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『バチェラー』黄皓(こうこう)創業のミラーフィットを取材したら、“経営者に頼られる”エンジニアの素養が見えてきた

働き方

    NEOジェネレーションなスタートアップで働く技術者たちの、「挑戦」と「成長」ヒストリーを紹介します!

    ミラーフィットは、専用のミラーデバイスにより、自宅にいながらプロ監修の本格的なトレーニングプログラムを受けられるサービス『MIRROR FIT.』を運営するスタートアップ。新型コロナウイルスによるパンデミックの渦中にあった2020年7月の創業以来、ハードウエアとソフトウエアの同時開発を進め、年内にはサービスリリースというスピード感で突き進んでいる。

    代表取締役の黄皓さんは、三菱商事で貿易事業に携わった後、独立。ミラーフィット以外にも、中国の貿易・物流会社代表を務め、国内でパーソナルジム10店舗を経営している。また、Amazonプライム・ビデオ配信のリアリティーショー『バチェロレッテ・ジャパン』への出演や、『バチェラー・ジャパン』4代目バチェラーに選ばれたことでも知られる。

    黄皓さん

    そんな話題に事欠かないスタートアップに今回、連載『NEOジェネ』で取材を依頼。黄さんと、システム開発を中心になって進めたというフリーランスエンジニアの梅沢さんにオンラインで1時間のインタビューを行った……のだが、話はその場にいる誰一人として思わぬ方向へと進んでいった。

    プロフィール画像

    ミラーフィット株式会社 代表取締役
    黄皓さん(@haohaohaokun

    中国湖南省長沙市出身。高校入学のタイミングで来日し、早稲田大学を卒業後、三菱商事に入社。貿易事業を担う。現在は上海の貿易物流会社の代表取締役とトレーニングジム『BESTA』のサロン経営者を務め、それぞれの活動と並行し、2020年7月ミラーフィット株式会社を創業。20年、婚活サバイバル番組『バチェロレッテ・ジャパン』に参加。21年11から開始する『バチェラー・ジャパン』シーズン4のバチェラーに選出された

    プロフィール画像

    フリーランスエンジニア
    梅沢さん

    大手のSIの会社でシステムエンジニアとして10年ほど働き、地元のソフトウエアハウスに転職。その後フリーランスに。『MIRROR FIT.』のアプリケーション開発を担う

    アイデアの出発点:経営するジムがコロナで営業自粛に

    ーーなぜミラーフィットを創業したのでしょう? アイデアの出発点から教えてください。

    黄:2016年にパーソナルジムを開業し、4年間で順調に会員が増えていたのですが、新型コロナウイルスで営業自粛を余儀なくされました。コロナはいずれ終息するものだと思っていますし、耐え忍ぶ選択肢もあったのですが、自分の事業を外部要因に左右されるのがどうしても嫌で……。仮にコロナが一生回復しなくても、人々が自宅にいながら豊かな生活を送るためのサービスを何か考えられないかと思うようになりました。

    当初はスマホやパソコンを使ってオンラインプログラムを提供していたのですが、それだけでは付加価値を生んでいるようには思えなかった。もう少し付加価値の高いサービスはないかといろいろと探っていく中で、同じオンラインフィットネスの業界で世界的に成功している例として、『ペロトン(Peloton)』と『ミラー(Mirror)』を知ったんです。

    ーーペロトンとミラー。どんなサービスなんですか?

    黄:どちらもわれわれが現在やっているのと同じ「SaaS Plus a Box」という事業モデルなんですが、プロダクトがまずあって、それにサブスクリプションで毎月課金していく。ペロトンのプロダクトはエアロバイク。付属のタブレット越しにトレーナーとやりとりをして、臨場感のあるトレーニングが自宅で行えるというものです。

    一方のミラーはまさしくわれわれと同じスマートミラーのサービス。VOD(ビデオ・オン・デマンド)でトレーナーとトレーニングができたり、ライブでトレーニングができたりします。

    ーーそこからヒントを得て。なぜ鏡を選んだのでしょう?

