ネットバンキングのスマートフォン化を次々直受注~たった40人のベンチャーが大手ベンダーを押しのけて評価される理由とは?
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既存サービスのスマホ・タブレット対応や、HTML5をはじめとしたRIAを使ったエンドユーザー向けのユーザービリティ改善。さらにはCI(継続的インテグレーション)を用いた品質改善やクラウド化など……。近年、開発手法に大きな変化の見られるエンタープライズ分野のシステム開発。
その最前線で、顧客先の業種や案件の規模、内容を問わず高い満足度を獲得している開発会社がある。設立から12年目を迎える中堅システム開発会社のオープントーンだ。
従業員数は約40人という規模ながら、業務ソリューション、モバイル/コマースソリューション、金融ソリューションの3つの事業部を持ち、幅広い開発案件で着実に実績を築いている。
同社のホームページでは、楽天銀行のネットバンキングシステム構築プロジェクトや、日揮のグローバルeラーニング開発、アパレル系ECサイトの構築事例などが公開されており、守備範囲の広さが窺える。
新旧を問わず、多くの独立系SIベンダーが、リーマンショック以降の5年間は受注に苦しんだ。そんな中、オープントーンは並み居る大ベンダーと渡り合い、銀行など金融関連企業や社会インフラ関連企業、投資顧問会社、大手コマース、果ては大手出版社などから直接受注を遂げてきた。現在、直接受注率は100%。年間の成長率は対前年で10%を超えている。
同社が「業界のヒエラルキー構造」を無視して結果を出し続けるのはなぜか? 特に最近、引き合いが増えているというスマートフォン関連のプロジェクトを例に、その秘密をひも解いてみよう。
仕様書が不十分。工期も遅れ気味のオフショア開発を約1年で完遂
今回話を聞いた金融ソリューション事業部の小島佑喜氏と玉柳輝樹氏は、それぞれ異なる金融機関のスマートフォンバンキングシステム構築案件に携わっている。
今年2月下旬に提供開始された大手金融機関のスマホ向けネットバンキングサービスを、PMの立場で手掛けたのが小島氏だ。
開発期間は約1年。途中まで進んでいたプロジェクトを大手他ベンダーから引き継ぐ形だったため、工程が約2カ月遅延している中で改めて要件定義から始めたと振り返る。
この案件で難しかった点は、開発がすべてオフショア拠点で行われることと、仕様書が不十分で実装もブラックBOXになっていたことだ。こうした進行上の課題は、多くのプロジェクトで話題になる。
「しかも、すでに画面デザインができあがっている時点で案件を引き継いだので、完全な画面ドリブンで進めるという点が難しかったですね。実際に利用されるユーザーにとって使いやすいのはもちろん、出入金や振込・振替などの処理がノーリスクで着実に実行されるのが大前提であることも、スマホバンキングならではの大きな課題でした」
直請けの難しさの一つは、こうした自社責によらない課題まで「プロジェクト完遂」という目標に向けて取り組まなければいけないことだ。
こういった課題を抱えながら、ネットバンキングという高品質を求められるシステムを納期内に納品するには、課題について能動的に取り組み、解決していくスピード感が非常に重要になる。
逆に言えば、スピード感を持って、そうした困難な状況・課題を整理・解決していくことで、ユーザー企業から資本力や企業規模がなくても「信頼に足るベンダー」であると認識されてゆく。
この一連のプロセスを、「先取り力」によって小島氏は完遂した。
「事前に決まっていたUI画面だとスムーズな処理が難しいと判断すれば、われわれがデザイナーを用意し、すぐにスタイルシートから作り直して調整しました。ほかにも、機能開発の傍らで障害検知のやり方も同時進行で整備するなど、とにかくスピードが求められるプロジェクトでした」
また、iOSとAndroid両方のスマホOSに対応するには、テストフェーズでのバグつぶしが必要不可欠。このフェーズでは、昨今の主流となりつつある自動化をあきらめ、すべて人力でテストを繰り返す従来のやり方で進めたという。
「オフショアのような実装がブラックBOX化した状態では、人力で行った方が的確だと判断したからです。また、スマホならではの”ぬるぬる感”などユーザーの使用感に対するテストの自動化は、もとより困難です。結果、テストを自動化するより逐一人手を介して確認・改善をした方がクオリティの高いモノを提供できると考えました」
続々と出てくる「仕様以外の要求」に応えていく難しさ
一方、ほかの金融機関が提供するネットバンキングをスマホ対応させるプロジェクトに、現在進行形で携わっているのが玉柳氏。
オープントーンに転職する前の職場では、某メーカーの携帯電話向け組込み開発を行っていた同氏は、Android用システムの開発に従事している。
ここでの課題も、「顧客からのリクエストに積極的に即応していくことだ」と玉柳氏は明かす。
