IT業界で活躍するエンジニアたちが次々にLINEへの転身を遂げている。きっと他企業が用意できていない「エンジニアファースト」な環境や可能性が、そこには隠されているに違いない!そんな予感を胸に、エンジニアtype編集部が様々な角度からLINEを検証していく。
スキルや思考が違えば、働きやすい組織も違う。LINE Growth Technology設立に見る、自分らしく働くために必要なこと
2018年6月、LINEに新たなグループ会社が誕生しました。その名もLINE Growth Technology(以下、GT)。「LINEのサービスの成長(Growth)を、技術(Technology)を用いて進めていく」ことをミッションに掲げる会社なんだとか。
はたして、サービスのGrowthに特化した技術者集団とは? 設立の背景と今後の展望は? GTの創業メンバーである福島英児氏と片野秀人氏に話を聞きました。
「サービスのGrowth」はハイレベルな専門領域。適材適所な人員配置でサービス強化へ
――まず気になるのは、GTの「サービスのGrowthに特化した技術者集団」というアイデンティティについて。設立の背景から順に聞かせていただけますか?
片野 事の発端は2018年3月ごろ。私が池邉(智洋氏。LINE上級執行役員、現GT代表取締役社長)に『Growthにフォーカスした別会社を作るべき』と提案したことからはじまります。
これまでLINEのエンジニアたちは、自分が携わっているサービスがリリース段階までくると、別のサービスや機能の開発にも平行して関わっていく体制をとっていました。とはいえ、サービスというのはリリースして終わりではありません。ユーザーに満足してもらい、ビジネスとして成立させるためには、日々ケアをして、進化させて、サービスをGrowthさせていく必要があるのです。
LINEの持ち味でもあるスピード感のあるリリースを続けながらも、既存のサービスも育てなければならない。正直なところ、リソース不足が否めない状況を抱えていたんです。そこで、「サービスを育てていく」ことに特化したエンジニア組織を作れば、LINEグループ全体の生産性を高め、これまで以上にサービスを育てていけるのでは、と考えました。LINEのエンジニアは「新しいものを生み出す」ことに集中し、GTのエンジニアは「サービスを育てていく」という、それぞれの得意領域に特化できる、というわけです。
福島 それに、以前から感じていたことなのですが、新しいものを生み出すために必要な素養と、サービスを育てていくために必要な素養は異なると思うのです。
「新しいものを生み出すエンジニア」には、切り立った崖をよじ登っていくような大胆なアプローチや考え方が求められます。一方で「サービスを育てていくエンジニア」は、起伏に富んだ山道を試行錯誤しながら進んでいく必要がある。双方のエンジニアで得意分野や価値観も大きく違うのであれば、それぞれに特化した組織を作った方が良いのではないか、という発想もあり、GT設立に至りました。
―― 一般論ですが、「サービスを育てていくことに特化する」と聞くと、保守・運用を主業務とした子会社や下請け企業のように見られがちかと思いますが、そういうわけではないということですよね。
片野 おっしゃる通りです。GTはLINEグループの対等なエンジニアであって、LINEのエンジニアが上流工程を担当し、GTのエンジニアが下流工程を担う、といった下請けのような認識は一切ありません。むしろ、本来「サービスを育てていく」という工程は、一つの専門領域であると考えています。
今あるサービスだって、手をかけて改善を重ねていけばもっとGrowthする伸びしろがあるはずなのに、そこに切り込んでいけるエンジニアがいない(足りない)というというもどかしさを感じていました。それを解消するために、GTのエンジニアにはGrowthの専門家になってもらいたいのです。
――とはいえ、違うチームがリリースしたサービスを、Growth段階になって引き継ぐのはなかなか難しいように感じるのですが。
福島 もともとLINEは採用が活発な会社なので、進行中のプロジェクトに途中で新しい人員が追加されることは日常茶飯事です。新しくチームに加わったエンジニアでもスムーズに開発に取り組めるよう、属人化しないように開発を進めることが常識となっています。なので、「他人が作ったサービスだから触れない」といった事態に陥ることはありません。そして、違うチームから引き継ぐというよりも、まずは一緒のチームに入ってグロース領域を担当していくというイメージになると思います。
GTのエンジニアであっても、新規サービスの開発に携わる機会は豊富にありますよ。