    黄:どんなサービスでも、人々が長い間使えるサービスにするためには習慣化、生活に根付かせることが非常に重要だと思っているんです。ペロトンはオンラインフィットネスとして最大手で、すでに400万~500万人くらい会員がいますが、日本の住宅環境にエアロバイクを置くスペースはないですよね。どう考えても生活必需品ではない。これではどこかで飽きが来て、離脱をしてしまうだろう、と。

    黄皓さん

    ペロトンはサービス体験をとにかく深めることで勝っているのですが、僕らがそれをイチからやるのは難しい。だから、もっと生活に根付くデバイスを使いながら、付加価値を上げていこうと考えました。

    生活に根付いたデバイスには、たとえばテレビ、パソコン、最近だとスマートスピーカーがありますが、「それに準ずるのが鏡なのでは?」と考えたんです。当たり前にどの家庭にもあるものだし、日本の住環境にもすごくフィットしますしね。

    使わないときは鏡としての機能を維持しつつ、使うとなったら、僕らが提案したい新しいライフスタイルに即座にコンタクトできるデバイスになればいい。そう思って、僕らはこのスマートミラーをテレビ、パソコン、スマートスピーカーに続く「第4のデバイス」と名付け、真剣に普及させることを目指しています。

    開発のポイント:フリーランスエンジニア2人が同時並行で爆速開発

    ーー創業から半年弱で、開発はどこまで進んでいますか?

    黄:『MIRROR FIT.』では、大きく三つのサービスを展開する予定でいます。一つは、24時間365日、好きなトレーニングプログラムを受けられるVODのサービス。二つ目は、決まった時間に受けるライブのグループレッスン。三つ目は、登録されたフリーランスのトレーナーとマッチングすることで、個人レッスンを受けられるサービスです。

    このうち実装済みなのはVODのサービスで、すでに200本のコンテンツがあり、今後も増やしていく予定です。ライブとマッチング機能については、半年〜1年をかけて順次リリースしていきます。

    ホテルなどの事業者さん向けにはすでに納品も始まっており、個人宅向けは1月末から2月の納品を予定しています。

    ミラーフィット
    ーーということは、プロダクト自体はすでにできている?

    黄:はい。ソフトとハードを同時並行で開発を進めてきたので。ソフトは9月の頭から開発を始め、ものの2~3カ月でリリースできるところまで作り上げてもらいました。

    ーー梅沢さんがそのソフトの開発責任者ということですか。

    梅沢:そうです。ミラーデバイスがAndroid OSで動いているので、そのアプリの開発をしています。バックエンドはもう1人の別のエンジニアが。今のところはその2人でやってます。ハードはまた別の1人がやってますけど。

    ーーあ、2人だけ。そんなミニマムな体制でできちゃうものなんですね。

    黄:そうなんですよ! 仰る通り「2人でできちゃうの?」というのは、僕が一番びっくりしているところで……。なんだかんだ、2~3カ月で僕らがやりたいことはすべて実現してくれている。本当に素晴らしいエンジニアだと思っていますよ。

    実は、私自身は会社経営をする中で、エンジニアと関わるのはこれが初めてなんです。どこで採用していいかも、そもそもどんな技能があり、何ができるかも分からないところから入ったので。そんな中、知人に紹介してもらったのが、フリーランスとして活動している梅沢さんと、もう1人の方だったんです。

    ーー梅沢さんはフリーなんですか。

    梅沢:そうです。もともと大手のSIの会社でシステムエンジニアをやっていたんですが、10年くらいやったあと、地元・埼玉の小さなソフトウエアハウスに移って。その後はずっとフリーランスです。今回は、前に仕事をしたことのある会社の社長にたまたま紹介されて、一緒にやっているかたちです。

    ーーこれまではどんなお仕事を?

    梅沢:本当にいろいろですね。Androidのアプリも4、5個作って出しましたし。最近だと倉庫の管理システムなど大きいことも。何でもやらざるを得ないんですよ。断っていたら仕事がなくなっちゃいますから。

    ーー今回のアプリ開発は通常のスマホアプリとは違うものですか?

    梅沢:作り方自体は同じです。ただ、頭を使わなきゃいけないところがいくつかある。たとえば、デバイスがスマホとは違って他の人と共用するものなので、GoogleやSNSのアカウントをデバイス自体に登録するわけにはいかないじゃないですか。文字の入力も、ミラーに直接触って入力するソフトキーボードしかないので、文字入力の手間はなるべく少なくしたい。だから顔認証ログインを採用してみたり……。

    同時並行で進んでいたハード側の仕様が最近まで固まっていなかったので、直で触りながら開発できない苦労もありました。普通はPCとUSBでつないで、実機を動かしながらテストができますが、それが一切できず。たまに「お邪魔しまーす」と言って現地で触る感じで。そこはちょっと大変でしたね。

    梅沢さん

    黄:ハードのバージョンが変わったから、せっかく作ってもらったソフト側も変えないといけないとか。そこはご迷惑をおかけしました。

    梅沢:最初は事務所にあったデバイスのバージョンに合わせて開発していたんですが、いつの間にかデバイスのバージョンが下がっていて、対応を迫られたことはありましたね。今回はたまたま大丈夫でしたが、そういうことがあると通常、両対応とか、機能を諦める選択を迫られたりもするので、そこは早めに要件を決めてほしかったと言えばそうですけど。でもまあ仕方ないです。

    ビジネス側のやりたいことを汲み取るのが「こちら」の仕事

    ーースピーディーな開発ができたのは、優秀な方とたまたま出会えたことが大きかったわけですね。梅沢さんはどうして今回の仕事を受けようと思ったんですか?

