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【FFXI】「コロナ禍で感動の再会も」シリーズ初MMORPGが19年続く奇跡の裏側

#働き方

変化への対応力を養うヒントがここに

「10年プロダクト」の生生流転

移り変わりの激しいIT・Web業界において、プロダクトやサービス、そしてエンジニア個人が「生き続ける」のに必要なものは何か。否応なく起こるさまざまな変化への対応力はどう養ったらいいのか。「10年以上続くプロダクト/サービス」が歩んできた歴史から答えを探る

インターネットの普及に伴い、1990年代後半頃から海外で盛り上がり始めたMMORPG。日本では2002年に『ファイナルファンタジーXI 』(以下、FFⅪ)がシリーズ初のMMORPG(複数プレイヤー参加型オンラインRPG)として発売されたことで、その人気に火が着いた。

MMORPGの知見があまりなかったこともあり、当初は3~5年の稼働を想定して開発を進めたというが、それから19年経った今もFFⅪのサービス提供は継続されている。2020年8月には新ストーリーが追加され、直近では20周年カウントダウンサイトも公開されるなど、今なお根強いファンが存在する長寿ゲームだ。

実はこのFFXI、開発環境や根本的なシステム、開発手法は20年前から変わらないという。しかも、「メインストーリーなどにも関わるサービスイン当時の資料がほとんど残っていない」というから驚きだ。

そうした状況の中、ここまでサービス提供を続けてこられたのはなぜなのか? 同じFFシリーズでも2010年に新たなMMORPG、ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV)がリリースされるなど、この20年で新しく魅力的なゲームが多数誕生している中で、なぜFFXIがこれほど長く愛されるのか?

その謎の答えを探るべく、FFⅪの初期から開発に携わってきた3人に話を聞いた。

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株式会社スクウェア・エニックス 第三開発事業本部 プロデューサー 松井聡彦さん

FFXIの開発初期からバトルプランナーを担当。2013年、FFXIの初代プロデューサー、田中弘道さんの後任として、プロデューサーに就任

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第三開発事業本部 ディレクター 藤戸洋司さん

チャット機能やアイテム合成、チョコボの育成といったコンテンツを中心に、FFXIの開発に幅広く関わっている。2016年、同作のディレクターに就任

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第三開発事業本部 リードサーバーシステムプログラマー 田中啓介さん

2001年株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。FFXIでは、サーバーシステムの開発に携わる

ゲームが長寿化すれば、ユーザーのライフスタイルも変わる

――2002年、ファイナルファンタジー(以下、FF)シリーズ初のMMORPGとしてFFⅪが発売されました。どのような背景があったのでしょうか?

松井:開発のきっかけとなった坂口博信さん※は、海外のPC版のMMORPGをやりこんで、「これからはネットワークを介したゲームが主流になる。MMOの流行は日本にも絶対にやってくる」と感じたようでしたね。そこでわれわれがいち早くコンシューマーゲームのMMORPGを出すことで、コンシューマー市場でのアドバンテージを獲得しようという意図のもと、FFXIの開発がスタートしました。

ただ、当時MMORPGを遊ぶにはBBユニットというハードディスクの装着が必要だったので、FFシリーズの新ソフトの発売に伴いハードウエアをキャッチアップしてくれるような、コアなファンにターゲットを絞って開発を進めていました。

藤戸:最初は3〜5年がゲームタイトルとしての寿命ではないかと予想していたんです。ところがMMORPGはプレーに掛けた時間がユーザーの大切な財産として積み重なっていくので、想像以上に多くのユーザーが長期間ゲームを楽しんでくれました。当初はそうしたMMORPGの特性を誰も理解していなかったので、19年も続いているのは本当に想定外と言うしかありません。

ちなみに、FFⅪのユーザー数はピーク時よりは落ちているものの、コロナ禍で復帰する人が増え、現在のユーザー数は微増傾向にあります。

※『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親と言われている

藤戸さん
――19年前に発売されたゲームのユーザー数が再び上昇傾向にあるとは驚きです。タイトルを発売してから現在に至るまで、業界ではさまざまな変化があったと思いますが、開発チームとしてどのように対応してきたのでしょうか。

藤戸:FFⅪが発売された2000年代は高速ネットワークが急速に広がった時期で、FFⅪはそうした時代の変化とともに成長していきました。TwitterのようなSNSはほとんど普及しておらず、ゲームに関する情報は主にネット掲示板でやりとりされていたので、ユーザーの声はそこから拾っていましたね。

