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CIC Japan梅澤高明が明かす、ユニコーン企業が生まれない日本の真実「一流のエンジニアこそ起業せよ」

働き方

    本特集では、テクノロジーの力で社会課題の解決に取り組む「未来の創り手」たちの仕事にフォーカス。彼らが描くビジョン、挑戦の原動力、エンジニアがイノベーターへの一歩を踏み出すためのヒントを聞いた

    世界最大級のイノベーションコミュニティ運営企業「CIC」が2020年7月、 アジア初の拠点となる「CIC Tokyo」を東京・虎ノ門にオープンする。

    CICは、イノベーションにより世界・社会の諸問題を解決しようという起業家に対し、さまざまなリソースを提供・支援するコミュニティとして、1999年に米国マサチューセッツ州ケンブリッジに設立された。

    世界7都市にイノベーションセンターを構え、さらに2都市で新たな拠点の開設を準備中。これまでに支援してきたスタートアップ企業は約6000社に及び、同センターから生まれた企業に対して累計80億ドルを超える投資が行われている。

    そのアジア初の拠点としてオープンするのがCIC Tokyoだ。運営組織CIC Japanの会長にはA.T. カーニー日本法人会長の梅澤高明さんが就任した。

    梅澤さんは、「日本は世界的に見ても技術の種に溢れた、非常に大きな可能性を持った国だ」と話す。だからこそCICも今回の東京進出という決断に至った。

    では、それだけのポテンシャルを秘めた日本から、世界にインパクトを与えるようなスタートアップがなかなか生まれていないのはなぜなのか。

    一つは、CIC Tokyoのような大規模なスタートアップ・エコシステムがこれまで日本には存在しなかったこと。そしてもう一つは、エンジニアのあり方に大きな要因があると梅澤さんは言う。

    CIC Japan 会長 梅澤高明さん(@TakUmezawa)

    CIC Japan 会長 梅澤高明さん(@TakUmezawa

    東京大学法学部卒、MIT経営学修士。CIC Tokyoの設立責任者。A.T. カーニーの日本法人会長を兼務。日米で25年にわたり、戦略・イノベーション・マーケティング・組織関連のコンサルティングを実施。同社のグローバル取締役、日本代表などを歴任。クールジャパン、知財・デザイン、インバウンド観光、税制などのテーマで政府委員会の委員を務める。一橋ICS(大学院国際企業戦略専攻)特任教授。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』コメンテーター。「NEXTOKYO」プロジェクトで東京の将来ビジョン提言、個別の街づくりへの参画、規制改革提案を行う。著書に『NEXTOKYO』(楠本修二郎氏と共著、日経BP社)がある

    日本発のユニコーン企業があまりにも少ない理由

    なぜ今東京でCICをやるのか。背景にある課題意識はこの数字に尽きます。

    日本のスタートアップの現状VS諸外国

    現状、日本からはユニコーン企業がほとんど生まれていない。まず開業率が低く、スタートアップの数が少ない。そして、日本発スタートアップの成長ポテンシャルが高く評価されていないため、ベンチャー投資額も小粒であることが要因です。

    日本の国内マーケットは米中と比べて圧倒的に小さいから、世界市場を相手に考えなければ、世界のベンチャーキャピタルから大きな投資を受けることはできません。つまり、「成長ポテンシャルを上げましょう」という話の相当部分は「Go Global」に帰結します。

    そして、一発必中などあり得ない以上、裾野を広げるために開業率を引き上げる必要もある。これがわれわれの持つ課題意識です。CICには、こうした課題を解決するためのコミュニティ、ネットワークとリソースがそろっています。

    CIC Japan 会長 梅澤高明さん

    同じ問題意識を持った人たちはこれまでにもいたでしょうが、ここまで全てがそろった迫力ある規模のエコシステムは日本に存在しませんでした。数多くの骨太のスタートアップをグローバルに押し出していくためには、ちょっと投資して3カ月間のトレーニングプログラムを提供して、という規模ではダメなんです。その後のステップも含めたエコシステムがないと、なかなかスムーズに成長していけません。

