株式会社LayerX 代表取締役CTO 松本 勇気さん
東京大学在学時に株式会社Gunosy入社、CTOとして技術組織全体を統括。またLayerXの前身となるブロックチェーン研究開発チームを立ち上げる。2018年より合同会社DMM.com CTOに就任し技術組織改革を推進。大規模Webサービスの構築をはじめ、機械学習、Blockchain、マネジメント、人事、経営管理、事業改善、行政支援等広く歴任。19年日本CTO協会理事に就任
あらゆる企業にとってDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠と言われるが、同時にその進捗は芳しくないという話も聞く。テクノロジーの担い手であるエンジニアからすると、いざ社内あるいはクライアント企業のDXを進めようと思ってもなかなか意図が伝わらず、もどかしさを感じることが増えているかもしれない。
そこで先日開催されたテックカンファレンス『Bit Valley2021』の中から、LayerXのCTO松本勇気さんによる講演「ソフトウェアが土台にあるということ」を取り上げる。
DXとは何か、ソフトウェアを事業の土台に据えるとはどういうことか、企業はまず何から始めればよいのかを非エンジニアにも分かりやすく伝える内容。日本CTO協会の理事も務める松本さんの言葉をもとに、改めてデジタル化、DXに向けて今必要なアクションを整理してみよう。
株式会社LayerX 代表取締役CTO 松本 勇気さん
東京大学在学時に株式会社Gunosy入社、CTOとして技術組織全体を統括。またLayerXの前身となるブロックチェーン研究開発チームを立ち上げる。2018年より合同会社DMM.com CTOに就任し技術組織改革を推進。大規模Webサービスの構築をはじめ、機械学習、Blockchain、マネジメント、人事、経営管理、事業改善、行政支援等広く歴任。19年日本CTO協会理事に就任
「デジタル化」という言葉は非常にあいまい。ゆえに混乱が起きていると松本さんは指摘する。なのでまずは言葉の整理から。事業におけるデジタル化(ソフトウェアやデータの活用)は、DXを含む四つの段階に整理できるという。
1.Digitization(データベースのデジタル化)
事業基盤をとりあえずソフトウェアに載せる段階(紙→メールなど)。実際的にはソフトウェアを使おうが使うまいが関係ないとも感じられる段階。部分部分ではメールや電子契約での利便を感じつつも、差別化にはならない。
2.Digitalization(業務プロセスのデジタル化)
事業の勘所を知った上で、それをモデル化し、さまざまなプロセスを計測、改善プロセスを回し、アジリティーを高めていこうとする段階。この時点で組織やプロダクトが強みとなっていく。ワークフローや業務プロセス一つ一つを定量的に改善していく。
3.Digital Transformation(意思決定のデジタル化)
機械学習などを活用してソフトウェアの力を生かした高度な事業へ作り変える。例えば人では不可能な意思決定(大量のデータを元にしたもの、高速にたくさんの組み合わせを生み出すもの)を、コンピューターの力を生かして実現していく。例として、パーソナライズ、需給予測、アルゴリズムベースの与信など。
4.Industrial Transformation(産業構造のデジタル化)
一つの事業者ではなく、産業全体レベルでの変革に至る段階。複数業態がソフトウェアを通じて連携することで、新たな産業への変化を進める。例として、APIでつながるEmbedded Finance、Blockchainベースでつながったサプライチェーンなど。
各企業では2010年前後までに、パッケージソフトの購入やSIerへの発注により、基幹システム等の構築が進んだ。これは1のDigtizationを終え、紙の台帳だったものがデジタルの台帳に置き換わった段階だ。
しかし業務プロセスの変革は進んでおらず、ゆえに企業はデジタルの恩恵を実感できていないと松本さんは言う。
例えば請求書処理の業務を見てみると、それまで紙で保存されていたものが、たしかにデジタルのデータベースに保存されるようになった。しかし入力作業は相変わらず人力で行われている。依然として煩雑だし、それぞれの作業の専門家が必要。コミュニケーションの待ち時間も発生している。
なので今企業が取り組むべきは、四つの段階の二つ目、「Digitalization(業務プロセスのデジタル化)」。そのために活用できるSaaSは、2010年前後と比べて格段に増えている。
「業務プロセスの基盤をソフトウェア、デジタルありきで再構成すると、業務を遂行する部分はどんどん自動化できる。その分、人間は戦略とか意思決定に集中できるようになる。これがソフトウェアを土台に据えることの最大のメリットだと考えています」
