元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!
“自衛”のために知っておきたい法律知識SESの「準委任契約」、受託開発の際のNDA、GitHubに公開されるコードの使用……。エンジニアとして開発を担う中で、また自身が安心安全に働く中で備えておくべき「法律」の知識とは? プロの弁護士から学ぼう!
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今回は『ITエンジニアのやさしい法律Q&A 著作権・開発契約・労働関係・契約書で揉めないための勘どころ』(技術評論社)より、「開発契約」にまつわる箇所を一部転載してお届け。
「システム開発で起こる頻繁な仕様変更の対応方法」をテーマに解説します。
※本記事は書籍より以下項を抜粋して転載
・Q2-6 頻繁な仕様変更……法的観点から上手く対応する方法は?
弁護士法人モノリス法律事務所 代表弁護士 河瀬 季さん(@tokikawase)
元ITエンジニアの経歴を生かし、IT・インターネット・ビジネスに強みを持つモノリス法律事務所を設立、代表弁護士に就任。東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約120社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。JAPAN MENSA会員
現在行っているシステム開発プロジェクトでは、頻繁に仕様変更の必要が出てくるので困っている。
後でトラブルや揉め事になっても困るし、法的な観点からは、どうすればうまく対応できるのだろう。
システム開発プロジェクトでは、仕事が進む過程で仕様の変更や追加が必要になるということが往々にして起こります。その結果、一度締結した契約について、後から契約内容の変更が生じることがあります。
そうした場合に、後で「言った・言わない」の問題にしないためにも、発注者側は、詳細かつ具体的に変更の経緯を記録した変更管理書を作成すべきです。
システム開発の専門家でもない発注者が、常に計画性を持って、システム開発に必要な情報を不足なく網羅的に受注者に伝えきれるかといえば、そうではありません。
現実には、細かく緻密な作業であるが故に、どういった事実が後の工程において決定的な意味を持ちうるかなどは、発注者にも予測しえないことが多いものです。そのため、重要な事実ほど後から小出しに出てくるといった事態にもなりかねません。
こうした事情から、現実のプロジェクトでは、「上流工程から下流工程まで一気通貫」というのが理想ではありつつも、事後で様々な変更が行われうるという想定のもと、変更管理をいかにして行うかということが重要になってきます。
変更管理書とは、発注者が受注者に対し、事前にしていた説明の内容から、仕様の変更や機能の追加を依頼する際に用いる文書のことをいいます。この変更管理書を利用して、仕様変更・機能の追加に応じるという仕組みは広く認知されています。
変更管理書が必要となる場面の例としては、次のようなものを挙げることができます。
変更管理書が必要になる場面
・要件定義や基本設計で検討に漏れがあり、事後で機能の追加をリクエストする場合
・開発の途中で、事業の方針などに見直しが行われ、仕様変更が必要となる場合
機能の追加・仕様の変更といった話題に関連していうと、仕事を受ける側にとってなにより気になるのは、見積もり金額の変更が法律上認められるのかどうかという点でしょう。変更管理書は、こうした事後的な見積もりの増額を行う際に、その内容の妥当性を推し量るための根拠にもなります。
後で増額された見積もりに基づいて請求を行う際、相手方と揉め事を起こさないためにも(また揉め事になった際に自身の言い分に説得力を持たせるためにも)、変更管理書の作成が重要になるというわけです。
変更管理書を作成する理由は、変更履歴を管理することによって、プロジェクトを達成に導くこと(あるいは、達成に導けなかった場合に、不当な責任追及を回避すること)にあるといえます。
そうした目的を達成するために実務上は、変更管理書の作成は、課題管理表の作成・更新とセットで行われることが多いものです。
すなわち、変更履歴を変更管理書で管理したら、その合意された変更項目は、今後取り組むべき課題として課題管理表の項目に取り込まれることになります。
なお課題管理表には、最低でも以下の項目が必要になってきます。変更にともなって発生した課題を放置してしまうと「炎上」にも繋がりかねないため、変更管理書とあわせて、課題管理表で課題をしっかりと管理していく必要があります。
課題管理表に必要な事項
・課題の名前
・課題の内容(詳細)
・担当者
・期日
・優先度
・ステータス(未着手、対応中、完了など)
それでは変更管理書には具体的に、どのようなことを記載すればよいのでしょうか。経産省モデル契約などの、官庁が示す契約条項の雛形を確認することで、どのような事項を記録として残すべきかがおおむねわかるようになっています。
経産省モデル契約第37 条(変更管理手続)
甲又は乙は、相手方から第 34 条(システム仕様書等の変更)、第 35 条(中間資料のユーザによる承認)、第 36 条(未確定事項の取扱い)に基づく変更提案書を受領した場合、当該受領日から○日以内に、次の事項を記載した書面(以下「変更管理書」という。)を相手方に交付し、甲及び乙は、第 12 条所定の連絡協議会において当該変更の可否につき協議するものとする。
① 変更の名称
② 提案の責任者
③ 年月日
④ 変更の理由
⑤ 変更に係る仕様を含む変更の詳細事項
⑥ 変更のために費用を要する場合はその額
⑦ 検討期間を含めた変更作業のスケジュール
⑧その他変更が本契約及び個別契約の条件(作業期間又は納期、委託料、契約条項等)に与える影響
必要な記載事項を明記のうえ、発注者側と受注者側双方の責任者・決裁者の署名ないしは捺印などとセットになることで、万一裁判になるようなことがあろうとも、証拠として契約書と同等の意義をもつことになるというわけです。
また、変更管理のやり方だけでなく、変更に関する協議の行い方についても、あわせて規定を設けておくと、変更の対応がスムーズにいくことが期待できます。
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「著作権」「開発契約」「労働関係」そして「契約書のチェックポイント」、転ばぬ先の法律知識をコンパクトに一冊で知ることができます。
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