    梅沢:面白そうだと思ったから、ですかね。スタートアップはエンジニアの裁量が大きいじゃないですか。アジャイルというか、考えながら作って、また戻って、というのができる。楽しんでできるのではと思ったんです。前も今回つないでもらった社長のスタートアップを手伝ったことがあったから、勝手が分かっていたのもあって。

    あとは、黄さんからサービスやプロダクトの展望を聞いて、単純に「すごいな」と思いました。最近はビジネスサイドの人と話すことも多いんですが、エンジニアとは根本的に考え方が違うんですよね。うまく言えないですが、ちょっと思考回路が違うというか。

    しかも黄さんは流通なども自分でやっているじゃないですか。だから将来のビジョンをはっきり持っていた。そこがすごいなと思いました。本人の前ではこんな話しないけど。

    黄:いやー嬉しいですね。でも、今回に関して言えば、僕がエンジニアのことを全く分からないズブの素人だったのも良かったと思っていて。一方でビジョン、マネタイズについては確固たる意識を持っている人間なので、僕はエンジニアさんの都合を顧みることなく、やりたいことを伝える。「こういう世界観をつくりたい」「こういう稼ぎ方をしたい」「だからこういう機能を付けてくれ」というように。

    ちょっとでもエンジニアのことが分かると、言えないところもあるんでしょうが。僕は知識がないからこそ、やりたいことを何でも言える。それを怒りながらも全部やってくれるのが梅沢さんたち。だから働きやすい……と経営者の自分が言うのは変なんですが、勝手に安心感を感じてます。

    黄皓さん
    ーーでも、逆のことを言うチームもあるじゃないですか。エンジニアのことを分かっていない人が言いたい放題言うことを、あまり受け入れられないエンジニアも中にはいますよね?

    梅沢:たしかにそういう人もいますね。でも、私はビジネス用語をシステム用語に置き換えるのがこちらの仕事だと思っているので。意図を汲み取って、やる。それが楽しいんです。コードを書くだけじゃないってのが。

    むしろそういうやりたいことをダイレクトに聞けない方が、こちらとしては嫌ですね。最近になってビジネスサイドの打ち合わせに一度出させてもらったんですが、そこでは、これまで聞いたこともなかった夢を語り合っていたんです。そういうのをこちらに共有してもらえれば、できる・できない、やるならいくら掛かる、といったことも回答できる。

    初期はなかなかその情報が降りてこなくて、伝言ゲームのようになって、フィルターをかけられて降りてきていたから。むしろもう少し生の夢の話を聞かせてほしいな、と。

    黄:僕がエンジニアとの共通言語を持っていないこともあって、勝手に話すと混乱させてしまうと思い、最初は間に人を挟んでいたんです。でも、そこがうまく伝わらなかったみたいで。普通の会社ならCTOがそれをやるんだろうけど、そういう人がいなかったから……。

    エンジニアさんによっては、知識はあるし、手も動くけれども、僕らが「こういうのを直してほしい」「作り上げて欲しい」と伝えると、「いや、タスクに分解して喋ってくれ」と言う人もいるじゃないですか。でもこちらからすると、「いや、タスクへの分解ができないからお願いしているんだよ」と。

    これは経営陣からすると大変ですよ。もちろん極力丁寧に説明したいと思ってます。でも、タスクに分解するとか、エンジニアが分かる言語にまで翻訳することは、残念ながら僕らにはできない。ダイレクトコミュニケーションができる梅沢さんのような人の存在は、僕らからすると本当にありがたいんです。

    ーー梅沢さんの「ビジネスサイドの言葉を変換してこそエンジニア」「そこが一番面白い」というスタンスは昔からですか?

    梅沢:そうですね。会社にいた時はなかったですが、フリーになってからは。元の資料がパワポの紙芝居のようなものしかなくて、それをこちらで解釈して、要件定義して、設計して、という仕事ばかりしていたので、シチュエーションとしては慣れてますね。

    「レールを敷いてもらわないとできない」というエンジニアもいるから、人それぞれだと思うんですけど。自分はこういうやり方が性に合っていたんだと思います。

    理想のポジションも「話してみないと分からない」

    ーー今後サービス拡大するにあたって、チームはどうしていくお考えですか?

