
先行して世の中に浸透している他の手法とは一線を画すこの手法についてより詳しく知るべく、『tsumikii』を運営するプログレス・テクノロジーズを直撃した。
企画段階から意見を募り、「本物のユーザー目線」を実現する
製品開発会議をインターネットで生中継し、コミュニティメンバーからアイデアを募りつつ開発を進めていく。それが、『tsumikii』が手掛けるオープンディベロップメントというスタイルだ。もともとは社内のコロニー(新事業)創出プロジェクトを改良する過程で生まれたスタイルだという。
当初、プログレス・テクノロジーズのコロニー(新事業)創出プロジェクトでは、社員から出された事業アイデアを、特定のメンバーのみで審査していた。その過程で、「アイデア審査の段階から、社員や、その製品・サービスのユーザーとなる人たちも参加してブラッシュアップすることができたら、もっとニーズのある製品を生み出せるのではないか」という声が上がったという。
さらには、社員やユーザーに、アイデアが生まれて製品になるまでのストーリーに参加しファンになってもらうことで、単にデザインや機能の良さにとどまらない新しい価値を提供したい。そう考えた結果、ユーザーとともに開発を進める『tsumikii』が生まれたのだと、設計開発サービス部長である石澤祐介氏は語った。
現在の『tsumikii』が完成形とは考えておらず、より良い形のオープンディベロップメントを目指して今後も試行錯誤を続けていくのだという。
「大手メーカーによる製品開発の場合、一般的には販売直前まで製品情報がオープンにされません。しかし、先に企画段階の情報を公開すれば、製品に対するユーザーの要望を事前にキャッチすることができると考えたのです」
結果として、よりユーザーに求められる製品へとブラッシュアップすることが可能となる。これが、オープンディベロップメントによる製品開発の利点だ。
しかし、石澤氏いわく、オープンディベロップメントのメリットはそれだけに終わらないと言う。
「私は前職で電子機器の開発を手掛けていましたが、大手メーカーではほとんどが分業制。自身の担当領域以外に意識がおよばず、製品の全体像が把握できなくなってしまうという課題がありました。ですがオープンディベロップメントの場合、開発の進捗が常にオープンですし、必然的にユーザーの声を意識するようになるのです」
オープンディベロップメントは、分業制による“閉じた製品開発”ではなく、全員参加型のモノづくりの実現に一役買っているのだ。
成功のカギは「技術や知識もシェアする」意識
従来の“閉じた開発”から脱却するためには、ユーザーの存在を意識することはもちろん、メカ・エレキ・ソフトウエアなど分野を横断した知識を持つことが必要となる。とはいえ、エンジニア1人1人が全ての技術領域を完璧に把握するのはなかなか難しいというのも事実だ。
「だからこそ、大切になるのは『チームで開発する』という姿勢です。それぞれ専門分野を持つエンジニアが集まることで知識はシェアされていきますし、特別に高い技術力が必要な場合には専門のエンジニアに頼ればいい。また、オープンにすることで解決策を持つ人が協力してくれることも考えられる。あとは、それぞれが自分の専門分野にとらわれず、ユーザーにとって最高の製品を生み出そうとするマインドの問題だと考えています」
『tsumikii』では、ユーザーから募ったアイデアをもとに、自社が抱えるエンジニアたちが製品開発を進めているそう。ここが、すべてをコミュニティにゆだねるオープンソースハードウエアと異なる点であり、完成までのコミットメントと品質が担保される。
もちろんそのチーム内には、それぞれ異なる専門分野を持ったエンジニアがいて、協力し合いながら開発に取り組んでいるという。
ストーリーの共有によって、ユーザーが一番の広告塔になる
オープンディベロップメントによってメリットが得られるのは、開発面のみではない。製品の販売時にも強みを発揮するだろうと石澤氏は予想している。
「完成した製品には、ユーザーのアイデアが盛り込まれています。自身も製品の企画・開発に携わったという意識が芽生えるため、自然と製品のファンとなってくれる。その製品が持つストーリーを共有するというのは、何にも勝るマーケティング手法ではないかと考えています」
近年、製品の機能のみならず、UXやその製品が持つストーリーへの共感が重視されるなど、製品購入者の意識は変化している。そのため、製品開発の過程をユーザーと共有し、共に作り上げた製品であるという意識を持たせることで、愛着を抱かせることができるのだ。
「製品のファンとなったユーザーは、自身が購入するだけでなく、周囲にその魅力を伝える広告塔にもなってくれます。これがオープンディベロップメントの大きな強みですね」
『tsumikii』で生まれた製品は、クラウドファンディングなどを利用したマーケティングを予定しているが、BtoBやBtoBtoCといった他社との連携も検討し、ヒット商品を生み出していきたいと石澤氏は語る。ユーザー参加型のオープンな開発スタイルから、どのような製品が生まれるのか。今後の『tsumikii』にも注目したい。
取材・文・撮影/秋元祐香里(編集部)
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