では、いざ業務プロセスを変えようと思ったら、企業は何から始めればいいのか。「まずやらなければならないのは、AIやBlockchainといった最新のテクノロジーを導入することではない。自分を知ることだ」と松本さんは言う。
自分を知るというのは、自分たちの業務を構成するすべての手順について、担当者は誰か、いつやる作業なのか、プロセスとプロセスはどうつながっているのか、実際にどんなことをしているのか、その作業の目的は何か、最後に出てくるアウトプットは何か……といったことをすべて明らかにしていく行為を指す。
その上で、それを連続する図として可視化してみることで、一部を省略してみようとか、これとこれはまとめてみようとか、ここは人ではなくSaaSに置き換えられるのではないか、といった具体的な施策が見えてくる。
そのための有効なツールの例としては、BPMNやDFDがある。
・BPMN(ビジネスプロセスモデル図)
業務プロセスに関わる人々とその作業が、どのような順序で行われているか、手順を可視化する図示化方法
・DFD(データフロー図)
業務プロセスを構成するそれぞれの作業の中で、どのようなデータが生み出され、次の業務に利用されているか、これを可視化する手法
現状を知ることができたら、次はそれを置き換えるプロセスに移る。その際に留意すべきは、一気にすべてを置き換えようとしないことという。
「業務プロセスは、いきなり大きく変えようとすると混乱や失敗を招きやすい。理想形は見据えつつも、まずは一部を差し替えることから始めるといいと思います。その点、SaaSは小さく導入しやすいです」
その上で、その置き換えによって対象となる業務プロセスの効率がどう変わったかを計測し、効果の最大化を図る。その際のポイントは以下が挙げられるという。
・業務プロセスの目的の把握
取組対象の業務プロセスが達成したいことは何か、関係者それぞれにとっての意味合いを整理する。実際の取り組みでどう変化したか、この目的をベースに判断していく。
・効果を最大化する方法を知る、CS活用
良いSaaSは良いカスタマーサービス部隊を持っている。CSは顧客にSaaSを活用してもらい、改善・成果を生み出すことを支えるミッションを持っている。彼らと会話することで、より良い改善方法のヒントが生まれるかもしれない。
・ファクトに向き合う
可能なら数字として表現できる指標を見つける。処理時間がどれくらいに短縮されたか、申請から承認までどれくらいになったか、コストはどれほど変化したかなど数字で前後を比べることで、人による解釈のブレをなくす。
・理解を促す
施策がうまくいったのか、それはなぜか、こうした情報は次なる施策を生み出したり、より多くの人・チームがデジタル化に参加する上で有用。共通の理解をつくっていく。
まずは自分たちの業務プロセス=仕事がどう回っているのかを知る。それができて初めて、じゃあ一部をどう置き換えていこうかという施策が生まれる。置き換えたら、当然ながらその効果を計測する。期待する効果が見られたら、その対象を広げてみる……。その繰り返しの中で成功するのがデジタル化であると松本さんは言う。
そうしてソフトウェアを事業の土台に据えて初めて、人は人間にしかできない仕事に専念できるようになるし、その意思決定すらもデジタル化するDXの段階へと移っていくことができる。DXは経営レベルの話ではあるが、このように正しく整理・認識することが、現場エンジニアにも最低限必要なのではないだろうか。
文/鈴木陸夫
BIT VALLEY 2021 ~変わる働き方とカルチャー、変えるテクノロジー~
<各回タイトル(予定)>
#01 Local × Startup 『街とStartup』
#02 Hello, Tech! 『触れて、学んで、楽しむ』
#03 Welcome to New World 『テクノロジーが叶える新しい世界』
#04 Power of Digital 『最新DX事情 〜デジタルの力でより豊かに〜』
#05 Tour of Work From Anywhere 『WFAの可能性を探る』
#06 Build Another Career 『副業・兼業でキャリアを広げる』
#07 Guide to Work From Anywhere 『WFA環境の整え方』
・開催期間:2021年7月〜11月(予定)
・開催場所:オンライン(LIVE配信)
・対象:テクノロジーによる社会の変化に関心のある方
・参加費:無料 ※参加登録が必要です
主催
BIT VALLEY運営委員会
(株式会社ミクシィ、株式会社サイバーエージェント、
株式会社ディー・エヌ・エー、GMOインターネット株式会社)
後援
東京都、渋谷区
特別協力
東急株式会社、青山学院
・イベントURL:https://2021.bit-valley.jp/
・Twitter:https://twitter.com/bitvalley_jp
・ハッシュタグ:#bitvalley2021
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