この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
「ファーストリテイリングは真の情報製造小売業へ」CTO 大谷晋平に聞く、“世界で勝てる”組織づくりの掟
ファーストリテイリングが「有明プロジェクト」を始動させ、オフィス兼物流の新拠点をオープンして約1年半が経った。プロジェクトは軌道に乗り、同社は製造小売業から情報製造小売業へと進化の道のりをひた走る。
2015年に「エンジニアの内製化」を掲げて3年、エンジニアリング組織は成長を重ね、強い組織となった。現在では10カ国以上からエンジニアが集まる先鋭集団へと変化を遂げた。この改革を先頭を切って推し進め、具現化した立役者がいる。
その人物こそ、2018年11月に同社CTOに就任した大谷晋平さんだ。大谷さんが牽引する、日本初の「グローバルエンジニアリングチーム」とは? アパレルメーカーから、真の情報製造小売業を目指すファーストリテイリングの組織づくりについて聞いた。
日本企業はIT技術力の獲得・成長をないがしろにし過ぎている「それでは絶対に、世界で勝てない」
米Google社との協業、RFIDタグによる需要予測、AIを用いた買い物アシスタント『UNIQLO IQ』のリリースなど、ITに関するニュースが目白押しだった2018年のファーストリテイリング。
これだけスピード感高く最新テクノロジーを導入できたのは、2016年に入社した大谷さんがエンジニアリング組織の「内製化」と「多様化」を急速に進めてきたからだ。
SIerからキャリアをスタートさせ、一貫してアーキテクトとしてさまざまなクライアントのシステム開発やソリューションの導入を担ってきた大谷さん。そんな大谷さんが初めて身を置いた事業会社が、ファーストリテイリングだった。
「30代半ばに子どもが生まれて、生活に密着したサービスを手掛けて社会に貢献したいと思うようになったんです。月並みかもしれませんが、自分の作ったものでエンドユーザーが喜ぶ顔を見てみたかったし、豊かさを感じてもらいたかった。中でもファーストリテイリングは、日本にグローバルヘッドクォーター機能が存在するので圧倒的な経験を積めますし、グローバル戦略を進めていく上で、エンジニアである自分が貢献できる余地があるんじゃないか、そう感じました」
一家で米国へ移住することも検討したが、グローバルで尊敬される日本のブランドはそうそうないし、せっかくなら日本に根差したプロダクトを手掛けたいと考えた。
大谷さんが入社した2016年当時、ファーストリテイリングの内製エンジニアはほんの一握り。折しも「エンジニアの内製化宣言」を掲げてからまだ1年も経っていなかった。そこで、ゼロから組織をつくり上げていくことが、大谷さんのミッションとなった。
「これまでいろんな企業のシステムを担当してきて、日本の事業会社はどこも同じ課題を抱えていると感じていました。それは自社でITに関わるスキル・技術力の獲得・向上を、ないがしろにし過ぎているということ。それでは、いよいよ本格化しているデジタル時代にグローバルで勝っていくことはできません。私が入社した頃のファーストリテイリングは、エンジニアリングに投資しようという強いマインドはあったものの、とにかくメンバーがいなかった。まずは優秀で事業に貢献できるマインドを持った技術者を採用することに奔走しましたね」
“多様性”こそ、組織が強くなるための一番の秘訣
大谷さんが内製化を進める上で意識したのは、“多様性”のある「日本初のグローバルエンジニアリング組織」をつくることだった。
「当社の場合、世界20カ国以上で展開していますし、ユニクロ、ジーユー、セオリーなどとブランドも多岐にわたります。ブランドごとの要望に応え、国により異なる事情を吸収する必要もある。これから先、事業もプロダクトもより一層スケールせざるを得ない使命を負っていることを考えると、エンジニアリング組織にも国籍、価値観、技術と、あらゆる面での『多様性』が必要だと思いました」
同社では現在、日本、中国、インドネシア、台湾、ドイツ、フランス、カナダ、アメリカ、インドなどとまさに多国籍なメンバーが働いている。当然、価値観の違いもあれば、物事の進め方も違う。日本人同士のように阿吽の呼吸では進まない。日々オフィスのどこかで、ディベートやディスカッションが起こっている。外国人メンバーが入りやすい環境をつくり、多様な文化を認め合うマインドの育成も心掛けた。
「大きなトラブルが起こっても、システム全体は生き残れるレジリエンシーを確保するためには、技術やエンジニアの多様性が必須。古くから使われている単一の技術だけを使っていては、全体が停止する状況につながるリスクが大きいんです。そうすれば、事業にも大打撃を与えてしまいます」