    まず母数がいる。それからレイターフェーズまでエコシステムがつながっている必要がある。われわれはそこまで含めて取り組んでいくということです。

    これまで日本のスタートアップコミュニティをリードしてきたのはBtoCのWebサービス、モバイルサービスでした。特に収益源はゲームという会社が多かった。ゲームで稼いでいる分をほかに投資できるという意味ではよかったのですが、違う形もないと日本のイノベーションは加速しない。リアルテック、BtoBも育てないといけないでしょう。

    その点で言えば、CICはすでに東京の有力な大学・大学院のほとんどとつながりがありますから、アカデミア発の起業という意味でも大きな貢献が期待ができます。

    また、日本のテック業界はこれまで男性中心でした。しかし、例えばサービス業を革新しようと思ったらカスタマーの中心は女性なのだから、女性の起業家が開発したサービスがもっとないといけません。

    CIC Japan 会長 梅澤高明さん

    加えて、日本社会が今後国際化する中で、サービスの顧客も国際化していきます。多様化する潜在ニーズに対して日本人の起業家が応えるだけではとても追いつかない。非日本人の起業家が日本で起業する、あるいは海外で起業したものを日本に持ち込み、日本国内の非日本人に向けてサービス提供するケースを増やす必要もあります。

    姉妹団体である『ベンチャー・カフェ東京』では過去2年にわたって起業家向けのセッションとネットワーキングの場を提供しており、累計2万人の参加者を集める日本最大のイノベーションイベントコミュニティにまで育っています。

    このコミュニティの特徴はまさに多様性にあります。スタートアップ起業家もいれば、大企業の人も相当いる。平均年齢が低く、女性比率も高い。性別を尋ねると男性・女性ではない「それ以外」と答える人が19%もいます。外国人の参加者も多いです。イノベーションイベントをうたっておきながら40、50代の男性しかいないようなイベントと比べると雰囲気がかなり違います。

    何か新しいことにチャレンジしたい、一歩踏み出すきっかけがほしいという人は、まずはこうしたイベントに足を運んでもらうだけでも、さまざまな刺激が受けられるはずです。

    海外の優秀なエンジニアたちは「この技術でどう起業をするか」を考える

    CIC創業者兼CEOのティム・ロウは、アジア最初の拠点は日本と昔から決めていたようです。それには、彼がもともと日本の会社で働いていたこともありますが、何よりも日本に対して大きな可能性を感じていることがあります。

    米国のフォーチュン誌が発表する「フォーチュン500」企業の本社の数で言えば、世界で1位が北京、2位が東京です。また、地位が低下したとは言っても、経済規模も依然として世界で3番目。R&Dの投資額も大きい。理系の大学では研究水準で世界のトップクラスを走ってきた分野もいくつかあり、基礎研究の蓄積があります。日本には、米中に次ぐレベルでたくさんの技術的な種があると言えます。

    CIC Japan 会長 梅澤高明さん

    なのにユニコーンが3社しかないというのは、ひとえにそうした技術的な種が大きな事業として育つところまでいっていないからです。「インベンション(発明)」を「イノベーション(革新)」へつなげられていないケースが多い。

    どうすればこの流れを変えることができるのか。端的に言えば、科学者や技術者上がりの起業家の数を増やすことがとても大切だと私は考えています。

    スタンフォードやMITに行けば、技術のいいネタを持った大学生、大学院生がどんどん起業しています。それも、3回目、4回目の起業という学生ばかり。教授にしてもそう。「2回会社を上場させて大金持ち。次のネタを仕込むために大学に戻って教授をやってます」みたいな人もいる。