松井:業界の変化の中でも特にインパクトが大きかったのは、プラットフォームが据え置き機からスマートデバイスに変わったことです。ゲームをどこでも楽しめるようになると、ユーザーは「いかに隙間時間を埋められるか」をゲームに求めるようになりました。FFⅪでは、移動時間をスキップできるようにしたり、コンテンツに要する時間をできるだけ短くしたりして、ユーザーのニーズに対応してきた歴史があります。

――FFⅪの広大な世界を楽に移動できるようになった背景には、そのような事情があったのですね。

松井:そうです。大人数ではなく一人でも遊べるようにしたのも、ユーザーの変化に合わせた変更点です。ゲームが長寿化すると、ユーザーのライフステージも変わります。「昔と違って一緒にプレーできる人がいなくなってしまった」という声があったので、リアルユーザーだけではなく、NPC※ともパーティーが組めるサポート機能を取り入れました。ただ、大人数で遊べるのがMMORPGの醍醐味でもあるので、その良さは残すように配慮しました。

※ノンプレイヤーキャラクター 。プレイヤーが操作しないキャラ。

松井
――2010年にはシリーズ2作目となるMMORPG、FFXIVが発売されましたが、FFⅪに対する影響はありましたか?

松井:社内のリソースはFFXIVに順次移った部分もありますが、それまでに築いてきたものを使ってできるだけ低コストな運用を心掛けていました。ユーザーの取り合いはしたくなかったので、MMORPGの新規ユーザーの獲得はFFXIVの役割だと割り切り、FFⅪはあくまで既存ユーザーをターゲットとした開発に集中してきましたね。

当時から変わらない開発手法。19年の継続は“奇跡”

――システム面では、この19年でどのような対応がなされてきたのでしょうか。

藤戸:FFⅪはもともとPS2用に開発していたので、その名残から今も基本的には当時と変わらない環境でグラフィックリソースやサウンドリソースを組み立てています。19年前の仕組みを崩さないように、色やテクスチャーの変更も昔ながらの方法でやっています。例えば、装備品の影は手で書き込むとか。

――そうだったのですね!

田中:もうローンチから19年も経つので、サーバーのOSやプログラミング言語、ミドルウエアなどはかなり陳腐化しています。今あるコンテンツをより充実させることを優先していたので、根本的な仕組みにはあえて手を入れてきませんでした。

藤戸:本当は何度も変えたかったんですよ。機材が壊れたら終わりですから……。「あと数年なら大丈夫だろう」の繰り返しでここまできたのが正直なところです。本当はそうならないように代替手段を準備するべきですよね。とはいえ、システムを丸ごと更新すると、イチからつくり直すのと同じぐらいのコストが掛かってしまいます。

田中:最初から20年も続くことを見越して耐えられる設計をしていたわけではありませんから、ここまでシステムを維持できているのはある意味「奇跡」ですね。

田中

藤戸:ただ、根本的なシステム自体は古くなってはいるものの、シナリオやコンテンツの追加をクリエーター側だけである程度できるよう、設計時にかなり柔軟性を持たせてくれていたお陰で、今も比較的自由度高くサービスを運用できているんですよ。エンジニアの稼働はどうしてもシステムに関わる部分で改修が必要な時だけで済むようになっています。

例えばMMORPGではユーザーから「アイテムをもっと持てるようにしたい」という声が度々集まります。ゲームが続くほど新しいアイテムは増えていく一方で、期間限定クエストでしか入手できないアイテムや、昔の仲間からプレゼントでもらった名前入りの装備品など、思い入れのあるアイテムは捨てることができませんからね。そういう時にはエンジニアにストレージの拡張を対応してもらっています。

――ゲームのストーリーや世界観に関しては、どのように対応してきたのでしょうか?

藤戸:新しいエリアやストーリーなどを拡張していくときは、過去の設定を裏切らずに新しい要素を積み重ねています。そこで、まずは「過去の設定がなぜそうなっているのか」を調査し、その設定が壊れないようにしながら、今まで語られなかった部分を構成していく手順を踏んできました。

――過去に開発した自分たちの意図を再確認する、ということですか?

藤戸:そうです。というのも、実は開発当時の資料がほぼ残っていないんですよ(笑)

例えば、FFⅪでは「闇の王を倒す」という目標が掲げられていますが、闇の王の正体や、なぜ世界が今このように存在しているのかなど、大きな歴史の話が決まるまでの経緯は開発資料としてはプロットのみで詳細は明かされていない。

だから、実装しているデータからキャラクターの発言などのメッセージデータを読み直す、特定条件を満たさないと見られないムービーシーンなどはゲーム内でフラグを満たして見に行く。あとは、ストーリー制作に関わっていた人たちに当時の記憶を思い出してもらって……という形で設定を調べていくんです。

