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SESは本当に“踏み台”なのか? 自社開発からあえてSESを選んだ2人に聞いてみた

働き方

    ネット上には、数々の「SES脱出」ノウハウが出回っている。しかし、SESは本当に“脱出”しなければいけない場所なのか? 本特集では、SESで働く技術者・経営者や人材業界の識者への取材をもとに、SESにまつわるネガティブな噂の真相を検証。SESエンジニアが仕事を楽しみ、“いいキャリア”を築くための方法を紹介する。

    巷では「SESで経験を積んで、自社開発ができる企業に転職すること」がキャリアアップの王道ルートのように言われている。しかし本当にSESは“踏み台”的な場所なのだろうか?

    そこで今回は、自社開発を経験した後に“あえて”SESエンジニアのキャリアを歩んでいる2人にインタビュー。自社開発を経たからこそ分かったSESの魅力とは?

    【CASE1】自社、受託、SES……どこであろうと“アサインリスク”は変わらない

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    イントループ株式会社 テクノロジーソリューション事業部 
    田中正弘さん

    ソフトウエアハウス2社にて23年、SEとして経験を積んだ後、外国為替証拠金取引会社での自社内開発を経験。その後「さまざまな現場で、先端技術に携わってみたい」とイントループに転職

    ――田中さんは受託開発を20年以上経験した後に、自社開発ができる企業に転職して、その後、今のSESに来られたんですよね。まずは、受託から自社開発に転職した理由を伺えますか?

    ずっと「上流工程の自社開発に携わりたい」と考えていました。自社開発であれば、もっと自分の専門性を深掘ることができたり、開発に自由が効いたりするのでは、と思っていて。そこで、外国為替証拠金取引を行う企業のシステム部門に転職したんです。

    ――実際に自社開発を経験してみて、いかがでしたか?

    SEとしてとても貴重な経験をさせてもらったと感じています。しかし今考えれば当然なのですが、自分がやりたいことばかりできるわけではありませんでした。

    特にアサインのリスクに関しては、自社とはいえ受託やSESとそれほど変わらないのでは、と思いましたね。会社から『この案件をやってほしい』と言われたら、やるしかないわけですから。

    ――なるほど。ではそこから、SESを選んだ理由は?

    「自社で扱っている領域以外のこともやってみたい」と考えたからです。機械学習を始めとする先端技術に興味があり、もっといろいろな専門性を身に付けたいという気持ちがありました。でも自社開発だと、良くも悪くもその分野の専門家になってしまいますよね。

    そんな時に、SES事業に加え、先端技術の研究・開発やITコンサルティングを手掛ける現職のイントループに出会いました。イントループは「プロフェッショナル人材」を輩出する会社ですから、ここでならさまざまなスキルを身に付けられるのではないかと思ったんです。

    ――自社もSESもアサインのリスクは変わらないから、それならいろいろな現場に行けるSESに絞ろうと思った、ということでしょうか?

    はい。私はそもそもSESの案件アサインをリスクとは考えていなくて。「いろいろな業界や思ってもみなかった現場にアサインされるかもしれない」のがSESの面白さだと感じています。

    実際に現在も、金融機関のシステム基盤をつくる現場にアサインされていて、これはもともと希望していた機械学習系の案件ではありません。しかし会社内での勉強会や情報共有の場があるのでとても満足していますし、ワクワクしながら働けています。

    ――それでもやっぱり、SESは自社に比べて「自分に合わない案件が多い」イメージも強いです。

    SESなら「私には意外とこんな案件が向いているんだな」と分かりますし、逆に言えば自分に向かないものも分かりますから、そこまで恐れることはないんですよね。

    逆に自社開発だと『私に金融系は向いていなかったな』と思っても、社内である程度のところまでしか逃げられないじゃないですか。でもSESなら、良くも悪くも逃げられる。

    職歴書を汚さずしてキャリアチェンジできる」のはSESの良いところだと思います。

    SESは踏み台?
    ――世の中には「SESではキャリアアップできない」「SESは踏み台」と考える人もいるようですが、その点はどう感じていますか?

    両方経験してみて、個人的にはSESの方が「自分のキャリアをつくれている」感覚がありますね。

    これは一例ですが、自社開発では、自分の評価をするのは直属の上司だけです。でもSESでは自社の営業、常駐先の自社の上司、クライアント側の上司もいますよね。

    そうやって各方面から評価をされる機会ってすごく貴重。それってつまり、常に市場価値を意識しながら仕事に取り組むことができる環境だと思うんですよ。そう捉えられるなら「キャリアアップできない」なんてことはないはずです。

    あと個人的には、「SESで自分のキャリアを築く」と言うためには、一定の課題があると感じていて……。

    ――どんな課題ですか?

    SES企業はサービスを継続的に提供するために人材を募集しますが、集まったエンジニアの中には経験豊富な人もいれば、経験の浅い人もいます。

    経験豊富な場合は良いのですが、経験の浅い人が一定レベル、例えばクライアントのニーズに答えられるレベルになるまでは、組織としてチームとして育成やサポートする仕組みが必要です。

    経験の浅い状態からレベルを上げ、「キャリアを築く」と言えるようになるまでには、ある程度の時間が必要なのは、SESの課題だと思いますね。

    ――なるほど。

    あ、でも私は「SESは最高、自社開発は良くない」と言いたいわけではありませんよ。エンジニアに限らず、キャリアって「自分がどうなりたいか」次第だと思いますから。

    ――自分がどうなりたいか次第?

