コードを書く時間は減らさない!
ビジネス書「10分」リーディングビジネスや世の中のことももっと勉強したい、でもコードを書く時間は減らしたくない!そんなエンジニアに、10分で読める要約版でオススメ書籍を紹介します
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日本のDXは完全にGAFAに覇権を握られ、生きる道を失ったかに見える。しかし、本書は「日本には多様なものづくり技術と人材という武器がある」と示唆する。その真意とは? 著者らが提唱する「スケールフリーネットワーク」とは?
日本のDXに携わるエンジニアなら目を通しておきたい一冊を要約する。
Book Review
バブル崩壊に端を発した「失われた30年」。日本経済は停滞を続けている。平井デジタル改革担当相の「デジタル敗戦」の言葉の通り、デジタル化も出遅れた。一方で、世界経済を牛耳るGAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)のような企業は、コロナ禍でも順調に成長を続けている。
そうしたなか、果敢にDX(デジタル・トランスフォーメーション)を掲げて取り組んでいる日本企業がいくつもあることをご存知だろうか。日本企業はこの30年間、いたずらに失い続けただけではない。これから日本に大逆転のチャンスが来るというのが著者たちの見立てだ。今後IoT(モノのインターネット)が進み、フィジカルとサイバーが融合した広大な世界が登場したとき、日本が勝者になる可能性は十分にある――こうした主張には、率直にワクワクさせられる。
アメリカ企業が「選択と集中」で勝ち進んできた一方で、日本企業は「選択と集中」を苦手としてきた。しかし「選択と集中」を積極的にやってこなかったからこそ、日本は多様なものづくり技術と人材にあふれている。今後はハードウェアに強く、開発技術力を持つ多様な人材が、日本企業の強力な武器になるだろう。
先行き不透明な時代において、本書は日本の進むべきひとつの方向性を明確に表している。老若男女問わず、多くのビジネスパーソンに読んでいただければと思う。
世界中の企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組み、デジタルを使って新たなビジネスモデルを構築していっている。しかし日本はその波に乗り遅れてしまった。2001年のIT基本法施行から20年経っても、新型コロナのオンライン申請すら満足に対応できない。平井デジタル改革担当相も「デジタル敗戦」を宣言し、仕切りなおしを始めた。
GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)のような世界的企業はいま、圧倒的なパワーと洗練されたビジネスモデルで世界を席捲している。しかし日本にも、まだチャンスは残されている。そのチャンスのカギとなるのが「スケールフリーネットワーク」だ。日本の「ものづくり」と「スケールフリーネットワーク」が有機的につながれば、日本が大逆転する可能性すらある。
スケールフリーネットワークは、米ノートルダム大学のアルバート=ラズロ・バラバシ教授らが発見した現象だ。1998年、彼らはウェブの地図を作ることにした。ウェブページの作者は自分のウェブページの内容に応じて、好きにほかのページのリンクを貼ることで、巨大なネットワークを形成する。そこでネットワークのリンク構造を調査したところ、なんと0.01%に満たない少数のページに、膨大なリンクが集中していることがわかった。
これはバラバシ教授たちにとっては驚きだった。というのも彼らは当初、ウェブページの形は「ランダムネットワーク」になると予想していたからである。ランダムネットワークの場合、「平均的なノードにはこれくらいのリンク数がある」という「スケール(尺度)」があるのだが、現実はそうではなかった。つまりスケールフリーだったのだ。
ランダムネットワークが、都市間をつなぐ高速道路網のようなものだとすると、スケールフリーネットワークの構造は航空網に似ている。巨大なハブ空港に、多くの小空港(飛行空港)が接続しているようなイメージだ。
GAFAの躍進も、スケールフリーネットワークの力が関係している。彼らはマネタイズを先行させるのではなく、ネットワークの成長を先行した。たとえばグーグルのマネタイズは創業から4年後だし、フェイスブックも3年後だ。彼らはまずスケールフリー構造を確立し、そこで自らが巨大なハブとなることで、莫大な収益を上げるようになったのである。
