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「裁量労働制って、プログラマーに適用可能なの?」元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!今すぐ使える“労働関係”の知識【2】

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元エンジニアのIT弁護士に学ぶ!

“自衛”のために知っておきたい法律知識

SESの「準委任契約」、受託開発の際のNDA、GitHubに公開されるコードの使用……。エンジニアとして開発を担う中で、また自身が安心安全に働く中で備えておくべき「法律」の知識とは? プロの弁護士から学ぼう!

前回に引き続き、『ITエンジニアのやさしい法律Q&A 著作権・開発契約・労働関係・契約書で揉めないための勘どころ』(技術評論社)より、「労働関係」にまつわる箇所を一部転載してお届け。

「プログラマーと裁量労働制」をテーマに解説します。

※本記事は書籍より以下項を抜粋して転載
・Q3-3 プログラマーなのに裁量労働制っておかしくない?

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弁護士法人モノリス法律事務所
代表弁護士 河瀬 季さん(@tokikawase

元ITエンジニアの経歴を生かし、IT・インターネット・ビジネスに強みを持つモノリス法律事務所を設立、代表弁護士に就任。東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、約120社の顧問弁護士等、イースター株式会社の代表取締役、株式会社KPIソリューションズの監査役、株式会社BearTailの最高法務責任者などを務める。東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。JAPAN MENSA会員

プログラマーなのに裁量労働制っておかしくない?

プログラマーとして勤務していたIT企業から退職することになった。みなし労働時間を1日8時間とする裁量労働制だったのだけれど、裁量労働制が適用される要件が満たされていたのかなあ? そもそも、裁量労働制って、プログラマーに適用可能なの?

プログラマーに専門業務型裁量労働制の適用が認められるためには、厳しい要件をみたす必要があります。プログラマーはほとんどの場合、裁量労働制の適用対象とはなりません。

しかし、プログラマーであれば裁量労働制が一切適用できないというわけでもないため、要件に該当するかどうか精査する必要があります。

裁量労働制とは何か

裁量労働制とは、労働時間制度の一つで、労働時間と成果・業績が必ずしも連動しない職種において適用され、実労働時間ではなくあらかじめ定められた時間分を労働時間とみなして賃金を払う形態をいいます。

この裁量労働制が労働者に適用されると、1日あたりのみなし労働時間を定め、実際の労働時間にかかわらず、みなし労働時間分だけ働いたものとすることができます。つまり、1日1時間しか働かなかったとしても、みなし労働が8時間であれば8時間分の賃金が支払われるということです。

裁量労働制は、労働者が決められた所定労働時間に拘束されず、自分で自由に勤務時間を決めることのできる働き方であり、フレックスタイムや自宅勤務制度など多様な働き方が増えてきた近年、多くの企業で導入されるようになってきました。

しかし、裁量労働制においては、みなし労働時間を超過しても、追加で残業代を支払わずに働かせるということが可能になってしまうという点で、悪用のリスクがあります。

そのため、裁量労働制が導入できるのは、「業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる業務」であるとされ、適用できる業務が限定されています。それ以外の業務に従事する労働者に裁量労働制を適用すれば、違法となります。

IT企業では違法なみなし労働が多い?

特に、IT企業は裁量労働制を導入しているところも多くありますが、IT企業で働く労働者のすべてが、この「業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる業務」に携わっているわけではありません。

本当は裁量労働制が適用できない仕事に就いているのに、裁量労働制で働かされ、本来より低い賃金しか支払われていないエンジニアも少なくないのが現状です。

そもそも会社が裁量労働制を正しく理解していないために違法な状態が放置されているケースもあれば、会社が意図的に不当な裁量労働制を使って、従業員を残業代なしで働かせているケースもあります。

本来ならば無効であるはずの裁量労働制によって、長時間労働や未払い残業などに悩まされるような事態に陥らないよう、どういった場合に裁量労働制が適用できるのか、きちんと理解しておきましょう。

裁量労働制には2種類ある

裁量労働制は限定された業種にのみ適用できる制度です。裁量労働制が適用される業種は専門業務型と企画業務型の2つであり、これに該当する業種以外には適用できません。

ITエンジニアに裁量労働制を適用する場合には専門業務型となります。とはいえ、エンジニアであれば必ず専門業務型の対象になるというわけではありません。業務内容によって、専門業務型裁量労働制を適用できるか否かが分かれます。

専門業務型裁量労働制の適用条件

専門業務型裁量労働制については、厚生労働省令(労働基準法施行規則)及び厚生労働大臣告示によって定められた業務である必要があり、19業務が対象業務とされています。このうち、ITエンジニアについては、「情報処理システムの分析又は設計の業務」と規定されています。

そして、この「情報処理システムの分析又は設計の業務」の対象業務の詳細については、東京労働局が公開しているパンフレット「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」において、以下のように定められています。

情報処理システムの分析又は設計の業務

(ⅰ)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定
(ⅱ)入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等
(ⅲ)システム稼動後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること。

つまり、「情報処理システムの分析又は設計の業務」には、「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれない」と記載されているのです。したがって、一般的なプログラマーは、裁量労働制の対象業務には含まれないと考えられます。プログラマーとして雇用されているのに裁量労働制で働いている場合には、違法な状態である可能性が高いといえるでしょう。

SEという肩書で雇用されていれば問題ない?

会社によっては、肩書はシステムエンジニア(SE)でも、業務内容はプログラマーに近いというケースがあります。この場合は裁量労働制の適用対象となるのでしょうか。

先ほどの「情報処理システムの分析又は設計の業務」の対象業務の詳細を踏まえると、裁量労働制の適用対象として規定されている業務は、一般的なシステム開発における「上流工程」に該当すると考えられます。つまり、「下流工程」業務が中心になっているシステムエンジニアは裁量労働制の対象外となる可能性が高くなります。

具体的には、渡された設計書の通りにプログラミングをしている、上司の指示に従って開発・実装業務を行っている、というような場合には、仮に肩書がSEであったとしても、実体としては裁量性の低い業務を行っているのであり、裁量労働制の対象外となりうるということです。

そのため、自分の肩書はシステムエンジニアだからと油断して、裁量労働制の適用対象であると決めつけてしまうのは危険です。実際に、システムエンジニアの裁量労働制が違法とされ、残業代の支払いが認められた裁判例もあります(※)。

※京都地裁 平成23年10月31日判決

裁量労働制と付き合うポイント

もし、プログラマーや裁量性がないシステムエンジニアであるにもかかわらず、裁量労働制で働いているという場合には、会社に相談し裁量労働制の見直しを図ってもらう必要があります。

もし、対応してもらえない場合は、労働基準監督署に相談してみましょう。法律の定める要件を満たさずに裁量労働制が導入されていれば、それは違法・無効と判断され、これまで支払われていなかった残業代を支払ってもらえます。

とはいえ、裁量労働制を適用できる要件が満たされているのかどうか、そもそも判断できないということもあるかと思います。少しでもおかしいのではないかと感じたら、まずは弁護士などの専門家に相談して確認してみましょう。

何にせよ、自分の労働条件は実は違法なのではないかという可能性を考えてみることがスタートです。裁量労働制とはどういうものなのかをきちんと理解し、自分の労働条件が問題なくその対象となるものであるのか、一度見直してみましょう。

書籍情報

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