    日本の大学で技術をネタに起業する研究者は少数派です。東大、京大、慶應、早稲田、東工大などは本来、そういう人が山のようにいてもおかしくないネタの宝庫なのに。

    教授も然り。日本の国立大学は教員も手足を縛られていて、起業してもすぐに「知財の帰属は?」という話になる。中には筑波の山海(嘉之)さんのように”腕力”で突破した例もありますが、なかなかそうはいきません。

    CIC Japan 会長 梅澤高明さん

    MITやスタンフォード出身の優秀なソフトウェアエンジニアの多くが最初に考えるのは「この技術を使ってどう起業しようか」ということです。どうしてわざわざグーグルやマイクロソフトに就職する必要があるのか、というマインドセットを持っているわけです。

    「ガジェットを作るのが楽しい」「プログラムを書くのが好き」という最初のモチベーション自体は日本のエンジニアとそう変わらないと思います。それなのに、彼らはMITでエンジニアリングを研究しながらも、同時にMITのビジネススクールに通ったり、バブソンカレッジで起業家教育のコースを取っていたりする。

    なぜかと言えば、自分の培ってきた技術を使って社会にインパクトを与えたいと思えば、そこは避けて通れないことを知っているからです。大学でもそう教わっている。そこは日本の理系教育の大きな改善点だと思います。

    日本のエンジニアよ、イノベーションのど真ん中にいるのは君たちだ

    「イノベーション」をリードするのは誰か他の人の仕事だと思っているエンジニアがいるのだとしたら、何を寝ぼけたことを言ってるんだという話です。イノベーションのど真ん中にいるのは、あなた方エンジニアでしょう、と。

    CIC Japan 会長 梅澤高明さん

    イノベーションを起こそうと思ったら社会と接続しないとダメ。インベンションだけいくら一生懸命にやっても、その後工程を放棄していてはイノベーションは起きません。

    もちろん、科学者やエンジニアが開発した技術をうまく使って事業を組み立てられる経営のプロと組む、あるいは大企業に入って、その中で自分の技術を生かすという選択もまったく否定はしません。ただ、言いたいのは、事業経営を誰かに任せることが必ずしも不可欠ではない、ということです。エンジニア本人が自分でリードしたっていいはず。その選択肢を当たり前に持ってほしい。

    技術の素養のない人に後から技術を教え込んで、技術革新の大波の中で経営の舵取りをするのは、正直相当に骨が折れることです。それよりは、何かの技術分野を徹底的に掘り下げた経験があり、技術の理解の仕方を本質的に分かっている人に経営や起業のスキルを注入する方が、よっぽどハードルは低い。エンジニアはそれだけのポテンシャルを持っているんです。

    CIC Japan 会長 梅澤高明さん

    繰り返しますが、大企業で自分の技術を生かして自由にイノベーションを起こせている人、起こせそうな人が、その中で頑張ることはまったく否定しません。

    けれども、もしも本当はもっとやりたいことがあるのに、何らかの理由でそれができずにくすぶっているのだとしたら、スタートアップに飛び出す方がいいと思う。スタートアップには、野望と成長プランはあるけれども、それを実行するリソースが決定的に不足している会社がたくさんあります。そこに飛び込むのでもいいですし、シニアの人ならCTOとして加わるのでもいい。CIC Tokyoにも、そんなニーズを持ったスタートアップがたくさん入居してくると思います。

    日本の先行きを不安視する声は多いですが、やり方次第でまだまだどうにかなると思っています。だからこそ私もこんなことをやっているわけで。私は25年間、経営コンサルタントとして大企業を支援してきた人間です。しかし日本の産業がイノベーション力を取り戻すためには、スタートアップがもっと活躍すること、そしてそのためにも大企業に囲い込まれた経営資源を解放することが不可欠だ、と考えるようになりました。

    人材も、技術やデータなどの知財も、大企業で十分に活用できていないものは開放したい。そんな資源の流動化が実現すれば日本の景色は大きく変わる。CIC Tokyoの重要なミッションの一つだと思っています。

    取材・文/鈴木陸夫 写真/吉永和久

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