ドイツはいま政府主導、産官学一体で、「インダストリー4.0」を進めている。これは工場内の装置をインターネットにつなぎ、スマート工場化をめざすもので、さまざまな要素が含まれる取り組みだが、その本質は製造業のスケールフリーネットワーク化にあると言っていいだろう。
著者の島田氏は2014年、シーメンスのドイツ本社に着任し、デジタルファクトリー担当としてインダストリー4.0に取り組んだ。そのときドイツの担当者は口を揃えて、インターネットでの敗北と、インターネットで起きたことを次は産業界で起こすと語っていた。インターネットでアメリカの後塵を拝したことは、ドイツにとっては痛恨の出来事だった。しかし彼らは自らの間違いを認めて、逆転を狙っている。
島田氏が日本のエンジニアと話すときも、同じ話が出てくるという。しかし本気で取り組む人はいない。なぜなら実現には膨大な労力と時間が必要となるからだ。日本が復活できるかどうかは、いかにスケールフリーネットワークを構築するかにかかっている。
スケールフリーネットワーク構築には3つの方法がある。
1つ目はお金を燃やす、いわゆるアメリカ方式だ。シリコンバレーでは投資家たちから巨額の資金を集め、製品を開発しながら無料で配ることでシェアアップを優先し、その後マネタイズする。この方法はハイスピードでシェアを取れるものの、資金力が必要だしリスクも高い。
2つ目はデジュールスタンダードで、欧州で採られることが多い。何年もかけて規格を定めてISO等の標準化団体に登録し、その規格を世界に広めていく。インダストリー4.0では、この方法が採用されている。
これら2つの方法は強力だが、世界のGDPの15%から20%の経済規模が必要になる。アメリカ、中国、EU内でのドイツぐらいしか採れないだろう。
日本が採るべきは3つ目の方法、アセットオープン化だ。自社製品やサービスのアセットをオープンにして誰でも接続可能にすることで、低コスト短時間でスケールフリーネットワークを作るのである。オープン化すれば、機器やサービスはユーザーが自分でつないでいく。すると自然にスケールフリーネットワークが成長を続けていき、オープンにしたアセットが、結果的にデファクトスタンダードになるというわけだ。
GAFAは、その圧倒的なスケールフリーネットワークで世界の覇権を掴んだ。情報、人、モノを新たな形でネットワーク化し、そのデータが新たな価値を生んだのである。便利なのでユーザーが集まり、さらにデータが集中する。ユーザーが多くなると、当然企業も多くの情報をその場に提供するようになる。
このスパイラルが、GAFAの独占の原理だ。たとえばアマゾンは、人気商品からほとんど売れない少数の商品まで、世界の商品を網羅的に扱うことで、一種のスケールフリーネットワークを構築している。その結果、貯まったユーザーの購買行動データが、さらなる価値を生んでいる。
2019年の時価総額トップ企業10社のなかで、じつに7社がこうしたインターネットの大企業だ。ところが彼らが革新を起こした実際の分野は、実のところ小売りと広告だけである。そしてアメリカで両分野の占めるGDPの割合は7%に過ぎない。この残りの93%を巡る戦いが、サイバーとフィジカルが融合した第2回戦となる。
「選択と集中」は、かのジャック・ウェルチ氏が提唱した経営理論だ。高利益率で競争力のある中核事業以外は黒字でも売却か撤退するという手法で、競争力を高めるために多くの企業がこれを取り入れた。実際、ウェルチ氏率いるGEは、この方法で業績を向上させており、アメリカにはこの手法をとる企業が多い。その結果、低付加価値事業が国外へ行き、高付加価値事業が国内に残ったことで、アメリカではソフトウェアやサービスが事業価値の中心となった。
日本でも一時、選択と集中が流行ったが、日本人はアメリカ人ほど合理的に見切りをつけられないようだ。選択と集中を行うためには、人事にもメスを入れなければならないが、終身雇用が主流の日本でリストラは行いにくい。だがその結果、日本国内には多様なものづくりの技術が残った。今後のスケールフリーネットワークでは、ものづくりに強みのある日本にもチャンスがある。
合理的に人を整理することが苦手な日本企業だが、裏を返せば多様な人材が残っているということだ。著者の島田氏が在籍する東芝の研究開発部門にも、事業の役に立つとは思えない研究を続ける人材が多数いる。選択と集中を旨とするアメリカ企業では、生き残れない人材だ。島田氏はそれを、多様な生物が生息する自然環境「ビオトープ」にならい、「人材のビオトープ」と呼んでいる。
