Windows95の父・中島聡の仕事術「日本人はルールに縛られすぎ。もっとつくりたいものをつくればいい」【ECDWレポ】
コロナ禍で日本以上にリモートワークが浸透したアメリカ。日本のエンジニアにとっても、ビザなしでシリコンバレー企業で働ける時代が本格的に到来したとも言える。
では、ボーダレス化がさらに進んで挑戦の機会がますます広がっていく中で、世界を舞台に結果を出せるエンジニアになるにはどうすればいいのだろうか。
4月13日(火)~17日(土)にわたってエンジニアtypeが開催したオンラインカンファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク(ECDW)』では、「Windows95の父」と呼ばれ、現在もシリコンバレーで活躍する中島聡さんがゲストスピーカーとしてオンライン登壇。
中島さんの仕事術やキャリア観、さらには日本のエンジニアが世界を舞台に戦う術まで、Sansan CTOの藤倉成太さんが聞き手となりトークセッションを展開した。
「会社と自分の仕事」に惚れ込もう
藤倉:いきなり抽象的な問いですが、中島さんにとって「仕事」とは何でしょうか?
中島:哲学的で難しいですね(笑)。まずは僕のキャリアを振り返ると、プログラムを書き始めたのが高校生の時。大学生になるともう会社を興せるくらい稼いでいましたが、ソフトウエアはあくまで趣味だったので、仕事にしようとは思っていませんでした。
大学院卒業後に入ったNTTの研究所でもハードウエアの設計をしていたのですが、学生アルバイトをしていたアスキーの仲間がマイクロソフトの日本法人を立ち上げると聞いた時、初めて「ソフトウエアを仕事にしてもいいんじゃないか」と気が付いた。それが25歳くらいの話です。
それ以来、仕事はずっとソフトウエアエンジニア。僕の場合は、自分が得意でやりたいことと世の中が必要としていたことがマッチしたからラッキーでしたね。
土日が待ち遠しくて仕方がないような仕事をしている人って、正直不利ですよね。僕自身は仕事が好きで、遊ぶ時間もあまり必要ないタイプ。ワーカホリックと言えばそうですが、そういう人が僕のように仕事が趣味な人と戦うのは大変だと思います。
藤倉:そうは言っても、仕事なのでやりたくないことや大変な瞬間もあると思います。どう向き合っているんでしょうか。
中島:ちょうど今日、製品のプロトタイプを作っていたら、CEOに突然「来週頭にデモを見たい」と言われて。「もっと早く言ってくれればいいのに」って、ちょっと嫌な気持ちになったんですよ。
でも根っから、嫌ってわけじゃない。僕は今の会社のビジョンが好きだし、CEOも尊敬していて彼のためなら頑張ろうと思えるので、個々の苦しい思いは乗り越えられます。
仕事がつらい人、休みの日が楽しみで仕方ない人は、仕事をしていることが嫌というより、会社と自分の仕事に惚れ込めていないことに問題があるのかもしれませんね。
シリコンバレー企業でも、本当に仕事ができる人はトップ2割だけ
藤倉:アメリカの企業では、エンジニアはどのように評価されているんでしょうか?
中島:ソフトウエア業界に限らず、仕事ができる人ってどこの会社にいても5人に1人くらいじゃないですか? 要はトップ2割の人が会社を引っ張っているんですよ。それは日本もアメリカも同じです。
でも、シリコンバレーとか、アメリカの会社はそのトップ2割の人をものすごく大切にしますね。もちろん、給料も待遇もすごく良くする。周囲の人と差があって当然という考え方です。
日本では「出る杭は打たれがち」なので、優秀な2割の人は居心地が良くないかもしれません。それで、8割の人はぬるま湯につかって年功序列で給料さえもらえればいいと思っている。
でも、それは果たして幸せな人生なのかな? と僕は思ってしまいますね。それなら、自分が2割に入れる会社を探した方がいいと思います。
藤倉:アメリカでは、自分がその2割に入っているかどうか、さらに、他の社員の評価も分かるのでしょうか?