片野 「きちんと育てていくこと」を前提としたサービス開発には、GTのエンジニアの視点が活かされるはず。なので、企画段階からLINEのエンジニアと連携して新規サービスの開発に関わるケースも出てくるかと思います。
リリース速度を優先するために、フェーズを分けて最小限の機能でリリースすることもあります。そうした場合、サービス運用への影響もあり、リリース時の大々的な告知は行いづらいものです。ですが、先々のことまで見据えた「Growthの視点」を持って開発を進めることで、リリース後にすぐサービス規模を拡大させていくこともできるようになるのでは、と期待しています。
あえてグループ会社化した背景にある、エンジニアへの思いやり。自分に合った環境で働くことが大切
――「新しいものを生み出すエンジニア」と「サービスを育てていくエンジニア」の違いについて、もう少し詳しくお聞かせください。
福島 LINEのエンジニアもGTのエンジニアも、担うべき領域こそ違いますが、扱う技術面に大きな違いはありません。なのでスキル面よりも、エンジニアとして追求したいもの、やりがいを感じるポイント、価値観といったマインド面に違いが出るかと思います。
片野 例えば推理小説を読む時でも、人によって楽しみ方は違いますよね? 誰が犯人で、どんなトリックを使ったのかを突き止めることに夢中になるタイプもいれば、ストーリーそのものや登場人物の心理状況にワクワクするタイプもいます。それと同じような違いが、エンジニアにもあるんです。
まだどこにもないサービスを世の中に出したい、新しい技術にいち早く触れたい、といったモチベーションを持って「新しいサービスを生み出す」ことに意欲的なエンジニアもいますし、人に喜んでもらうことに価値を感じ、改善を積み上げていく「サービスのGrowth」にやりがいを見出すエンジニアもいる、ということです。
福島 すでに、LINEのエンジニアからも「GTに興味がある」という声が多々挙がっています。もちろん今後は、LINEからGTへ、GTからLINEへ、といったキャリアにも柔軟に対応していきたいと思います。
――ずっと気になっていたのですが、そもそもなぜGTをグループ会社にしたのですか? LINE内の組織やチームとして新設するのではだめだったのでしょうか?
片野 先ほどお話しした通り、エンジニアにもそれぞれ得意領域やモチベーションの違いがあります。イコール、働きやすい環境も各々で異なるはずなのです。おっしゃったように、GTをLINE内の一つのチームとして運営することも可能でした。ですが、よりGrowthに集中できる環境を整えるためには、別の会社として独立させた方がカルチャーを作りやすいと考えたのです。
エンジニアが最大のパフォーマンスを発揮するためには、そのエンジニアに合った環境や制度を整えていく必要があります。GTについては、代表の池邉と福島、私の三名の間で合意が取れれば、新施策や新制度のGOが出せます。このスピード感が、新しい組織を作っていく上では欠かせません。LINEという会社もスピード感は早いと思っていますが、ここまでスピーディーに物事を変えていくことはできません。
――働くエンジニアのことも考えた上でのグループ会社化だったわけですね。では最後に、今後の展望についてお聞かせください。
片野 まずは、2019年には100名規模に組織を拡大することを目指しています。サービスのGrowthには、とても広い視野が求められます。フロントエンドもバックエンドも、UI/UXも、つぶさに観察して改善していくことが必要です。その上で、Growthの重要性に共感してくれるエンジニアの方には最適な環境だと思いますよ。
一見すると、良く聞く大企業のグループ会社設立のニュースのように見えるGTの誕生。ですが、よくよく聞くと、その背景にある「サービスの成長を最大化させるために必要な体制作り」に向けた意志と、「エンジニアが自身の適性にあった場所で働ける環境作り」への思いの強さを感じ取ることができました。
あなたは今、自身の適性を最大限に発揮できる環境にいるでしょうか? 胸の内に秘めたモチベーションをくすぶらせてはいないでしょうか? パフォーマンス高く働くことで、自身のスキルが磨かれていくのだとしたら、身を置くフィールドを今一度見つめ直したいところ。自身の思考にあった環境を見極めることが、自分らしく働くための第一歩となると言えそうですね。
>>次回特集は2018年10月上旬公開予定です!
取材・文/森川直樹、秋元祐香里(編集部) 撮影/小林正
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