この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
1000人体制でもエンジニアが成長する組織とは? 海外事例から学ぶテックキャリアの拡げ方【メルカリ CTO・名村卓】
先々のキャリアを見据えたとき、どんな仕事をするか、と同じくらい重要なのが「どんな組織で働くか」だろう。では、エンジニアが伸びる組織とは、一体どんな組織なのだろうか? 第二回の「CTO’s CAREER STRATEGY」では、急速に人が増え、成長を続ける株式会社メルカリのCTOである名村卓氏に、そんなエンジニアたちの疑問をぶつけてみた。
人が増えれば組織の都合が優先され、一人一人の成長をきめ細やかに支援することはおろそかになりがちな印象だが、ことメルカリに関しては、どうも様子が違うように感じる。それもそのはず。メルカリはグローバルテックカンパニーを目指すことを表明し、10月にはAI/MLの活用、マイクロサービス化への取り組み等最新技術領域について発表するイベント「Mercari Tech Conf 2018」を開催することも決まっている。
拡大のまっただ中にあるエンジニアリング組織を率いるCTOは、そこで働くエンジニアのキャリアとどう向き合っているのだろう。その答えから見えてきたのは、「エンジニアが伸びる組織」の本質的なあり方だった。
組織規模の拡大だけでは不十分。すべてのエンジニアが生き生きできる組織を目指して
2016年にメルカリにジョインして以降、しばらくの間アメリカのオフィスで開発チームを率いていた名村氏。日本に帰国して感じたのは、エンジニアの数が急激に増えたことによる「一人一人が向いている方向がバラバラになっている」という課題だった。
「メルカリには『Be Professional』というバリューがあるのですが、その捉え方がエンジニア一人一人で違うことに気付いたんです。ある人は『絶対に落ちないシステムをつくること』だと思っているし、またある人は『徹底的に生産性を上げること』だと思っている。組織全体でパフォーマンスを上げていくためには、全員が向いている方向を統一する必要があると感じました」
グローバルテックカンパニーを目指すメルカリでは、2020年までにエンジニアを1000名体制にする必要があると考えている。そのためには、組織が拡大することで起こるリスクや課題に早々に目を向ける必要があったのだ。
「組織が拡大したが故に機動力が鈍り、エンジニアの成長や判断のスピードが遅くなるという事態は避けたい。ならばエンジニアが1000人いても、全員で同じ方向を向きつつも、みんながやりたいことができて、自分の能力を発揮できる組織……すなわち、一人一人のエンジニアが生き生きできる組織をつくろうと考えました」
テックジャイアントから学ぶ、日本からイノベーションが生まれない理由
名村氏が掲げる組織のテーマは、「規模が拡大しても、スケールしていけるエンジニアリング組織」。その実現のため、まずはGoogleやFacebook、Uberなど海外企業の事例に目を向けた。聞くところによると、名村氏自身「日本で働き続けることが不安」でシリコンバレーに渡った経験があるという。
「それまでずっと日本向けのサービスばかり開発していたので、海外のエンジニアと話しても自分が何をつくってどんな価値を生んでいるのか伝えることができなかったんです。それに、海外では自社のプロダクト開発をきっかけにどんどん新しい技術が生まれているのに、日本からは新たなバリューがなかなか生まれない。自分のキャリアは日本という限られた場所でしか通用しないのでは、と焦りました」
シリコンバレーで名村氏が目の当たりにしたのは、日本の組織とは異なる仕組みの存在だった。
テックジャイアントと呼ばれる海外企業では、何万人ものエンジニアがグローバルに散らばり、猛スピードでイノベーションを起こしている。当然、入れ替わりも激しいが、それでも組織はうまく回っている。なぜか? それは、エンジニア一人一人が裁量を持ちつつも、誰が辞めても動きが止まることのない仕組みがつくられているからだ、と名村氏は気が付いた。
「たとえば、Uberではエンジニアが自分の裁量で新機能をリリースできる代わりに、アラートが出ればいつでもその機能をオフできる。システムや仕組みを使って、合理的に組織を運営しているんです」
これらは、ミスが起きれば誰かのせいにし、優秀な人が抜ければ機能しなくなる日本の組織とはまったく違う点だった。
エンジニアが希望を叶えやすい環境へ。決断経験が成長の鍵となる
海外でさまざまな事例を知った名村氏は、VP of Engineeringやその他の経営陣と議論を重ねていった。結果、メルカリにPM(Product Manager)・EM(Engineering Manager)体制という仕組みを導入するに至ったのだ。