中島:わざわざ公表するわけではないですが、大事な仕事が特定の人に集中するし、仕事の成果として見えやすいので、分かりますね。
あと、本当にできる人はわがままな働き方をしていることも多い。例えば、うちの会社に非常に優秀なエンジニアがいるのですが、Zoomミーティングではカメラをオフにしてほぼ話さないし、CEOにも平気でNOと言いますが、あまりに優秀なのでそんな態度も許されています(笑)
しかし仕事は本当に優秀で、うちにはソフトウエアエンジニアは5人程いるのですが、彼が全体の半分以上のコードを書いているんじゃないかってくらい仕事が早いです。
難題の解決に“面白さ”を感じられるか
藤倉:その同僚のエンジニアは、どうやってそこまで優秀になれたのだと思いますか?
中島:彼は、難しい問題を解決するのが好きなんですよ。難題解決を心から面白がっているんです。プログラミングも問題解決なので、近しいですね。
僕も彼と同じタイプ。難しい問題を解決することが楽しくて仕方がないから、たくさん解いて経験を積み、ますます得意になっているという感じ。
藤倉:例えば日本のSI業界では、仕様書通りにつくればいいというプロジェクトも多く、そこまでの難問がないことも多い気がします。
中島:そうですね。日本のSIerは、なるべく上流で課題をかみ砕いてフローチャートに落とし込み、下流では仕様書通りにプログラムを書くだけで、誰でも解決できることを目指しているように見えます。
でも、フローチャートに落とし込む時間でプログラムは書けるし、実際にアルゴリズム通り動かないこともありますよね。僕から見ると効率が悪いし、面白くない。僕は全部自分で設計してコードも書きたいです。
シリコンバレー企業で働く未来をリアルに考えてみて
藤倉:日本のSI業界は「エンジニア35歳定年説」なんて言葉もあり、プレーヤーとしてキャリアを歩むのか、マネジャーになるのかの意思決定を強いられることが多いと感じます。アメリカではいかがですか?
中島:アメリカでは、例えば上場前くらいの良いタイミングで、マイクロソフトやGoogleのような会社に入って10年くらい活躍すれば、食べるのに困らないくらい稼げます。その後、次の3通りに分かれます。
一つ目は40歳くらいで引退する人。二つ目は、さらに出世を目指したり、自分で会社をつくったりする人。三つ目は、食べるのには困らないから一番好きなことをする、つまりプログラムを書いて生きる人です。
そしてアメリカでは、出世のためにエンジニアを辞めてマネジャーにならなければならないということはなく、管理職にならないからといってエンジニアの給料が上がらないこともほとんどありません。
例えば僕が昔いたマイクロソフトは、役職と給与を決めるランキングが別でした。上司は人の管理が仕事、僕はプログラムを書くのが仕事だったのですが、辞める直前は上司より給与が上だった。優秀なエンジニアが出世のためにみんなマネジャーになってしまったら、会社を引っ張る人がいなくなってしまいますからね。
藤倉:確かにそうですね。そういった日米の事情を熟知する中島さんから、日本のエンジニアに伝えたいことはありますか。
中島:この先も長くエンジニアとして食べていきたいなら、SI業界ではなく、自分たちでものを作っている会社に入った方がいいんじゃないかな。ソフトウエアエンジニアとして勝負をしたいなら、自分のところでソフトウエアをつくっている会社に入った方が断然学べることは多いと思います。現状、日本のSI業界ではマネジメント側にいかないと給料も上がりにくいですから。
それと、新型コロナの影響で、アメリカIT企業の多くがリモートワーク前提の働き方にシフトしました。これはすごいことですよ。英語さえ話せれば、日本に住みながらビザの問題もなくシリコンバレーの会社で直に働ける時代が来たんですから!
