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コードを書くだけの毎日から脱出!メガベンチャーも注目するOSSコミッターが10人のシステム開発会社で働く理由

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    近年、ヤフーを始めとする技術力の高いエンジニアが集まる企業が「OSSコミッターを一本釣り採用したい」「カンファレンスの登壇経験がある人材を迎えたい」と、積極的に採用に乗り出す傾向がある。

    参考:ダイレクトリクルーティングにヤフーが力を入れる理由とは? ”一本釣りされる”エンジニアの特徴を採用担当に聞いてみた

    10人の精鋭でプライム案件を主に手掛けるクルービットの共同創業者、田中一志さん(仮名)は、まさにそんな各社が欲するスキルを備えたトップエンジニアだ。「PHPカンファレンス」や「builderscon」といったカンファレンスの運営に携わり、OSSのPHPフレームワーク『Sabel』の開発やバグトラッキングシステム『CandyCane』のOSSコミッターとしても活躍する。書籍『Laravelリファレンス』では技術面での査読を手掛けた。

    しかし、田中さんは元々3次請け、4次請けの受託開発会社で「顧客の顔が見えず、何のために開発しているのか分からない」と悶々としていたエンジニアの一人。そんな状況から脱し、プライム案件を手掛けるようになったことで、エンジニアとしてどのような成長があったのだろう。

    株式会社クルービット 執行役員/Systems Development Manager 田中一志さん(仮名)

    株式会社クルービット
    執行役員/Systems Development Manager
    田中一志さん(仮名)

    1985年生まれ。父親がプログラマーだったことから、中学生の時にCGIゲームにハマり、独学でPerlの勉強を始める。パソコンを扱うアルバイト中に、定型業務の自動化を果たし、バイト先のシステム開発部からエンジニアにならないかと誘われ、そのまま就職。エンジニアへの道を歩みだした。『CandyCane』などのOSSへのコミットやCakePHPのドキュメントの翻訳、書籍『Laravelリファレンス』の査読、さまざまなカンファレンス・コミュニティの運営に携わる。OSSのPHPフレームワーク『Sabel』のJavaScriptフレームワークの開発を担当。2016年に最高執行責任者の小林(仮名)さんとクルービットを設立

    「コードを書くだけのプログラマー」のままでは、AIに代替されるかもしれない

    田中さんは、リードエンジニアとしてクルービットのプライム案件をいくつも手掛ける同社のトップエンジニア。そんな彼も、下請けの受託開発会社で働いていた若手時代には、エンジニアとしてどうキャリアアップすればいいのか悶々と悩んだ経験がある。

    株式会社クルービット 田中一志さん(仮名)

    「当時の自分は、言われた通りにただコードを書くだけの人。上流から伝言ゲームのように降りてきたものを、上司に言われた通りに作業をしているだけでした。自分が開発しているシステムは誰がどう使うのか、何の役に立つのかも分かりません。このままだと自分の仕事はAIや自動化ツールに奪われてしまうと、エンジニアとしての存在意義を見失っていました」

    何かを変えないとエンジニアとして生き残れないと感じていた田中さん。転機は社会人になって3年目、最初に勤めた会社が解散したことをきっかけに訪れる。

    「実は1社目の企業が解散してから半年間、仕事のなかった期間があって、誰とも話さない生活をしていたんです。元々、人と話すのが怖くて、会社に電話が掛かってきても出たくないくらいで(笑)。でも、そんな生活をしていたら上手く喋れなくなって、声すら出なくなってしまいました。この状況をどうにか変えなきゃって、まずはPHPの勉強会に参加したんです。そして、参加している優秀なエンジニアのメンバーに刺激されて、コミュニティの運営やOSSコミッターとしての活動を始めました」

    エンジニアとして市場価値を高めるべく、こうした活動を通じてスキルを磨くと心に決めた田中さん。その後転職し、複数の受託開発会社で経験を積みながら、社外での活動を継続して行っていた。

    そんな田中さんに、再び人生の転機が訪れる。以前同じ職場で働いていた小林さんから、クルービットの共同創業の誘いを受けたのだ。

    「当時、社外で精力的に活動をしていたものの、そもそもの下請けの開発会社で働く環境を変える必要性を感じていました。エンジニアとしてより成長するためには、上流工程で経験を積む必要性を感じていたんです。小林はエンジニアとして信頼できるし、顧客の要望を汲み取った提案もできます。彼の営業力と自分の技術力を組み合わせれば、上流工程からエンジニアが携われる、やりがいのある環境をつくっていけると感じました」

    周りの人と楽しく働きたい。自分だけでなく、より多くのエンジニアに幸せな環境を提供したい。そんな志向の強い田中さんは、自分のような下請け開発で悶々としているエンジニアを一人でも減らしたいという想いもあり、共同創業に参加することにした。

    ユーザーの声を直接聞ける環境が、高い技術力を持つエンジニアへと成長させる

    創業して3年、社員数が2人から10人に増えたクルービット。ほぼ100%プライム案件を手掛け受託開発を中心に請け負う同社だが、開発は100%自社内。受託を専業としているため、その時々の案件に合わせて技術を習得する必要があり、「身に付くスキルの幅は自然と広がっている」と田中さん。

