もう「環境」に惑わされない!
新時代のエンジニア・パフォーマンスアップ術新型コロナウイルスの感染拡大から約1年半が経過。コロナショックをきっかけに働き方の多様化が進む中で、エンジニアには「どんなワークスタイルでも安定してパフォーマンスを発揮する力」が欠かせない。では、そんな力を磨くためには何が必要?専門家らへの取材で解き明かす
もう「環境」に惑わされない!
新時代のエンジニア・パフォーマンスアップ術新型コロナウイルスの感染拡大から約1年半が経過。コロナショックをきっかけに働き方の多様化が進む中で、エンジニアには「どんなワークスタイルでも安定してパフォーマンスを発揮する力」が欠かせない。では、そんな力を磨くためには何が必要?専門家らへの取材で解き明かす
コロナ禍で半ば強制的に広まったリモートワーク。移住やワーケーションなど、場所にとらわれない働き方を実践するエンジニアが目立つようになった。たとえコロナが収束しても、「出社メインの働き方が当たり前」という従来の価値観に戻ることはなさそうだ。
そうなると、この先転職するたびにワークスタイルも変化する可能性が生じる。どのような働き方であってもパフォーマンスを出せるエンジニアであるためには何が必要なのか。
そこで今年7月の『BIT VALLEY 2021』で、オフィスの在り方や働き方の変化について語ったメガベンチャー4社の役員を再招集。ここ1年半の各社のエンジニアたちの生産性の変化や、どこにいても成果を出せる人になるためのポイントを聞いてみた。
■『BIT VALLEY 2021』イベントレポート
>>「オンライン時代、オフィスは何のためにある?」CA、DeNA、GMO、ミクシィが登壇!『BIT VALLEY 2021』イベントレポ
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員(技術担当)
長瀬慶重さん(@lionbaby)
通信業界での研究開発を経て、2005年サイバーエージェントに入社。アメーバブログやコミュニティサービスなどの開発を経て、現在は新しい未来のテレビ『ABEMA』の開発本部長を務める。15年に執行役員に就任、20年に常務執行役員(技術担当)に就任(現任)。「技術のサイバーエージェント」の実現に向けて、エンジニアの採用や組織開発にも注力している
株式会社ディー・エヌ・エー 常務執行役員 CTO
小林篤さん(@nekokak)
法学部法律学科からエンジニアへ転身し、2011年にDeNAに入社。Mobageおよび協業プラットフォームの大規模システム開発、オートモーティブ事業本部の開発責任者を歴任。2018年より執行役員としてDeNAのエンジニアリングの統括を務め、19年より常務執行役員 CTOとしてより経営レベルでの意思決定にかかわることと、技術・モノづくりの強化を担う
GMOペパボ株式会社 取締役CTO
栗林健太郎さん(@kentaro)
GMOペパボ株式会社取締役CTO、ペパボ研究所々長。日本CTO協会理事。情報処理安全確保支援士(登録番号:013258)。東京都立大学法学部政治学科卒業後、奄美市役所勤務を経て、2008年よりソフトウェアエンジニアに。12年よりGMOペパボ株式会社勤務。現在、同社取締役CTO。新技術の研究開発およびセキュリティに取り組む。20年に北陸先端科学技術大学院大学に入学し、社会人学生としても活動
株式会社ミクシィ 取締役CTO
村瀬龍馬さん(@tatsuma_mu)
高校卒業後、ゲームの専門学校に半年在籍するも「早く働きたい」という想いから、2005年に株式会社イー・マーキュリー(現:株式会社ミクシィ)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。09年に1度退職したが、13年に復帰し、『モンスターストライク』の開発部署に異動、XFLAGのエンジニア全体を統括した後、18年4月、執行役員CTO就任。19年6月、取締役就任
各社の働き方の変化
サイバーエージェント
藤田社長が「これからの働き方について」の方針をブログで発表(緊急事態宣言下だった取材時は原則リモート、緊急事態宣言解除後は週2日をリモデイとする)
(参考)これからの働き方について
DeNA
リモートを前提とした働き方にシフト。8月には渋谷ヒカリエからWeWorkにオフィスを移転
(参考)本社移転のお知らせ
GMOペパボ
GMOインターネットグループが掲げる「リモートワーク活用企業No.1」の方針のもと、パートナー(従業員)の多様な働き方を実現するため2020年6月1日よりリモートワークを基本とする勤務体制に移行