もう、居住地で会社を選ばなくていいんです。もちろんその分、世界中の人がライバルになるわけですけど、日本のエンジニアは「日本にいながらシリコンバレー企業で働く」選択肢を一度真剣にそれを考えた方がいい。
僕が今いる『mmhmm』という会社もフルリモートで、人材は世界中から募集しています。日本のエンジニアは技術力があるんだから、もし足りないことがあるとするなら語学力だけ。ぜひ今からでもいいので英語を勉強してアプライしてください!
藤倉:一度はシリコンバレーで働いてみることをおすすめしたい、と。
中島:はい。シリコンバレーは実力主義なので、人によって合う合わないはあると思いますが、僕みたいに“とんでもなく合う人”もいるはず。そういう人に、この絶好の機会を逃してほしくないですね。
「会社が好きなことをさせてくれない」なんて、甘ったる過ぎ
イベント後半は、中島さん、藤倉さんの二人が参加者からの質問に答えた。
中島:日本人は「ここで働くには、こうするのが常識」というものを探しがちですが、実は世界にはそんなルールはない。
僕は今の会社に入る時、コネを探してCEOに突然連絡したんですが、意外と話を聞いてくれました。つまり、もしシリコンバレーで働きたいなら、連絡すればいいだけ。
ウェブサイトでCEOのメールアドレスやTwitterアカウントが分かることもあるから、ダメ元で話し掛けるとか、自分なりのやり方でもっと気楽に「これやりたいんですけど」とか「ここで働きたいんですけど」って言っていいと思います。周囲がどうしてるとか、そんなの関係ない。
ちなみに、そうやって人づてに取ったCEOとのアポイントで、僕は「この会社に入ったらこんなことがやりたいんだ」という話をして、実際に入れたい機能をiPhoneに実装してデモを見せました。
エンジニアの中には、「会社が自分の好きなことをさせてくれない」と文句を言う人がいますが、「上司から許可が出ないから」なんていうのはただの言い訳。甘ったる過ぎですよ。
やりたいことがあればやればいいし、つくりたいものはつくればいい。それを見せてしまって、「こういうものをやらせてくれないか」と言えば、「それいいじゃん」ってなる可能性はめちゃくちゃ上がると思いますし、効果が全然違いますよ。
藤倉:僕はあえて言うなら「野望」なのかなと思います。中島さんが仰っていたように、会社で何をやりたいか、自分が何を成し遂げたいのか。自分がつくったソフトウエアでどこまで影響を与えたいのか、を考えること。
そこに強い想いがあれば、それこそ方法なんてどうでもいいし、業務でつらいことがあってもがんばれますよね。
僕自身は、Sansanのプロダクトで「世界で勝負したい」と常々言っています。もちろん、できるかどうかは分かりません。でもそれを、やるんです! と言い切る姿勢が大事なんじゃないかと思っています。
中島:野望って言葉、いいですよね。僕も大好きです。
中島:自分はどこで勝負するかをなるべく早く見つけて、極めていくといいと思いますね。それが見つけられていないなら、まだ触れられていないということなので、今まで自分がやっていないことをやってみる。
それに、心底好きなこととか、やりたいことも、人は過去の経験からしか見つけられません。自分が惚れ込む仕事や会社が分からないなら、とにかくいろいろものを作ってみたり、いろいろな人と働いてみたりしながら、経験の量を増やすことです。
今や日本においても1社で生涯勤め上げる時代ではありませんから、こうやってスキルを磨いて、社外でも人間関係をつくっておくことが大事ですね。
藤倉:僕自身は、先ほども「野望」の話をしましたが、自分がワクワクできる大きめの目標を設定すると良いと思っています。
後はテクニカルな話にはなってしまうのですが、エンジニアはコードで問題を解決する役割で、マネジャーは組織や開発プロセス、プロジェクトマネジメントの問題を解決する役割。課題を特定して、定義して、その解決策を見出して、実行していくというのはどの職種にも共通なんです。それを意識すると、仕事の達成感も得やすくなると思います。
文/古屋 江美子
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