『サポーターズCoLab』とは、若手エンジニア向け(20代がメイン)に技術勉強会やミートアップを開催するコミュニティサービスです。
Ruby開発者・まつもとゆきひろが提唱する若手エンジニアのための逆張りキャリア戦略【講演レポート】
「多くのエンジニアが、自分の評価を上げるための“ルール”を理解していない。そのために、仕事やキャリアの面で損をしている」
そう語るのは、Rubyの父として知られるMatzこと、まつもとゆきひろさんだ。
2018年12月15日、エンジニア向けの技術勉強会やミートアップを開催する『サポーターズCoLab』にて、特別講演「若手エンジニアの生存戦略」が開催された。
まつもとさんが語る、生涯エンジニアを続けたい若手エンジニアが知っておくべき“ルール”とは、一体何なのだろうか?
「苦手の克服」に膨大な時間をかけるのは無駄
学生と社会人では、自分の評価の上げ方に大きなルールの違いがあるということを皆さんは意識していますか?
学生時代は、テストの結果の良し悪しが評価につながるため、「間違わない」ということが重要だったと思います。どれだけ得意分野の得点を伸ばしても、満点以上にはならないため、高い評価を得るための戦略は苦手の克服になります。
一方、社会人に「満点」という概念は存在しません。苦手なことは、それを得意としている人や、自分の代わりにやってくれる人にお金を払ってお願いすればいいので、苦手を克服する意味はなくなってきます。
また、労働による報酬は本来、自分が提供する価値に対する対価ですが、「苦痛に耐えることの対価だ」という勘違いをしている人も多くいます。これは、「我慢は美徳である」という学生時代に植えつけられた価値観を引きずっているからです。
自分の得意分野を伸ばすことで成果を上げて、価値を創造する。これが、社会人にとって必要な戦略です。ですが、実際はいきなり考え方を切り替えられない人がほとんど。だからこそ、「ルール」を切り替える必要性に気付き、それに基づく戦略を立てることができれば、周りとの差別化ができる。いわゆる逆張りですね。
では、具体的にどうすればいいのか。皆ができていないからこそ自分がやれば得をする、そんな「3つの裏技」をご紹介したいと思います。
「3つの裏ワザ」で戦略的にキャリアをつくる
前述した通り、学生時代と社会人では、評価のルールが異なります。満点のない社会においては、苦手を避け、自分の得意分野を伸ばしていくことが重要になってきます。
また、「ここまで伸ばせばOK」というラインはないので、やりようによってはいくらでも伸ばすことができますが、長期間モチベーションが保てる分野でないと、限界を突破できるようなパフォーマンスは出せません。
経験の少ない若手エンジニアの皆さんにとっては、「モチベーションが保てる分野」といわれてもそれが何か分からないという人も多いかもしれません。でも、難しく考える必要はないんです。モチベーションが下がらない分野というのは、要は、自分が興味を持てる分野です。
好きなこと、やりたいと思ったことをとことん深めていくことが、結果的に周囲からの評価につながり、自身の長期キャリア形成を支えてくれると思います。
次に大事なのは、「自分に得の無い取引」はしないことです。それはどういうことか。
『7つの習慣 人格主義の回復』(キングベアー出版)に、2者間の取引は Winと Loseの組み合わせで、持続可能な取引は「Win-Win」「No Deal(取引しない)」の二種類のみである、ということが書かれています。企業と従業員、上司と部下などあらゆる2者間において、お互いに利益があるか、そうでない場合は取引をしないかのどちらかでなければ、関係を持続することができない、ということです。
ここでのポイントは、「No Deal」です。多くの人は「我慢は美徳」という価値観から、自分に不利益が生じる取引であっても、我慢して受け入れてしまいます。ただ、それではキャリアも持続しない。会社と自分、上司と自分、あらゆる局面でお互いにWin-Winの関係を築くことを心掛け、場合によっては「No Deal」を選択することが大事です。
また、先人の話から学びを得て生かしていくのも大切なことです。ビジネス書を読んだり、今日のような講演を聞いたりするのもいいでしょう。
ただ、年代が違うと時代背景や業界の状況も異なるので、具体的なエピソードをそのまま参考にするのではなく、もう1つ上の視点で見て、抽象化された「教訓」を切り出すような意識で話を聞くといいと思います。
技術書でも、特定のアプリケーションについての解説書よりも、アルゴリズムの本の方が長く読まれますよね。抽象度の高いものの方が、寿命が長いんです。では、どのように教訓を切り出せばいいのか。私のエピソードを例として、考えてみましょう。
私は大学でコンピューターサイエンスを学び、新卒で浜松の企業に就職しましたが、200人ほどの同期のうち情報系の学科出身者が6人しかいませんでした。そのため、いきなり社内システムの部署に配属されたんです。おかげで新人のうちに、実装を考えるところから開発に携わることができたことは、いい経験になりました。
このエピソードから切り出せる教訓は、「鶏口牛後(けいこうぎゅうご)」。つまり、大きい組織の末端でなく小さな組織のトップでいなさい、ということです。
エンジニアとして就職しようとしたとき、「東京に行こう」「大企業に入ろう」と大多数の人が考えると思いますが、僕はあえて逆張りの人生を選択したことで、結果として自分の能力を伸ばすことができました。
こんな風に、具体的なエピソードからうまくいった理由を考えて、パターン認識をしていくことで、先人の知恵から使える「学び」を切り出すことができます。
「得意に振り切るのが怖い」若手エンジニアの悩みにMatzが回答
講演後の質疑応答では、若手エンジニアから多くの質問が飛んだ。
中には、「苦手を避けて得意を伸ばす」というまつもとさんの言葉に対して、「長い時間をかけたのに結果が出なかったらと思うと怖くて、得意を伸ばすことに振り切れない。得意を伸ばすことが、本当に成長につながるのか」という質問も。まつもとさんからは、「予測不可能な未来を不安に思うのは分かるが、『動かないリスク』もある。自発的にやりたいと思うことの方が、能力が伸びる確率は高いので、まずはやってみることが大事」との回答があった。
自分の価値観を見直すことや、人と違う道を進むことに、最初は難しさを感じるかもしれない。しかし、「人と同じ」に安心していることこそが、リスクとなる時代だ。まずは行動を起こし、自分が夢中になれること、得意だと思える分野を見つけることから始めたい。
まつもとさんの話に、背中を押された参加者は多かったはずだ。
取材・文/中村英里 撮影/君和田 郁弥(編集部)
サポーターズCoLabは、ユーザー同士の「スキルの交流」「知の循環」を促進し、若手エンジニアのスキルの底上げと、刺激を与え合う仲間を増やすことを目的としているエンジニアの為のコミュニティサービスです。
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