東芝の研究所には、昔から勤務時間の1割を自由な研究に充てる「アンダー・ザ・テーブル」という制度があり、そこからリチウムイオン二次電池などの画期的な製品が生まれている。量子コンピューターの世界で、日本トップクラスの研究者もいる。ただ、そういう人たちがいま十分に力を発揮しているとは言いにくい。
必要なのは、人と人をつなぐ仕組み、つまり人のスケールフリーネットワークだ。日本中の多様性のある人材がつながれば、イノベーションはかならず生まれる。
DXを成功させるためには、ビジネスモデルを根本的に変える必要がある。そのためにはアセットをオープン化して、スケールフリーネットワークを作らなければならない。これができれば、日本はふたたび世界のトップに立てる可能性がある。しかしその道のりは険しい。
イノベーションは、既存事業の延長線上には存在しない。人やモノが集まる場をつくり、多くの人を巻き込み、種が花開くことを信じて待つ必要がある。その動きをとれるかどうか、それが日本企業の壁だ。というのも、一般的にものづくりは、計画性を重視するからである。
日本に必要なのはマインドチェンジ、すなわち考え方を変えることだ。従来の計画ありきの考え方ではなく、めざすものを明確にしたうえで、あとは臨機応変に進めていく。真のDXは、一足飛びに実現するものではない。
DXの実現には3つのステップがある。「定義」「定着」「適用」だ。
ステップ1では、自社がめざすDXを定義し、全社で共有する。めざす方向を定め、同じ方向に歩を進めなければ、目的地には到着しない。著者の島田氏の場合、東芝のめざす方向性を資料にまとめ、社内各所で200回以上プレゼンを実施した。著者はその意識改革の過程を、DE(デジタルエボリューション)と呼ぶ。DEはDXの前にしなければならない。
ステップ2では、DXの考え方を自分ごととして定着させる。説明を受けただけでは、個人の考え方や行動には反映されない。そこで東芝では、DEやDXの考え方を自分の事業に置き換えてもらうため、ピッチ大会を開催している。すでに3回実施され、そのなかから48個のアイデアが事業化されている。また、ピッチ大会は人と人をつなぐ効果もあり、縦割り組織に人のスケールフリーネットワークを生み出すうえでも効果的である。
そしてステップ3が、こうしたDX手法の全社適用だ。ここまで到達して、はじめてビジネスモデルの転換が始まるのである。
ここ30年間は、スケールフリーネットワークをうまく活用したアメリカの一人勝ちだった。しかしサイバー内だけのスケールフリーネットワークは限界に来ている。次の戦場は、サイバーとフィジカルをつないだ広大な世界だ。
これから始まる二回戦では、フィジカル資産を多く持つ日本に優位性がある。しかし、ただ座しているだけではダメだ。それぞれの強みを活かすネットワークをつくらなければならない。そのためには自社製品のコア部分を残しつつ、接続部分をオープンにするべきだ。自由につながれるようになればユーザーは増えるし、増えれば増えるほどネットワークは巨大化する。スケールフリーネットワークは、つながるほど価値を生むのである。
スケールフリーネットワークで優位に立つのは、先行者だ。リスクをとってアセットをオープン化すれば、受益幅が増えるだけでなく、オープンで快適な社会の実現にもつながるだろう。
島田太郎 (しまだ たろう)
東芝執行役上席常務・最高デジタル責任者。90年に新明和工業に入社し、航空機開発に携わる。PLM(製品ライフサイクル管理)を手がけるシーメンスPLM(当時SDRC)へ。同社の日本法人社長を経て、シーメンスのドイツ本社に勤務。その後、日本法人の専務としてインダストリー4.0を推進。東芝では、事業のデジタル化の責任者としてDXを推進している。
尾原和啓 (おばら かずひろ)
フューチャリスト。京都大学大学院で人工知能を研究。マッキンゼー・アンド・カンパニーやNTTドコモ、グーグル、リクルート、楽天など数多くの企業で新規事業立ち上げを担う。現在はシンガポール、インドネシアのバリ島が拠点。著書は『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』『アフターデジタル』『ディープテック』など多数。
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