アメーバ式に大きくなり、爆発的にユーザーが増えていくサービスを支えていくためには、多様性や柔軟性こそが強さの鍵となる。
そのために世界中からエンジニアを採用する際の基準としたのは「部下がついていきたくなるような人」「チームで高い成果を出せる人」。独立独歩、孤高のエンジニアが、グローバル組織で高い成果を出すことは難しいのだという。
「一人で何でもできるスーパーマンが、難題をどんどんクリアしていくなんて今の世の中では起こりません。システムは組織そのものと言い切ってもいい。自分の立場はちょっと置いておいて、現場の課題解決に向き合える人、とてつもなく多様な人材を平等かつ客観的に扱ってくれるような人がふさわしい。基準を高めていましたから、採用はなかなか難しいものがありました」
開発体制には「マイクロサービス」を採用
最新のテクノロジーを取り入れるということは、これまで社内にいなかった最先端のエンジニアを抱えるということだ。彼らが納得できる評価制度を整えることも、急務だった。
「技術と組織と、評価を三位一体で考えることを大事にしました。メンバーがどんなキャリアを築き、どんな働き方をしたいのか。技術選定はそれを踏まえているのか。どうしたら彼らに会社にい続けてもらえるのか。これを同時に考えていかなければ、組織もシステムもうまく機能しません。
せっかく採用した彼らに長く働いてもらうためには、評価基準を明確にし、彼らが会社にどう貢献したかをきちんと社内に伝えていく必要があります。IT組織力強化のために、人事や広報、経営層にもずいぶん働き掛けました。ただ、これまでお伝えしてきたことは、まだ道半ばだと感じているので、これからもさらなる取り組みが必要だと感じています」
大谷さんが開発体制として採用したのは、Amazonを含めてさまざまな成功企業をリサーチして見出した「マイクロサービス」だった。
「チームとして最も効率が良いのは、2枚のピザを食べ切れるぐらいの人数、つまり6~8人ぐらいなんです。これを“2 Pizza Rule”と言います。Amazonでも、『このシステムを担当するのは、この組織』と、システムと組織が完全に対応していました。特定の数人が、一つのシステムにフォーカスして最初から最後まで全部面倒を見る。小さいチームで責任範囲をはっきりさせ、各メンバーが正しい意思決定をする。それが最も生産性を高めるんです」
「技術だけ磨いても、これからの時代は頭打ち」
若手に求めるのは好奇心
高いスキルを持ったエンジニアがひしめき、国籍も考え方もばらばら。そんなチームをマネジメントする上で大谷さんが特に意識するのが、「技術力と、商売への貢献のバランスが崩れないようにどう方向づけるか」という点だ。
「エンジニアが輝くときって、業務の中で役に立つことをして、それが彼ら自身にとっても意義があると思えたときです。実務と切り離して技術だけ磨いても、これからの時代は頭打ち。実務に貢献することで成長できるし、会社のことや商売について学べるんです。
もうすぐ、エンジニアが特別視されるような時代は終わります。営業やマーケティングなどの非技術部門にもスーパープレーヤーはたくさんいますし、社会はいろんな職業があって成り立っている。今はまだエンジニアがもてはやされていて、『エンジニアにしかできないことがある』と考えがちですが、それは過渡期の一部だと思っています。さまざまな職種のメンバーをリスペクトして、対等な立場で協調して仕事をしていくことが大事なんだと思います」
スーパープレーヤーである以上に、スーパーチームプレーヤーであれ。世の中の変化とともに、エンジニアに求められるものも変化しているが、そんな中で大谷さんがポテンシャルを見出す若手は「好奇心に満ちた人」だという。
「はっきり言って、“技術だけ”で生き残れるエンジニアなんて、ほんの一握り。全体の数%レベルです。だからこそ、一番大事なのは好奇心だと思います。世の中はテクノロジーだけで変化してきたわけではありません。当社なら、ファッションや服、生産、物流など、いろいろなことに興味が持てる人にこそ活躍の場や成長のチャンスが広がっている。クラウド、機械学習、ロボティクスなどの最新技術を学習しながら、商売や他の領域もバランスよく学び、熱中できるエンジニアが日本にも増えると、未来はもっと面白くなっていくんじゃないでしょうか?」
取材・文/石川 香苗子 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
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