「これまではPMがスキルセットだけを見てエンジニアをアサインしていました。そこをEMに権限を持たせて、技術面やエンジニアリング組織としての観点を踏まえてアサインするように変更したんです。
EMの役割は、プロジェクトへのアサインや採用に加え、エンジニアと対話してそのキャリアを考えること。組織拡大に向けて新たなEMを育て、増やすこともミッションです。やっぱり、エンジニアを評価するのは同じエンジニアであるべきだと考えた結果ですね」
この新体制導入から半年ほど経った。大きく変わったのは、エンジニアがキャリアを描きやすくなった点だという。
「以前はエンジニアとの対話の少ないPMがアサインを担当していたので、『本当は他にやりたいことがある』というケースもありました。だけど今は、エンジニアと同じ視点を持つEMが、やりたいことや希望のキャリアパスをヒアリングした上で最適なアサインをしています。以前よりも、エンジニア一人一人の希望に応えやすくなったのではないかと思います」
現在すでに十名以上のEMが活躍し、Tech Leadと並ぶメルカリの新たなキャリアパスとして、その人数を増やしている。結果、組織はより強く、より柔軟になったという。
さらにメルカリでは、これまでモノリシックなAPIとして設計・実装されてきたメルカリAPIを順次マイクロサービス化をしている。それによって責任範囲を分割されるため、より拡大に強い形のシステム・組織へと作り変える技術投資となっている。
「僕はみんなに『決断のできるエンジニア』になってほしいんです。どんな技術を使って、いつまでに、どこまで完成させるのか。エンジニア自らが決められるだけの裁量を与え、決断しなければ前に進まないような状況もつくりました。決断のくり返しでこそエンジニアは成長していきますし、そういうエンジニアがたくさんいれば組織もスケールしていくはず。エンジニアの裁量が大きいことがメルカリの強みと言えるように目指しています」
もちろん、決断のいらないエンジニアの仕事もあるだろう。言われたことを淡々とこなし、深く考える必要も、責任を背負うこともない。しかし、言われたことをただやるだけのエンジニアと、決断する勇気を重ねたエンジニアの間に大きな差がついてしまうことは明らかだ。
その会社で、キャリアにとってプラスの経験は積めるのか? 「好きなこと」を追求できる環境を探そう
海外の事情を知る名村氏から見て、世界と日本のエンジニアの違いについて聞いてみた。
「海外のエンジニアの場合、会社がどんなチャンスを与えてくれるか、そこでどんなテクノロジーを扱えるのかをかなりシビアに見て職場を選んでいるように思います。良い経験が積めればその先もひっぱりだこになることを知っているので、転職することに対してネガティブじゃないんですよね。そこが、個人よりも企業の方が力を持っている日本の事情とは違うかもしれません」
こうした自立心や前向きさが、市場価値を高める上で必要不可欠であることは間違いない。ではこの先、日本のエンジニアはどうやってキャリアを積んでいけばいいのだろうか。
「やっぱり、エンジニアは好きこそものの上手なれ。好きな分野や技術を見つけて、それを生かせるところへ行くのがいいと思います。もちろん、やりたくないことをやらざるを得ないこともありますが、できるだけそれが少ない会社へ行った方がいいですね。会社にとっても自分にとってもプラスになる環境を、自ら選び取るべきだと思います」
とはいえ、自分のスキルで通用するのか不安に思うエンジニアは多いはず。しかし名村氏は「ソフトウェアエンジニアであれば、その心配はいらない」と太鼓判を押す。
「スキル自体の汎用性が高いので、会社が変わっても通用するケースが多いと思います。むしろ採用する側としては、一つの会社に長くいる人より、何社か経験して、いろんなカルチャーを知っている人の方が安心する場合もありますよ。どうしてもエンジニアは頑固になりがちですが、違う立場や考え方の人とチームを組んだときに『それもありだよね』と思えるキャパの広い人の方が、チームはうまく機能します」
最後に、名村氏自身が今後どのようなキャリアを描いているのか聞いた。
「当面は、メルカリをグローバルテックカンパニーにするための決断が続いていくかと思います。エンジニア1000人体制が実現したら、次は5000人、1万人になっても揺るがない組織づくりにチャレンジしたい。仕組みさえできれば、放っておいても組織はスケールしていくと思うので、その後はもっと僕自身もインプットを増やして、会社全体で面白いことを仕掛けていきたいですね」
取材・文/石川香苗子 撮影/吉永和久
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