既存システムのスマホ対応と一口に言っても、解消すべき課題はたくさんあり、最初に決めた仕様以外の要求も出てくるもの。そうした後付けの要求にも、その場で答えていくレスポンスの速さには、かなり気を遣った。
「特にスマートフォン対応のように、企業の幹部層からも注目されているような事案では、幹部レビューを繰り返すたびに新しい要望が出てきたりします。そうした要望をただ単に『御見積りにありません』と断れば、担当者は困ってしまい、信頼を勝ち取るのは難しいでしょう。それに、ただ単に言われたとおりに毎回作る姿勢では、いつまで経っても仕様が定まらず、プロジェクトの進ちょくが遅れ始めます」
こうして、顧客サイドの要件のブレといった自社責とは言い難い課題に対しても、あえて積極的に首を突っ込み、課題解決に向けた機能や仕様の提案を行っていったという。
ほかにも、アプリを“Javaっぽい書き方”で書くか、“スマホっぽい書き方”で書くか、画像表示の指示はアプリ上で行うか、サーバサイドに任せるか等々、細かな部分の判断はベンダーサイドで行うようにすることで、開発スピードそのものを高速化していった。
こうした「課題の先取り力」に基づいた、対応の的確さと速さが顧客の信頼を生み、継続して発注が来ているという。
課題の「先取り力」が自然に身に付く2つの要因
では、小島氏や玉柳氏が、異口同音に語った「課題の先取り」は、どうすれば実現することができるのか。業務ソリューション事業部の部長を務める高田淳志氏は、2つの要因を説明する。
「1つは、開発におけるスコープの設定と顧客とのプロジェクトにおける責任の共有にあります。単にお客さまの要望を聞くだけで終わらず、要求の先にあるゴールまで見極めて一緒に課題を解決してリリースを目指します。ゴールまで共有しているわけですが、その道すがら、あり得る課題は、当社はこれまでの経験に鑑みて先取りすることが可能になります。こうして、気付いた課題への解決策を提案していくのは当たり前のことなのです」
こういった話は、多くのSIerやシステム開発会社が口にする。しかし、実行するのが最も難しい部分でもある。また、受託側のエンジニアがシステムやサービスの稼働後まで考えて動く習慣は、納品ベースで案件を渡り歩くような受託の場合、現実問題として身に付けるのが難しい。
それでも、顧客との案件の取り組みをビジネスベースまで広げることで、プロジェクト全体の課題を共有するようにすることが、オープントーンがほかのベンダーと一線を画している点である。
さらに、オープントーンが先手、先手の開発を実践し続けてこられたのは、もう1つの要因がある。課題を先取りしただけでは解決に至らない。事例の少ない先進的なプロジェクトでも、高い技術力によって課題解決能力を提供できるのにはワケがある。
それが、技術力やノウハウの蓄積と向上。そして、社員同士の情報共有だ。
業務の特性上、スタッフは顧客先への常駐も少なくない中で、なぜ会社全体で技術力の向上が図れるのか。
「例えば、自社のスタッフブログである『Opentone.Labs』にも載っているような最新技術やプロジェクト運営法を、常に学び続けています」と高田氏。
このブログ『Opentone.Labs』には、エンジニアの学習成果やさまざまな受託現場で培ったプロジェクト運営ノウハウが豊富に載っており、キーワードとしても「HTML5」や「SDN」など今後のWebシステム開発で欠かせないものが並ぶ。
「社長やCTO、あるいは研究部門に当たる人々が技術コラムを執筆しているベンダーはよく見受けられます。しかし、これだけ多くの一般社員が能動的に技術コラムを執筆し、そのための勉強と情報共有をし続けているベンダーは珍しいのではないでしょうか?」(高田氏)
加えて、同社ではスタッフ全員が日々の業務を報告するWebベースの日報システムを導入しているが、それに社員自らが手を加え、顧客先で困ったことや技術面で聞きたいことを書き込む欄を設けている。
オープントーンのスタッフは、どのプロジェクトに入っていても1日に1度必ずこの日報システムに目を通すため、互いに助け合いながら課題解決をしているという。
「業務を通して学んだことは積極的にシェアしますし、課題があれば互いに意見やアドバイスをし合って解決していこうという姿勢を皆が持っています」(玉柳氏)
業務を通して学んだことを、随時開催される勉強会などを通して学び合う機会も多いそうだ。
「毎年、1年かけて集中的に学んでいくテーマをスタッフの間で決めています。一昨年は外部の講習会やセミナーに参加すること、昨年はスマホ向けアプリ開発でした。だから、『Opentone.Labs』でもHTML5をテーマにしたエントリが多かったんです」(小島氏)
ちなみに、今年の学習テーマは「自社サービスの開発」なのだという。“攻めの開発”で顧客の期待を超える成果を次々生み出してきた同社が、今後、どんな発展の仕方をしていくのか。その動向が楽しみな会社である。
取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正
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