    黄:死ぬほど増やしたいと思っていますよ! 毎日エンジニアの採用を頑張っているところです。

    お2人のパフォーマンスには大満足なんです。とはいえ、さらなるスピード感は必要。今は自分たちの想いをかたちにするフェーズですが、これが世に出ると、今度はお客さまからのフィードバックを受けて、バグの修正、機能の改善、求められる新機能の付与など、やらなければいけないことが山ほど増える。お2人だけにお願いし続けると負荷になりますから、フロントエンドを最低でもあと1~2人、バックエンドも入れたいと思っています。

    今はビジネス戦略としてフィットネスに特化していますが、これはあくまで入り口であって、「一家に一台スマートミラー」を実現できた先には、ファッションやヘルスケアの領域にも展開し、自宅にいながら豊かな生活を享受できる世界を本気で実現していきたいと考えています。ビジョンの実現のためには、エンジニアの協力が絶対に必要なんです。

    ミラーフィットが目指す事業展開

    ミラーフィットが目指す事業展開

    梅沢:今は2人しかいないので、バックエンドやインフラはグーグルのmBaaSである『Firebase』を使っているんです。でも、これにはかなりコストが掛かる。ユーザーが増えてきたら自社のサービスにしたいよねという話は前々から出ていて、そうなったら人を増やすことにもなるのかなと思ってます。

    ライブ配信の仕組みについても、機能的にはすでにあるんですが、現状は外部サービスなので。そこも自社に置き換えたら、クオリティーもコストもよくなるんじゃないかな、と。

    黄:そして、もっと言えばCTO的なポジションですよね。僕は経営陣としての言葉を言うけれども、それを各エンジニアにタスクとして振り分けられるポジションの人をきちっと採用したいとも思っています。

    ーー梅沢さんはCTOにはならないんですか? 組織がまだ小さいとはいえ、実質的にはCTO的な仕事をしているわけですし。

    黄:そりゃあやってくれるなら、そんなにありがたいことはないですよ! でも、僕がすごく難しいと思っているのは、フリーランスエンジニアを選んでいる理由があるのでは、というところ。何かに所属したくないという、エンジニアさんならではの考え方を踏みにじるわけにはいかないですから……。

    ーー梅沢さん的にはどうなんですか?

    梅沢:いや、それは前向きに検討したいですね。

    黄:えっ? なってくれるんですか!? ちょっと後で、ちゃんと話しましょう。

    ーーそもそも梅沢さんはなぜフリーランスを選んでいるんですか? 黄さんが仰るように、なにかこだわりがあったのでは。

    梅沢:最初は電車通勤がすごく嫌だったんですよ。一番遠いときは片道2時間かけて通っていたので。それが本当に嫌で、時間がもったいないと思って、地元のソフトハウスへ移ったんです。でも、ソフトハウスはソフトハウスでいろいろ難しさがあることが分かって、それで自分でやるしかないと思って在宅フリーランスに……。

    でも、今は会社員であってもコロナで在宅勤務が増えているから、フリーランスにこだわる必要もないな、と。この先はインボイス制度の導入も予定されていて、それが始まると個人事業主はみんな廃業するのではとも言われていますし。だから、最近は「正社員として雇ってもらえるなら、行ってもいいのかな」と思っていたんです。10年前とは状況がだいぶ変わっているので。

    ーーこの先人が増えたら、人を束ねる仕事もやることになるわけですよね。フリーランスとしてやってきた梅沢さんからすると、むしろそちらの仕事の方がプラスアルファになる気もするんですが、そういう仕事も嫌じゃないんですか?

    梅沢:そっちの方が身体的には楽じゃないですか。「あれ、どうなった?」って言えばいいだけなんで。

    黄:そうなんだ。梅沢さんはコードを書いていたいタイプなのかと思ってました。

    梅沢:今は他に書く人がいないから俺が書いてますけど、コードを書く仕事は時間が溶けていくんで。今も夜中まで仕事してますけど、いい歳なんで体が、ね。

    黄:いやー、話してみないと分からないものですね。ただ、2~3カ月実際に仕事をしてみた今だからこそ、こういう話になったのかもしれない。僕らとしても信頼があるし、もしかしたら梅沢さんにも「この会社、意外と働いていて楽しいかも」と思ってもらえているのかな、と。最初からいきなり「うちで働いて」と言っていたら「いやいや」となっていたでしょうし。

    思わぬ収穫のあるインタビューで、何だかありがとうございます。

    ーーいえいえ、こちらこそなかなか立ち会えない場面に立ち会えて面白かったです。ありがとうございました!

    取材・文/鈴木陸夫

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