現在進行中の新シリーズ『蝕世のエンブリオ』も同じ方法で開発しました。過去の設定を調査した上で、大きな話を明らかにしつつ、「この伏線はどこで回収されたの?」「この人はその後どうなったの?」といったユーザーの声が集まった部分をなるべく語っています。

――ユーザーの声もサービス継続の源泉になっているのですね。

藤戸:そうですね。ユーザーがキャラクターに持った印象を聞いて、開発側が「次はこういう部分を見せたらどうかな」と試行錯誤するうちに、キャラクターがどんどんと成長していくのはMMORPGならではのいいところなのだと気付きました。ゲームに出てくるシャントットという魔法使いは、最初は特別目立ったキャラではなかったものの、アップデートを重ねて魅力的に育っていきました。今やFFⅪの看板キャラクターの一人なんですよ。

20年続けて再認識した「ドキュメント」の必要性

――振り返ってみて、FFⅪがこれほど長く続いてきた理由は何だと考えますか?

松井:端的にいうと利益が出ているからです。なぜ利益が出ているかというと、ローンチしたタイミングが非常に良かったからだと思います。国内で初期にコンシューマーゲーム・MMORPGとしてFFⅪを発売したことにより、多くのユーザーにとってFFⅪが初めてのMMORPG体験になったのは、長くユーザーの心をつかめている要因の一つと言えるでしょう。

また、必要なコストをしっかり掛けてきたのも重要なポイントです。長く続いているMMORPGは、コスト回収をあまり性急にせず、じっくりと運営しているものが多いと思います。FFXIの場合は、当時は新しかったサブスクリプションという売り方に関して、会社が忍耐を持って理解してくれたのも大きかったですね。

松井さん

藤戸:FFⅪにはゲームの中で仲良くなった人を登録する「フレンドリスト」や、会話ができる「リンクシェル」という機能があります。10年以上前に一緒にプレーした友達とゲーム上で再会すると爆発的な感動が生まれるようで、最近はそうした喜びのツイートが多く見られました。19年という時の流れを経た今、人とのつながりを実感できる機能の価値がコロナ禍で強調されているのを感じます。

FFXIでユーザーが体験するこうした感動は、長いサービス年数で培われた人間関係あればこそなので、その分他に流れにくくなっている面はあるかもしれません。

――長い年月を超えて価値を発揮する機能がコロナ禍によって再発見されたのですね。改めて、長期的に「生き続ける」プロダクトやサービスをつくるためには、開発組織には何が大切でしょうか?

松井:ユーザーの視点を忘れないために、自分たちもそのプロダクトを熱心に使っておくことだと思います。私たちも昔ほどではありませんが、今も個人的にFFⅪで遊んでいます。それから、私たちはできていないところではありますが、ドキュメントの整備や開発スタッフの新陳代謝は、間違いなく大切です。

藤戸:ブラックボックスが増えれば増えるほど、サービスの長期的な運用は難しくなります。ドキュメントでもメモでも、分かる形ならなんでもいいんです。面倒かもしれませんが未来への投資だと思って、なるべく中身の分からない箱はつくらないように日頃から意識するべきですね。ここに関しては、われわれを反面教師と思ってもらえれば、と(笑)

藤戸さん
――ブラックボックスがあってもこれだけ続いているのは本当にすごいことだと思います(笑)。システム側の立場から、田中さんはいかがですか?

田中:いきなり20年続くシステムを作ろうと思っても、それは無理な話です。大切なのは、最初に「余白」を持たせたシステムを作ること。エンジニアが手を動かさなくても、既にあるシステムを使ってコンテンツを作っていける仕組みさえあれば、それが将来広がっていくサービスの土台になります。

松井:それは私も同感です。一緒に組んで助かるなと思うエンジニアは、「動くところだけ担保するので、あとの面白くする部分は任せる」というように、エンジニアに依存しない作り方をしてくれる人です。

あとは、「相手が本当にやりたいことは何か」を汲み取る力が高いとなお良いですね。プランナーはやりたいことをピンポイントでしか言わないケースが多いので、その真意を把握した上で、「もっとこうした方が良いのではないか」といったディスカッションができるといいと思います。

藤戸:また、開発者としてサービスを長く支えていくことを考えるならば、体調管理も重要です。若い頃は多少の無理もできますが、30代後半~40代になってくると、必ず体調に異変が出てくるものです(笑)。長期的に身体を維持できなければ、本当に大事な時に力が発揮できなくなってしまいますからね。健康な心身を守れるような環境を作ることにも意識しながら、エンジニアの道を極めていかれるのがいいかなと思いますね。

>> FFXI 20周年カウントダウンサイト WE ARE VANA’DIEL| SQUARE ENIX

取材・文/一本麻衣 編集/河西ことみ(編集部)

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