(参考)GMOペパボ、リモートワークを基本とする働き方へと移行し1年 全パートナー400人超の年間平均リモートワーク率は96.0% 〜多様な働き方やリモートネイティブな業務プロセス・体制を実現〜
ミクシィ
出社とリモートワークが混在する働き方「マーブルワークスタイル」を導入
(参考)オフィスワークとリモートワークを融合「マーブルな働き方」へ ミクシィの新型コロナ対応
DeNA 小林:リモートで作業に集中しやすくなって、移動など無駄な時間がなくなったため、生産性は若干上がったか、もしくは同じくらいだと思っています。組織全体で見てどうかはまだ分からないというのが正直なところですね。
GMOペパボ 栗林:エンジニアとデザイナーは『GitHub Enterprise』を通じて業務を行っているので、どれだけのプルリクエストがマージ、リリースされたかが生産性の直接的な指標。現状はコロナ前2〜3年分の人数対比でのプルリクのマージ数とほとんど変わらないので、生産性の変化はそれほどないと考えています。
一方で、エンジニアとデザイナー以外の人の生産性の測り方は探っているところ。それらの人と新しいことをやる際のコミュニケーションや企画出しの面で、どういう影響が出るかは今後も注視する必要があります。
ミクシィ 村瀬:当社では社員へのアンケート調査を行っていますが、結果を見る限り、個人の感覚では生産性は上がっているようです。残業時間にも変化はないですし、個人的には生産性が以前と変わっていなければ、リモートワークも良い選択肢だと思っています。
サイバーエージェント 長瀬:当社も毎月社員にアンケートで働き方について聞いていますが、8月の実績ではエンジニアの1/4からややネガティブなフィードバックがありました。
小林さんの言うように、パーソナルな領域では移動時間もなくなり集中しやすくなって効率が上がったものの、課題もあります。
一つは自宅環境。特に家族の有無でリモートワークに対する評価が明確に分かれることが見えています。小さいお子さんがいるご家庭では、仕事が度々中断してしまい集中しにくいといった意見もよく聞きますね。
また、実は新卒1〜2年目の約4割からネガティブなフィードバックが寄せられていて。若手は自宅の設備に投資ができないので、出社した方が仕事がしやすいという人も一定数います。
そしてもう一つが、チームでのコラボレーション。当社は部署横断の取り組みも多く、それによってチーム感を醸成していたので、そういう活動がしづらくなったことも事実です。
長瀬:一般的に世の中のトレンドがジョブ型(※)に向かっていますが、分かりやすい売上や成果物だけを生産性と捉えて本当にいいのか、まさに問い直しているところです。
※ジョブ型:職務内容(ジョブディスクリプション)や勤務時間、勤務内容を明確化・限定した雇用契約のこと
というのも、メンバーをフォロー・育成するなど、チーム活性化に貢献している人の行動がリモートだと見えにくいんですよね。それに対し、会社として危機感を持っています。
そこで、ここ半年の間に、組織や人、会社への貢献を明確に評価する枠組みを加えました。
栗林:生産性への基本的な考え方は変わっていないのですが、ただ出社して仕事をした気になるような、何となくの雰囲気が取り払われ、どう結果を出すのかにフォーカスするようになった。無駄が削ぎ落とされて、ソリッドになってきている面はあると思います。
一方で、分かりやすい目的があるもの以外を削ぎ落とし過ぎているとも思っていて。一見すると無駄なことから何か有益なものが生まれることは絶対にあるので、そこはバランスが必要ですね。
村瀬:雑談の機会はだいぶ減りましたよね。リモートだと、あえて雑談の場を設ける必要がある。
今後も出社とリモートが入り混じると思いますが、会う・会わないのタイミングによって、明確にやるべきことは変わるでしょう。オフラインのメリットは会話ですから、オフィスで喋りまくって、オンラインで仕事をする場合は集中して仕事に向き合うようなイメージです。
あとは意外に思われるかもしれませんが、個人的にはリモートになって、例えば「すぐにチャットを返さないと『サボっている』と思われる」といったような意識から、逆に出社時よりもサボりにくくなった気もしていて。
でも、極端なことを言うと、成果を出せば家で何をしていても問題はない、という考え方もあると思うんですよ。プラスアルファで仕事をしてもいいし休んでもいい。自分でコントロールできるようになる人が増えていくと、働く際の精神や体力との向き合い方も変わっていくでしょうね。