    念願だった上流工程に携わるようになって、「顧客と直接やり取りができることに思っていた以上のやりがいを感じている」と言う。

    株式会社クルービット 田中一志さん(仮名)

    「ユーザーの声を直に聞けることが、こんなにもやりがいにつながるものだとは思いませんでしたね。下請けの開発会社に多い“伝言ゲーム”はありませんし、実際にシステムを使うユーザーの“顔”が見えるので、モチベーション高く働けます。これまでの仕事が認められて、お客さまを紹介してもらったり、リピートしていただいたりすることが多く、それは本当にうれしいことです。誰のために何を開発しているのかを日々考えられる環境に、とても満足しています」

    発注者やユーザーの顔が見えたからこそ、「顧客の課題を本当の意味で解決するシステム」を提案できるのもまた、上流工程に携わる醍醐味だ。

    「下請けの受託開発を手掛けていると、どうしても顧客の要望に逆らわないことが顧客のためになると考えてしまいがち。だけど、本当に相手のことを考えるなら、顧客がそのシステムを通じて何を実現したいのかをきちんとヒアリングして理解し、それに基づいた最適な仕様を提案することが必要ですよね。顧客自身も気付いていない潜在的な要望をこちらが言い当てるくらいの提案力があれば、例え相手の要望とは異なる提案をしたとしても、信頼してくれるものです」

    今では、課題や実現したいシステムについての相談を顧客から直接請け、仕様の提案から開発、テストまでを1人でこなす。全ての工程を1人のエンジニアが担い、1つのシステムを1から10まで手掛けるチャンスがあるのは、同社の特徴でもある。そして、こうした環境があることこそ、技術書の査読やOSSコミッターとして活躍できるほどの高い技術力を持つ田中さんがクルービットで働き続ける理由の一つだ。

    「何が顧客のためになるのかをきちんと考え実行していくことで、『コードを書くだけのプログラマー』を卒業できました。お客さまの要望の意図や背景を探る機会が増えたことで、なぜこのシステムを開発すべきかを徹底的に考えるようになったんです。機能開発の一つ一つに対しても必要性をお客さまに伝える必要がありますから、言語化をする力も伸びたと思います。

    お客さまの声を直接聞ける立場にいるということは、期待値を超えるアウトプットを出さなければいけないというプレッシャーの中に、常にいるということも意味しています。そういった環境の中で、目の前の課題にコミットすることは、自分をすごい速さで成長させてくれていると実感しますね」

    上司を顧客と見立てることで、上流工程で必要な「提案力」は身に付く

    改めて今、かつての自分のような、下流工程にしか携われないエンジニアに対して田中さんは何を思うのだろうか。

    株式会社クルービット 田中一志さん(仮名)

    「誤解を恐れずに言えば、下請けはある意味楽ではあると思います。なぜなら、仕様書通りに、言われたことだけをやればいいですから。ただ、将来的にAIに置き換えられやすい仕事なのは間違いありません。もしエンジニアとして成長したいと思うのであれば、上流工程に携われる環境に飛び込むことをおススメします」

    ただ、上流工程を手掛けられる環境に行くためには、プライム案件を手掛けられるスキルが必要だ。下請けの環境に勤めるエンジニアはどのようなことをすべきだろうか。

    「顧客とやり取りするためには提案力が欠かせません。まずは上司や1つ上のレイヤーの担当者を顧客と見立てて、必要な情報を引き出したり、相手が期待することを汲み取ったりといった訓練をするのが良いと思います。あるいは、なぜこのコードになったのか、どうしてこの仕様になっているのかを考える習慣を身に付けるだけでも、成長につながると思います」

    そうはいっても、「自分が変われるはずがない」「コミュニケーションなんて苦手だ」と、自分の殻に閉じこもってしまいがちなエンジニアも多いはず。そんなエンジニアに、田中さんは次のようなエールを送ってくれた。

    「20代前半の僕もそうでした。もちろん、その苦手意識をそのまま放置しておくこともできるでしょう。ならばその分、圧倒的な技術力がなければ生き残ってはいけません。でも、技術力にそこまでの自信がないのであれば、最低限、顧客に不快感を与えないコミュニケーション力が必要です。そのために、カンファレンスの運営に参加したり、OSSコミッターになるのも一つの手。コミュニケーションへの苦手意識を克服するためにも、鮮度の高い情報に触れ、技術的な悩みをすぐに相談できる仲間をつくるためにも有効です」

    株式会社クルービット 田中一志さん(仮名)

    「それから、やりたいことは言い続けた方がいい。いきなり上流工程の仕事に携わるのは難しくても、まだ経験したことのない案件にアサインしてもらえるかもしれないし、やりたい案件が来た時にアサインされる可能性も高まります。そういう積極的な姿勢を見せれば上司からも信頼されるようになりますし、任せてもらえる仕事の範囲も増えていくと思います」

    不満ばかり言い、現状に甘んじることは誰にでもできる。どんな状況に置かれても今の自分にできることを精一杯、愚直に取り組み続けることがキャリアアップへの道へとつながるのだろう。

    取材・文/石川 香苗子  撮影/桑原美樹

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