    はい。自社だから良いとか、SESだからダメだとか、そういうことではなくって。自分はいろんな案件に携わりたいからSES、一つのサービスにコミットしたいから自社開発、など『自分がやりたいことベース』で選べばいいのだと思います。

    特に今って、『自分がどうしたいか』が強く問われる時代じゃないですか。だからそれがない人は自社だろうとSESだろうとダメだろうし、逆ならどこに行ってもやっていけるんだと思いますよ。

    ただしそこに、SNSなどで植え付けられた「SESは踏み台」のような、イメージだけで判断しない方がいいよ、とは言いたいですね。

    【CASE2】闇が深いSES”が存在するのは事実。一概に「SESは良いよ」とは言いたくない

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    株式会社リンク 
    岡村翼さん

    HP制作の営業を経て、SESでプログラマ、SEを経験。29歳の時に「腰を据えて働きたい」と大手小売企業のシステム関連会社に入社。2020年に「エンジニアが報われる会社」を掲げる株式会社リンクに転職

    ――岡村さんはSESで働いた後、自社サービスを持つ大手小売のシステム会社に転職されていますよね。それはどういった経緯で?

    SESのエンジニアによくあると思いますが「腰を据えて開発に取り組みたい」と思ったのが一番の理由です。実際にその願いは叶えられたのですが、結局やることは社内の調整だったり、実際に手を動かすのはベンダーさんの役割だったりするので、もう少し自分で技術の専門性を高めていきたいなと感じていました。

    ――それで、SESに転職しようと思ったのでしょうか?

    いえ、初めは「SESは嫌だ」って思っていたんですよ。過去にSESで働いていたので、残業が多かったり給料が低かったりする会社が多いのは知っていましたから。

    しかし当社代表のTwitter(@SES48740815)をたまたま見かけて「この会社は違うかも」と思って。詳しい話を聞きたいと代表にアポをとったのがきっかけで、SESに対するイメージががらっと変わりました。

    ――どのように変わったのでしょうか?

    ありきたりな話になってしまうんですけど、「社員を大切にするSESってあるんだな」と感じたんです。パワハラ、低賃金、残業を禁止していることもそうですし、エンジニアに「低スキル禁止」を掲げているのも好印象でした。ここでなら自分の専門性を高められそうだと思ったんです。

    ――とはいえ、世の中的には「自社開発の方が良い」的な風潮がありますよね。

    ありますね。でも、自社開発にはメリットしかないか、と言われるとそうでもなくって。

    例えば、担当案件が炎上してもそこから逃げることはできないですし、「スキルを高めなくても、会社が用意してくれたレールに乗っていればどうにかなる」ような雰囲気は、技術的な成長を望む自分にとってはデメリットでした。

    SESは踏み台?

    SESではキャリアアップできない、と言われることもありますが、それは一部のエンジニアと企業の話だと思います。SESでも、自分のスキルと会社の姿勢さえあれば、クライアント先でPMを任されることもありますから。

    ―― 一括りに「SES」と考えるのではなく、あくまで自分と会社次第だと。

    そう思います。当社の代表はよく、「世の中にはとにかく“闇が深いSES”が多い」と言っています(笑)。僕もそのイメージでしたし、「SESは踏み台」と言っている人はそういう“闇深SES””のことを指しているんでしょうね。

    だから単純に「SESは良いよ」とは言いたくなくって。正確に言うなら「SESでも良い会社を選べたら、エンジニアとして成長できるよ」ということです。

    ――そういった「良い経験を積めるSES」を探すのが難しいですよね……。

    そうですね、僕はとてもラッキーでした。

    もし今そういう「良い経験が積めるSES企業」を探している人がいるなら、「挑戦を後押ししてくれる風土と仕組み」があるかどうかに注目するといいと思います。

    ――挑戦ですか?

    はい。自社開発と違ってSESには「会社が用意してくれるレール」がほとんど存在しません。そのためまずはエンジニア側が、技術的なスキルを学びたい、やりたい案件がある、などの積極性があるのが大前提です。

    こういったチャレンジマインドや向上心を持ったエンジニアが、それをちゃんと後押ししてくれるSES企業と出会えたら、すごく理想的なんじゃないですかね。


    SESで良い経験を積むためには
    「自分で選んで決める」ことが大切

    今回話を聞いた2人に共通していたのは「もともと自社開発に憧れを持っていた」ということ。具体的には、自社開発であればより高度な専門スキルが身に付きそう、腰を据えて長く働けそう……というイメージを持っていた。

    しかし2人が自社開発を経験して気付いたのは「自社開発だろうと、SESだろうと、自分にとってのメリット/デメリットを理解した上で働き方を選べば、理想のキャリアは叶えられる」ということだ。

    「SESでは成長できない」というフィルターを一度取り外して、自分の気持ちと向き合い、自分に合った会社を選択する。しっかりと「自分で選んで決める」ことができれば、SESで良い経験を積むことができるのだろう。

    取材・文/大室倫子

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