村瀬:ありだと思いますよ。出社しているときもネットサーフィンするとかちょっと息抜きすることってありますよね。そこで見つけたことや知ったことを雑談のネタにでもしてもらえれば、チームワーク醸成にもつながりますし。物は言いようですけど(笑)
小林:僕が気になっているのは、コロナ禍で新しい経験や価値観に触れにくくなっていること。今は自分たちが持っていた経験を切り売りしている感覚で、新しい何かを生み出すようなクリエイティビティの源となるものを得にくくなったと思っています。
そういう意味では、仕事を6時間で終わらせて、残りの2時間で情報収集をしたり人に話を聞いたりと、自分の領域を広げるのは全然ありですよね。それが後の生産性やクリエイティビティの向上につながるような気がします。
小林:Slackでくだらない話をする習慣を身に付けるといいのではないでしょうか。多くの人が参加しているチャンネルだと書きにくいかもしれませんが、内容を添削するつもりで見ているわけではないですし、気軽に書き込んでそこから広がるコミュニケーションもあるので、もっと活用してもいいと思います。
それに、余計な話をしない世界になっちゃった分、他の人も話のきっかけを欲しがっていると思うんですよ。この前、メンバーのAndroidエンジニアが「Androidエンジニアを取り巻く世の中の課題」をテーマにブログを書いたんですけど、それを受けて社内のエンジニアが時間を設けて話をしていて。そうやって、自分からコミュニケーションのきっかけをつくれると理想的ですよね。
栗林:相手のことを知らなければ雑談は弾まないので、自分を知ってもらう機会が必要だと思います。当社では『Colla』というSlackアプリ(Botが社員インタビューをして、その内容をSlackに投稿するツール)を入れたり、オンラインミーティングで新入社員が自己紹介をする機会を多めにつくったりと意識はしていますね。
あとは、僕自身はメンバーから声を掛けてもらえるのはうれしいですよ。話すことでモヤモヤが晴れてすっきりすることもよくありますから、恐れずに声を掛けてみるといいと思います。
村瀬:当社では『Gather.Town』というツールを使っています。2Dの世界の中で、お互いが近づくとビデオチャットがスタートするなど、ゲーム感覚でグラフィックスの中で話すことができるので、会話のきっかけにはなりますね。
あとは、自己開示が大事だと思っていて。オンラインに映っている背景に対して「それ何?」と聞くことが良いのか悪いのか、分からないじゃないですか。例えば背景に漫画があったとして、普段から漫画が好きと自己開示してもらえると、「聞いてよさそうだな」と判断しやすいですよね。
長瀬:人に興味があってコミュニケーションが取れる人は、多分どんな環境下でもたくましく人と絡む。雑談力は一つのスキルだということを前提に、リモートワーク下でのコミュニケーション術はみんなで見つけていくしかないように思いますね。
栗林:今は過渡期です。以前は出社を強いられていたけれども、今はリモートを強いられている状態。どちらも不自由だと僕は思います。
この状況を脱したときに、「どこからでも成果が出せる働き方」ができる方が自由でいられます。そういう意味では、向き・不向きを気にするよりは、「自分が自由に楽しく働けるスキル」を磨いて、よりいっそう成果を出せるようになるといいですね。
村瀬:今はみんなが探り探りの状態ですけど、向き不向きに関わらず、一人一人が「リモート力」を上げるいいチャンスではある。
リモートワークでうまくやれるようになれば、それは自分の武器の一つになるはずです。例えば、田舎に引っ越したいとか、グローバルで活躍したいとか、オンラインに慣れておくと仕事の自由度は格段に高まります。
また、オンラインでの信頼構築やコミュニケーション能力が高まるほど自分の裁量も増えるでしょうし、やれることの幅も広がる。リモート力の強化が、ビジネスパーソンとしての価値を高めることにつながるのは間違いないと思いますね。
長瀬:自分が実現したいことがあれば、自然と逆算して必要なスキルを身に付けようとするもの。今の時代らしい働き方を起点に、それに適したコミニュケーションスキルを身に付けていく必要がありますね。
グローバル企業に勤めながら日本で仕事をするのが最たる例ですけど、これからは基本的なことが全てオンラインで成立し得る社会ができるでしょう。
その反面、決められたことをきっちりやるのではなく、顧客やユーザーに対してオーナーシップを持って、クリエイティブな仕事をしようとする職場であるほど、チームワークやコミュニケーションが重要になる。
自分の価値観や希望する働き方をベースに仕事を選べるよう、思いを持つことが大切だと感じます。
小林:僕がおすすめしたいのは、自分が普段あまり触れ合わないようなエンジニアとコミュニケーション取ってみること。
例えば、多様な国のエンジニアとリモートでコミュニケーションを取りながら、何かしら新しいクリエイティブなものをつくってみるとか。以前からできることではありましたが、強制的にリモート環境に移行したことによって、そうしたことに取り組む敷居が下がっていますよね。
村瀬:こういう状況になってやれることが増えたというのは、私も同感です。
あとは、これまで水や空気のように当たり前に思っていたことが変わって、急にチームワークやコミュニケーションにフォーカスが当たるようになりました。普通だと思っていたインフラがなくなったときにどうやっていくのか、改めて考える良い機会だと思っていて。
一方で、新しく出てきた孤独や不安といった個人の悩み、コロナが今後どうなるのかといった不安などに頭を悩まされる時代だとも思います。それでも前に進む選択をするのであれば、みんなが悩んでいることだから、みんなで話したらいい。雑談も増えるし、悩みも解消するし、もしかしたら「今度この仕事を一緒にやろうか」みたいな話に発展するかもしれません。
長瀬:リモートで働く環境が普通になるほど、エンジニアのオーナーシップや当事者意識がより一層大事になると思っています。
先ほど栗林さんが「ソリッドになった」とおっしゃっていましたけど、個人がパーソナルスペースで集中する時間が多くなると、「この仕事で本当に価値が生めるのか」「もっと良い価値を発揮するにはどうすればいいのか」などを考えられることが、優秀なエンジニアの一つの軸になる。
そういう意識があれば、質問や提案をするなど、周りの人への働き掛けも自ずと出てくるとも思います。
栗林:長瀬さんの話の言い換えになりますが、採用の場面でより重視するようになったのは、「コンセプチュアルなスキルがどれぐらいあるのか」です。
コードが書けるといった具体的なスキルだけではなく、「なぜこういうことをやるのか」「抽象度を上げれば他のことにも使えるかも」といった思考ができるか、より見るようになっています。チャットやドキュメントを介して、言語化されたもので対話をすることが増えた分、抽象的な思考能力の重要性が増していると思います。
新しい技術をただ習得するのではなく、そこから1個上のレイヤーに上がって「この技術に通底するコンテキストは何か」「なぜこういうものが必要になってきているのか」「歴史的に見るとどうなのか」といったことを考えられると、右往左往せずに済むし、まさにブレずに生産性を上げられるのではないでしょうか。
栗林:積極性にもパラメーターがいろいろあります。出社時はリアルコミュニケーションだけが積極性だったかもしれないですけど、例えば口数は少ないけどドキュメンテーションがしっかりしているといったパラメーターもある。
僕自身、その方が気が楽ですし、そっちが向いている人もいるんじゃないかな。そういう意味では、積極性を定義し直す方が生産的だと思います。
取材・文/天野夏海 編集/河西ことみ(編集部)
BIT VALLEY 2021 ~変わる働き方とカルチャー、変えるテクノロジー~
<各回タイトル(予定)>
#01 Local × Startup 『街とStartup』
#02 Hello, Tech! 『触れて、学んで、楽しむ』
#03 Welcome to New World 『テクノロジーが叶える新しい世界』
#04 Power of Digital 『最新DX事情 〜デジタルの力でより豊かに〜』
#05 Tour of Work From Anywhere 『WFAの可能性を探る』
#06 Build Another Career 『副業・兼業でキャリアを広げる』
#07 Guide to Work From Anywhere 『WFA環境の整え方』
※#05~#07の実施内容は、決定次第随時お知らせいたします。
・開催期間:2021年7月〜11月(予定)
・開催場所:オンライン(LIVE配信)
・対象:テクノロジーによる社会の変化に関心のある方
・参加費:無料 ※参加登録が必要です
主催
BIT VALLEY運営委員会
(株式会社ミクシィ、株式会社サイバーエージェント、
株式会社ディー・エヌ・エー、GMOインターネット株式会社)
後援
東京都、渋谷区
特別協力
東急株式会社、青山学院
・イベントURL:https://2021.bit-valley.jp/
・Twitter:https://twitter.com/bitvalley_jp
・ハッシュタグ:#bitvalley2021
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